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勇者の旅は終わらずに  作者: ネキア
第3話
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大陸南西、国境の町及び戦場にて:2

いざ書いてみるとそんな長くなかった。最初からここまでで:1にすれば良かったと反省した。

「あーびっくりしたー……ちょっとやりすぎたかもしれないな、うん」


 先程まで居た国境側の砦の入り口からほどよく離れた民家の裏で、そう呟きながら抱えていた鞄を地面に置き、手の甲で額に浮き出た汗を拭う。少しばかり白熱しすぎた。あそこで斬られたら今までの苦労が全てさっぱり水の泡、本末転倒もいい所だ。


「しっかしまぁ……」


 口をつけていた水筒に栓をして腰に戻しながら、もう何度も見て回ったその街並みを改めて見渡してみる。


「ここはいい所だねー」


 率直な意見と共に、溜息が漏れた。

 古惚けているが小奇麗で、町の場所によって貧富の差のようなものも無いようだし、それなら当然スラムもない。酒や暴力も、度が過ぎて問題になるような事もなく、違法性のある薬物や危険物など持っての外。緑に溢れ空気もよく、その気になれば水も生で飲めるかもしれない。人の消えた街並みを見てるだけでも、それだけの事柄が読み取れた。自分の故郷とは大違いだ。


「あー、やだやだ戦なんて」


 大きく息を吐き出しながら、石畳の地面に構わず身を投げ出して空を仰ぐ。仕事とはいえ、こんな所に来たくなかった。この街並みが崩れ去るのを想像すると軽い吐き気すら覚える。


「……でもま、それがなくちゃ喰いっぱぐれちまう奴が言っていい事じゃねーよなー」


 ちらりと仕事道具の詰まった鞄に眼を向け、自分がこの町を食い物にしようとしてるのを思い出して、重ね重ねに積みあがった自己嫌悪の誘うままに、横たわったまま大きく息を吐いた。

 その時、ふと遠くで微かな気配を感じた。


(何者だ?)


 寝転んだ姿勢のまま足で勢いをつけ、立ち上がる。今まさにここに居る俺が言っていい事じゃないが、この町の住民は十数名の志願兵を除き、もう数日前に避難が済んでるはずだ。

 兵士ではない。どの兵士がどのルートで町を見回るのかはここ最近の隠遁生活で大体覚えた。

 なら俺と同じ怪しい者か? いやいや、俺は怪しくないし、そんな怪しい奴がわざわざ今から滅びようとしている場所に来る理由はない。

 西国の隠密……も、ない。

 となれば、さっぱり検討がつかない。腕を組み、しばし考え込む。


(んー、妙なのに絡まれても困るし放っとくか? それとも接触してみるべき? こいつの動きによっちゃようやく把握した兵士の兄ちゃんたちの動向も変わるかもしれねーし。でもそれは顔を合わせても同じ事か……)


 考え込んでいた時間はそう長くはなく、組んでいた腕を解き、鞄を拾い上げるとその気配のする方向を確認し、前へ足を踏み出した。理由は単純、知らないよりは知っているほうがお得だから。

 少しずつ近付いて行く内、選択をちょっと後悔し始める。この追ってる先の奴から、尋常じゃない血の臭いがする。まだ随分離れているはずなのに、鼻先を鉄の臭いが漂っている。


(血を浴びたまま一昼夜以上過ごしてるんじゃねーのこれ?)


 脳裏に浮かぶ、生きたまま野獣の腹を食い千切り豪快に笑う、禿げ上がった頭部以外がもっさりとした体毛に塗れた巨漢の姿。きっと今までに8人くらい殺してそうな極悪な面をしていて、それに反してとても友好的に血と汗の臭いに塗れた体で友好的に抱きついてくるに違いない。経験上、そういう奴はだいたいそうだ。


(会いたくねぇー)


 心中で全力で叫びつつも、足は止めずに進み続ける。一度決めた事は曲げずにやり遂げるのが信条だ。

 溜息をつき、路地の角を曲がる。その瞬間、突然血の臭いが一層強まり、嫌な予感を感じて身を縮ませる。


「ぅおぉ?!」


 それが幸いしたのか、角の向こうから凄まじい迅さで襲い掛かってきた爪先を、地面に仰向けに倒れる事で間一髪交わす事に成功した。


「……偶然もあるようだが、不意をついて避けられるとは思わなかったな」


 目標である俺を逃した足を民家の壁に預けながら、鈴の鳴るような美しい声が凛と響く。俺はそんな言葉も耳に入らないほど、目の前のそれに見とれていた。

 腰まで届く長い黒髪、日を浴びながら一切の穢れを許さない真っ白な肌、整いすぎて恐ろしささえ感じる端整な顔立ちに、それとは似つかわしくない鮮烈な血の臭い。想像していたむさいオッサンとはまるで正反対の、美しい少女の姿……などではない。全くない。全然。

 地面に横たわり見上げる俺の視線が注がれている先はそれ。自身の胸元のあたりまで真っ直ぐ上がる美しい脚線美。それによって必然的に持ち上がる裾の、その中身。石畳に反射した日の光が照らすそこは、光が足りずに影がさしているがはっきりと白く美しい素肌が脚の先から可愛らしい臍と腰のくびれの辺りまで見えてしまっている。

 そう、脚の先から腰の上まで、一切の邪魔なく真白い肌が覗いている。

 つまりそう、この少女は!


 は い て い な い !


「大王陛下万歳ぁぁぁぁぁぁぁい!」


 無意識の内、滾る熱い感情に突き動かされ、俺の口から全身全霊の咆哮が漏れ出ていた。

それにしてもこのオッサン、ノリノリである

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