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更にニューゲーム

テスト期間中です

身を包む快楽のような暖かさ、風が髪を撫で意識が浮上する。


「ん……あぁ、ここは……確か不浄なる豚人の森だったか」


青い空に青々しい草木、カビ臭い坑道と比べ妙に落ち着けるものだった。

ふと、手を見るとあの巨人の筋が手一杯に収まっていた。


筋……食べるっきゃないな。


大口を開け1/3程かぶり付く。歯を弾く程、弾力に富んだ筋は、歯が食い込む度に蜜のように甘い血が染み出す。

噛む度に旨味が口の中に広がり心を満たして行く。

数分かけて最後の一口を口に投げ込み、1噛み。

歯に伝わったのは、弾力ではなく硬質なものだった。


「うげ……」


地面へ吐き出してみると、親指サイズの黒い金属板。


なんだこれ


拾おうと手を近づけたその瞬間、金属板は地面へ溶け込んだ。


……え?


___設定完了「弱者の安全地」を展開します


金属板が溶け込んだ場所が歪み、マンホールが出現した。


訳分かんねぇ……


マンホールにそっと手を乗せようとすると、飲み込まれる様にマンホールをすり抜け、身体ごとマンホールの下へ重力に従い落下、落ちた先は狭すぎて壁に尻をつける様な格好での着地になってしまった。


いててて……


___吸収が始まります。


「____⁈」


手足の先が凍り付く様に硬直。

そして、ヒヤリとした冷たいモノが身を包んだ。


な、何……だ…


思考が掻き乱され、視界は水におちた黒インクのように黒く染め上げられて行く。

甲高いハウリングが脳を揺らし再び意識は闇へ。


___現段階までの許容量に達しました。拡張が始まります。


◆◆◆


身体が水に浮いているかの様な感覚と、蠢く音。


あぁ……また気絶か……


目を開ければ、映るのは白石の天井。次第に蠢く音は消え、身体は上へと押し上げられた。


全くもって現状についていけない……


起き上がり、辺りを見渡せば壁も床までもが白石の約12畳といったところだろうか。左の隅には白石で囲われた縦横高さ1m程の水槽があり、1辺の淵の凹みから、水がポッカリと空いた小穴へと流れ落ちていた。


随分様変わりしたな〜。

何を吸収してこうなったんだ?

視界の端にあるHPとMPの項目は満タンで吸収した後には見えないし……

うーん、保留決定。

特に異変はないし、探査に出るとしよう。

……で、どう出るんだ?


天井にマンホールでもあるかと思い天井を見上げても何もない。


「うぉッ?!」


突如、上空から引っ張りあげられる感覚が身体を包み、重力に反し宙へ浮き始めた。

暫しの浮上、そこからまるで吐き出されるかのように外へ放り出され、草叢へと落ちた。


出入りが派手なもんだな……


草叢を掻き分けマンホールがあった場所へと行くがマンホールはなく、金属片もない。


……これって1度切り?

どうすんだよ、マジで。

勝手に発動しといてこれっきりだなんて笑えねぇぞ。

あ、もしかすると地中にあるかも……


試しに足元を掘ろうとしゃがみ、地に指をつけた途端、指先からどろりとしたタールが溢れ出し、マンホールを模った。


「____ッ?!」


突然の事に思わず立ち上がると、マンホールはふつふつと泡立ち液体化。そして、指先へ吸い込まれた。


な、なるほど、体内に備わった感じか……な?

そうだとすれば、大層便利なこった。

体内っていうのがどうも気に食わないが、まぁ、どこでも拠点開けるんだからいいか。

ひとまず、この森を抜けて街を探すか。

上手く行けば、あのネームプレートで奴を見つけ出せるかもしれないしな。

で、街は何処だ?

かーっ、どうしよう……


と、とりあえずと空を見上げれば、墨を垂らした様な黒煙が雲一つ無い青空を汚していた。


……山火事?

それにしては煙は小さい。

となると焚き火か……?

焚き火なら人がいるっていうことだよな。

ハハ、ラッキー。街の方角を教えてもらおう。あと、ネームプレートの事も。


靴底を伝う柔らかな感触を楽しみ、黒煙の元へ鼻歌交じりに歩み始めた。

森の中は薄暗く時折、獣が傷付けただろうと思われる木々が幾つもあった。

歩き続け十数分、鳥のさえずりの中に似合わぬ、金属を何かにぶつけているかのような音が聞こえ始めた。


どうやら、目的地からのようだ。


鼻歌を止め、足音を立てぬよう慎重に歩いて行くと、木々の間から男と女の二人組が見えた。

血や土で身体中を汚したガタイの良い男は、顔を除き左半身に火傷負った荒く呼吸する女に肩を貸し、残った腕で長剣を構え何処かを睨んでいた。


戦闘中か……


男と対峙する者が気になり、姿を目で捉えようと近づくが、見当たらない。

ただ、二人の会話が聞こえた。


「糞ッ‼︎ 32層にこんな大物がいる何て聞いてねぇぞ!ジェーン、転移はまだかッ⁈」


「待って……まだ、マイクが…まだ……」


「もう手遅れだよッ‼︎骨だって残ってねぇだろう……」


「__ッ!……わかったわ…でも、魂器が使えない今、あと30秒待って」


「ああッ‼︎」


淡く白い光が二人組の足元から漏れ出した。


こりゃ逃げた方がいいな……

いや、二人組の行く末を見てから逃げることにしよう。

転移とやらがどう言ったものか知りたいからな。


淡い光は次第に強いものへと変わり、そろそろ30秒に近づいた事によって男の表情が緩み、女が手を挙げ口を開く。


「いくわよ、て」


言葉を遮り、一瞬で白の波が一面を飲み込んだ。


「____ッ⁈」


波の勢いは幾ばく衰えたが、こちらへと迫る。


糞ッ‼︎


瞬時に下半身へ血を維持


___発動『身体強化』


波に飲み込まれる前に、空高く跳び上がった。

勢いが衰え無重力感になった時、下へ意識すると、波が飲み込んだ樹は形を残し真っ黒に、二人組は消えていた。


無事、転移とやらを成功させたのか?


原因は何かと、男が長剣を構えていた方角に目をやると、全身をマグマで飾り毛皮を纏った巨漢に、頭を豚の頭と入れ替えた様な者だった。


あれが豚人……

あの波もこいつの仕業か?

波以外にも当然、攻撃手段を持っている筈。

勝ち目なんてあるのだろうか?

あぁ、着地したらすぐに逃げるしかないな。


下降し始め、あと数秒で着地という所で豚人と目があった気がした次の瞬間、着地地点の地面が割れマグマが垣間見える。


「____ッ?!」


畜生、こんなので終わってたまるか‼︎


身体を大の字に、そしてモモンガの様な皮膜をイメージ


___発動『変異:身体』


瞬間にピンクの皮膜が展開、辛うじて地割れを避けることができた。


「ハハハッ、バーカ‼︎」


豚人へ悪態をつき、変異を解除、強化された脚で一目散に逃げる。

全力での跳躍、細かい制御が出来ない為に樹に衝突するが、炭になっているようで、スピードは衰えず粉砕して行く。


この炭の森を抜けたら即座に拠点を展開して姿をくらませばいい。


突風を流し、あと2回跳躍すれば抜けるという所で目前の景色がゆらゆらと揺らいだ。


あの豚人の仕業か?

速く、もっと速く。


足を山羊のように変異するイメージを


___発動『変異:身体』


足のバネにより、一瞬で景色が入れ変わって行く。


よし、これなら……


「ガァッ⁈!」


突如、何かに衝突。

妙な弾力と焦げ臭い臭いが鼻を刺激する。


糞ッ‼︎目がやられたのか?!

衝突した際に両方の目が焼けたのか真っ暗で何も見えない。


マーキングで把握するしかねぇ


指先から血が噴き出すイメージを


___発動『マーキング』


浮かび上がったイメージは、雌型の豚人が挙げた両腕に多量のマグマを纏わせ、振り下ろそうとしたものだった。


2体目がいたのか…




両腕が振り下ろされた。


「あ〜らら、死んじゃった。ざ〜んねん。アハハハハハハッ、アハッ……ふぅ、グーバ君あの子のメダルは廃棄してて〜、もう誰もつかえないだろうから、ねぇ」


◇◆◇


日光を反射して輝く雪の上を歩いて行く。足に伝わる感触は硬く今日は普段より歩きやすかった。


「今日こそは新鮮な肉が食いたいなー」


ここ最近真面に美味しい物を食べてない。

あの肉汁滴る焼肉を家族で食わねば!


心の内に燃え上がる熱意を抑え、

肩にかけた矢筒を背負い直し、僕は辺りを見回した。

北西におよそ10m、1羽のビックラビットを見つけた。


もう、焼肉しか見えない。


弓を標的に向け、矢筒から矢を取り出すと同時に腹に力を込めながら息を吸う。

弓に矢をつがえ、半分以上の息を吐き出した。

そして、狙いを付け残りの息を吐き出すと同時に、弓を放った。

軽い風切り音を響かせ、矢はビックラビット目掛け飛んでゆく。

矢は白い毛皮に赤く滲む点を付け、身体を後ろに仰け反らせた。


「ッシャ!! 肉だ! 焼肉だ! 」


久々の獲物に喜びが沸き立つ。

獲物に駆け寄り、刺さった矢を抜き、血抜きのために獲物の首の動脈に小さく鋭い鉄管を刺し込んだ。


中々の大きさだ、此れならステーキも有りだな。


「レオンの奴喜ぶだろうな、ふっふっふ」


後ろ足を紐でまとめて結びつけ引きずりながら僕は帰路に着いた。


◇◆◇


村外れに有る土壁に藁葺き屋根の家屋が2つ。村の中心側が我が家で、森側が僕ら兄弟の恩人モロ爺の家だ。


「モロ爺〜、今日は一緒に夕飯を食べよう〜」


ノックをしながら、呼びかけた。

金具が音を立て、扉が開く。


腰の曲がった中背に痩せ気味、そして白髪で顎に蓄えた白髭、身に纏う大爪クマの毛皮と強い目力が異様な雰囲気を曝け出した爺、モロ爺が出てきた。


「んぁ〜、ロイか。お主が誘うということは何か狩って来たのか?」


「あぁ! 見てくれ! 久々のビックラビットだ!!」


「ほ〜、中々の大きさじゃのう。此れなら、3人でもステーキで食えるな。ふむ、ご馳走になろうかの」


「モロ爺は先に家に行っておいてくれ。僕は裏で腑抜き取って埋めて来るから」


「うむ、狼に嗅ぎつけられぬよう深く埋めるんじゃぞ」


「ほーい」


モロ爺の忠告を背に、裏の薪小屋へ入り、戸の近くに吊るしておいたナイフをとった。


とりあえず、腑だけ抜き取って後はレオンに任せるか

ビックラビットの腹部に刃を走らせ、開けた穴に手を突っ込み抜き出して行く。

相変わらず、この時だけは嫌なんだよな……

この手に伝う感触と暖かみが、無性に吐きたくさせるからな……


後は、毛皮を剥いでっと。


「ん〜、これで良しっと。後は、穴を掘ろう」


体内のマナを指先へと凝縮、放出し地面に染み渡せる。


『穴《ホール》』


手を翳した場所に直径15cm深さ2mの穴が現れる。


やり過ぎだぁ……

制御が甘かった為に無駄にマナを持っていかれちゃった。

身体がだるい……

埋めてとっとと帰ろ。

穴《ホール》を解除。

狼の内蔵を地中に残したまま穴は塞がった。

雪で刃の汚れを落とし、布で拭き取り元の場所に吊るしておく。

後は、なんか忘れてないよな。

少し歩き家へ帰った。


「ただいま〜、ほれ。レオン、肉だ」


毛皮で包んだ肉をレオンへ渡す。


「よしゃー‼︎兄ちゃんサンキュー!」


嬉しそうにレオンは肉を抱え、包丁を取り出し肉を切り捌いていく。


「相変わらず、嬉しそうに捌くのう」


モロ爺の言うとおりだ。本当に嬉しそうに刃を滑らして行く。


「あ、兄ちゃん」


僕が腰を下ろしたと同時にレオンから声が掛かる。


「ん?」


「明日が楽しみ?」


明日か……

魂器生成の日だ。


「楽しみっていうより怖いよ」


僕の返答に不満足なのか、レオンは眉を顰めた。


「ほっほっほ、仕方あるまい。魂器次第で人生の大半が決まるって言っても可笑しくないからのう」


「なんでさ〜?どんな魂器でも好きな事をすればいいじゃん」


好きな事、か……


「レオン、それは難しい事だよ」


「そうじゃ、魂器の補正有りと無しでは、天と地の差程に結果の違いが出るのじゃ」


「ふーん」


「それにしても、ロイがもう15か……早いもんじゃ。ロイはどのような魂器を望むや?」


医療系?技術系?戦闘系?


そりゃあ、モロ爺と同じ戦闘系が良い。

俺ら兄弟を魔物から守ってくれたあの時の力、僕は欲しい。

彼女の復讐の為にも……

……彼女の復讐?

何考えてるんだ、僕は?

彼女って誰さ?

復讐って何のことだ?


「兄ちゃん‼︎モロ爺を無視してやるなよぅ!」


「あ、あぁ。ゴメン、モロ爺」


「いんや、気にするでない。まだ迷っておるのかや?」


「いや、ボーッとしてただけだよ。僕はモロ爺と同じ戦闘系が良い」


「稼げるが危なく辛いもんじゃぞ。まぁ、魂器は女神様が個人の資質に合った者を選んでくれるからのう、ロイは医療系かもしれんぞ?」


「はいはいはーい!俺は俺は技術系が良いでーす」


肉の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激する。


「ほほほ、レオンにぴったしじゃのう」


「僕もそう思うよ。ねぇ、モロ爺」


「なんじゃ?」


「明日から2年間、レオンをよろしくお願いします」


僕はどの系統でも、ダンジョンの街にある魂器制御訓練学校へ行くつもりだ。だから、13歳のレオンが学校に来るまでの2年間は、モロ爺に頼むしかない。


「もちろんじゃ。お前ら2人を拾った時から、自立するまで世話を見るつもりじゃったからのう」


「ありがとう」


もうあの時から10年もモロ爺に育ててもらったんだ。

早く恩返しをしたいなぁ……


「そっか、明日から兄ちゃんいなくなるんだな……」


「また2年後会えるよ。手紙だって書く。だから、寂しくないだろ?」


「そ、そうだよね。俺は男だ。寂しくなんかない!!」


「ほっほっほ、儂ともおるんだから尚更寂しくなかろうて」


「よしゃー、肉焼けたー!」




久々のステーキは、感涙してしまうものだった。


誤字脱字が多いかも……

粗い箇所も普段より多いかも……


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