夢は幻が花
夢を見た。
私は背丈ほどもある叢を必死に走っていた。
なんか自分は酷く怒っており、手には刃物が握られていた。それも剣で、巨大で立派な物だった。
私は剣を振り藪を払った。
細い木々を勢いよく走り抜けた。
ばちゃばちゃと水たまりを踏む。
鎧が酷く重かった。
「いたぞ!」
私は叫んだ。仲間たちがどんどん背中を追い越していく。
たくさんの者が切られて倒れる。
怒声、奇声、赤ん坊の泣き声、犬のような声、そして私の目の前に向かってくる異形の者の叫び声。
「この人間が!」
私はその首を両断した。
私は真っ赤な血を浴びた。
「!」
「おはようさん。よく眠れたかい?」
提灯お化けが昨日のまま天井にぶら下がっていた。
私は昨日のことを思い出した。驚かなかった。冷静である。
そういえば夢などは久しぶりに見た。
「今濡れ女が朝食を獲りに行ったよ」
その声に頷きながら、頭の中でもやもやしたものを抱いていた。
あの夢はなんだったのか。
あれは本当に夢だったのか?
「魚がすぐ捕れたわ。塩で焼くわね」
「ありがとうございます」
ぬれおんなさんが帰ってきた。
私は一旦このもやもやする夢のことを放棄して、顔を洗いたいことを彼女に伝えようと立ち上がった。
「この近くの人間の住んでるところと言ったら、山を越えないと無いなあ」
朝食を終えてから二人に帰ることを伝えると、二人は頷いた。
しかし人生初の山登りが必須科目だということを言われた。
この体力の無さに自信のある体で、だと・・・・?
「サイクリング自転車とかは・・・・」
「サイクリングジテンシャ?」
「いや、なんでもありません」
妖怪に人間の文明の利器は不必要なのだろう。もう聞かないことにした。
「野良犬とか出ますか?熊とか猪とか」
切り替えて、安全なルートを知ろうと考え野生の生き物のことを聞いたのだが、提灯お化けは物騒な返答をしてきた。
「野良犬はよく出没するな。熊もまあ出ることは出る。猪はよく狩られるな」
めちゃくちゃ不安になった。
だいたいここは田舎であり山奥なのだった。
圏外だし。
ぬれおんなさんは今お握りを作ってくれている。とてもありがたい。
提灯お化けは長い舌をべろべろさせながらその不安極まりないルートをどんどん言う。
それを私は破いたルーズリーフに書き込む。そして私は二人とともに茶屋の外に出た。
「・・・・ひゅーーーーう。」
異形だらけのにぎやかでごった返す、見事な町に思わず口笛を鳴らした。