怪奇事変 釣りスポット
第三十九怪 釣りスポット
地元には有名な釣りスポットがある。
地元の人間は勿論、釣り好きにも有名で“良く釣れる”と言うのが特徴だ。
もっぱら釣り人達は此処で日ごろの疲れを癒しに釣りに没頭する——あの事件が起きるまでは。
1人の釣り人が深夜から早朝にかけて釣りをしていた。
何時も通りの日課——彼は地元の人間で釣りが好きでこのスポットを使っているぐらいだ。
何か軽い感触が引っかかる。
竿を持ち上げルアーを動かし、まわしふりをすることで魚を釣って行く。
「小物か」
そう言って水の張ったバケツの中入れて行く。
釣ることは自由だが此処は保護区に指定されているため、釣った魚はリリースしなければならない。
「釣っても食えないし、まぁ~しょうがねーよな~」
独り言を言いながら再度、竿を海面に落とす。
大物でもあてて写真撮って釣り仲間にでも自慢しようと思っていたが、案の定今日はついてない。
と言うか単純に釣りだけをするだけなら、そう言った目的の施設などがあるからそう言う場所でもありなのだが、やはり此処は——
「釣れるんだよな」
また竿が引く、何かが釣れたようだ。
頼むからさっきよりもデカイので頼むと願いながら竿を引くと釣れたのは、何やらブヨブヨしたものだった。
最初はクラゲだと思っていたが、周囲が暗いため確認ができない。
携帯を使って辺りを明るくして——彼は腰を抜かした。
名瀬ならばそれは人の顔の皮をしたナニカだったのだから。
釣り名所とも呼ばれる場所で事件が起きた。
早朝に釣りをしにきた男性が釣りあげたものを人間の肌であったと言う証言。
写真を撮ってそれは直ぐにSNSに拡散された。
いや、拡散して良い物なのか?
掲示板では思い思いのコメントが打ち込まれていたが、誰がどう見てもそれは人の肌——ではなく、ただのポリエステルの袋なのだ。
つまりは投稿者である釣り人の勘違いで事態は鎮火していった。
だが釣った本人は今も断固としてアレは人の顔であったと証言している。
頑なに変わらない意思は逆に炎上の的となり、それ以来彼は釣りをしなくなったと言う。
それが都市伝説として語り継がれるのはそう遠くない未来であったのも事実。
何故ならば似たような体験をした人が出てきたからである。
遠方から来た男性が釣りをして引いたモノは人間の皮で間違いなかったと証言しており、写真も収めてあるにも関わらず、やはりその写真はまるであとで改変されたように別のモノへと変化していたのだ。
悪戯の投稿を確かめようとする者、根拠が欲しい者、探求心が高い者達がこぞってこの釣りスポットに集まり、当初は釣りをすることが名目だったが、本当に人の皮などが釣れるのかの検証となり、いつしか心霊スポットと呼ばれるようになった。
『ええ、そもそも水辺には霊が集まりやすいのです。不浄霊などは渇きを覚えているため好んで水辺に集まります』
『すると、やはり数人が釣った魚だと思われた人の肌と言うのは、心霊現象の一種と言うことでしょうか?』
『はい、そうなります。動画越しにも霊視していますが、間違いなく、霊の怨念が纏わりついておりますね』
専門家とキャスターが話し合い、更に拡散されて行く。
『幸いにも力の強い霊ではないので、あまり近づかない事をお勧めします』
『ですが、そうなると地元民からも愛されていた釣り名称と観光名所は丸つぶれになってしまいますね』
『ええ、誠に残念ですが海などはそう言った事例も珍しくはありませんので』
『他にもあるのですか?』
『沢山ありますよ、数えきれないぐらいにね。自衛はやはり近づかないことです』
『以上が霊媒師の工藤さんのお言葉でした、本日はお越しいただきありがとうございます』
ネットに拡散されてゆく。
情報は武器、ネットによるSNSなどの拡散は魔の力となり、人々を引き連れて行く。
信じる者、そうでない者、意見は分かれており、テレビの影響力もあり一時期は騒然となる現場を押さえるために警察が出動したという話もある。
そうして鎮火したあとも静かに滾る探求と言う炎を身に宿した者達の一部は、今も深夜遅くから検証として釣りを行っている。
「人の肌なんて、気持ち悪いっスね」
「でもマジなら事件性ヤバくね?俺達が第一発見者としてニュースに出るかも」
釣りをする若者2人、仲良く並んで釣り針に引っかかるモノを待つ。
それは決して魚ではなく、噂の現況になっているモノ。
傍から見れば狂気にする感じるこの状況をどう説明すれば良いだろうか?
彼らは既に憑りつかれているのかもしれない、噂と言う名の霊障に。
だが所詮噂はただの噂だ、いつしか住人の声も、テレビによる専門家の声も忘れられて行く。
釣りスポットは静寂に包まれながらも釣り人を待つ平凡な場所へと変わり果てた。
だが、確かに爪痕は残っている。
未だに地元民の一部は近づかないし、稀に動画撮影として訪れる者もいるが、彼らに何か遭ったのか聞いても「何もない」の一言だった。
そうして1人の釣り人がまた此処で釣りをする。
あくまで目的は噂になっている人の肌ではなく、魚を釣るため、彼はそっちの噂の方を信じて釣りをしにきた。
ただの趣味、仕事のストレス解消、休みをもらってようやく手に入れた憩いの空間——静寂包まれる場での夜間での釣りを楽しむ。
「……!」
釣り竿が何かを引っかける。
急いでルアーを動かし、まわしふりをしながら魚を釣り上げて行く。
「小物か」
小さな魚が一匹釣れた。
此処には大物が出ると言う噂もあったが、先ほどから連続して小物しか釣れていない。
リリースしていることで生態的にはすくすく育っているはずなので、大物とは言わずともそれなりの大きさを期待していたが、男の願いとは裏腹に小物ばかりが釣り上がって行く。
「成長して帰ってきてくれよ」
そう言ってバケツの中身に入った魚を少し離れた場所に放流し、再度釣りを行う。
男は退屈していなかった。
釣りは基本釣るまでの工程が非常に長く、辛抱強く待つことが一番辛く、楽しみの一つでもある。
だが、ここでは数分しないうちにどんどん釣れていく。
釣りバカと呼ばれた男にとってはこれ以上嬉しいことはない。
「お!また釣れたな」
そうして手にしたものはブヨブヨとした感触、携帯でそれを照らすとそれは——人の皮だった。
「ひぃぃぃぃ!?」
勢い余って手にしてたモノを手放すとそれは海に落ちて行った。
しかし、それだけで終わる訳ではなかった。
手放したモノがどうなったかを調べるため、海面に携帯の光を照らすとそこには、無数の目のない顔が浮かんでおり、それらは全て——人の皮。
顔面の皮がまるでクラゲのように浮かんでいるのであった。
当然、男は腰を抜かしてその場から勢いよく走り去る。
持ち物など二の次だ、あそこに居てはいけないと言う使命感で走り続け、ようやく近くの交番に辿り着くと、警察に事の顛末を説明し、現場に戻ると……例の照らされた海面はただの海面に過ぎず、男の行った人の顔面など浮かんでいなかった。
だが当然、男はあの出来事を忘れることができずにとある掲示板にその詳細を事細かく記載するのであった。
再度、再燃してた噂はまた人を呼び大きな波紋へと話題が絶えなくなる。
テレビ当局もこのネタを再度使いまわしにする形で実際過去に身投げなどが起こったのではないかと、歴史的な側面からも調査が加わったが、一切の記事は見つからず仮説と憶測での話で、ホラー番組特集なども組まれる形となっていた。
が、一部の人間はこの事態は重く見ていたのも事実であった。
その一部の人間は実際にこの怪異にも似た現象に陥った人物達。
彼らはあの肌の感触、そして視認した視覚情報による脳内で起こる恐怖が鮮明に今も思い出されているのだ。
そして、もう一部は専門家……つまりは霊媒師達の異変。
——あの海は既に彼岸へと繋がる道へと変貌している——
そんな事実を公表した所で一般の人間は信じはしないだろう。
この事態は重く見た霊媒師の総本山でもある“霊術院”は腕の立つ霊媒師を派遣することに決定を下す事となる。
が、霊の力場はますます力を増すことで、怪異は大きくなっていくのであった。
「顔だ、アレは……俺の弟の顔だった」
「分かんねーよ!手でも足でも同じだろ!?間違いなく人の肌だったんだって!」
海の底に沈む怪異は簡単には姿を見せない、深淵の底から覗き込んでこちらの様子を見て楽しんでいる。
そして、霊媒師達の行動よりも怪異の行動の方が早く、被害者が出た。
海に無数の手で掴まれた男性、たまたま撮影していた友人がそれを目撃し、慌てて救い出そうとしたものの、病院に到着後、僅か数十分で死亡が確認。
——死因は溺死だった——
「底なんて沈んでない、ただ海面に……溺れてただけ、直ぐに救い出した……」
男の顔には恐怖が張り付いていた。
その顔を見た他の友人も以前にこの海の怪異と接触しており、無数の顔を見ている。
彼の顔は——それにそっくりだったと証言している。
第三十九怪 亡者の海域
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