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第4章 紅蓮の虐殺者

狙った標的は決して逃さず、

そして邪魔する別のハンターを

その場で始末する冷徹無慈悲の

ハンターの沼地での記録。






 とあるハンターが、タインマウスの沼で検索を(おこな)っている。


 全身を赤殻蟹(せっかくかい)と呼ばれる巨大な甲殻種のモンスターの素材で作り上げた防具で身を固めている。


 ヘルムは顔面部分は白く作られており、目の部分だけが外を見る事が出来るように刳り貫かれている。口の辺りは縦線の穴がいくつも空いており、そのあるハンターの恐ろしさが現れていた。


 背中にはブレイジングハートと呼ばれる、赤い鱗と翼で固められた火竜製のボウガンが背負われている。




 そのハンターの名を『ノーザン』と言う。


 その性格は非常に残忍で冷徹であり、自分の利益の為に他のハンターの命を軽々と奪う。彼が所持しているブレイジングハートと呼ばれるボウガンも、確かに上質な鱗と硬質な甲殻から作られたものであるが、彼自身が作ったものでは無い。


 別のハンターから重量のあるハンマーを使い、殺した相手から強奪した盗品なのだ。ハンマーを選択した理由は、武器の特性に()かれたからでは無い。ボウガンを強奪する際に、その威力と脅迫する為の迫力に目が行ったからである。実際は殺したから、脅迫どころの騒ぎでは無いが。


 本来は遠距離武器と近距離武器によって武具の作りが区別されるのだが、遠距離用の武器を手に入れる為であったから、彼は近距離用の武具を揃える事はしなかった。




 彼が今日狙っていた獲物は、毒煙鳥(どくえんちょう)である。


 毒を体内に持った灰色のゴム質の皮を持ち、そしてその(にわとり)のような体躯から、毒を吐き出し敵対者を弱らせる。自身は臆病な性格である為、相手が弱った隙を突いて逃げるのだが、相手を弱らせる為に、自身もまた凶暴化するのだ。


 更に、頭部に備えられている鶏冠(とさか)を光らせる事によって、相手の視界を短時間奪う事も出来る。




 そして、ノーザンには仲間は存在しない。いや、近寄ってもらえないと書いた方が正しいかもしれない。そして、出来たとしてもすぐにその仲間は消えてしまうのだ。


 基本的には彼自身が相手の方に仲間として装い、そして、自分に何か危険が迫ったりした場合、その相手を犠牲にしていつも自分だけが助かっていたのだ。モンスターの討伐に限定した事では無い。


 自分の所持金が不足した場合や、その時必要としている材料が不足している場合は至る街や村にうろつき、適当にハンターを捕まえる。そして、金品を脅し取り、ノーザンの気分によっては撃ち殺す事も珍しくない。


 また、多くの場合女性のハンターを狙っており、プライドの見えない性格も見え隠れしている。


 通常ならば、殺人、強盗を犯せばハンターのほぼ全てを取り仕切っているギルドナイトによって逮捕され、法廷何かしらの判決を受け、収容所に入れられるか、或いは死刑か、それともその他の重刑が科せられる。


 しかし、ノーザンは意外にもギルドナイトの目を盗むのが上手く、尚且つ通常ハンターというのは元々武器を背負いながら街中を歩くのが当たり前であるから、ギルドナイトであってもその武具で包まれた姿を見ただけで殺人犯かどうかを見通すのは不可能に近い。


 実際、ノーザンと同じ装備をしているハンターはこの世界には数え切れない数が存在する。武具の種類は確かに豊富ではあるが、ハンターの数に比べればあまりにも少ないのだ。


 そして、実際に指名手配をするとなれば、ヘルムの無い素顔を映さなければならない。だから、事実上ノーザンもギルドナイト達からとって見れば、普通のハンターなのだ。




 彼は今、ボウガンを構えながら目的の鳥竜である毒煙鳥を探している。


 ノーザンに近寄る小型の肉食モンスター達は彼の正確な射撃により、どんどん撃ち殺されていく。しかし、彼は倒したモンスターから素材を剥ぎ取ろうとはしなかった。彼にとっては素材等、他の自分より弱いハンターを脅迫すれば好きなだけ得られると思っている。


 今までずっとそうしてきたのだから、もう習慣となっている。


 彼が今回狙うのは、一般的なハンターであれば持っている可能性すら疑わしい、そんな珍しい素材だ。


 その毒煙鳥の頭は、ハンマーのヘッド部分等に利用されたり、また、愛好家によって頭部分を防腐剤を使って保存されたりと、なかなか希少価値の高い素材であるが、頭部を傷つけてしまえばその価値は無くなってしまう。


 だからこそ、ノーザンは決して頭部を傷つけぬよう、徐々に毒煙鳥をボウガンで弱らせていく。







 毒煙鳥は比較的大きなサイズを誇る怪鳥である。茂みの中にいたとしても、状態が大きく曝け出されている以上は他のハンターに簡単に発見されてしまう。ノーザンはすぐに、今日の獲物を見つけ出した。




「いたか俺の獲物ちゃんよぉ。今俺が滅茶苦茶にしてやっから待ってろよぉ」


 ノーザンは白い仮面のヘルムの裏で、不気味な笑みを浮かべ、そしてブレイジングハートと呼ばれるボウガンを構える。彼は現在、ボウガンの発砲によって毒煙鳥の全身が穴だらけになり、そして血が流れている所を想像していたのだ。


 最初は至って普通な通常弾で攻撃を加えていく。毒煙鳥がノーザンに気付く前に、最初の1発が紫色に染まった翼膜に命中する。




 自分に攻撃を加えてきたハンターの存在を知った毒煙鳥は、にわとりのような鳴き声を天に向かって放った後、一直線にノーザンへと接近していく。


「おいおいデケぇだけで俺に勝てっと思ってんじゃねえぞ?」


 ノーザンは再び銃弾を放つ。毒煙鳥のやや強度の弱い腹部へと命中するが、やはりゴム質で出来ているその皮膚はいくらかの弾丸を防いでしまう。


 しかし、毒煙鳥も対抗しなければと、突然鶏冠を打ち鳴らす。バチバチと火花が散り、そして辺り一面が非常に眩しい光に包まれる。


「ぐあっ!! あんにゃろう小細工しやがったなぁ!」




 視界を短時間だけであるものの、奪われてしまったのだから、ノーザンは怒りを見せる。


 鶏冠を破壊すれば、発行源を断ち切る事になるから、あの日会を放つ事が出来なくなる。しかし、下手に頭部を狙えば傷を付けてしまい、価値が無くなってしまう。


 通常弾を胴体に向けて何度か発射し、ゴムで作られた皮膚を破っていく。開いた傷口を狙い、鋭さのある貫通弾や、着弾時に爆発する徹甲榴弾を送り込んでいく。連続で攻撃を受ければそのゴム質の鎧も破壊されてしまうのだ。


 攻撃を受け続けたゲリョスは、一度撤退する為にその場から飛び立った。それはまるで最期の力を振り絞るかのようだった。




「逃げたか……臆病もんが……。逃げられっと思ってんじゃねえぞこん糞怪鳥がぁ」


 光を受けた怒りをまだ抑える事が出来なかったノーザンは、飛び立つ姿を見上げながら睨みつけた。勿論、彼は空中から逃げていくゲリョスを追いかける。


 崖に挟まれた道を進み、広い林に出る。そこにいたのは、先程までの巨体の傷だらけの毒煙鳥では無い。別のハンターだったのだ。


 そのハンターは現在、砥石で武器を研いでいる。


 ノーザンはそのハンターにボウガンの銃口を向け、迫った。


「俺の獲物をどうするつもりだ?」







 突然ノーザンに銃口を向けられたハンターの少年は振り向いて言った。


「獲物? それってあのどくちょう……!」


 しかし、そこで少年の声が止まった。銃口を向けられていれば、それも無理は無いのかもしれない。ボウガンは人間の命を簡単に奪える凶器なのだから、黙っていろという方が無理だ。


 あの強靭な鱗や甲殻を打ち破る為の火薬製の兵器であるのだから、人間が食らえば一巻の終わりである。




毒鳥竜どくちょうりゅうだぁ? 何惚とぼけてやがんだよ? さっき俺が狙ってた標的と戦ってたから今砥石使ってんだろ?」


 毒煙鳥どくえんちょうが飛んでいった方向にはこの少年がいたのだから、きっと毒煙鳥と戦い、そしてその結果として劣化した剣を研いでいたと考え、そして疑ったのだ。


「標的って……何の事だよ? あんたが言ってる標的って誰だよ?」


 少年は必死な思いで否定をしている。




毒煙鳥どくえんちょうの事だ。お前あそこから来ただろ。だったらあいつん事狙ってたって事じゃねえか。飛んでるとこ見たはずだぜ」


 ノーザンは未だに銃口を少年の顔面に向けたまま、疑い続ける。


「そう言えば確かに空は……なんか飛んでたけど……」


 少年は少し前の事を思い出すなり、そう言い返した。




「なんだ、やっぱ知ってんじゃねえかよお前」


 それでもノーザンは銃口を逸らす事をせず、少年を攻め立て続ける。


「でもあれは俺の上通ってっただけだぞ? 俺その毒煙鳥って奴と戦ってないぞ?」


 それは事実なのだろうか、少年は怖いからか、やや弱々しく答えているが、その発言に嘘が含まれているとはあまり考えられない。




「証拠あんのか? 見せろや」


 少年を疑い続けるノーザンの態度は、まるで少年を追い詰めているようにも見えた。


「証拠って言われても……、でも俺やってないのは事実なんだって!」


 自分は事実しか言っていないのに、それを受け入れてくれない男に多少苛立ったものの、それでも相手が怖いから本気では抵抗する事が出来ない少年であった。


 しかし、ノーザンはそれで許してくれなかった。銃口を僅かに少年の顔面から逸らし、そして銃弾を発射させたのだ。


 飛ばされた銃弾は少年の横を通り過ぎ、そして少年の背後にある木々の中に入って消えていく。




「おいおい、人のもん奪っといて逆ギレかおい?」


 自分の獲物を奪ったであろう少年に対し、改めてリロードをし直した武器を向け、更に迫る。少年を見下しながら言ったノーザンは、更に少年に言う。




「いい事教えてやる。お前以外にも俺の獲物狙ったアホがくっさる程いてなぁ、そいつらもお前と同じで逆ギレしやがったから、あの世に送ってやったぜ。お前もどうせ反省してねんだろうし、あいつらんとこ送ってやるよ」


 ノーザンは自分の行いをまるで反省しようとしない少年に対し、再度銃口を向け、そして、再び最終的な決断を判定したかのような台詞を出した。




「死ね」




 引き金に手を伸ばしたまさにその時である。


 茂みから現れたのは、紫色の鶏冠が印象的な大型の毒鳥竜と、その子分達だったのだ。その毒鳥竜達が現れた隙を突かれ、少年に逃げられてしまう。


「あ! くそ! 待てや糞ガキがぁ!!」


 獲物を奪おうとしていた少年を逃してしまい、怒鳴りながら少年を追いかけようとするが、現れた毒鳥竜の大群のせいで思い通りに事が進まなくなってしまった。


 結果、少年の始末に失敗し、結局は自分も逃げる破目になってしまう。




「まあいいや、あんだけの量ならあいつもただじゃ済まねえだろうし、そんまま死ねや糞ガキが」


 毒鳥竜の大群から何とか抜け出したノーザンは、背後にいる毒鳥竜の群れの中にいると思われる少年に言い残し、そしてノーザンは毒煙鳥を再び追った。







「ちょい時間かけ過ぎか……」


 ノーザンは独り言を呟きながら、タインマウスの沼を駆け足で進んでいく。実は、ノーザンはあの少年が毒煙鳥を狙っていなかった事は知っていた。しかし、自分より弱い者を狙うのが趣味であり、そして生業なりわいでもあるから、口実にする元となるものは何でも良かったのだ。


 適当に相手が悪者となるように言いがかりを付け、そしてノーザンの気分次第で相手を抹殺する。しかし、今回はあまりにも相手を追い詰める為に時間を使いすぎた為にそれが仇となり、予想外の邪魔によって相手に逃げられてしまう。


「やっぱ気に食わん奴はとっとと殺すべきだったぜ……」


 再び独り言を呟いた。




 そして、誰かのいびきを道中で聞き取った。


「なんだ?」


 ノーザンは他人から奪ったボウガン、ブレイジングハートを構え、辺りを見渡す。そこにいたのは、先程自分が狙っていた毒煙鳥だ。消耗した体力を復活させる為に、睡眠を取っていた。


 1つの噂として、飛竜や鳥竜は身体に傷がついても、睡眠によって自然治癒力を高め、傷口を塞いでしまうと言う。このまま放置しておけば、今までのノーザンの攻撃も無駄になってしまう。


 しかし、ここで発見されたのは不運である。




「なんだここにいやがったのかぁ。まあいいや、どうせてめぇはここで死ぬんだし、悪く思うんじゃねえぞ?」


 ノーザンは爆発性のある徹甲榴弾を装填し、寝ているゲリョスの腹部に照準を合わせる。


「くたばれや糞怪鳥めが」


 冷たい一言と同時に、発射された。




 徹甲榴弾の爆発が決め手となり、毒煙鳥は仕留められた。周囲に血が散らばる中、ノーザンは毒煙鳥の頭を慎重に切り取った。希少価値の高い素材として知られているその頭部は、一部の強力な武器の素材にすらなる程である。


「さて、帰っかぁ」


 そして、ノーザンはタインマウスの沼を去った。


 毒煙鳥を倒したノーザンは、街へと戻るが、戦いによって多くの弾を消費してしまった。当然補充をしなければいけないが、店で買う、素材と素材を調合して作るといった手間を取る事はしない。


 同じボウガン使いのハンターを見つけ出し、そして人目の付かない場所へと連れ込み、弾を奪い取る。銃口さえ向ければ、簡単に相手は震え上がる。


「さて、次は誰狙おうかねえ」


 弾を奪われた男性のハンターを背後に、ノーザンはボウガンを右肩に乗せながら街をブラブラするのだった。

 最近多忙で、長い間投稿が出来ませんでした。期待されてた方々には多大な迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。

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