表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルカカナタ  作者: 梅津 勇次郎
4/11

起きたカナタ


・・・


『パパー、ママー?どこ~?』


なんだここは?


『パパー、ママー?どこ行ったの~?』


暗い。周りが、かすかにしか見えない。


『うっ・・・ふえぇぇん・・・パパー、ママー・・・ぅっ・・ぐすっ・』


泣いてる?子供か?


『パパー、ママー・・・』



ギイィと音がする。ドアが開く音らしい。



そこには


「・・・ハッ!!」



嫌な夢を見ていた。

すごい不愉快な夢だった。

寂しくて、悲しくて、辛くて・・・

もう二度と見たくないような夢だった。


空調が効いている車内にも関わらず、汗が吹き出していた。


せっかく、汗が引いてきたと思ったのに・・・


『○○駅~○○駅~、お出口は右側です。』


アナウンスが聞こえ、その後に電車のドアが開く。


おっと、この駅で降りるんだった。危ない。

座席を立ち、急ぎ足でドアをくぐる。

さて、すぐに本社に帰って、この書類を報告書に・・・


あれ?カバンがない!?


慌てて、辺りを見渡す。寝ている拍子に座席からカバンが落ちて車内に転がっていた。

(マズい!!)

すぐに、出てきた電車に駆け込もうとダッシュした。


間一髪の所でドアが無情にも閉まる。

(待ってくれ!!そこにオレのカバンが・・・)

そんなことはおかまいなしに電車はゆっくりと出発して行った。


「ちょっ・・・待ってくれぇー!!」


僕は、窓ガラスに張り付くように、電車と同じスピードで走って行った。

当然ながら、電車はみるみるスピードを増し、ついには僕のカバンを乗せた電車は去って行った。


一人、ホームにたたずんでいた。

・・・

どうしよう。あれがないと、会社に帰れない。

と、いうより大事なこの案件が全て台無しになってしまう。


色々考えていると、また汗が噴き出していた。

部長にはなんて言おう。

この件は会社でも重要な件なのに

・・・なんで、あの時居眠りなんかしたんだよ。


色々出てくる言葉は自分を責める言葉と、後悔の念しか出なかった。

予定が全て台無しだ。狂ったどころの話ではない。

見つからなかったらどうしよう?


いや、待てよ。まず、落ち着け。

くよくよしていても仕方がない。

とりあえず、出来ることから始めていこう。


ポケットから、携帯電話を取り出す。

不幸中の幸いかどうかわからないが、

携帯電話だけは、マナーモードでもすぐ反応出来るように、

スーツの内ポケットに入れておく癖をつけておいて良かったと思っている。


とにかく、部長に連絡だ。


リダイヤルで部長の履歴を見る。

部長の電話番号が出てきた。


(早く報告して、部長に指示を仰ごう)


と、思いつつも、親指が動かない。

TELボタンを押せないままになっている。


くそっ、早く押せよ。押せったら、ちくしょう・・・


これからのことを考えると、一気に目の前が真っ暗になる。


くそっ、くそっっ、くそっっっっ!!!


悪い方向にばかりどんどん考えて行ってしまう。


あぁ、もうっ・・・


終わったな、俺の人生。


「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・」

突然、携帯電話が鳴りだした。


「うわっ!!びっくりした!!」

だれだろ?部長かな?


着信番号を確認する。

・・・知らない番号からだ。


誰だよ。こんな切羽詰まってる時に・・・


・・・ピッ。


「・・・もしもし」

『もしもし・・・』


女の人の声だ。


「もしもし、どちら様ですか?」

『あの・・・このカバンの落とし主ですか?』


「!?」


なんだって!?カバンっつったか、今!?


「はいっ!!そうです!!しょうなんです!!」

思わず、噛んで声も裏返ってしまった。


『あの、このカバンお渡ししたいのですが、』

「も・・・もちろん、すぐにでもよろしくお願いします!!」


地獄に仏とはまさにこのことだと思う。


「じゃあ今から取りに行くので・・・ええと、今どちらにいます?」

『ええと、○○駅ですけど、』

「あっ、次の駅ですね。そしたら、自分がそちらに伺います。」

『大丈夫ですか?』

「もちろん、・・・もうちょっとで電車来るみたいですから。」

『わかりました。それじゃまた・・・』

「あっと、ちょっと・・・!?」

『はい?』

「あのー、服装とか教えてもらってもいいですか?」

『え?』

「そちらに行っても、あなたがどんな特徴かわからないと声もかけづらいですから。」

『・・・』


黙ってしまった。


「あのー、もしもし?」

『・・・スーツ』

「はい?」

『スーツ姿なのですぐにわかると思います。カバンを持って駅の前の公衆電話で待ってます。』

「わかりました。それと・・・」

『まだ、何か?』

「名前教えてもらってもいいですか?」

『・・・』


また黙っちゃったよ。名前わかんないんじゃ見つけられないよ


『・・・タカナシです。』

「あっ、タカナシさんですね、わかりました。じゃあ、今から・・・

『あのー・・・』

「はい、なんでしょうか?」

『あなたのお名前は?』


おっと、こりゃいけねぇ。

カバンが見つかって喜び過ぎてた。


「すいません。田中です。田中 カナタっていいます。自分もスーツ姿でそちらに向かいますんで。」

『わかりました。田中さんですね。』

「えぇ。では、電車も来たので、今からそちらに伺うのでよろしくお願いします。」

『はい、わかりました。』

・・・ピッ


いよっしゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

これで、部長に怒られなくて、済む!!

ホンッッッッット、ラッキーだよ。マジでツイてる。


あとは、次の駅に向かうだけだ。

『はい、発車いたしまーす。駆け込み乗車は危険ですのでおやめ下さーい』


お礼か、何かした方がいいだろうな。

なんてことを考えながら、

帰宅ラッシュの乗客を吐き出した電車に、僕は乗った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ