黙示録第二章 『声』
大きな造りの、光をよく取り込みやすくなっている食堂。
昼食の席は、令書の内容のことがすぐさま取り上げられた。
「やっぱり、罪人なのかなぁ。その子。」
隣のロナが、玉子焼きが刺さったフォークを銜えながら言った。
こちらの修道士の食事は、魚以外の肉は禁止されている。
「国王陛下がじきじきに、でしょう?無難なのはそのくらいよ。」
あと、食べてから言いなさい。フォーク銜えながら喋るの、行儀悪いわよ。
クリーフィが白パンを一つちぎる。
「案外、そうでもないかもよ・・・」
「「!」」
いきなり後ろから聞こえてきた声に驚いて、クリーフィがちぎった物を落としそうになり、ロナは食べていた玉子焼きが喉につかえた。
「驚かせないでよ・・・フェテス。」
クリーフィはむせかえるロナの背中をさすりながら、疲れた声で後ろを向く。
そこにいたのは、灰色の髪がちらりと出た、かなり大人びた少女。
ごめんなさいね、とフェテスは軽く頭を下げた。
「隣、いい?」
「ええ。」
「ありがとう。」
テンションが低い彼女達の会話は簡素だ。ロナはそう思った。
「・・・で、そうでもないって何が?」
やっとつっかえが取れたロナが、フェテスに聞く。
「うん・・・隠し子とか、国が秘密にしている人物だとか。」
「・・・最初はともかく。その線もあるけど・・・もうやめましょこの話は。」
首を振ってため息をつきながらクリーフィが二人に言う。
「え〜何で〜?面白そうじゃん。」
ロナが頬を膨らませて怒る、というか駄々をこねる。
「実際見つけなきゃ意味ないでしょう?無駄に時間が―――――」
ロナを一蹴したその時。
クリーフィが、その場で硬直した。
そして瞬間、いきなり頭の中で『声』が―――
《汝 大天使に仕えし者よ》
「・・クリーフィ?」
《地下に眠る 迷えし子を 救えよ》
「・・ちょっと〜?・・・クリーフィ〜?」
《さすれば 汝――――》
「クリーフィ!」
「!」
ロナの声に、クリーフィはハッと顔を上げた。
見れば、目の前にロナの顔が、心配そうにこちらを見ている。
「・・ちょっと大丈夫?朝の祈りで寝不足なのなら、寝てきてもいいのよ?」
深刻そうな声音でロナが話しかけてくる。
それに答えるか、のようにクリーフィの目が伏せがちにされた。
だが今は、頭が霧がかかったようにボンヤリしていて、ロナの声が酷く聞き取りづらい・・。
魂が抜けたように、何も考えられなくなっていて、意識も少し朦朧としている。
貧血になったようなクリーフィを、真剣な表情で見つめていたフェテスは
「ロナ、ちょっといいかしら。」
「え?あ、うん。」
不意にロナを下がらせた。
そうすると、戸惑うロナを横目に、後ろから、虚ろな表情になっているクリーフィの肩を持って同じ目線になり。
静かに彼女の頭の後ろで、
「大丈夫?」
そう、囁いた。
するとクリーフィが驚いたように息をのみ、目を見開き、表情がハッキリしたものになる。
それを見て、安心そうにフェテスが再度
「大丈夫?」
と声をかけた。
だがクリーフィは先ほどの表情のままで
「――――」
・・・今何かを呟いたように唇が動いた。
それに気付いたフェテスが、眉をひそめた。
と同時に。
「・・・っ行かなくちゃ・・!」
苦しそうにそう言い残し。
クリーフィは勢いよく立ち上がり、走り去って行った。
「っクリーフィ!?」
ロナはそれを見て、クリーフィを追おうとした。
が。
それはフェテスの腕がスッと伸び、前へ出ようとしたロナを押し留めた。
フェテスは深刻そうな表情のまま、クリーフィが走っていった方向を見ていた。