確認
スキルの補正は一体どれ程のものだろうか?
小人との戦闘時、体は素早く動いたがそれだけなのだろうか?
筋力は?跳躍は?
試しに、壁を殴って見る。
拳は鋭く壁に突き刺さり、破片を辺りに散らばした。
拳は丸々壁の中だ。
こんな破壊を引き起こしたのだ、出血處か骨折もあり得る。
だが、抜き出すと傷はなく土ぼこりで汚れただけだった。
どういう事だ?こんなの非常識だろう。
此れはLevelUPからきたものか?其れともスキル?
また疑問が増えるのか……
あぁ、もういい。次は跳躍だ。
膝を曲げ、腿から足先へと力を漲らせ、伸ばす。
ダンッとしなった棒が元に戻ろうとする様な音が響き、天井に強く背中を打ち付けた。
「ッガ!」
直様落下、痺れる痛みで悶絶する。
痛ぇ、跳躍力も非常識なレベルか。
ここまで高く飛べるとは……
よっぽどの事がない限り上に飛ぶ時はセーブしよう。
幾分痺れがマシになり、身体を起こした。
「はぁ……次は投擲、そしてマーキングだな」
投擲用に拾っておいた指の骨をポーチから取り出し、それで壁に的を彫り込んだ。
歪な円だが仕方ないな。
限界まで離れたが、何分そこまで広くない。
練習になるか心配だ。
試しに指の骨をダーツの要領で3本同時に投げる。
普通なら見当もつかない所へ行くわけだが、近距離に加え補正で全て円中に突き刺さる。
おぉ、これが補正。効果は大きいな。
もう少し開けた場所で練習出来ればもっと詳しく調べれるんだがなぁ。
まだ安全を確保しきれてない中、危険なだけだな。
他に何か投擲に使えないかポーチの中身を思い出すと、黒い針があったことに気付いた。
早速取り出し、同じ要領で投擲。
骨と同様的中するかと思えば、的の前で落下した。
確かに裁縫用の針と対して変わらないが、補正でどうにかなるかと思っていたが、流石にそこまで甘くないか。
そうなると、この針はどう使おうか。
パッと思い付くのは、毒針だが毒何てない。
毒か……あ、歴史の毒島先生が戦国時代の女性は、針で身を守っていたとか言っていたな。
あれは確か就寝時、口に針を含み何かあればその針を飛ばして逃げる隙を作ったって言う話だったか。
当時の俺は酷くその話に惹かれ、実行して口の中を怪我した挙句飛ばそうにも足元に落ちるだけといった悲惨な記憶がある。
しかし、今のステータスに投擲が適用為れるなら使えるんじゃないだろうか。
しかも此れは超近距離で使う訳だから、精密さしか要らない。
ま、後は出来てから考えるか。
早速肺に空気を溜め込み維持、呼吸を必要としない今こんな事も容易だ。
そして、針を1つ取り出し口に含み、舌の上に乗せる。
舌を下唇に軽く乗せ、溜め込んだ息を一気に吐き出す。
吐き出した息と共に口笛の様に甲高い音が響いた。
成功か?口内には残っていないし足元にもない。
向き合った壁を調べると、的の真上にめり込んだ針を見つけた。
驚く事に、1/3も針は刺さっていた。
もっと精密さを磨けば中距離にも対応できるんじゃないだろうか。
ただ、眼球を狙わなければ大した隙は作れないな。
後は、アンデットを的にして練習する事にしよう。
そうとなれば、ここから出ていくか。
あ、マーキングやっとかないとな。
あれ?やると言ってもどう使うんだこれ?
というより魔力って?
………あ、ヴァンパイアって血を力の根源としてるって聞いた事を思い出した。
確かヴァンパイアはアンデットに分類為れる訳だから、俺も似たような事が出来るんじゃないだろうか。
と言っても血が流れていないからな。まぁ、物は試しだ。
意識し易いように、心臓をイメージし、拍動した心臓が、頭へ、肺へ血液を送り出す。血液は力、濃度を凝縮した血液をこの左手へと流し込み維持。
___発動『身体強化』
へ?
思わぬ結果に、イメージが霧散してしまう。
あの声は……
直様ステータスを開く。
【Level】 16/60[限界値]
【種族/階級】アンデット:ゾンビ[覚醒体]
【固有名】
【STR】 117
【DEF】 102
【INT】 129
【MR】 157
【AGI】 104
【HP】 339/339
【MP】 236/401
new『身体強化』
『体術』
『マーキング』
『投擲』
『業の対価』
『エスヴァルド大陸共通語』
増えている……
という訳は、これが通常のスキル取得じゃないだろうか。
まさか、マーキングを使おうとしてスキル取得をするとは思わなかったが。それにしても、血を意識すると言う発想は正しかったのか。
思わぬ収穫だ。
スキルの詳細をみて、もう一度マーキングに挑戦だな。
『身体強化』___対象の部分を魔力で擬似的に圧縮、そして増加させ能力を底上げする。
おぉ、これを使えば小人の筋力を凌げれるかもしれない。
ひょっとしたら、小人一匹ぐらいなら殺せるんじゃないか?
後はマーキングで随時行動を知覚すれば、無傷でだって行けるかもしれない。
よし、ここをマーキングして単独の小人を探そう。
と意気込むも、まだマーキングを発動を出来てない。
そういや身体強化は維持で発動した。そうなると、放出でマーキングが発動するかもしれない。
また血をイメージしようとすると、心臓を基にせずも血は自ずがら流れていた。
此れは俺のイメージ上の血であって現実には流れてないよな?
湧いた疑問を潰すために脈を測ったが、やっぱり血は流れていないようだ。
しかし、イメージが定着した事によって直ぐにスキルを発動出来る訳か。
よし、濃度を上げた血をこの左手に流し込んで、そのまま指先へと。そして、血が皮から染み出すイメージを足す。
すると、透明な水滴が現れ地へ落ちた。
___発動『マーキング』
途端に、この隠し部屋と俺が脳内に色濃く映る。
此れで何処でも何処にあるのか分かるのか。
それにしても、指の先から肩へ、そして首から頭を黒の一色で染まり、下半身も真っ黒。
むき出しの胸と腹が酷くシュールだ。
……後で糸を巻き付けておこう。
とりあえず、1滴でどれぐらい持続が有るのか調べておくべきだな。
時計が無い為、己で数えて行く。
ついでに、糸を巻き付けておくか。
丁度胸を巻き終えたとき、脳内にあった隠し部屋のイメージが消えた。
1滴で約30分と言う所だろうか。
誤差は幾分かあるだろうが。
あとMP消費はどうだろうか?
ただ、MP見たさにステータス全体を表示するのも、視界が埋まってうざったい。だから、MPの項目だけを表示出来るか試そう。スキル欄だけを表示する事は出来たのだ、恐らく出来る筈。
【MP】 234/401
やっぱり出来た。
以降はHPとMPの2つの項目は常時出しておこう。色々と便利だろうし。
そして、先程見た時よりMPが2減少していた。
1滴で2消費か。
とりあえず、4時間分16消費してマーキング、そして1匹の小人を殺しに行きたいところだが、戦闘時にMPが枯れるなんて言う馬鹿げた事は引き起こしたくない。
先にアンデット一匹を食ってからにしよう。
腹も巻き終えたので、マーキングを発動させる。
MPの項目を確認しながら、血の濃度を上げ指先から漏れ出す様なイメージをする。
___発動『マーキング』
指先からチョロチョロと流れ出し、MPが16消費した所で止める。
染まり再び、脳内に隠し部屋が浮き出した。
マーキング完了っと。
頭を隠し部屋から出し、付近に何も居ないのを確認して這いずり出る。
まだ行った事のない右側にいくか。
足音を消し、奥へ向かう。
◇◇◇
歩いて約20分程度だろうか、この迷路のような坑道を突き進み、漸く黒人の巨漢中年男性のアンデットを見つけた。
どうやら、頻発に捕食してるようで主だった欠損は見受けられず、赤黒い血の塊が顔と腕、そして胸を汚してるだけだった。
こいつは小人も食ってるんだろうな……
という事は、結構Levelは高いって訳か。
経験値も多いだろうし俺に危害は加えない。
良いごと尽くしだ。
早速捕食、と近づいて行く。
目の前に立ち心臓をくり抜く為に抜き手で構えた時、
ギャッギャグギャッ!!
嗄れた声が坑道に響いた。
直様、後ろを振り返ると其処には何もいなかった。
何処だ?
「______ッ!!」
とても言葉で表現出来ない甲高い叫び声がアンデットから発される。
な、何だ?!
直ぐにバックステップで距離を取る。
叫び声が止まり、アンデットが振り返ってその巨漢には似合わない速さで走り始めた。
逃げた……?
いや、違う。
揺れる肉体から、ボロボロの鉄鎧、幾らか錆びた長剣をもった小人が見える。
アンデットは後ろに居る小人を捕食しに行ったんだ。
突如アンデットは転がり、小人を押し潰した。
圧倒的だ。
アンデットが起き上がると、其処には両足が折れ曲がり、鉄鎧はお粗末な物に。そして鼻が潰れ血だらけの顔の小人が長剣を必死に振り回しているのが見えた。
何て惨めな姿だ。此れが俺を恐れさした小人何だろうか。
アンデットが口を開き、小人の腕に食いつく。
小人の悲鳴が耳を劈く。
小人は無事な腕を使い長剣でアンデットを突き刺していくが、何れも有効打じゃないのか咀嚼を止めない。それどころか、咀嚼のスピードが上がっていく。
悲鳴は益々荒々しい物になる。
見てられない、両方とも殺すか。
傍へ駆け寄ると、俺に気づいたからか咀嚼を止め顔を上に向けた。
丁度いい。
アンデットの頭を狙い、蹴りを入れる。
すると、欠損は無いものの腐食はしていたようで、少しの負荷でボールの様に頭が吹き飛び壁に衝突。
熟れた果実が潰れるような音を出した。
___発動『業の対価』
身を燃やす様な熱さが濁流の様に注ぎ込まれる。
「___ッ?!」
目の前が白く染まって行き、瀕死の小人と目が合ったと同時にブチンと意識が途絶えた。
___特殊条件『覚醒体』『下克上』『同族殺し』『限界値到達』以上を達成しました。報酬として、『契りを待つ死体』へ進化致します。
「アハハッ!!君で11人目だね!まだメダルは精製しきれてないから、完了したらまた会おうね、起きている君とね」
若いアルトの声が喧しく響いた後、静かになった坑道に次は蛙の鳴き声が響いた。
◇◇◇
締め付ける様な頭痛で目が覚める。身体を起こそうとすると酷く倦怠感と飢餓感を感じた。
辺りを確認すると、周りには首なしアンデット、息絶えた小人が転がっている。
あぁ、そうだった。
灼ける様な熱さで気絶したんだった。
あー、どういう事だ。
……うーん、ダメだ。上手く思考出来ない。
腹が減った。
疑問より飢餓感だけが増大して行き脳内を占めて行く。
堪らず、膨れ上がったアンデットの腹を一口齧る。
舌触りは滑らかで、味はまるでプリンの様だ。
一口、もう一口と止まらなくなり延々と噛り付く。
素晴らしい事に肺も胃も全て滑らかで甘い。
あっという間に骨の山を作り、残った2つの眼球を手の上に転がした。
この2つは小人を喰ってからにしよう。
右肩まで喰われた小人の腰を掴み、噛み砕く。
幾分新鮮味が失くなったせいか、瑞々しさがない。
前回食べたより幾分美味しくもない。
それでも、この飢餓感を消せるならと血を啜り骨を噛み砕き、最後に目玉を噛み潰す。
最後のお楽しみに残した目玉を飴玉の様に口に含んで、食事は終わった。
食った、食った。
しかし、倦怠感は消えないな。
仕方ない、隠し部屋に戻って休むか……
フラつく身体を引き摺る様に隠し部屋へと歩いた。
生前、嬲り殺されたアンデットを救うとか何だとか言いながら食べてるって畜生レベル高いですよね。
罪悪感を感じないためにも、正当化してるし