第5章 深緑竜の巣穴
ドルンの村の辺境にある深緑竜の巣穴に入った2人のハンターが戻ってこないと、アビスに連絡が入る。
強引に任務を渡されてしまったアビスは、すぐに武器を取り、内部へと入っていく。連絡を渡してきたロジャーと呼ばれるハンターと共に。
「どこなんだよ、その深緑竜の巣って」
アビスは今、アルトガの密林を歩き回っている。数時間前、アビスが今歩いている密林でアビスを除く3人のハンターが深緑竜の討伐を行っており、そして、そのメンバーの2人が深緑竜が留守にしていた巣に忍び込み、卵を奪おうとしていたのだ。
アビスに現状を伝えにやって来た1人のハンターは奪取を止めようとしたが、2人は耳を貸さなかったらしい。
そして、卵の重さに手間取っている間に巣の持ち主が戻ってきてしまい、予測されていた通り、深緑竜は我が子の命が篭った卵を狙われていた事に対して怒りを覚え、3人は地獄を見る事となったのだ。
結果的に上手く逃げ切ったのは、この1人だけである。
「もうすぐです。あの洞穴の先に深緑竜の巣があります。あの2人の事だから……多分生きてるとは思いますけど……」
案内役のハンターの表情が暗くなる。鉱石で作られた武具を纏っているが、やはり表情は暗い。
仲間が過酷な状況下で生き延びていられるのか、それを不安に思っているのだ。
「んじゃあとりあえず巣に行って、戦うって事だな? あ、そうだ、一応名前教えてよ。君の名前と、その2人の名前」
アビスはまだ名前を案内役のハンターから聞いていなかった為、それを訊ねる。
「うっかりしてました。僕はロジャー、そしてあの2人はジンとガロトって言います」
ロジャーは、仲間の名前もアビスに教えた。
「ロジャーだね、分かったよ。んで巣はもうすぐ?」
名前を知ったアビスは、今度は巣まで到着するのにどれだけ時間がかかるか、そこについて訊ねる。
「あそこです。あそこの穴から巣に行けます」
ロジャーは、目の前に見えた空に指を差す。きっとそこに、深緑竜と、ロジャーの仲間がいるのだ。
「結構奥騒がしくないか?」
アビスの徐々に近づいていく巣穴の奥から、巨体が地面を踏み鳴らしているような音と、武器と甲殻がぶつかり合うような音を聞き取り、ロジャーにそれを聞いた。
「あの2人がまだ生きてる証拠ですよ。早く行かないと!」
2人はそのまま深緑竜の巣穴へと入っていく。
深緑竜の巣の内部では、例の2人のハンターが抵抗を続けていた。
「うわっ! こっち来んなぁ!!」
紅い鱗で作られた武具を纏ったハンターが、目の前から走り寄ってくる緑色の体躯と大きな翼を持った飛竜を眼中に入れながら叫んだ。
「バカ! ジン早く正面から外れろ! 何してんだ!」
青い甲殻で作られた武具を纏っているハンターが、ジンと呼ばれる紅い装備のハンターに向かって叫ぶ。
この深緑竜は、ハンターに対して猛烈な突進を仕掛けてくる事が多い。しかし、その大きな身体を左右に制御するのは難しい為に、方向修正が上手く出来なくなってしまう。
その為、確かに正面からずれてしまえば即座に回避は出来るのだ。だが、ジンは適切な回避手段を取らない為に、その深緑竜に弾き飛ばされてしまう。
ジンの扱っている武器は太刀であり、それでも飛竜の甲殻を叩き斬る為にそれなりの大型サイズで作られている。
深緑竜の動きも確認せずに攻撃を仕掛ける為、太刀の動きに振り回されている間に反撃されてしまうケースが多かった。鎧に加え、受け流し自体はしているからある程度の防衛手段は取っているが、やはり吹き飛ばされている事に変わりは無い。
「お前なあ……慣れてないくせにそんな使い辛い武器持って来るなよなあ」
きっとこのジンでは無い青い甲殻の装備の男はガロトなのだろう。
ガロトは立ち上がるジンに対してそう言った。
「おれはこれでも最終的にはちゃんと倒せてるんだからいいじゃん」
攻撃を受け続けているにも関わらず、ジンは結果さえ良ければ全てが良いと、言い返した。
「傷薬が無いと何も出来ないくせにな」
ジンの極めて悪い回避技術をいくらか補ってくれているのは、回復薬のおかげである。その薬品は飲み込むと身体の損傷箇所を瞬時に治癒する効果がある。
だからこそジンは討伐自体は毎回成功させているが、飛竜の攻撃を受け流す技術もなかなかのものであり、骨折等の大怪我も非常に上手く免れている。
*** ***
「あれだな……。でもあんだけぶっ飛ばされててよくやるなぁ……」
洞穴に入ったアビスとロジャーだが、アビスは深緑竜の伸びた尻尾で吹き飛ばされたジンの姿を見るなり、そう呟いた。
だが、そんなジンもすぐに立ち上がり、そして反撃を行っている。
「急ぎましょう! あのままほっといたらいくらジンでも危ないですよ!」
ロジャーはすぐに鉄製の片手剣を持ち、暴れている深緑竜を強く見続けた。戦わなければ、終わらないのだから。
「当たり前だろ! あんな危なっかしい奴初めて見たぞ!」
正直、しっかりと回避すらしないハンターを見るのはアビスにとっては初めてだったのだ。そして、ロジャーと共に、深緑竜へと近づいていった。
「ジン! ガロト! 遅くなってごめん! 今頼れる人を連れてきました!」
深緑竜と対峙している2人のハンターは互いに声を掛け合いながら武器を振るっていたが、ロジャーの声を聞いて2人は振り向いた。
「ロジャー、随分遅かったなあ。こっちは馬鹿なジンのせいで色々振り回されてたってのに」
ガロトは鉱石でヘッドを作っているハンマーを持ちながら、ロジャーへと言い返す。よほどジンと共に行動していたのが辛かったのだろう。
「そんな事無いですよ。ちゃんと急いでお連れしたつもりなんだけど……」
ロジャーはそう言い返すが、ガロトが時間を遅く感じるのも無理は無かっただろう。
大型のモンスターに襲われ、恐怖心と緊張感にも襲われている時は通常よりも時の流れは早く感じてしまうものである。アビス達が来るまでの間、幾度と無く深緑竜に攻撃され続けたであろう、そのジンの鎧には大小様々な傷が残っている。
勿論、ガロトの方が傷は少ない。
「じゃあロジャー、早く俺達も援護しようよ? 多分もうすぐ倒せると思うし」
アビスはロジャーに言いながら、バインドファングを取り出した。
目の前の深緑竜を倒す為ではあるが、彼らがどのように戦っていたのかは詳しくは分からないだろう。それでも、今は共に戦うしか無いのだ。
「君は?」
初めてアビスの姿を見たガロトは、早速と言わんばかりに訊ねる。
「俺アビスってんだ。君達の援護頼まれたから来たんだよ。とりあえず宜しく」
アビスは自分の名前を伝え、そして、ここに来た経緯も簡単に説明する。一時的とは言え、共に戦う仲間であるのだから、軽く笑顔を混ぜた。
「確か君ガロトって言ってたよな? 頼れるかどうか分かんないけど、俺頑張るから、宜しく!」
自信が無くてもアビスはハンターであるから、必ず役に立つ場面を作りたい、そして見せたいという一心で、改めて挨拶を交わす。
「分かったよ。ちゃんと頼むぞ」
ガロトはハンマーを構えながら、深緑竜へと向かっていく。アビスもその後ろを追いかける。
深緑竜は尻尾を振り回し、そして時には空中で縦に1回転する攻撃さえも仕掛けてきたりする。その為、単独で狩猟が出来れば一人前と認められる程の飛竜なのだ。
しかし、炎の球を吐き出している最中は足元に対する注意が散漫になる。
口内から発射させるのだから、何かの反動でその炎が器官にでも引っかかったりでもすれば、喉元が焼かれ、自滅してしまう事も在り得る。だから、攻撃される側も、する側も非常に危険なのだ。
そして、飛竜は巨体であるが故に走り出した後にそのままバランスを崩し、転倒するケースが多く、その隙を突くのもハンターの大事な部分なのだ。
「ガロト! まず尻尾狙おうよ! あんな長いもん振り回されてたら危ないし、こっちも攻撃し難いからさあ」
アビスは深緑竜の伸びた尻尾を指差しながら、ガロトに作戦を投げかける。
「まあ、オレらもさっきから狙ってたんだけど……。まあいいや、じゃ、オレはあいつの注意引くから、頼むぞ」
ガロトは深緑竜の正面へと進み、火炎球の発射を誘う。深緑竜の背後にアビスが回る。
火炎球が発射されたその時を狙い、アビスは尻尾を斬り刻み、ガロトは深緑竜の脚部を目掛けてハンマーを横振りにする。脚に走った鈍痛により、深緑竜は転倒する。
そこに追い討ちをかける為に、アビスはバインドファングに力を入れる。その結果として、深緑竜は尻尾を斬られたのだ。
「後ちょっとか?」
アビスは更に攻め込んだ。
緑色の鱗の内側に攻撃を受け続けていた深緑竜の動きが徐々に遅くなっている。全身に走る痛みに耐え切れず、身体を硬直させているのかもしれない。
おまけに現在は尻尾も斬り落とされている。蓄積された痛みは相当なものなのは間違いないだろう。
しかし、その時である。突然深緑竜の真上からジンが現れ、その太刀の刀身を真下に向けて降りたものであるから、着地と同時に見事なまでに深緑竜の首を貫通し、そのまま倒してしまったのだ。
「あれ? もしかして、終わった?」
ジンの太刀が深緑竜の首を貫いた瞬間、深緑竜はそのまま地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
戸惑いながら、ジンは深く突き刺さった太刀を力を入れて引き抜いた。
「見事ですよ! 狩猟成功ですよ!」
完全に動かなくなった深緑竜を調べたロジャーは、討伐が成功した事をジン、そしてその他の皆に告げた。さっきまで打撃を受け続け、皆の足を引っ張っていたジンが最後の最後で決定打を下したのだ。
「皆が最初どう戦ってたか知らないけど、まあとりあえず結果オーライでいいのかなあ?」
アビスは動かなくなった深緑竜を見ながら、両手を頭の後ろへと回した。
「……まあその通りかもな」
ジンもアビスの台詞を聞いて焦るような様子を見せながら、納得の表情を出した。あの3人の中で最も周囲をハラハラさせていたのはジンなのだ。
使った回復薬の量も、鎧に付いた傷の量も凄いものがある。どのようにして今までピンチを切り抜けてきたのか、アビスには理解出来なかった。
「アビスさん! オレ達のピンチを助けてくれてありがとうございました。なんと礼を言ったらいいか……」
ロジャーにとって、アビスの救いの手はたまらなく嬉しいものだっただろう。ロジャーは握手を求め、右手を伸ばした。
「別にそんな風に言わなくても……。俺だってまだ未熟だし、今回の戦いでまたなんか成長したような気もするしさあ」
アビスはこの救助を要請された事に対し、不満を抱く事は無かった。寧ろ、経験値を上げる為だと考えればこれもまた良い経験だっただろう。
「だけどさあ、俺だってあいつ狩るの手伝ったんだから、ちゃんと報酬はくれんだろうな?」
アビスだって折角苦労をしたのだから、それに似合うものが欲しいと、少しだけ人間らしい所を見せ付けた。
「別にいいけど、4人で分けるから分量は期待出来ないぞ?」
ガロトの言う通りである。4人で飛竜の素材を剥ぎ取れば、当然その素材の量も4分の1となる。だから、分量だけを考えれば利益は減るのは確実だ。
4人はそrぞれの素材を剥ぎ取り、そしてジンは大型の卵を持つ事を忘れずに皆はその巣を後にする。
3人よりちょっと遅れて深緑竜から離れるロジャーであったが、その時、深緑竜の顔面辺りで何か紅く光るものを見つけた。
それは、丸い宝石のようなものだった。
「ちょっと待って下さい! なんかこんなの見つかったんですけど……」
その丸く、紅い宝石を皆に見せ付ける。
しかし、誰一人としてその宝石に興味を見せる者は居なかった。結局その宝石のような塊はロジャーが貰う事となった。今の時点では、その宝石の意味を知る者は、誰もいなかった。
お久しぶりです。私生活の方で残業が多かった為、更新が遅れてしまいました。
現在は実質的には28章を執筆中でして、近々書き溜めた内容も更新していくつもりであります。これからも宜しくお願い致します。




