女の子になってもあなたが好き
だーいすき!
世界で一番、悠くんのことが、好きだよ。
悠くんの傍にいられるだけで、あたし、幸せなの。
今日もデートの待ち合わせ。
早く、悠くん、こないかな~。
と思ってると、目の前に、一人の女の子が。あたしの前を、何だかほっぺたを異様に赤くして、おどおどとあたしの顔を見つめていた。
うん、誰だろう、この子? でも、何となく、悠くんに、似てる……?
「あの、麻里ちゃん?」
うん、声も凄く可愛い女の子の声。聞き覚え全くない。
「あのー、あなたさまはどちらさま? あたしの知り合い……?」
あたしはじっと女の子の顔を覗いた。
女の子は答える。
「あたし、神城悠。女の子に、なっちゃったの」
ええっ!? 悠くんが女の子に!? そんなこと、現実にありえるの!?
「大丈夫!? 女の子、って、確かに!?」
「うん、確かに女の子に、なっちゃったみたい……」
「確認したの!? ちゃんと女の子だって!」
「か、か、か、確認って……いえ、その……」
「確認しよ!」
あたしは悠くんの手を取って、引っ張った。女子トイレ、どこだろ……? ううん、この場合、男子トイレに行くのが、正解なの……? でも、あたしは女の子だし、悠くんも今はもう女の子だし……あ、でも、女の子だとわからないから、確認するんだよね……でも、実は男の子だったら、どうしよう……。
とりあえず女子トイレに連れて行って、あたしはしっかり確認しました。悠くん、女の子だった……がっくり……。
どうしよう……悠くんが、本当に女の子になっちゃったー!?
ショックを受けて壁に手を付いてるあたしに、悠くんは横から顔を覗き込むように言ってくる。
「とりあえず、どうするねの? 麻里ちゃんが見たがってた映画、急がないと、はじまっちゃうよ……?」
そうだった!? 時間が!?
って、呑気に映画見てる場合なの……?
と思って、あたしは悠くんの顔を見るけど、悠くんは時計を気にしてる。そんなにあたしと一緒に映画みたいらしい。
まっ、いいか。映画見てから、考えても!
「うん、そうだね。じゃ、悠くん、いこ~」
あたしはにへらと笑って、悠くんに手を差し出した。悠くんは戸惑うように、でも、しっかり、とあたしの手を握ってくれた。
映画のタイトルは、『風と共に泣きぬ』、こんな悲しい映画だとは思わなかったよ……。
あたしは映画を見ながら、ぐしぐしと涙汲む。
そんなあたしに悠くんはハンカチを差し出した。
有難う、悠くん、優しいね……。
あたしは悠くんのハンカチで涙を拭う。
あれ、このハンカチ、女物……? 何で悠くんが女物のハンカチを……?
ハンカチの隅っこに、唯、と名前が書いてある。
もしかして、悠くん、浮気!?
あたしは、思わず涙が止まって、それ以降映画に集中していられなくなった。あの悠くんが浮気を!? あたし意外の女の子とラブラブを……?
映画館から出て、あたしは真っ先に聞いた。
「悠くん、浮気したの……?」
「えっ……?」
「だって、このハンカチ、名前、唯って……。それに女物だし……」
悠くんはあちゃーという顔をする。それから大慌てで両手を振って見せた。
「違うよ、違う! これ、このハンカチは……」
「うん……?」
「その……妹のハンカチなんだ!」
あ、何だ、妹さんのハンカチなんだ。良かった。あたしったら、浮気かと疑っちゃったよ。
「良かった。びっくりしたよ~」
「うん、あ、そだそだ。そろそろお昼ご飯にしない?」
「うん! 何食べよう?」
「この先に友達に教えてもらったイタリア料理屋さんがあるの。そこにしよ」
あたしたちは二人腕を組んで、そのイタリア料理店に来た。
何だか、すごーいお洒落なお店だった。男の子が一人とか二人で、このお店入るのは、勇気いるんじゃないかな?
あたしの好みに合わせてくれたのかな、悠くん、優しいなー。
「あたしはこの、乙女の祈り、にしてみよう」
あたしはメニューを見て、決める。
悠くんも決めたみたいだった。
「じゃあ、あたしは、この塔の中のお姫さま、と、ハロウィンパフェで」
それから悠くんはトイレに向かう。ふと見ると、男子トイレでなくて女子トイレに平然と入って行ってる。
悠くん、すっかり、女の子らしくなっちゃって……思わずあたし、涙が出ちゃうよ。
まあ、でも、きっと元の男の子に戻れば、男の子らしい悠くんに戻るよね。
それからあたしと悠くんは沢山お喋りした。悠くんが意外と学校の女子の話題とかにも詳しいのが意外だった。
今日は悠くんの意外な面が見れた~。
「あ、もうこんな時間。そろそろあたし、帰らないと」
あたしは時計を見て叫ぶ。悠くんも腕時計を見る。悠くん、時計まで、女物、してるよー。
「じゃあ、そろそろあたしも帰るね。麻里ちゃん、送っていくよ」
「うん、有難う~」
あたしたちは二人仲良く、帰宅することにした。
夜の街、あたしと悠くんはのんびり、おうちへと歩いていく。
「今日は有難うね、悠くん、楽しかった!」
「こちらこそ、色々楽しかったよ。麻里ちゃんになら、安心して任せられる」
「うん、何が~? あ、でも、悠くん、大丈夫? その姿でおうちに帰って、通報されない? 何なら、あたしのおうち、泊まっていく?」
「あ、平気平気。いきなり人のおうち泊まったら、逆に心配させちゃうし。それに、問題なら、おうち帰る頃には解決してる、と思うから」
「そう~? なら、いっか、良かった」
あたしはにこっと微笑んだ。
「その姿の悠くんともう会えなくなるのは残念だなー。でも、やっぱり悠くんは男の子の姿が一番だよ!」
「そういってもらえたら、喜ぶ、と思うよ」
「じゃあ、悠くん、あたしはそろそろこの辺で」
「うん!」
あたしは数歩前を歩くと、くるんと悠くんの方へ振り返った。それから、目を閉じて、そっと口を差し出す。
「じゃあ、悠くん、お別れのキス……」
何だか、悠くんの方から困るような気配が伝わってきた。それからどたどたと足音が近づいたり遠ざかったりして、あたしの唇にそっと唇が触れた。
目を開けると、男の子に戻った悠くんが、立っていた。
「あ、悠くん、元に戻ったんだー」
あたしはにっこりと微笑む。
悠くんは困ったような、ちょっと無愛想な声で言う。
「全く、お前、直ぐ人の言うこと、信用するなよな。少しは疑え」
「えっ、何で~?」
「全く、無防備に相手に唇差し出して。俺が物陰から見てなかったら……」
何だか、悠くん、変なこと、言ってるよ……? まっ、いいか。今日も最後に悠くんに会えたし、いい一日だったよ。
「また明日ね、悠くん! 唯ちゃんにも今日は楽しかった、と伝えておいてね!」
「え、それ、どういう意味だよ!? おい、麻里!?」
慌てふためく悠くんをその場に残して、あたしはおうちへと戻っていった。
「ただいまー! お母さん、今日もデート、楽しかったよ!」
悠くんはとっても悪戯が大好きな男の子だよ! いつも人のこと、からかってばかり。でも、あたしだって、いつもからかわれてばかり、いないんだから。
あんまり人のことからかってばっかだと、偶にはあたしも逆襲しちゃうんだからね!
でも、あたし、そんな悠くんのことがとっても大好き。
悠くんと一緒にいられる時間が、本当に大切なんだ!