変異
隠し部屋へ滑り込み、横になって幾らか時間が過ぎ、マーキングの効果が切れた。
あー、今切れたという事は少なくとも1時間は気絶してたことになるのか。
よく誰にも襲われなかったなぁ……
もう、起きるか。
気だるさを堪え体を起こし、倦怠感を軽減させる為に、口内の眼球を噛み潰す。
溢れ出す液体はシロップの様に甘く、心なしか楽になった気がした。
まずは、ステータスを開いて現状確認。それから、気絶した理由とその後の異常について考えるか。
【Level】 1/1[限界値]
【種族/階級】アンデット:ワイト[覚醒体]
【固有名】契りを待つ死体
【STR】 462
【DEF】 409
【INT】 521
【MR】 629
【AGI】 413
【HP】 1353/1353
【MP】 110/1611
new『変異:身体』
『身体強化』
『体術』
『マーキング』
『投擲』
『業の対価』
『エスヴァルド大陸共通語』
限界値が1に、ゾンビがワイトに変更され、今まで空欄だった項目に『契りを待つ死体』と追加されている。
何よりステータスが軒並み4倍程上昇しているが、限界値が1という事はもうLevelUP出来ないということか……
今のステータスは奴と互角以上になれたのだろうか?
そうでないとするなら、どうすりゃいいんだ。
技術を磨くか?スキルを取得していくか?
そもそも、そんな都合の良いスキル何て存在するのか?
残った選択肢何て、身体能力の差を覆すような技術を何も知りやしない俺がどう習得出来るんだ?
俺が出来ることなんて、奴が俺より弱いという事を願う他ないじゃないか。
何だってこんな事に?
……いや、まだだ、まだ出来る事が有る。
もう一度この状況を引き起こすんだ。
俺がこうなったきっかけは、ただ殺しただけ。
また、同じように殺し続ければきっと再度この状況へと至る筈。
スキル詳細と出来るなら固有名を確認してから目的を果たしに行こう。
『変異:身体』___魔力で擬似的に変異させる。MP消費は変異させる範囲に比例し、変異した部位の性能はステータスに依存する。
身体を変異させるか……
どういう事だろう。
あのアンデットはこれを使った様な変異は見受けられなかったが。
いや、表面化していなかっただけで小人を押し潰す際に、このスキルで身体全体を変異したんじゃないだろうか。
そうでなければあの様な結果を出せるようには思えない肉体だった。何故なら、あの肉体は腐食が始まっていて、掴んだ部分の肉が剥がれる程酷く柔らかかった。
のし掛かられても、肉が崩れるだけで大したダメージは受けない筈だ。
しかし、まるで鉄塊が落ちて来たかの様な負傷の仕方だった。
となると、このスキルがあれば変異した部位は硬化するということか?
それだけなのか?
爪を変異させれば、どうなるのだろうか?そして、MPの消費量は?
早速試すか。
両手の指先に濃度を上げた血が留まるようイメージ。
___発動『身体強化』
身体強化が発動したか……MPも1消費している。
直ぐにイメージを霧散させ、解除させる。
イメージが足りないのか?
もしや、変異するイメージが必要なのだろうか?
やってみるか。
再び指先に血を留め、新たに爪が鉤爪の様に変異するイメージを付き足す。
___発動『変異:身体』
指先に熱と痒みを感じると、爪が伸び始め、すぐに8cmぐらいまで伸び、止まった。
MP消費は10か。
爪で10、全体を変異させるとどれ程の消費になるんだ。
試してみたいが、今のMPじゃ足りやしないだろう。
性能はどうだろう?
壁を引っ掻くと、軽い負荷で壁を抉った。
中々頑丈だ。
後で使えるだろうし爪はこのままでいいか。
爪のイメージを定着させた後、固有名の詳細
を見れるか試した。
ダメか……
恐らく、ステータスが変化した原因はこれだろうに、詳細が見れなくては正しいのか判断しかねる。
「はぁ……、行くか」
指先に血を留め、そこから放出。
爪を伝い流れ出る。
___発動『マーキング』
脳内に、俺が居る隠し部屋のイメージが浮かぶ。
今回は、長めに設定。
8時間分を放出した。
そして、部屋から腰まで這いずり出した時、
ギャギャギャ!?ギュゲギャ‼︎
わすれもしない俺の右腕を殴り千切った、棍棒持ちの小人が右側の曲がり角から現れた。
一匹か……
この前の借りを返してやる。
腰から足先、脳に血を維持、
___発動『身体強化』
腿の筋肉が膨張、ズボンはピンと張る。
踏み込み、小人目掛けて跳躍。
周りの情景が目まぐるしく変わり、小人の右腕を抉り壁に衝突。
遅れて、小人の悲鳴が轟く。
生半可な痛みではないようで、痛みは遮断されたようだ。
思わぬ衝突に身体強化のイメージは霧散、解除された。
予想以上の能力の底上げだ。
一度、鳴らしておくべきだったな。
視界に映るHPとMPの項目は
【HP】 1167/1353
【MP】 38/1611
となっていた。
200近いダメージか、以前なら半死にだな。
陥没した壁から抜け出し、折れた鼻を戻す。
左肩は脱臼したようで左腕に力が入らない。爪も幾つか折れ、残ったのは右手人差し指と小指、左手親指と中指だった。
ボロボロだな。
お、丁度いい。
身体に張り付いた小人の元右腕を掴み咀嚼。
身体中の浅い裂傷が塞がり、深い裂傷は浅くなる。
うん、瑞々しい。
ギャギュヒャウェリュヘッ‼︎
グアッー!!グアッー‼︎
のたうち回っていた小人がおぼつかなく立ち上がり、大量に出血する右肩を押さえ叫び出した。
命乞いか?
俺を殺そうとし右腕を奪った癖に、この期に及んで何て浅ましいんだ……
憤りに駆られ右腕に血を留める。
___発動『身体強化』
そして、床に散らばした指の骨を2つ拾い投擲。
放たれた骨は、高速で1本は大きく開いた口を貫通、もう一本は左肩を大きく抉り、身体を仰け反り倒れた。
「…カハッ……カハッカハッ……グギャァ」
そばへ歩み寄り見下ろした。
口から血の泡をこぼし、焦点の合わない瞳に心嬉しく思えた。
楽にしてやるよ。
顔を近づけ顔面を貪った。
◆◆◆
歯が脳に到達するまで、大きく痙攣していたので酷く面白く思えたが、それからは面白みもないまま残った少しの脳を吸い出し、頭を食べ終えた。
次に身体の方へ手を伸ばそうとした時、何匹もの重なった小人の叫び声が響いた。
なるほど、そういうことか……
命乞いではなく、仲間を呼んでいたのだ。
次第に大きく反響する声の主たちは土埃を立てながら左側に4匹、右側に2匹現れた。
各々鉄鎧や革鎧を着込み、ナイフや槍を持っている。
6匹もか……
厄介だな。
残りのMP残量を見ると200近くまで回復していた。
囲まれることは避けたい。
先に2匹の方を殺すべきだな。
右腕に血を維持、
___発動『身体強化』
ポーチから指の骨を取り出し、頭を狙い投擲。
小さな風切り音と共に2匹の頭殺到するが、槍持ちが1つを弾き落とし、ナイフ持ちは回避しようとし、右肩に風穴を開け、疼痛の声をあげさせた 。
そう簡単にはいかないか。
こうなれば、近距離戦だ。
右腕に留めた血を下半身に移動させ維持、
___発動『身体強化』
次に脛が鉄塊に変異するイメージを追加、
___発動『変異:身体』
ズシリと身体が重くなり、足元の床が軽く陥没する。
そうだ、あれを試してみよう。
素人の真似事だが、効果はあるだろう。
大きく右脚を上げ、上体を前に傾けて
「震脚」
脚を振り下ろした。
脚を中心に大きく陥没。
それに伴い、強く揺れ始める。
どの小人も、初めての体験なのか転んだり蹲る者もいた。
ハハッ、成功だ。
ナイフ持ちは蹲り、槍持ちは転んでいた。鉄鎧が重いせいで立ち上がれないのだろう。
MP回復しないとな。
変異を解除。
そして、深く腰を落とし跳躍。
放たれた矢のように空中へ。
今は全力でやったっていい。
槍持ちの上空少し前、全身を鉄塊にイメージ。
___発動『変異:身体』
発動したと同時に身体中に痛みが走る。
変異した身体は重力に従い、落下。
鉄鎧ごと押し潰し床を陥没させ、飛び散った肉と血が、俺を中心にして花の如く地面を色付けした。
そして、陥没によって転がってきたナイフ持ちが俺の足に当たった。
直ぐに視界の端にあるHPとMPの項目を見ると
【HP】 917/1353
【MP】 0/1611
となっていた。
MPが足りなかったのか、HPがやけに減っている。
さすがに全身変異はまずかったか。
まぁ、いい。MPが無くなればHPが消費されることがわかったし、補給先は足元にある。
変異を解除、そして、足元のナイフ持ちを掴み上げ、震える喉を食いちぎった。
血は喉を潤し、HPを回復させて行く。
ある程度MPも回復したのを確認し、
口を蜻蛉の様に変異するイメージを鮮明に描く。
___発動『変異:身体』
顎が大きく開き鋭くなる。
足先から口へ入れ顎を閉じぶつ切りにし飲み込んで行く。
もったいないが、まだ4匹いるのだ。
悠長に食事していられない。
頭を丸呑みし終え、変異を解除する。
既に4匹は体制を整え、にじり寄り隙を伺っていた。
さて、どうしようか。
一度に一斉攻撃されれば、避けれないし押し倒される可能性も高い。
マーキングで死角を消してから、対策を考えるか。
指先から血が迸るイメージを
___発動『マーキング』
勢い良く放出された液体をそこらしこにぶっかける。
脳内に革鎧に弓、革鎧に短剣、鉄鎧に斧、薄汚れた黒い布に身を包む4匹の小人と俺が向かい合うイメージが浮かんだ事を確認し、向こうの出方を伺う。
向かい合って数十秒、斧持ちが突進、斧を大きく大きく振り下ろした。
それをサイドステップで避け、斧が生み出した風を感じながら、脚に血を維持、
___発動『身体強化』
強化された脚で蹴りを放つ。
風切り音を鳴らし頬を捉えようとした直前、放たれた火球で軌道を流され宙を切った。そして、そこへ矢が頭目掛け飛んで来るのを脳内で確認。
「ッチ!厄介だなッ」
頭を傾け回避する。
すると、斧持ちが後ろに下がったと同時にナイフ持ちが入れ替わる様に懐に入り、短剣を振り上げた。
また、腿狙いかッ!
腿が鉄塊に変異するイメージを付け足そうとするが、明確化出来ず左腿に深く突き刺さる。
ただでは刺されてやらねぇ。
腿の筋肉に力を入れ膨張、抜けなくさせる。
短剣持ちが抜こうと引っ張る間、小さな火球が2つに1本の矢が宙を駆ける。
味方が居ても関係なしか。
短剣持ちを掴み構える。
直ぐに、短剣持ちの体越しに熱と2つの衝撃、そして悲鳴。それを無視し矢の位置を確認する。
左上空に矢を確認、矢に向け短剣持ちを投げる。
短剣持ちは矢を巻き込み、斧持ちへ。
斧持ちは受け止める事もせずに、斧で弾き落とした。
地に伏したまま、ピクリとも反応しない。
死んだな、あれは。
斧持ちを殺せば、随分楽になる筈。
腿の短剣を抜き、構え、右脚、右腕の三頭筋と前腕に血を維持、
___発動『身体強化』
短剣を放つ。
甲高い音を掻き鳴らし、斧持ちの左腿を深く抉る。
斧持ちは悲鳴を漏らし、体制を崩し弓持ちを巻き込み倒れた。
よし、身体強化を解除してっと、あとは魔法使いを殺せば簡単に始末出来るな。
また、火球が2つ出現し、どう防御しようか考えた時、火球は俺ではなく味方であるはずの2匹を襲ったのだ。
なッ⁈どういうことだ‼︎
驚く俺を尻目に、両足が吹き飛んだ弓持ちの革鎧を剥ぎ取り、布のしたから取り出したナイフで胸を刺す。口から血の泡を吹き、喚くのを無視、心臓を抉り取った。
俺は呆然のあまり、立ちすくむ。
抉り取った心臓を斧持ちの口へ押し込み嗄れた声で唱え始めた。
やばいんじゃないか、これ。
止めなきゃ。
ポーチからアンデットの大腿骨を取り出し、両脚、右腕に血を維持、
___発動『身体強化』
発動したのを確認、魔法使いへ駆け寄り頭目掛けてフルスイング。
負荷らしい負荷もなくあっさりと頭を吹き飛ばし、辺りを血だらけにした。
あとは、無力化した斧持ちを殺すだけ。
「______ッ‼︎」
甲高く耳を劈く様な絶叫。
それに追随して閃光。
目の前が真っ白になり、慌てて脳内のイメージを見ると、斧持ちの鉄鎧が紅く溶け骨が剥きだしになっていた。
どうゆうことだ?
さっきの魔法使いの凶行が原因か?
再び、閃光。
回復しかけていた視界がまた白く染まる。
脳内のイメージには、全身が泡立ち口に入っている心臓が強く拍動している斧持ちが映る。
強く拍動する心臓を中心に、泡立った全身が集まり赤黒く小さな玉を形成。
爆弾か?
玉から伸びた触手が、弓持ちと魔法使いの肉体を掴み引きずり込んだ。
2回り大きくなり、強く拍動。
同時に、玉を中心に圧倒的速さで、青緑の肉体を構築されて行く。
どんどん大きくなり、天井に当たりそうになった所で構築が止まった。
青緑色の胸を中心に幾十の赤いラインが体全身を走り、口は裂け鋭く尖った牙が垣間見える、そして額にはあの玉。
およそ4mもの巨人だ。
「ガァアァアアアァァッ‼︎」
何で小人が巨人になってんだよ……
視界はまだうっすら白く染まったまま、脳内のイメージが頼りだ。
振り上げた拳の影が俺を包んだ次の瞬間、高速で拳が振り下ろされた。
轟音を鳴らし、火を纏った拳が迫り来るのを巨人の懐に滑り込んで回避する。
真後ろから爆発音、土埃を立ち上げ爆発の余波が体を震わせる。
やばい、こいつやばい奴だ。
土埃に紛れ巨人の脹脛の後ろへ回り貫手を構え、血を維持
___発動『身体強化』
次に、指先がアイスピックの様に細く鋭く変異するイメージを
___発動『変異:身体』
指が細く伸び、爪が鋭く尖った貫手を右脹脛へを刺し込んだ。
水気を帯びた音を発し、ズルリと腕の半分まで突き刺さる。
「グギャァアアアッ‼︎」
悲鳴と共に、腕の周りにある筋肉が締め上げ、腕が抜けず痛みで暴れる巨人に振り回される。
「うわぁああ」
情景がめまぐるしく変化する中、落ちまいと筋を掴み、しがみ付く。
「ギャギュァアァアアッ‼︎」
巨人はどうにか俺を振り落とそうと脚を上下に降り始めた。
幾度無重力を体験し、遂に掴んでいた筋が引きちぎれ上空へ吹き飛ばされる。
着地したら、直ぐに逃げよう。
いつ踏み潰されるか、という恐怖が増しに増し、戦う気力なんて振り回される事によって失せていた。
この速度では天井へと衝突するだろう、衝撃に備える。
そして、衝突、かと思いきやそのまま天井に飲み込まれる。
隠し部屋と同様の見せかけの天井だったのか?
___「不浄なる豚人の森」への裏ルートに浸入を確認しました。報酬として「弱者の安全地」を贈与されます。
天井の向こうは真っ暗闇だった。
巨人の怒声が遠くから聞こえるが、姿は見えず、脳内のイメージには辺りを壊し回る巨人が映っていた。
ハハ、本当ラッキーだ。
突如、何かに吸い込まれるのを感じ、次に眠気が俺を包んだ。
ねっとりとした眠気に侵食され意識は暗闇へと堕ちた。
戦闘描写難しい
本当は巨人に四肢をもがられるぐらいのをしたかった