プール、嫌い
体育の授業が始まり、皆、教室から移動する。
彼は子どものようにはしゃいで、早くプールに入りたそうだった。
しかし私としては喜べず、下を向いたままとなる。
「どうした?」
彼が顔を覗き込んでくる。
私は彼に抱きつくと、小声で言う。
「私、その、休む」
「え? プール、楽しいのに、休むのかよ?」
彼は戸惑ったように言い、私の肩に手を置く。
私は髪を耳にかけ、恥ずかしそうに言う。
「スクール水着が嫌いなのよ。その、私、胸が大きいでしょう?」
そう言うと、彼の視線が私の胸に集中してくる。
私は恥ずかしくなり、彼から離れると、胸元を手で隠す。
彼は目を細めると、私をじっと見つめてくる。
まるで犯人と対峙する刑事みたいな、正直な眼差し。
私はどきりとし、固まる。
その様子を見てか、彼がようやく視線を外してくれる。
「じゃあ、体育先生に言いに行こうぜ」
「え? 一緒に行ってくれるの?」
「任せろ。俺を頼れ」
彼は自信満々に言うと、私の手を取る。
大きくて安心する手。
私の心から暗いものが、すっと消えていく。
「ずる休みにならないかな?」
「大丈夫だと思うぞ。ただ草むしりしないといけないかもしれないけれど」
彼はそう言うと、水着一式を反対の手に持ち、私を引っ張っていく。
その強さは独りよがりではなく、私のことを考えて、足を進めてくれる。
まるで兄と妹のようだと思ったが、引っ張ってくれる姿は逞しく、安心できるのだった。
体育の先生の部屋に着くと、ちょうど椅子から立ち上がるところだった。
「おう。お前ら、どうした?」
色つきの眼鏡をかけた体育の先生。
強面に見えるが、彼のほうが負けていないので、話を切り出す。
「彼女が今日、プール休みたいって」
「休む? その、生理か何か?」
先生が低い声で言い、凝視してきたので、私は緊張しながら言う。
「その…ちょっと頭が痛くて。お願いです。休ませてください」
「頭か…。保健室に行かなくていいのか?」
「それは大丈夫。俺がちゃんと様子を見るから」
彼が半歩前に出て、守ってくれる。
先生は腕を組み、悩んでいるようだった。
そこを彼が両手を合わせ、頼み込む。
「頼みます!! 休ませてやって」
「お願いします!!」
私も深く頭を下げると、先生が息を吐き出す。
「分かった。今日、休みな」
「え…。いいの、先生?」
彼が聞くと、先生は「ただし」と続ける。
「ジャージに着替えて、プールサイドの草むしりをすること。分かったか?」
「は、はい!! やります!!」
私は安堵から大きく答えると、慌てて口を押さえる。
ここは具合悪そうに見せなければ駄目だと、下を向く。
「じゃあ、早く着替えに行け。授業が始まるぞ」
「ありがとうな、先生」
「ありがとうございます」
2人は頭を下げると、部屋を後にした。
それから顔を見合わせると、にやりと笑い合う。
「良かったな、休みになって」
「うん!! ありがとうね。ついて来てくれて」
「早くジャージを持って来い。俺は水着に着替えに行くから」
「分かった。あの…」
手を差し出すと、2人はハイタッチをする。
本当に良かったと安堵し、私は言う。
「じゃあ、ジャージを取りに行くから」
「1人で大丈夫か?」
「平気。すぐに取りに行って来るから。あなたも着替えて」
「おう。じゃあ行くぜ」
2人は手を軽く上げると、それぞれの場所に向かう。
「彼が一緒に来てくれて良かった」
小声で呟くと、少し早足で教室に向かうのだった。




