その5・耐えて、戻って
何とか近くの建物の中に入り、そこにレンを座らせる。
リュウ「足にカッターの破片が2本も…いや、大丈夫全然浅い。」
本当は浅くないが、本当のこと言って怯えさせてもいけない。
レン「うぅ…」
(走るの好きって言ってたっけ…足に怪我するのがトラウマレベルで怖いってことか…?)
リュウ「大丈夫だ。手当すれば歩けないなんてことはない。」
レン「うん…うん…大丈夫…」
言い聞かせるようにつぶやく。
リュウ「大丈夫って言っといてこんな事に…マジでごめん…」
レン「うん…」
顔が尋常じゃなく青い。
リュウ「足怪我するのは怖い、か。」
レン「走るの好きだし…走れなくなったら、って考えると…」
(あんだけ元気だったレンがここまで落ち込むなんて…)
レン「守ってもらえると思って何もしなかったあたしが悪いんです…。」
リュウ「俺もだよ。命があっただけ最高だ。でも…」
(マジでマズイな…何とかしに行かないと…)
リュウ「悪いけど、少し待ってて。シンジョウさん助けにいかないと。」
ブラック「い、い、の、かー?」
後ろでブラックが腕を組んで立っていた。
リュウ「ブラック?」
ブラック「あんまり放置してると、他の参加者がこっちに来ちゃうかもなー。あんたみたいに優しいやつならともかく、普通だったらこんなロクに戦えなさそうな女の子、格好の餌だぜ?」
リュウ「……あぁ、その心配があったか…!」
思い当たらなかった。
レン「リュウさん?」
レンが心配そうな顔で見てくる。
リュウ「ここにレンを置いていって、その間に他の参加者が来たらマズイなって…」
レン「あたしなら…大丈夫…」
自信なさげに言う。
リュウ「大丈夫って言葉はせめて自信がある時に使おう?」
レン「でもシンジョウさんが…」
リュウ「それだな…ブラック、あんたが手伝ってくれたりしたら…」
ブラック「バーカ。父さんに怒られるわ。」
リュウ「父さん?」
ブラック「あ、やべ。まぁ、後で話すよ。死ななかったらな。」
そう言って消えた。
リュウ「どうするか…」
この間にもシンジョウとジャックは戦っている。
レン「リュウさん…」
リュウ「レン?」
レン「もう一度、シンジョウさんの所に行こう!」
リュウ「いやだから、レンを置いては…」
レン「あたしも一緒に戻れば!それならいいでしょ!」
リュウ「バカバカバカ。またあのカッター飛んで来るぞ。」
レン「それじゃあ…」
リュウ「何か手はないか…」
レン「足さえ怪我してなければ…」
リュウ「カッターくらいは避けられるかもな。」
レン「あたしがもっと早く動けてれば…」
(落ち着いて素早く考えろ…俺にできることと言えば…この鉛筆はレールを書けたな…その上を滑ることができる…怪我してるのがレンじゃなくて俺ならそれだけでも十分避けられると思うが…)
リュウ「ん?」
1つの案を思いつく。
レン「リュウさん?」
リュウ「ブラック、ちょっと聞きたいんだけど。」
ブラック「はいはい?」
リュウ「文房具を他の人に貸したりってできる?」
●
シンジョウはジャックと死闘を繰り広げていた。
ジャック「Foo!」
シンジョウ「ちぃっ‼︎」
ジャックがやや優勢であり、シンジョウは全く攻撃するチャンスが見当たらない。
ジャック「さっきのキッズ達は、逃げたまま戻って来ないな‼︎」
シンジョウ「あぁ⁉︎」
ジャック「まさか、裏切られたって事なのかい?」
シンジョウ「………」
ジャック「あの子供達に一緒に戦おうとか言われたんだろう?それなのに、あいつらだけ真っ先に逃げて…」
シンジョウ「黙れ!」
ジャック「ついてきて俺と戦って、負ける。最高にピエロだぞ!」
シンジョウ「クソッタレが‼︎」
シンジョウが蹴りを横腹に入れようとするが、避けられる。
ジャック「死ねぇ‼︎」
カッターを逆手に持ち、シンジョウの目に向かって振り下ろす。
リュウ「だああああああっしゃああああ‼︎」
シンジョウ「んごぉっ‼︎」
カッターが刺さるかと思った瞬間、リュウが横から飛び込んでシンジョウを突き飛ばす。
リュウ「あっぶね!あぶね!間に合った!」
ジャック「What's ⁉︎」
シンジョウ「リュウ!てめぇ!」
リュウ「遅れてごめんなさいね!」
すぐに立ち上がってジャックと向かい合う。
レン「へいへーい!ジャックのサック野郎ー!」
ジャック「あ゛ぁ゛⁉︎」
ジャックが後ろを振り向く。
レンが地面に座って鉛筆を振っている。
レン「3対1だぞー!」
中指を立てて挑発する。
シンジョウ「子供があんなこと…」
リュウ「俺が教えた…ごめん。」
シンジョウ「お前後で覚えとけよ。」
ジャック「F●ck off !!」
ジャックがカッターを投げる。
レン「よっと!」
鉛筆で地面をなぞり、その上を滑って避ける。
シンジョウ「あれはお前の鉛筆か?」
リュウ「まぁね。あれがあれば、自分で避けられるから何とかなるでしょっていう。」
ジャック「なら今度はお前が隙だらけに…」
リュウ「当然対策はしてるぞ。」
両手に、伸ばしたホッチキスの芯を1つずつ構える。
リュウ「実質ナイフ2本みたいなもんだ。少なくとも武器無しじゃない。」
シンジョウ「借りたのか…?いや、借りられるのか?」
リュウ「学生の頃、消しゴム忘れた時とか友達に貸してもらったりとかしたことない?そういうことっすよ。」
実質、2対1。