彼らは風邪を引くのだろうか?
「おうおう、濡れ女より口がデカいぞ。わははは!」
「笑っちゃ失礼だよ提灯、ふふふふ」
え、なにこれ。
ぬれおんなって、聞いたことあるし。なんだよ提灯て、お前提灯お化けなのかよ。え、マジで提灯だわこれ。
そう私は口をあけたまま、提灯お化けと濡れ女を交互に何度か見比べた。
濡れ、だからなんか冷たかったのね皮膚が。納得。
「濡れ女、こいつは名前は無いのかい?黙ってばかりで面白くないぞ」
「さっき困っていたんだよこの子。急かさないでよ。ねえあなた、お名前言える?」
ぬれおんなと、なんだよ提灯お化けかよ。
私はよく知らない妖怪ぬれおんなに困惑していたが、名乗らないわけにはいかないと頭を下げる。
日本人の染みついた癖である。
「今更ですが。小鳥遊遊離と言います。夜分に恐れ入ります」
何時だっけ今。
もうどうでもよかった。やけくそである。
「ゆうりの嬢ちゃんだね。良い名だね」
ぬれおんなさんは水かきのような手で急須を注ぐ。
「私ねえ、今ちょっと風邪気味なのよねえ。それで川に入れないの」
「干からびる前に治さねえといけねえよ、お前さん」
ため息を吐くように彼女は言った。
え、干からびるんですか?
水かきついているから水の妖怪さんなのかあ。なるほど。
私が自己紹介を無事に終えた後、夜に女が出歩いちゃいけないからと一晩泊めてもらえることになった。
茶屋だったらしいこの部屋に|(暗いから店だと気づかないってどうよ)
明日に帰れるのだろうか。それが気になった。
ここは巨大な両生類とか提灯とか海人ぽい方々の親戚ばかりに違いない。
この町は人間がいない。
そう考えた。感だ。
いやに冷静だなあと自分でも不思議に思うが、現にこの通り冷静に思考できているわけで。
「あああ、眠いぜ」
天井の提灯が長い舌を垂らして仕事|(明かりの代行?)をしている姿を、寝るまで見つめている私なのである。