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不運

 今日も、渡せなかったラブレターを手に、帰路に着く。セットした髪が崩れそうになる程風が強い。やはり、台風が近づいている為だろう。

また、台風のせいか俺の心は荒れていた。いや、台風は関係ないな。俺はここ半年ずっと決意した筈の行動が出来ていない。その行動とは、ラブレターを渡す事だ。何故渡すだけなのに半年もかかる。いや、分かっているんだ。毎回渡そうとしたら何かと邪魔されるのだ。例えば一昨日、急な腹痛。そして昨日は、部活の先輩が渡そうと決意した俺をゲーセンに引きずり込む。また今日は、先生の手伝いをさせられて、渡せなかった。こうなれば、直接告白すると言うのも考えたが、女の子の前になると頭が真っ白になる俺のヘタレっぷりを晒してしまうだけだ。なら、直接じゃなくても……と考えたけど、メアドも電話番号も聞けないから、出来やしない。

だけど、明日は明日こそは渡すんだ。

どんな事が起こっても。

ラブレターを頭上に翳し、そう意気込んだ


その時、一段と強い風が俺のラブレターを掻っ攫った。


「うぁッ、待ってくれッ!」


空高く漂うラブレター。

必死の思いで追いかけるが、身長の高くない俺にはあと少しってところで届かない。


「あぁ、待ってくれ……」


ちょうど地面に落ちた所に飛びついた。


「良かった……」


漸く捕まえることが出来てホッと安堵する。隣から馬鹿でかい摩擦音が聞こえ視線を向けると、大きなトラックが盛大にブレーキ音掻き鳴らしていた。


俺は夢中のあまり道路に飛び出してしまったようだ。


軽い衝突音が響き、俺の体が宙を舞う。


自分がトラックに轢かれるなんて余りにも非現実的だった。それ故か痛みがなかった。だから、一瞬夢なんじゃないかと……

だが、身体がアスファルトの道路に落下するその痛みで、現実なんだと知らしめられた。絶望と不安が俺を襲った。

体にまた痛みが走り、俺は引きずられてる痛みに発狂しそうになる。


死にたくない、まだ一杯したいことがあるんだ


周りの悲鳴をBGMに何も見えなくなった。

◆◇◆

肌に感じる湿っぽい空気、キーキーと甲高い『声』、脚に感じる蟲の這いずり、意識がはっきりしていく。

体に違和感を感じる。

瞼を開く、そこには、妙に整備された道、薄暗くが発光する壁。

唖然とした俺に

_____Welcome New World.

そう、頭の中に響いた。


頭に響いたその無機質な『声』に異常までの苛つきを感じる。

何かに当たり散らしたい気分だが、今はこの状況を把握するべきだろう。

俺は生きているのだろう。

だが、あれ程まで大きなトラックに引かれたなら、全身の骨がぐちゃぐちゃになってもおかしくない筈だ。

腕を動かそうと為れば、攣った様な感覚は有れど動く。

制服は血だらけだが、目に見える肌には裂傷一つない。

全身を確認する為に肌に張り付いた血の塊を剥がして行く。

丁度胸の辺りについた塊を剥がそうとした時、思考が止まった。


手に伝わる筈の心臓の拍動が感じられない。


「嘘だ……、俺が死んでいる訳ない」


ブチンという音と共に何にも見えなくなった

◇◆◇

近くに感じる人の気配と人の唸り声、そして裸足で歩くような音が俺の意識を次第にはっきりとさせて行く。

辺りを身回そうと目を開けようとしたが、瞼が開かなかった。

腕も口も足も全身が動かない。


何だよ、これ……

もう無理だ、夢なんだろ、とっとと目覚めてくれ…

早く……早くっ!!


____魂が世界に適応しました。ステータスを表示します。


真っ暗だった俺の視界に図が現れた


【Level】 1/60[限界値]

【種族/階級】アンデット:ゾンビ[覚醒体]

【固有名】

【STR】17

【DEF】12

【INT】 28

【MR】 39

【AGI】 1[死後硬直]


【HP】 1/52

【MP】 11/60


____以後は、任意で表示できます。


まるでゲームだ……

夢じゃない、何故か現実だと分かってしまった。


途端に、身体の中から濁流の様に悲しみが溢れ出る。

泣くにも口も喉も動かない。

人形に成ってしまった自分が何処までも悲惨で、同情してくれるような友人も家族も好きなあの子にも会えない事が身を切り裂く様に辛い。


どうして、どうして俺がこんな目に……

恨めしい、俺の愚かさが、何も出来ないこの身体が……


恨めしい……


◇◆◇


あれから何時間経ったんだろう。

曇った思考は幾ばくマシになった。

死後硬直と図にあった。

今使えるのは、聴覚、臭覚、感覚のみだ。

微かだが、革靴で歩く音が聞こえる。それもどんどんと近づいている。

恐らく一人だろう。


もうすぐそこに感じる。


「お、ラッキー!」


この野太い声、男だ。

何がラッキーなんだ、死体なんて見て。


「どうも死んだばかりのようだぁ、珍しい衣服に黒髪、こりゃあ高く売れるだろうなぁ……。坊主、悪く思うなよ、俺も生きる為に仕方なくやってんだ。へへへへ……」


俺の衣服を剥ぎ取って行く。

死体漁りなんて趣味の悪い……


「お、そうだった。此れで黒目だと更に高くつく。ちょいと、眼球見せてもらうぞ」


太い指が俺の顔に触れ、瞼を開かせる。

髭面の醜い中年のおっさんが目に映った。


「ガ〜ッハッハッハ! 大儲けだ!! 眼球もっ、貰うぜっ!」


腰につけたポーチから、先が平べったく細い棒を取り出したおっさんは、俺の顔を掴み固定した。

喜悦其の物のような瞳と俺の瞳が合ったその瞬間、体の底から異常な飢えを感じた。


喰いたい、こいつを喰いたい。その醜悪な面の下にあるピンクの筋肉。さぞかし美味いだろう。

あァ、喰いたい、喰わセろォオおおおおお


飢えが俺の理性を侵食していく。

今まで動きもしなかった身体が勝手に動き、目の前の男の喉に噛み付いた。


歯が肉に喰い込み、皮膚を破り血が溢れ出す。


「アガッッ!!? ッカハ!な……だぁ?」


そのまま肉を喰いちぎり、男に襲い掛かる。


「ッヒ!! 嘘だぁ…嘘だぁあああああッガ! あァ……カ…」


顔の肉を喰い、喉の噛み口に腕を突き刺し血を全身に浴びせて行く。


美味い、コの新鮮ナ肉の暖かみ、こノ血の甘サ。


一口、また一口と噛み締める度に快感を感じ

、身体全体に暖かい何かが行き渡る。


アァ、最高だ、死んでナンかいなイ俺は生キているんだ。


__捕食により、HP、MPが回復しました。また、覚醒体故新鮮な血により状態異常は治ります。


目の前にいた『モノ』を咀嚼し終わり、達成感が俺を包む。

あァ、最高だ。

楽しい、嬉シい、気持ちイイ





時間の経過と共に、理性が戻り先程の捕食がフラッシュバックする。


血に塗れながら、男に喰いつく自分が酷く美しく思えた。

と同時に人間ではないんだと理解した……


再び悲しみと新たに嬉しいと思う気持ちが入れ混じった。


また、足音が聞こえる……

裸足で歩く音が重なって響く。複数のようだ。


もう、身体は動く。今は、何処かに身を隠した方が良いだろう。

おっさんだった物の衣服と持ち物、あと剥ぎ取られた衣服も両手に抱え近くの曲がり角に身を隠し、粗く削られたような壁に身を貼り付け、足音の主を待った。


酷く嗄れた声が近くから聞こえ、漸く目に捉えた。足音の主達は、まるで緑でペイントされた様な肌を持ち、禿げ散らした頭、深いシワだらけの醜いニ人の小人だった。


なんだ、こいつら……

俺に気付いていないのだろうか、こちらを見る素振りはなく、俺がやった血塗れの箇所を調べている。

二人の内の一人は右肩の部分が削げた革鎧に黒く変色した棍棒を持ち、もう一人は腰に草臥れた布切れのみというお粗末な感じだ。よく見れば、右腕に煤けた金属のような腕輪を着けていた。

何というか歪な組み合わせだと思った。


向こうが調べている間に、此処を離れよう。


息を殺し……呼吸をしてない今、必要ないか……


足音を立てぬ様、緩慢に足を進めた同時に、カランッと軽い音が響いた。


ッ!! しまったっ!


おっさんのポーチから眼球を抉り出す為だろう棒が落ちていた。


「グギャァ?!グワェ!ゲェリ」


「ヒャギ、ゲギェ」


嗄れた声が騒音の様に響き、荒れた足音が凄い早さで近づいてきた。


「ッヒ!!」


どうする?!どうしたらいいんだ?

足が竦んで走れない今、逃げることは出来ない。

動いてくれ、頼む動け、動けよ!!


「ギャッ!!ギャゲェフュッ」


「ギャギャグアギャ」


気付けば、小人達はもう後ろにいた。


「あぁ……」


棍棒持ちが大振りで殴り掛かって来るのを咄嗟に両腕でガードする。重い衝撃の割には痛みは無かった。其れなのに、殴られた箇所の肉は削げ、右腕が薄皮残して辛うじて残っている状態だった。


「あぁ、俺の腕が……俺の俺の俺の」


棍棒持ちの背後から小さな火球が二つ。俺目掛けて飛んで来るのを目に捉えた瞬間、足が勝手に動き一歩一歩踏み込んで、走り初めた。俺の衣服もおっさんの衣服も抱えれず、落ちて行く。肩に掛かったポーチのみを残して、小人達の反対側にへと。


背中に衝撃、そして焦げた匂いと暖かさを感じるが、そんな事はどうでもよかった。


また、一歩踏み込む。

動作に耐えらず折れた箇所が落ちて行った。


右手が……俺の俺の……


俺の意思とは関わらず、足は動く。小人達は対して速くないようで、距離はどんどんと空き大分離れた所で足は止まった。


緊張の糸が解け、全身の力が抜け床へ倒れこんだ。


何処か安全な場所……


丁度左手が床近くの壁に当たる筈が、すり抜けて行った。


何だ?


すり抜けた箇所に足を突っ込む。以外と広いようで、壁にぶつかった感覚はなかった。


特に何も反応ないので、頭を突っ込んでみると、4畳程の空間が合った。


これは良い、此処に隠れよう。


入口は這って漸く入れる大きさだったので、近くの岩を蹴り込み入った後、其の岩で入口を防いだ。


ある程度の安全を手に入れた為か、泥のように寝入った。


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