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神様の正体


なんと愚かで恥知らぬ生き物よ



人間とは所詮神が作り出した造作物に過ぎず



哀れで滑稽な様は目に余る



我を楽しませよ



快楽を魅せよ



ずる賢い生きもので、他人を利用するすべを知る人間達の行動にはほとほと愛想が尽き、つまらぬものを生み出したと彼は感じていた。

すべてが同じ人形のように見え、自分の掌の上でしか踊れない哀れな生き物に同情すら覚えてしまう。

唯一自分が気を許したアレはまだ目覚めない。

だが、もうすぐ……。もうすぐアレは目を覚ますだろう。ずっとずっと待ち続けていたことが現実になろうとしている。

待って、待って、待ち焦がれて……。長く辛かった日々が報われると思うと、今まで人間が行ってきたすべても笑って許してやれそうな気さえした。


彼は縁に腰を掛け、脚を組みながら両手を上にあげて大きなあくびをした。

目の前に広がる景色も見飽きてしまった。社自慢の庭は荒れ果て、綺麗に整えられていたはずの木々は無残にも折れ曲がっている。

地面の所々には穴があき、戦争後のような荒れ地と化してしまった。

唯一彼の座る縁の下にのみ、花が咲き誇り、今だに新たな草花が成長し我よ我よと花を咲かせていく。

それを神々しくも、憎いと言わんばかりに、彼から数メートル離れた庭先に金髪の狼が全身から血を流して横たわりながらも唸っている。

誰がどう見ても、もう長い命ではないと知ることができる狼は、それでも目の前にいる敵に牙を向け、最後の力が果てるまで自分の使命を全うしようとしていた。


「社……もう懲りたでしょう?そろそろ終わりにしてくれないかなぁ?」


そう言いながら座ったままの彼は欠伸から生まれた涙を、人差し指で拭いつつ金髪の狼にそう告げる。

社と呼ばれたその狼は、最後の力を振り絞るようにふらついた足で立ち上がり、血に染まった牙を剥き出してうーっと低く唸った。

立ち上がる狼の体から血が吹き出す。動かなければ少しでも長らえることを知っていながらも自分の命を削るように唸り続けた。

それを見た彼は、大きなため息を吐いて立ち上がる。面倒臭そうに足を一歩踏み出せば、そこからまた新たな草花が芽吹き始める。


「人間の形も保っていられなくなるほど力を使い果たしたんだ。これ以上の抵抗はやめてよ。面倒なんだ」


決して社の体を気遣う言葉ではない。それはまるで遊びに飽きた子供が遊んでくれていた相手に対しての文句を言っているように感じられる。

それでもなお威嚇をやめようとしない狼に、もう一度ため息をついて、ふと視線をずらして庭先で唯一倒れていない樹齢100年ほどの樹を見た。

目を包帯で隠され、口には猿轡さるぐつわを噛まされ、手足を鎖で縛られた幼い少年がその樹の幹に絡まるように、いや捕虜のように身動き出来ないでいる。

その足元に視線を移せばすでに命の鼓動が感じられない鶴が横たわっていた。

白い羽根を赤く染め、細長い足を片方失っているその姿に彼はただ笑みを漏らす。

改めて金髪の狼に向き直っても、狼はその場からまったく動かないまま足をガクガクと震わせ始めた。


「獣風情がよくやったよ。君たちは勇敢で稀に見る使命感ある行動を見せてくれた。でもね、もう飽きちゃったんだよ。もうそろそろアレが目を覚ます。僕はそれを迎える準備をしなきゃいけないんだ。わかるかい?」


情けの言葉すらかけることのない彼の言動に、狼は力を振り絞って一歩だけ歩み寄る。

彼は目を細めてそれを見つめ、クッと喉の奥で笑って背を曲げた。


とたん、彼の背からメキメキと割れるような音を響かせながら美しい白い羽根が生えだした。

バサッと羽音をたてながら強い視線でにらみ続ける狼に軽く手を振った。


「宴に参加しなきゃね。何しろ……僕は宴の主催者なんだから」


機嫌よくそうつぶやいたかと思えば、大きく羽根をはばたかせて天に上っていく。

上空の強い風が彼の美しい青色の髪を揺らめかせた。


金髪の狼は、それをどう阻止することもできずに見つめ続けた。

姿が見えなくなる頃、ようやく彼の威圧感から解放され、樹に縛られている幼い少年を解放するためにそちらへふらついた足取りで向かう。

前脚を木の幹に付け、彼の猿轡を牙でむしりとる。

ピッと幼い少年の頬に擦り傷かできたかと思えば、目隠しされたその奥から、少年はポロポロと涙を零した。


「社っ!伊織が!伊織がっ!」


口を解放された途端、必死に訴える少年の言葉に狼は何も言わずに少年の手に巻き付いている鎖に牙をかける。

しかし牙では文字通り歯が立たない。

それでも狼は溢れだす血を少年に振り掛けながらも彼を解放しようとますます牙に力を降り注いだ。


「なんで……なんで……いーちゃん……なんでこんなことするの……?……いーちゃん……」


自分をこのようにして、伊織を殺してしまった相手の行動が今だに信じられないと言ったように少年は次々に涙を零していく。


「やしろぉ……やしろぉ……僕嫌だよ……いーちゃんと喧嘩なんて……したくないよぉ……」


忍獣の中では一番幼い彼がこの状況になって一番能力を発揮できると知っている社にとって、それはどうとも変えられぬ運命だ。

忍獣達が誰よりも誰よりも愛して止まない、神と崇められている少女が決めた処遇だったからだ。


彼女なくして今の自分達はありえなかった。

今こうして生きていられるのはすべて彼女のおかげなのだ。

野山で傷つき、または人から虐待され続けてきた自分達に温かな手を差し伸べてくれた。

短命な生きものである自分達に人間に等しいほどの命を与えてくれた。

誰よりも、誰よりも愛してくれた。

その恩は、まるで崇拝に近い思いだった。

誰よりも強い心で自分自身に誓ったのだ。

この人に自分の持てるすべてを捧げようと。

命でさえも惜しくないと。


「やしろぉ……」


自分を裏切ってもなお、彼を信じようとしている少年の呼び掛けに社は涙を堪えた。

きっと自分は彼を解放したら命尽きるだろうと。

守り切れなかった自分の無力さを嘆きながら朽ちていくのだろうと。

だから、せめてこの少年にすべてを託す。

ああなってしまった彼を唯一止められる少年を自由にし、彼女を救ってほしいと。


「いいか……聖……よく聞き……」


擦れる声でようやくつぶやいた社の言葉に、聖は口をつぐんだ。


「俺等の知ってる十六夜はもうおらん……十六夜の話が本当なら……危ないんは健太郎様やのうて優花様や……お前の義務は……言わんでもわかっとるな?」


そう言いつつ、ようやく手の鎖が外れて地面にガシャリと落ちた。

それと同時に、聖の体は大樹から離れて地面へと落ちる。

聖は自分の小さな手で包帯の目隠しを取ると、社の姿に愕然とした。

手枷を外した時点で自分の使命を果たしたかのように血を流して横たわる社の獣姿が視界に入る。

金色の毛並みはすでに艶をなくし、血に染まっている。

肉を切り裂かれとめどなく溢れだす血をどうにかしようと、聖は足枷を外すことも忘れて社を泣きながら抱き締めた。


「優花様を……助けて……聖……もう……お前にしかできん……」


「うぇっ……あっ……やだよぉ……やしろぉ……」


「ひじ……り……がんばろ……頑張って……いっつもみたいに……ゆ……か……様に……笑ってもらぉ……」


抱き締められる温もりを感じながら、社は薄れゆく意識の中で伊織を見る。

聖はただ答えもせずに、涙をとめどなく流し続けた。


「あぁ……やしろぉ……しっかりしてよぉ……ふぇっ……ぼく……ぼく……」


「すまんなぁ……すまんなぁ聖……」



伊織……



俺たち、ちゃんとお役目果たせたかな……?



生きてるうちに言えへんかった……



生きてるうちにちゃんとお前に言うておきたかった……



なぁ伊織



今度生まれてきたら二人で人間に生まれてこよな?



優花様みたいな優しい人母親に持って



互いに巡り合って



今度は



今度こそ愛し合おう



その命尽きるまで



お前だけを愛していけたら



俺はもうなんもいらん……



なぁ伊織



今度はふたりで幸せになろうな



「いやだぁあぁっ!やしろぉおぉっ!!!」



大量の汗が吹き上げ、健太郎はあわててその身を起こした。

胸を、胸に打たれた刻印をわし掴む。

今夢にみたすべての真実と、はかなく消えていった二つの魂の叫びが聞こえたかのように。

この身を切り裂かれる思いになる。

汗ばんだTシャツがペッタリと肌に密着していたが、そんなことに嫌気を感じる暇もなく自分の存在を憎んだ。

息を荒げ、膝を抱え込みそこに顔を埋める。


「……んだよ……なんなんだよ今のっ!!」


健太郎の中に迷いが生じた。

耐えられぬ選択にどうしようもない歯痒さを覚える。

今見たのはただの夢だ。

しかし現実に近すぎる夢と、夢の中で自分に語り掛けてきた人物が告げたことが真実なら……。


「目が覚めたか?」


ふと、かけられた声にゆっくりと顔を向ければ、不思議そうな表情を浮かべた智樹が部屋のドア付近に立っていた。

何も答えずにいた健太郎に、智樹はいつもと違う何かを感じたのかゆっくりと歩み寄っていく。


「……どうした?すげぇ汗だぞ?嫌な夢でも見たのか?」


そういってベッドの端に腰掛けて健太郎の様子をうかがった。

自分を気遣う親友の表情に、また胸が締め付けられていく。

今目覚めたばかりなのに、生きた心地すら失っている。


「……吉倉……」


駄目だと思った。

彼の穏やかな気遣いがあまりにも苦しくて、切なくて、手放したくないと。

もう絶対にそう思ったのだ。

締め付けられる気持ちに、健太郎はどう答えることもできなかった。

一層このまま自分が消えてしまえばいいのだと、自分さえ居なくなればと思う。

でもそれは決して許されない、許されるべきことじゃない。

真実を知れば、彼らは自分からきっと離れていくだろう。

あまりにも現実離れしたこの偶然過ぎる、いや必然とも呼べるこの運命に、自分はどう逆らうこともできない。

声を上げて拒否することさえ許されないと・・・。

何も答えない健太郎に、智樹が少しだけ歩み寄り、彼に触れようとした丁度その時だった。


「ねぇっ!ちょっと来てっ!里の様子がおかしい!!!」


慌しい声と共に勢いよく部屋に飛び込んできた人物を、二人は同時に振り返る。

普段は滅多に慌てることなんてない健吾が血相を変えてこちらを見ていたのだ。

智樹は健太郎に触れるのをやめ、健吾に向き直ると冷静な声で尋ねた。


「なんだよ、何があった?」


「何かあったんじゃないっ!何もないんだっ!!」


冷静な智樹の言葉にも、健吾は急かすように早口でソレを告げる。

その言葉に、健太郎は驚きの表情を浮かべ、智樹は眉を潜めて今の意味を理解しようと言葉を返した。


「何もないって・・・」


「本当に何もないんだよっ!さっきまで聞こえてた話し声とか、バタバタとした騒々しさとか全然聞こえてこないんだっ!!」


健吾の言葉に、健太郎は弾かれたような驚きの表情をしつつも二人の間を掻い潜ってパソコンのある部屋へと急ぎ足で向かう。

そこでようやく健太郎の様子が明らかにおかしいと、健吾と智樹は不思議そうに顔を見合わせつつも、すぐに健太郎のあとを追うようにパソコンの前に立つ健太郎の後姿を見つめた。




それは奇妙で、恐ろしいほどの静けさだった。



械故障ともとれるような静けさに、そこにいた全員が耳を澄ます。



ただその静けさに、1つの足音を聞き取ることができるが、それはそこにその人がたった一人しか居ないようにすら聞こえる。



つい先ほどまで大勢の人間がソコに居たことは健吾がしっかりと聞いていた。



それなのにこの静けさはなんだと、健吾が固唾を呑む音すら耳元で囁かれていると錯覚するほど大きく聞き取れる。



“初めまして哀れな人間達よ”



ようやく聞こえてきた静かな声に、そこにいた全員が健太郎の方を向いた。

聞こえてきた声はそこにいる健太郎の声そのものだったからだ。



里はあまりにも静かになった。

そこに居た人間は、里の人間だけではなく、警察までもがその姿に言葉を失った。

言葉を失うという表現自体間違っているのかもしれない。

そんな単純なものではない。

その姿を見た人間誰もが、圧倒され、美しさに声を忘れ、絶対的存在だと悟らされることとなる。

たとえソレが彼にそっくりな容姿を持つ者であったとしても、全くの別人だと瞬時に知ることができる。


あまりにも自分達の存在とは違う生き物だと。


それは触れることも拒むことも出来ぬ唯一無二の存在だと。


同時に今まで自分達があれほどまでに崇めてきた神とは一体なんだったのか、その今までの神の存在が、これと比べてしまえば、あまりにも小さすぎて自分達が愚かに思えてくる。

ソレはただ穏やかに、優しい表情を周囲に向けて微笑みながら呟いた。


「初めまして哀れな人間達よ」


たったその一言で、人々は崩れ落ちるように地面に跪くと、ただポロポロと涙を流し始めた。


まるでこの世の終わりのように。


心が崩れ落ちていくように。


悲しくて


苦しくて


たまらなく愛おしい


その人とは呼べない人の形をしているソレは、周囲の様子をゆっくりと見渡すと、穏やかな足取りで屋敷の方へと向かっていく。

誰も止めることはできず、ただ見つめているだけしかできない自分達の無力さが腹立たしい。

ソレは人の合間を、人が自然と開いた道筋をゆっくりと歩んでいけば、襖を両方に勢いよく開いて、彼女を守るように、自分を睨みつけてくる四人を細い目で見つめた。


「里見君…じゃぁないわね…アナタ誰?」


額から汗を流しながら、威圧感に耐えつつも真由羅がソレを威嚇するように冷たく言う。

他の三人も同じだ。

いきなり体が言うことを利かなくなったかと思えば、彼を崇拝したい気持ちを必死に抑え、彼女を守る体制を整える。

自分達の使命はそこにあると、そう思っているからこそ他の人間とは違う行動に出ることができた。

しかしそれでもギリギリだった。


「君たちは僕の言うことをちゃんと守ってくれていたんだ…今までありがとう」


「何を…?」


「僕が君たちに言ったんだよ、彼女を守るように、何度も何度も生まれ変わってくる彼女を見つけ、彼女を守るように」


そんなことは今まで聞いたことがない。

自分達が彼女を守るのは“憶印”が打たれた時だけだと思っていた。

それなのにコイツは一体何を言い出すのかと、四人は警戒しつつも不思議でたまらない表情を浮かべる。

四人の様子を見つつ、ソレは穏やかに微笑みながら静かな声で言った。


「跪け。お前達の主は僕だ」


ガクンッと膝が落ちていくように曲がる。

体に力が入らず、上から何かで押さえつけられたようなそんな圧力に、先ほどよりさらに酷く汗を流し続ける。

まるで自分達の体が別のものに支配されるような感覚だった。

まったく言うことを聞かない自分達の体にどうすることもできず、ただソレに言われるがままに膝まづいている。

ソレの顔を見ることすら許されないように頭を垂れ、動かぬ体を必死に動かそうと抵抗するがびくともしない。

その様子に満足したように、ソレは再び足を進め、目の前に立ち止まると、物言わぬ彼女の頬にゆっくりと触れた。


「っやめなさいっ…その人に触らないでっ…」


頭を垂れつつも、ソレが彼女に近づいたことを感じ取ると、真由羅は唯一自由な口を動かしてソレの静止を試みる。

ソレはただゆっくりと振り返ると、真由羅に人差し指を向けるて、クッと軽く指を曲げる。

途端、真由羅の体は上から押さえつけられるように、バンッと勢いのある音を立てて畳に体を打ちつけた。


「朱雀は相変わらず煩い」


真由羅をそう呼ぶと、ソレは再び彼女のほうを向き直って胸元に見える憶印に手を触れた。

触れた手に反応するように、憶印がぼぅっと揺らめき始める。

ソレは自分の唇を優しく彼女の頬に触れさせ、唇を重ね、それからゆっくりと耳元をで呟いた。


「ああ、やっと君が役に立つ…なんと長かったことか…」


嬉しそうに彼女の頭を抱き寄せて、ただ来る瞬間を待ち望むようにはしゃいでみせるソレに、彼女の瞳からゆっくりと涙がこぼれ落ち始める。

涙など、感情は全て表には出せないはずの彼女がポロポロと涙を流し始め、そして次には声を漏らした。


「…で…なんで…十六夜…」


まだしっかりと体は動かせないも、意識ははっきりと伝えられる。

優花がそうなってから最初に表した感情は怒りだった。

ソレはただ彼女を抱きしめたまま、クスクスと耳元で笑ってゆっくりと顔を上げる。

唇が触れるか触れないか曖昧な距離を保ちながらソレは優しく、穏やかに伝えた。


「なぜって?何を聞いているのかよくわからないよ」


「何が…目的…?」


「目的?目的なんて聞いてどうするの?君に何が出来るっていうの?」


「里の人を…傷つけないで…」


詰まるような声で優花がそう呟けば、ソレは驚きのあまりに顔を離して彼女の顔をまじまじと見る。

自分を見つめるその顔を、優花はただ動かぬ自分の体を恨みながら、ただ睨み続けた。


「っくは、あはっ!あははははははっ!!!」


突然始まったソレの笑い声に、優花は目を見開いて、それからギロリと睨む。

ソレは何もなかったように優花から離れ立ち上がると、目元を手で覆いながら天井を仰ぐように笑い続けた。


「里の人間を!?傷つけるなだって!?あっははははっ!!っかしいっ!!」


笑いの止まらないソレを見つめながら、優花はようやくけだるい体を起こして立ち上がると、ゆっくりとソレに近づいて下から睨んだ。


「…にが…何がおかしいっ!人を騙してっ!!何がおかしいのっ!!答えなさい!!」


怒鳴るように、ソレの胸倉を掴んで優花が叫べば、ソレは笑うのをやめて、彼女を見た。


ソレは背筋が凍るほど冷たい目で。


今まで見せたことがないそんな冷たい目で優花を見た後。


瞬間的に優花の体が横に吹き飛べば、襖ごと庭へと放りだされた。


何が起こったのか、本人すら分からない。

そこにいた誰もが顔だけを上げて大きな音の正体を確認すると、額から血を流し、苦しむようにお腹を押さえながら地面に横たわる優花の姿を目に映した。

ソレが現れるまでは神と崇めていたあの少女が、いとも簡単に吹き飛ばされ倒されてしまった。

里の人間はそれで一層、ソレがどういう存在なのかを確信に近づけていった。


「随分と…長い間貴様に仕えていたけれど、君ほど殺してやりたい人間は居なかったよ」


静かに、庭先に倒れた彼女にゆっくりと近づきながら、低い声でソレは優花に確かにそういった。

先ほどとは明らかに違う、低くうなるような恐ろしい声が耳の奥に残っていく。

突然の衝撃から意識が朦朧とする優花に、ソレはまたゆっくりと距離を縮めた。


「人間の分際で偉そうに…」


そう言えば、ソレはゆっくりとしゃがみこんだかと思うと、優花の髪を鷲掴みし、そのまま勢いよく立ち上がった。

無理矢理に立たされ苦痛に顔がゆがむ優花に、ソレはただ冷たい視線を向けている。


「知ってる?優花のその力は俺があげたものなんだよ?目印になるように、先に逝ってしまった“アレ”を再び取り戻すにはアンタが必要だったから」


「なんっ…」


「それなのに里の人間は君を神様だと思い込んで、馬鹿だね。僕が君を見つけるのは苦労しなかったよ。ただ“アレ”が君を見つけるまでには随分時間が掛かったけれど」


何を言っているのかさっぱりわからず、けれどふと過ぎった考えに優花は再び目元に涙を浮かべ始めた。

それではあまりにも自分の存在が小さすぎて、今までの想いや、苦悩の日々は一体なんだったのかと問いただしたくなる。

思えば思うほど、それが一番可能性としては近く感じられ、優花は歯を食いしばりながらポロポロと涙を流した。


「お前は“餌”なんだよっ!!お前等が“里見健太郎”と呼ぶ!!もう一人の僕を引き寄せるための“餌”に過ぎないんだっ!!お前は人間以下なんだよっ!!くはっ!あはっ!あははははははっ!!!」



そして



ソレは静かに真実を告げた



“黄龍”とは本来“光”が“流れる”と書いて“光流”と読む



それぞれ“光”は“生”を司り



“光”より流れ行く“流”は“死”を司る



“光”とは我が身を差し



“流”とは彼を



里見健太郎と呼ばれる者を指す



“神”とは2つの御霊を合わせて言う総称



僕達は双子なんだ――――――

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