大魔王降臨 1
無駄に広い。
この部屋は、今はほとんど使われていない『謁見の間』。だが他のものたちは、通称『無駄部屋』と言っている。
父の時代は毎日のように使われていた。
しかし僕の代になった今となってははっきり言って使う機会がないため、今の僕のように用もなくここへ訪れる人はまずいない。
なぜかというのは、わざわざここで会うほどの偉い人やお客様が訪れるということもなく、部下にここで指示したり報告を受ける必要もないからである。
この部屋の入口とは反対側の少し高いところに玉座がある。
ここから見る景色は・・・あまり落ち着かないため僕は好まない。
父はこの玉座にいつも座っていた。たしかに僕の目から見ても、それは威厳がありカッコいいと思えるものだ。
だが玉座からの見下すような眺めや物寂しい装飾や内装などではなく、この部屋から眺める景色の方が僕は好きだ。
この城の最上階に位置していて、窓から見える景色はそれはそれは綺麗ものだ。
小高い丘の上に建つ城のため、最上階のここからなら遠くの地平線の彼方まで眺められる。
一年を通して雷雲が立ち込めドラゴンが飛び回る山脈や、広大な森の真ん中に一際目立ちどっしりとそびえ立つ大きな樹。あとは、ちょうどこの時間の眩しいほどに輝く夕日も格別に綺麗であるだ。
暗い印象を受ける天井や壁。部屋の広さに対して明らかに物足りない灯り。夜になると何か出そうで昼間にしか来ない。
本当はシャンデリアや赤い絨毯なんかあったら雰囲気が明るくなると思うのだけど、『イメージが壊れる』という理由で執事にあっけなく却下された。
天井や壁には昔の傷跡がいくつか残る。父が戦死した激しい大戦。
父は民を守るためにこの謁見の間で勇者と死闘を繰り広げただが、敢え無く敗れた。
破損などはだいたい直されたが、今も残るのは部屋の中心に広がる大きな魔法陣。
複雑な魔法陣の中心には少し窪みがあり、埋めても埋めてもなぜか同じ窪みができてしまうために、仕方なくそのままにしているらしい。
その魔法陣はなんでも父が思いつきで作ったとか。
僕にはその魔法陣が何のためにあるのか、何に使われるかわからない。当然だが使うこともできない。
今日も一日が終わった。
この部屋から見る夕日を見ると、一日の終わりを感じて少し寂しくなる。
夕飯を食べて風呂に入って早く寝よう。明日も朝から仕事をしなくてはならない。
ピカッ
窓から入ってくる夕日より眩しい閃光に目を瞑る。
その閃光は魔法陣から発したように見えた。
気のせいだろうか。魔法陣からは、うっすら青白い光が発しているように見える。
僕は恐る恐る近づく。
やはり、魔法陣の線や文字から青白い光が出ている。
それに窓も入口も空いていないはずなのに、室内にも関わらず風が巻き起こっている。
最初は、風が吹いているかも感じないほどの弱弱しいそよ風だった。
しかし次第に強くなり、今でははっきりとしてきた。
その風は魔法陣の中心に流れ込むように渦を作っている。
さすがに怖くなってきたので、執事を呼ぼうと入口に向かって駆け出した。
ピカッ!!
先ほどより強い閃光に目が眩み、向かっていたはずの入口の場所がわからなくなる。
「きゃっっ!」
不意に聞こえた声に身体がビクッと反応する。
ようやく目が慣れてきたようで、声の聞こえた方向を見る。
「痛たた・・・。今度は何?」
目を凝らしよく見る。風の流れもとまっていた。
夕日のスポットライトに照らされたそこにいたのは、全身がほとんど黒色で大きさは僕と同じくらいだろう物体。
いや僕はまだ成長期だからこれから伸びるはずだから、成人したらきっと・・・。
いや今はそれどころではない。
男よりも高い声を発し、髪は長く肩を超えるあたりまであり・・・胸に膨らみがあるからたぶん女性であろう。
どうやら二足歩行の生物であろう・・・というか人間ではないだろうか?
「急に『ピカッ』って光って次は暗くなって床に落ちて・・・。なんなのよもー!
・・・あれ、ここどこ?・・・ってきゃああああっ!!」