表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

狼と青年

テスト終わりました。


窓から差し込む光の心地良さと雄鶏不愉快極まりない鳴き声のチグハグさに目が覚める。


今日も快晴だなぁ……


窓から見える空には雲一つなく、透き通るような青さがあった。

ふと、足元へ目をやれば僕の足を掴み小さな寝息をたてるレオンがいる。


2年、か……

両親の顔も殆ど覚えてないレオンには、僕と離れる事はやっぱり辛い筈……

けど、やらなきゃいけない事があるんだ。

少しでも僕らの様な人を出さない為にも、1つでも未制覇迷宮を減して魔物を地上から消さないと。

……レオンは分かってくれるよね。


レオンの柔らかい金髪を一撫でし、掴む手をほどき、魂器生成の為に教会へ家を出た。


「兄ちゃん……」


◆◆◆


モロ爺がこしらえてくれたビックラビットの毛皮の帽子にコート、セーターからズボンもブーツも凄く暖かいが、それでも寒いものは寒い。


早く教会の暖炉に当たりたいものだなぁ。

後、数分で村の真ん中にある教会が見える訳だし、走って行こう。


踏み込んだ感触は、2日続きの快晴に滑らないか心配するほどだ。

身体の底から、暖かみを感じる頃には教会に着いた。

元々が白壁に雪で真っ白な屋根、そして鮮やかな色彩の女神様をかたどるステンドグラスが幻想的だ。

細工を施された木の扉を押し開け中へ入る。

暖炉の前に揺り椅子に座るシィエン神父はいた。


「シィエン神父!」


「おぉ、早いじゃないかロイ」


剃り上げた頭にふくよかで中背の身体の神父には、この寒さは辛いんだろうなぁ〜


「午後に出て行く行商人の一行について行こうと思っていまして」


「そうか、お前も村を出て行くのか」


「やらなきゃいけない事がありますからね」


「ハハハ、そうかそうか。それでは今、行おう。お前しか15の子はこの村におらぬからな」


「ありがとうございます」


神父は身体を揺らし奥へと消え、液体の入った小瓶を持って戻ってきた。


「さぁ、これをお飲み」


差し出された無言で小瓶を受け取り、飲み口へ唇をつけ、呷った。

雪解け水のように冷たく、無味無臭。

唯、驚く程に口の中で溶けて行った。


「女神様のお導きを」


神父のその言葉に呼応するかのように胸の拍動が加速する。

それに続き突然のフラッシュ。


思わぬ光に視界が白く染め上げられ、はっきり見え始める頃には、早く受け取れと言わんばかりに浮く『注射器』と『碧い水晶のメダル』が有った。


「ほう、医療系かのう」


これが、僕の魂器……


手を伸ばし掴もうとした途端、メダルが手に吸い込まれた。


「変わった魂器だな。まぁ、身体に害はないだろう。魂器は身体の一部だからな」


確かに痛みも何もない。

いつか、吸収した訳が分かるのだろう。


残った注射器を掴み、胸に当てた。

すると、注射器はズブズブと沈んでいく。

魂器の収納はモロ爺のを見て知っている。


「これで、ステータスを見る事が出来るだろう。さぁ、行くがよい」


「はい」


そうだ、ステータスが見れるようになるんだった。

商隊の馬車でステータスを確認しよう。


出口へと向かい、扉を押し開け出ると後方から神父の


汝に女神様の加護を


と、言うのが聞こえたような気がした。


ありがとうございます、神父。


僕は、商隊のいる東の村外れへと向かった。


◆◆◆

「グーベル姉さん」


「ロイ君か、出発迄まだ時間があるぞ?」


灰色の短髪を揺らし、首を傾げる妙齢の女性グーベル姉さん。この村には2ヶ月に1度訪れる商隊の1番偉い人だ。

昔、お姉さんが村の特産品である林檎を仕入れに来た時に遊んでもらい、それからも村に来る度に遊んでもらってた仲だ。


「魂器生成に時間かかると思ってて、早く家を出たんだけどすぐに終わって」


「フフッ、私の時もそう思って早くに教会へ行ったものだ。まだ眠いだろう?馬車の中で休んでいなさい」


「そういう訳にも……」


「あぁ、気にすることなんてないよ。もう詰め込みは終わっているんだ。うちの衆も全て準備は終わらしている。後は護衛の奴ら待ちさ」


「わかったよ。休んでくる」


馬車へ歩み寄り、 御者のおじさんに一声かけてから空き場所を見つけに馬車へ入る。

蕎麦だろうか何かの穀物が入った袋や色んな物が中を埋めていた。

奥に空き場所は無いだろうと入り口近くに寝そべる。


休むにも、眠気はないしすることも特にない。

そうだ、ステータスを確認しよう。


「えっと、ステータス」


【Level】 15/100[限界値]

【種族/職業】イモータル:ワイト[覚醒体]

【固有名】ロイ/契りを待つ死体

【STR】 93

【DEF】 74

【INT】 114

【MR】 178

【AGI】 89

【HP】 321/321

【MP】 398/398

『土魔法』

『弓術の心得』

『エスヴァルド大陸共通語』


イモータル、その文字を目にした途端、目の前の光景が森の中へとすり替えられた。

身を包む異常な暑さ、何かが焦げた匂いが鼻を、黒煙が目を刺激する。

痛みに目を擦り、次に目を開けば何かがいる。

紅く宝石のように光る溶岩を四肢に纏い、毛皮を肩から巻いた雌型の豚。いや、人かもしれない。


そいつが両手を高く挙げ振り下ろそうとしていた。


「うぁあああああああああああッ!!」


僕の叫び声に反応したのか両腕が振り下ろされた。

軽い破裂音と共に火が振り下ろされる両腕を包み目の前がオレンジに染められる。


嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だまだ死にたくないッ‼︎


必死に身体を動かし後ろへ這う。

されど、無情にも狙いは正確なのか音が近づいてくる。

このままでは後1秒も満たない内に押し潰し粉砕するだろう。


しかし、押し潰すどころか衝撃さえ来ない。

唯、狼の遠吠えの様に聞こえる甲高い音が辺りに響いているだけだ。

恐る恐る振り返ると、不思議な光景があった。


あの碧い水晶のメダルが固定されたかのように宙に浮き、両腕を受け止めていた。


女神様が助けてくれたんだ。今のうちに逃げなきゃ……


跳ね起き、逃げようと踏み込むが予想外の感触に思わず足を引っ込める。

足裏に伝わったのは硬い地面のものではなく、獣を踏んだ様な柔らかなものだったのだ。


驚きに固まっていると、周りの景色にまるで虫食いのように黒い穴が所々に現れ始めた。


もう、一体何なんだ‼︎


黒はどんどんと浸食して行き、あっさりと雌型の豚迄も塗りつぶしてしまった。

有るのは、僕の足下とメダルだけだった。


……ただの悪夢なのか?


「何何何ナ〜ニ?何でこの空間が展開されている訳?」


アルトのその高い声が何処ぞから降ってくる。

そして、ひらりと白のハンカチが地へ落ちた。

次の瞬間、白のハンカチを押し上げ山高帽が現れ、抜き出された大根の様にスーツ姿の青年が現れた。


淡い金髪に白の仮面が妙にマッチしている。


「君がげんいーんか、なって……あれあれあれれ、どうして碧のメダルが……ってことは、君はあの11番のゾンビ君?!嘘だ……何で過去に転生しているんだ?しかもメダルはまだ君を宿主としてって……契約も済んでるじゃん。僕の餌の供給源が増えるはずだったのに……」


思わず呆気にとられる。

ゾンビ?転生?狼?

彼は何を言っているんだ?


「それにしてもイモータルにワイトって前世の影響大き過ぎ……アハッ、何だか面白くなって来た。と〜くべつにここから出してあげる。次はあんな無様に殺されてくれないで、ねぇ」


て言うことは、狼君の魂が2つ存在している訳か。なら、この空間も納得。っと小声で呟くのを僕は聞き逃さなかった。


僕の前世はアンデット……?


疑問が山積みになって行く。


「その場しのぎだけど、グーバ君が腹に狼君を収めてたらいいから、さ。グーバ君よろしく」


僕の視界にピンクの線が走る。

線の先にはメダルを雁字搦めに縛っていた。

そして、ピンクの線が消えた。

メダルを残して。


「なッ?!小賢しい狼君だなぁ……」


青年の言葉に反応するかのように、僕の方へメダルが浮いて来て僕の額に吸い込まれる。

すると、身体が火照り始めた。


「……ほ〜んとう小賢しい」


暑さが増し、妙な頭痛に意識が朧げになる。

掠れた視界には、服から出た腕から指先までまるで狼の脚の様に毛が生え、野太く鋭い肉食獣の様な爪が映る。

聴覚、臭覚が異常な迄に鮮明になり、それに連れ意識もはっきりとした。

直ぐに強い違和感を体全体に感じる。

身体を見渡すと野太く鋭い爪と限りなく黒に近い緑の毛むくじゃらの手、首元迄も毛が生えている。

足下に目をやればブーツの足先から銀色の鉤爪が飛び出している。

まるで魔物だ。


酷い悪夢だ……憎んでいる魔物に堕ちるなんて……


「耳と尾っぽまで生えちゃって、キュ〜ト。あーあ、同化までしちゃってるなんて、宿主を殺す以外に取り出す方法ないじゃーん。本当握り潰してやりたいぐらいに憎たらしい狼だね。……ハァ、仕方ない。面倒だけど隠してあげる」


溜息を吐き出した青年は頭の上の山高帽を外し、中に手を入れた。

見た目に反し、腕の半ばまで沈め古臭い小さな鍵を取り出した。


「これは、応急処置。一応肌身離さず持っててね。あ、狼君は1年後までその形態をとらないでね。部分的な変異はOKだけど、ね。それではそれでは、またね、いもーたるくーん」


何処か小馬鹿にする声が脳内に甘く痺れる様な感覚を起こし、抗えない眠気に飲み込まれた。


「あ、ちょっと記憶弄っとくね。アハッ」


◆◆◆


「あぁ〜、ったりぃなぁ。護衛なんかより女抱きてぇ、女。へへへ、グーベルさーん、次の目的地に娼館あーりまーすかー?」


若い男3人の下品な笑い声と馬鹿な話が耳に入る。


どうやら、俺は……俺?俺なんて使ったことなかったんだが……まぁ、いい。僕は寝て居たようで商隊は移動中だ。

やっぱり、さっきのは悪夢を見ていただけだったのか?

そう一度思うと、妙に気が軽くなる。


「ハァ、次はダンジョン街メロイだろう?君たちのホームだ。馬鹿な質問はよしたまえ」


「あ"?こちとら一週間以上ヌいてねぇんだよ。俺の質問の意図がわかんねぇのか?抱かせろって事だよ、わかっか?」


革鎧を着込んだ短髪の男は逆上し、腰に差した長剣をちらつかせる。


こいつら護衛の意味分かっていないのか……

御者のおじさんがいるし、様子見でいいか。


「フフフフッ、笑わせてくれるな。猿に抱かせる身体など持ち合わせていない。黙って報酬分働け」


冷酷さを感じさせる物言いに思わず己の身を抱きしめる。


……姉さん怒りを隠して下さい。


姉さんの言葉に三人組が殺気立つ。

どんな凶行に出ても、直様反応出来る様に立ち上がり全身のマナを活性化させる。


馬車の進む音だけが場を占める。


些細な動作でも恐らく三人組は襲ってくるかもしれない。


行き渡らせたマナを足底へ固めさせいつでも土壁を発動させれるようにしておく。


「ッチ!ゴブリンだッ!てめぇら働け!」


御者のおじさんの声が場を一変させる。


「ッチ!助かったな、糞アマ」


「報酬分しっかり働くんだ、な」


感情を感じさせない声で答えた姉さんは、おじさんの報告を聞いてからずっと右目を瞑ったままだ。


という事は……

護衛を雇わざる負えなかった原因が現れたっていうことか。

まぁ、本来ゴブリン程度なら姉さんの所の御者のおじさんに一蹴されるぐらいだからな。

姉さんが雇う護衛なんて、いざという時の囮な訳だから、ただの金食い虫みたいなもんだ。

だから、姉さん的には馬鹿共に報酬を払わなくてよくなり得したと思っているんだろうな。

多分ホブゴブリンが2、3体確認されたんだろう。


あの三人組では1体すら厳しいだろうに。

そして、護衛と馬車とに距離がある程度空いたのを確認した商隊の皆は手早く馬車へ乗り込み、馬を急がせた。

随分と詰んでいるはずなのに中々スピードが出ている。

あっという間に三人組と大きく離れて行き、ここから見えるのは派手な黄緑色が2つのみだ。


ホブゴブリンが2体か。

上手くやれば生き延びれるかもしれないなぁ。

あ、もう一つ増えた。


こうなったら暫くは飛ばしたままだろう。

落ちないよう荷物に捕まり腰を下ろした。

座った際、妙にポケットの所が張って痛いと思い、ポケットに手を突っ込むと小さく長いものが入っている。

取り出すと、古臭い小さな鍵だった。


む、むぅ……夢じゃなかったのか?

となると、ステータスも当然あのイモータルのまま……

僕の知る限り、ビーストやエルフは居れどイモータルなんて種族は知らない。


とりあえず確認として種族/職業の項目を呼び出す。


【種族/職業】イモータル:ワイト[覚醒体]


やはりイモータル……

そして、職業がワイトか……

ワイトはゾンビの上位種。

それが職業って完全に異常だ。

ステータスの何が重点的に伸びるのかは、職業次第でありスキルも職業固有の物がある。

モンスター名が職業だなんてとても人には言えない。


メロイの魂学(魂器制御訓練学校)登録時、どう言って誤魔化そうか……

一族特有のものと言うか?


ありっちゃありかも………


ああッ‼︎もしかして、僕の現し身でもある魂器も他とは違うのではないだろうか?


直ぐに魂器を展開してステータスを見る。


【固有名】

【型】注射器

【性能】

【スキル】『魂:抽出』『魂:付与』


まだ名前を付けてないので、固有名が無いのは分かっている。

又、魂器に実体となる注射器を合成させていないので此処も空所のままだ。

ただ、スキル名が意味不明でしかない。

詳細を見てみると


『魂:抽出』___死して49日間までの生物の魂、又は元来の器に宿っていない魂を抽出出来る。

『魂:付与』___魂を宿す。


とりあえず、医療系魂器ではないだけはわかった。


魂器について説明を。


魂器には実体がなく、型に合った物に合わせる事で始めて使えます。

性能は、合わせたもの次第です。

合わせるものは入れ換える事が出来ますし、魂器と合成したものは持ち主のMPを消費して再生することも出来ます。時間は掛かりますけどね。


魂器については、全然考えついてなくまだ5個程度しか……


提案して頂けたら嬉しい、なぁ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ