1年後のカナタ
「ウィーン」
自動ドアが開く。
取引先の玄関で僕は後ろを振り返る。
見送っていただく笑顔のクライアントに一言添える。
「・・・それでは、この件はいい方向でよろしくお願いします。」
「ええ、君がこの話を持ち込んでくれて本当に助かるよ」
「こちらこそありがとうございます。それでは失礼します。」
外に一歩踏み出す、途端にコンクリートジャングルの熱気が一気に体中に襲いかかる。
瞬く間に汗がじんわりとにじむ。でも、不快ではない。
商談がうまく行ったので、暑さもあまり感じることはなかった。
「っガコン!!」
自動販売機でミネラルウォーターを買う。
一気に飲み干して、一息つく。
「フー・・・」
体も慣れてきたのか、汗もだんだん落ち着いてきた。
まだ暑さが残る9月の1週目。
テレビでは『これから秋に向けてどんどん肌寒くなるでしょう』って言ってたけど、この暑さから急に肌寒くなるなんて考えられないな。
周りを見渡しても、ほとんどの人は半袖で町中を歩いている。
「まぁ、寒くなるってんだから、そろそろ秋物の服でも出しておくか。」
なんてことを一人で言っていたら、
「・・・ヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・」
携帯電話だ。
すぐに出る。
「もしもし、カナタですが・・・」
『カナタ君、どもどもー♪首尾はどんな感じ?』
通話の相手は僕の上司の須藤部長だった。
電話越しからとてもフランクな感じの口調で質問されたから
僕は堂々と答える。
「はい、上々です。クライアントも喜んで承諾しました。」
『そっか、そっか。この件を君にまかせて良かったよ。君しかいないと思っていたからね。』
「ありがとうございます。では詳細は報告書にまとめて提出します。」
『ほーい、よろしく頼むよ。まぁ、でも今日は戻って来ても時間がギリギリだからそのまま帰宅して大丈夫だよ♪』
「わかりました。でも一度、本社に持ち帰りますね。」
『あいあい♪』
・・・ピッ
電話越しに部長の喜ぶ顔が浮かんだ。
よし!!これで昨日の徹夜分は取り戻せたぞ。部長も喜んでたし、後は報告書を書くだけ。コレで万事OKだ!!
携帯電話をしまい、飲み干したミネラルウォーターをゴミ箱へ捨てる。
時計を見て、時間を確かめる。
「・・・戻ってもギリギリだけど、今日中に終わらせるか。」
家に帰って、まとめるのもいいけど、すぐに会社に戻って部長に報告書を提出するのがデキる男ってもんだろ。
もっともっと、頑張ってやろう。
人々がにぎわう都会の中、僕は電車に乗る為に急ぎ足で駅に向かった。