準備と休息と
「・・・マジかよ」
想像を超えたその風景に俺は思わずため息混じりにそう漏らした。
俺が閉じ込められていた玄武の里から、笹木のバイクの後ろにまたがって、昼間まで居た朱雀の里に戻ってきた。
ところが、そこは俺が来た時と一変し、周囲は数多くのパトカーに囲まれ、警察官達がその周囲を巡回していた。
まさか日本の国家権力までお出ましとは、俺が思っていたよりもはるかに大変なことに巻き込まれていたと痛感する。
確かに爺さんが言っていた通り、日本国家に人殺しをしていた里の運命に目を背けてもらっていたらしいが、今回はそうとも行かないらしい。
俺を警戒してなのか、明日起こりうる里の運命を阻止すべく集められたのかは分からなかったけれど、俺はそこに近づくことさえできなかった。
遠巻きから見ていたため、俺達の存在には警察の人間も気付かなかったらしく、とりあえず笹木の提案でその場を素通りすることになった。
検問らしきこともやっていなかったため、やはり何かの取り締まりではなくこの里の警備か何かで呼ばれたのだろう。
どうすることも出来ない俺に、笹木はとりあえず、と里が一面見渡せるホテルの部屋を用意してくれた。
ところがそのホテルの一室は、今までテレビでしかみたことのないようなスイートルームだった。
この際、男三人でここを使うかというのはおいといて、笹木がこの部屋をすんなり取ってくれたことに驚きだ。
未成年で、しかも真夜中のチェックイン。
どう考えても笹木は只者じゃない。
普通の部屋にしろとは言ったけれど、ここが一番最上階で、一番見渡しやすいからということで笹木の行為に甘えることにした。
味方につけるとこうも頼もしいやつで本当に助かった。
俺はその広々とした高級感溢れる部屋のベッドに腰を下ろして、盛大なため息を漏らす。
ソレを見ながら吉倉は窓際にある椅子に腰をかけ、笹木もそれに向かい合うように椅子に座った。
「で?どうするよ?」
「どうもこうも、あんなオオゴトだとは思ってなかったからな」
「そんなオオゴトなことなのかよ?」
「知らねぇけど、アレを見たらどう考えたってただ事じゃねぇだろうが」
「中の様子とか、警察が何でいるかとか事情がわかんなきゃ動けねぇな」
「明日まで待つか?」
「12時過ぎてるんだ。そんなに時間はないよ」
「初っ端から出鼻くじかれたんじゃあどうしようもねぇな」
吉倉がため息交じりにそういえば、笹木はふと思い立ったように俺を見る。
「そういえば確認するけどさ。里見、本当に神様の願い事やらはいいんだな?」
笹木の言葉に、吉倉も反射的に俺を見る。
俺じゃなく、正しくは俺の反応を…だ。
バイクでここに飛ばしてくる最中、里の中で起きた詳細を二人に聞かせた。
そして俺が本当にどう動くかも、自分の気持ちも伝えた。
笹木の言葉に一瞬沈黙したが、俺は意を決したように二人に向かって小さく頷くと、力のこもった声で言った。
「奪還できればそれでいい」
そう、神様なんて関係ない。
ただ一人大切な人を取り戻せばそれでいい。
人形のようになってしまっても、そこに彼女の“心”があるならば・・・。
納得したような表情を浮かべた笹木に比べ、吉倉は俺の言葉を聞いてそのまま窓の外を見下ろした。
下に広がる不思議な世界。
それは外と完全に隔離された里の中。
あの中に居る時は気がつかなかったけれど、塀に囲まれたあの場所はなんとなく白いもやみたいなものが掛かっている。
全然見えないわけでもないけれど、目を凝らしても人が点々と見えるだけで生活感などは見て取ることはできない。
ああやって姿を隠して、現実から切り離された世界をこうやって客観的に見ると、無性に同情的な感情がわきあがってくる。
それはきっと他人事だからであって、テレビなんかで殺人事件を報道している、ソレを見て怖いなぁと言う、そんな感覚。
俺がベッドの上からソレを見ていると、吉倉は何かに気がついたようにはっとし、途端立ち上がったかと思えば、隣の部屋へ移動していった。
俺と笹木はその不可解な行動に頭の上に疑問符を浮かべながらも、吉倉が消えた部屋へと移動する。
吉倉の姿は部屋の縦すべりの窓を全開にしたその場所にあった。
「何か思いついたのか?」
「…この距離なら届かねぇかな?」
「何を?」
「銃弾?」
「や、無理だろそれは。相当な腕の持ち主でもあんなもやの掛かった・・・」
「人を狙うって言ってんじゃねぇよ。あの四角い塀の中なら範囲広いし誰でも出来るだろうが」
そう言う吉倉の言葉に、ますます意味がわからない俺は改めて吉倉を見れば吉倉はフッと笑って俺を見た。
「ライフルで盗聴器を送りつけるってのはどうだ?」
その妙な案に、俺は思わず言葉を失ったが、すぐに我にかえるように吉倉に言った。
「んなの無理だろ?盗聴器が壊れちまう」
「じゃあボーガンは?」
「それじゃあ矢が残る。大きすぎて目立つしすぐバレるだろ」
「ちぇっ駄目か」
吉倉の妙案に俺が次々に駄目だしをすれば、笹木は携帯を取り出してどこかに連絡を取るようだった。
「笹木?」
俺が笹木の突拍子もない行動に名前を呼べば、笹木はコール待ちの携帯を耳に当てたまま、俺達二人に言った。
「銃弾型の盗聴器、俺が用意する」
その言葉に、吉倉と俺は思わず顔を見合わせる。
それからもう一度笹木を見れば笹木はニッと笑って俺達にこう言った。
「他に使えそうなもんあったらリストアップしとけよ?全部用意すっから」
そう言いながらようやく通じた電話で話しながら、元居た部屋に移動していく笹木の背中を俺と吉倉はただ呆然と見送った。
「…言ってみるもんだな」
「…ってか俺、アイツが時々かなり怖ぇよ」
「安心しろ、俺なんか毎日はホラーだ」
「同情する」
「そうしてくれ」
吉倉、ご愁傷様。
笹木の不思議すぎる権力と財力の乱用の話を時々織り交ぜながら、なんとなく今の笹木に近寄るのが恐ろしくて、俺と吉倉はその部屋で今後の行動について二人で話した。
とはいっても、眠たさと疲労、それに空腹がピークを迎え、思考能力も低下している。
部屋に備え付けられたディジタル時計を見れば、時刻はすでに午前3時を差してた。
「ぅおい、ルームサービス取っといたから、ソレ食ったら少し仮眠しろよ」
全然こちらの様子を気にしてなかった笹木が、急に顔を出したかと思うと、ありがたい言葉を発言してくれる。
なんて順応のいいヤツなんだ。
さっきまでお前を怖いとか思って悪かった。
そんな自己中な事を考えながら、とにかく三大欲の1つである食欲を満たそうと、俺と吉倉は部屋から出る。
さきほどまで何もなかった備え付けのテーブルには豪華な料理が所狭しと並べられていた。
一口、二口と食べていけば、それまでの微妙な気持ち悪さが解消され、胃が待ってましたといわんばかりに動き出す。
笹木は食べないらしく、ベッドの上に座り、ノートパソコンを膝の上に乗せて軽快にキーボードを鳴らしていた。
空腹感から解放された俺は、ようやく戻ってきた思考能力で疑問に浮かび上がってきたことを一気に笹木に投げかけた。
「今の時間、ルームサービスやってたのか?」
「んー、やってなかったから、特別に作らせた。金払ってんだから全部食えよ」
「ってかソレ(パソコン)いつ持って来たんだ?」
二つ目の質問で、笹木はようやくキーボードを打つ手を休め、俺を見る。
いつの間にか眼鏡になっている笹木を見て、俺はスパゲティをフォークに巻きながら返答を待った。
「お前等気付いてなかったの?確かに話し合いに集中してたみたいだけど。持って来てもらったんだよ」
「誰に?」
吉倉も食べる手を止めて、ようやく話題に入ってきたかと思えば、部屋のドアがけたたましく叩かれ、その音が部屋の中に響いた。
笹木はそれを聞いて、パソコンをベッドの上に無造作に置くと、ドアを叩くその主を迎えに歩いていく。
あいにく、ここからだとドアのほうは死角になっていて誰が入ってきたのかはわからなかった。
「ったくふざけんなよ!こんな夜遅くに!!しかも変なもん持たせやがって!!」
「ホントだよっ!何でこんな夜中に叩き起こされなきゃいけねぇんだよ!」
「あはっ、寝てたの?」
「当たり前だろ!!」
「ことが済んだら俺が添い寝してやっから」
『遠慮します』
そんなやり取りが聞こえてきたかと思えば、そこから現れた二人の姿に、吉倉は口をパクパクさせ、俺は持っていたフォークを巻いたスパゲティごとカーペットの床に落とした。
「た、高見和彦?!」
「近藤聡!?」
ちゃんとフルネームで覚えていた自分を賞賛したかった。
『んだよ?』
不機嫌そうに答える二人の後ろで、笹木はただ嬉しそうに笑っている。
そう、笹木が呼んだのは他でもない。
新星three knightと呼ばれる三人組のうち、二人だったのだから。
「帰りてぇ…」
ポソリとそうもらした高見に対して、笹木はパソコンから目を離さないまま呟いた。
「和君、今帰ったら“アレ”しちゃうよ」
「ぐっ…」
やっぱり怖ぇよ笹木。
完璧に弱み握ってるじゃねぇか。
俺達がルームサービスを平らげた頃、笹木に呼ばれた意外な人物二人は、笹木の言われるがままに作業を進めていた。
高見はここから見た感じの里の内部図を作らされているし、近藤は自分のノートパソコンを広げて一生懸命に何かを入力している。
今まであれほど敵視していた奴等がこうやって協力してくれていると思うと少し気持ち悪い。
いや・・・正しくは脅されているの間違いか。
絶対に笹木だけは敵に回さないで置こうと心に強く決め、笹木に言われるがままに風呂に入って、近藤の持って来てくれた服に着替えなおした。
「近藤君…」
「んだよ?」
「この服、足、たりないや」
俺の言葉に素早く反応してパソコンを乱暴に置くと俺に向かって拳を振り上げる。
が、俺はその拳を手のひらで軽く受け止めると近藤は悔しそうにギリギリと歯を食いしばった。
「人が嫌々混じりの厚意で貸してやった服に文句つけるんですか?先輩。つーかアンタがでか過ぎるんだよっ!」
「嫌々混じりの厚意を貶して何が悪い?」
ニッコリと微笑みながら返答すれば、近藤は腹を立てた表情を浮かべつつも、俺に受け止められた拳を引っ込めると、パソコンを拾い上げて作業を再開した。
そのやり取りを横目で見ながら笹木は大きな音を立ててキーボードから手を離す。
「おしっ!準備完了!」
そう言って笹木が立ち上がれば、不貞腐れながらも高見が横に立てかけてあった黒い袋から黒い鉛の塊を取り出した。
笹木は近くにあった小さなガラス球をその手に握りしめ、それから高見の手のひらにソレを移す。
受け取った高見はソレを袋から取り出したライフルに込め、立ち上がると隣の部屋へと移動する。
それをみた部屋の人間は誰もがそのあとを追い、半開きになった窓からライフルの先を覗かせ、スコープに目を当てた。
「本当に大丈夫なのか?」
俺がその様子を見つつ、隣に立つ笹木に聞けば笹木はニコッと微笑んで俺を見る。
「大丈夫大丈夫。ライフルにはサイレンサーもつけたし、あの銃弾は特製だから打ち込んでも中の盗聴器は壊れないように出来てる。射程距離も届く範囲にあるはずだよ」
「高見にライフル撃たせる理由は?」
笹木の答えに次の問いが舞い込んでくる。
高見のライフルの腕前を確かめたのは吉倉だ。
その吉倉の問いに答えたのは笹木ではなく、高見の数歩後ろで見つめる近藤だった。
「和は親の趣味に付き合わされて訓練受けてるんだ。プロとまではいかないけれど、この中ではアイツが一番適役だね」
納得のいく答えを聞きながら再び全員の視線が高見に向く。
高見はゆっくりと方向を定めて、引き金を引いた。
パシュンッという乾いた小さな音が聞こえたかと思うと、それほどの衝撃はなく下の連中が騒ぐ様子もない。
どこに打ち込んだのかはわからないけれど、高見は満足したようにライフルの銃口を上に向けた。
「じゃ、こっからは俺の出番ね」
そう言って笹木は部屋に再び戻ると、ノートパソコンを広げてみせる。
そこには長ったらしいプログラムが打ち込まれていて、パスワード画面からパスワードを入力すると、そのプログラムが急速に動き始めた。
“…が…であるから…”
知らない男の声がノートパソコンから聞こえてくる。
笹木は感度を上げるためにまたプログラムを細かく入力していくと、一層ノイズが酷くなった。
「あれ?っかしぃなぁ?」
もたもたしている笹木の横で俺は流れていくプログラムを見つめ続ける。
それからふとしたことに気がつき、笹木に言った。
「おい、ちょっと戻してみろ」
「え?どこ?」
そう言って動くプログラムを停止させたかと思えば、またゆっくりと上に戻っていく。
それから俺が気付いたところでプログラムを止めさせ、笹木の横からキーボードを叩いた。
「ここ」
「あ、本当だ。よく気付いたな。さすが優等生」
「つーかプログラム見ただけで気付けることに感服するよ俺は…」
笹木の言葉に続けるように吉倉が呟く。
俺は返す言葉もなく、苦笑いを浮かべながらエンターキーを押した。
“日本政府として見逃すわけには行かないと・・・上からそう思し召しを預かっているんだがね”
ようやく聞こえてきた男の声に、俺達は神経を集中させる。
“何度も言わせるな。ここでは何も起こっておらん。早急に撤退願う”
男の声に答えた声は紛れもなく爺さんの声だった。
要するに、男の声は多分警察側の偉い人間の声だろう。
それに答えているということはトップ会談の真っ最中だってことが伺える。
「ビンゴ」
笹木がニヤリとほくそ笑んだのを見て、高見はライフルを再び袋にしまいながらフンッと鼻で笑った。
「当然」
盗聴の話を聞いていれば不毛ないい争いが延々と続いた。
理解できたのは、警察は俺達から優花を守る役目と、暴走をする民を制圧するための2つの役目を持って里の周りを囲んでいるらしい。
どこから情報が漏れただの、そんなのは嘘っぱちだの、よくわけの分からない言い争いが繰り返される。
どちらにしろこちらにとっては都合が悪い。
悪魔で、里にとっても警察にとっても俺達は“敵”に違いないからだ。
利害一致で警察と里が手を組んでしまえば、俺達みたいな高校生の排除は容易ないだろう。
困惑する里の様子が目に見えるようで、俺はただどうしようかと頭を抱えていた。
高見たちを含め、五人であーでもないこーでもないと話し合いをするも、なかなかいい案が思い浮かばない。
寝ていないせいもあって、とにかく頭が働かないのだ。
「里見、お前少し眠れ。まだ時間はあるんだから」
そういう笹木に俺は頑なに首を横に振る。
一刻も早く助けたい気持ちがこみ上げてきているのに、悠著に寝むれるわけがない。
「お前ね、気持ちはわかるけど、その冴えない頭と気だるい体でこの後どうするつもりなんだよ?」
「俺だけじゃなくてお前等も寝てねぇだろ?そんなことしてられねぇ…」
俺がそう呟けば、笹木はぐっと言葉を詰まらせ、どう言えば俺が素直に従ってくれるかを考えるように視線を泳がせた。
高見と近藤は起こされるまで寝ていたのでそう眠たくはないらしい。
吉倉は風呂上りのせいで、髪が濡れている。
タオルを首にかけたまま、吉倉は静かな声で言った。
「じゃあこうしよう。今から俺と笹木が寝るから、お前はもうしばらく起きていて何か考えておけ。三時間後に起こしてくれたらお前と、その二人が寝ればいい」
「俺は別に…」
「笹木…お前も寝てないだろう」
反論しようとした笹木の言葉をさえぎるように吉倉が言えば、笹木はぐっと口をつぐんでしまう。
吉倉はその笹木の態度にやっぱりと言ったようにため息を漏らしながら続けて言った。
「多分お前、俺達以上に寝てないはずだろう。インターハイが終わってしばらくお前と連絡取れなかったのは色々あったんだろうがそれは聞かない。自分の行動がおかしいことにお前、気付いてないだろう?」
そういわれて、俺はふと笹木を見た。
思い返してみても吉倉の言う、笹木の行動がおかしいところなんて思い浮かばない。
その微妙な違いにさえ気付いた吉倉に俺はもう黙って言うことを聞くしかないだろうと思った。
「…じゃあ寝る。添い寝してね吉倉君」
「おう。手繋いで子守唄歌ってやる」
「げっ」
冗談で言った言葉に真面目な返答がきたので、笹木は嫌そうな表情を浮かべるも、吉倉が笑って隣の部屋に移っていったのを見て、笹木もそれを追うように笑いながら部屋に消えていく。
ソレを見送ったあと、近藤と高見は不思議でたまらないといった表情をしながら俺に尋ねた。
「…なんすかアレ?」
「ん?」
「いや、健兄があんなに素直に人の言うこと聞くところなんて初めて見たから」
その時、高見が笹木の事をそう呼んだ。
親しげな呼び名を聞けば、それは自然にどういう関係なのかが浮かび上がってくる。
TAKAMI建設とSASAKIコーポレーションと言えば、日本を代表する一流企業。
コイツと笹木は互いに一流企業の御曹司。
顔を合わせる機会があったのだろう、昔なじみというやつだ。
仲良しでありライバルと言ったところだろうか?
まあ笹木にとってはそんなことはないのかもしれないが、高見にとって笹木とはそういう存在なのだと理解できた。
俺は高見の質問に答えるのに、少しだけ意地悪く問題を出してみる。
「お前さ、自分の一番尊敬できる人は誰だと聞かれて、なんて答える?」
「…え?」
「親でも偉人でも誰でもいいよ」
「そりゃあ…親かな?傾きかけていた小さい設計事務所を一流企業に仕立て上げたんだから」
そう答えた高見の回答に俺は満足しながらも、ふと視線を泳がせながら言った。
「笹木にとって一番尊敬できるのは吉倉なんだよ」
「はぁ?」
「あの人が?」
「だって、三人の中で一番薄い存在じゃね?」
俺の答えに近藤も交えて、ありえないといったような言葉が返ってくる。
隣の部屋に聞こえてはいないと思うが、俺はあえて笑い声を抑えながらも肩を揺らした。
「正直、俺も尊敬できるのは誰かって聞かれたら迷わずあいつの名前を出すよ」
「なんで…?」
疑わしいといった目で俺を見る二人の目は、それはもう興味津々で探究心旺盛な目をしていた。
こいつ等を見ていると昔の自分を思い出すなぁと年寄り臭いことを考えつつも答えることにした。
「さっきお前言ったろう?三人の中で一番存在が薄いって。あれ、吉倉にしかできないんだよ」
「…どういう?」
「吉倉は一歩、二歩引いたところに自分の立ち位置を決めてんの。周囲を見渡せるって言うか、冷静に物事を判断する能力は三人の中で一番ずば抜けてる」
そういいながら俺は窓の外を見ながら腕を組んだ。
「観察力が鋭いんだよものすごく。俺も気付かなかった笹木の小さな行動の違いに気付いて、的確な判断を下してくれる。アイツが判断してそれに従った時に、やめておけばよかったとか、間違ったと思ったことは一度もない」
「そんな風には見えないけど…」
「そう思わせる力もあるんだよ。派手な容姿はしてるし普段はヘタレっぽいヤツだけど、それに油断するって言うか、とにかく本当に…うん…尊敬する…」
言葉に表せない何かを伝えるのは難しい。
考えれば考えるほどあいつの凄さが目に見えてくる。
笹木が特攻隊長なら、吉倉は参謀長官みたいなヤツだ。
考えても浅はかな考えしか思い浮かばない笹木を制御している吉倉。
それは俺にとっても同じことで、最初はただの恋敵だったけれど、前原さんがどうして吉倉を好きになったのかがすぐに理解できた。
単純で、まっすぐで、それなのに人を見つめる力がある。
間違った道に進もうとすると、連れ戻して正しい道を歩かせてくれる道しるべ。
存在が大きくて、それでいて頼もしい。
ただ仲がいいだけでつるんでいるわけじゃない。
何も知らない、何も聞かないけれど、それが強い結びつきに変わって、他の人間ではありえない友情がそこにある。
アイツの、アイツら存在がなければ、きっと俺はつまらない学校生活を送っていただろう。
今、ここに、この場に居ることだってあいつ等が居なければ成り立ってないことだから。
「互いに信頼しあってる。絶対裏切らない自信がある。だから信じていける。恥ずかしい話かもしれないけれど、俺達の結びつきはそれほど強いんだ」
ニッと微笑みながらそう言えば、二人は互いに顔を見合わせてそれからようやく爽やかな笑顔で俺を見つめた。
「こりゃあ、負けてられねぇな」
そう呟いた二人を見て、俺はただ小さな声で笑った。
窓の外がゆっくりと明るみを帯びてくる。
もうすぐ夜が明ける。




