7 ダンジョンの申し子
魔術学院に入学して二週間、週に一度は休むことが義務付けられているので、日曜日は休養日にして月曜日から土曜日は先輩と毎日ダンジョンに通った。
毎日さまざまなモンスターが砕け散ってゆくのを特等席で毎日見てた。
まるで色とりどりの花火を見ているみたいだった。
今日も先輩と理事長の作ったダンジョンにやってきたのだが、先輩とどうやらはぐれてしまったらしい。
今日も先輩の後ろを歩いていたのだけれど、いきなりストンと落ちる感覚があり、気がつけば先輩はいなくなってしまっていた。
こういう時は動いちゃいけないんだよね。
余計なことはせず、先輩が迎えに来てくれるのを大人しく待てばいい。
モンスターが襲いかかってきたら先輩が来てくれるはずなので、早くなんか出てこないかなぁ。
先輩がいないと、せっかくのダンジョンがなんだかとってもつまらなくて、色褪せて見えてしまう。
「楓」
どこからともなく薄荷キャンディのように目が覚めるような、それでいて柔らかな、澄んだ声が聞こえる。
「あ、かのんちゃん」
と、一緒にいるのは奥村先輩だよね。
学院二位で、確かA級ハンターの。
「あー、君がー、あれか、燐音んとこの、楓ちゃんかぁ」
かのんちゃんが駆け寄ってきてくれる。
かのんちゃんとは席が隣同士ですぐ仲良くなれた。
いつも冷静で言いたいことをはっきり言う、とてもかっこいい女の子。
「一人でどうしたの?皐月先輩は?」
「えっと、はぐれちゃって」
「楓ちゃん、はじめましてー」
「あ、はじめまして、佐藤楓と申します」
「燐音から聞いとるよー、ほんまちっそうてかいらしなー」
「あ、ありがとうございます」
わー、奥村先輩もおっきいなー。
強いハンターって皆大きくなるものなのかな。
「先輩、皐月先輩が来るまで私ここにいます」
「え、いいの?」
「うん。心配だし」
「ほな俺も付き合うよー」
「奥村先輩もいいんですか?」
「ええよー。楓ちゃんこんなとこに一人で置いてったら俺が燐音に殺されるやん」
「はあ、あの、すみません。よろしくお願いします」
「ええよ、ええよ、それにしても楓ちゃん、ホンマちっさいなー、身長何センチ?」
「先輩、それセクハラです」
「あ、そうなん、ごめんね」
「あ、いえ、あの、150センチです」
「あー、うちの妹とおんなじくらいかー」
「妹さんいらっしゃるんですね」
「二人な、小三の妹が丁度楓ちゃんくらいやわ、中二の方はな、もう175あんねん、次逢うたら抜かされてるんちゃうかなー」
小三。
「先輩、身長ハラスメントです」
「え、ああ、そうやね、ごめんなさい」
「いえ、そんな、全然気にしてないです」
「あ、楓みっけ」
「皐月先輩」
先輩は壁をすり抜けてきて、私と奥村先輩の間に入る。
なんていう万能感。
逆に先輩ができないことってなんだろう。
「ごめんね楓。怖かった?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「で、なんで勇人がいるの?」
「楓ちゃん一人にできひんさかい、お前待っとったんやないか」
「そうなんだ、ありがと」
「最下層まで落ちとったん?」
「うん、だから途中で宝箱取ってきた。これでミッションクリアでしょ?」
先輩が右手で持っていた宝箱を私は両手で受け取る。
あ、軽い。
私でも持てる。
「中確認したから大丈夫だよ、開けて」
「はい」
宝箱はぱかっと簡単に開いた。
「お菓子の詰め合わせです」
「理事長が用意したものだからいいとこのだと思うよ」
「美味しそうです」
「寮に帰って食べな」
「あ、いえ、私何にもしてないので、先輩が食べてください」
「いいよ、楓食べな」
「いえ、私だけ食べたら先輩に申し訳ないです。だって先輩甘いものお好きですよね?先輩が食べてください」
「じゃあ半分ずつするとして、これでお菓子ドラフトでもしよっか?」
「お菓子ドラフト?」
「第一回指名選択選手、さーさーきー」
「あー、クジ引きするやつですね」
「楽しそやなー、かのんちゃん、後で俺らもしよなー」
「しません。先輩が欲しいの半分取ってください。私は残りでいいですよ」
「かのんちゃんつめーたーいー、俺もかのんちゃんともっと仲良ぅしたいー、心通わせたいー」
「心は通ってませんけど、私達十分仲良いですよ、先輩」
「え、どこがぁ?」
「私こんなに男の人と話したの先輩が初めてです」
「そうなん?」
「はい。中学まで女子校だったので」
「あ、そーなんやー」
「勇人俺らもう行くから」
「おー」
「二人ともありがと」
「あ、ありがとうございました。奥村先輩、かのんちゃん」
「ええよー、燐音はよ来すぎたさかい、ちーっともお喋りできへんかったから、また今度お茶でも飲もなー、楓ちゃん」
「あ、はい、ありがとうございます」
「えー、5分くらい離れてたと思うけど」
「5分て、カップうどんか」
奥村先輩カップうどん食べるんだ。
「じゃあ楓気を付けてね、また夕飯の時にゆっくり話そ」
「うん、ありがとう」
「ほななー」
「おー」
私達は反対方向に歩き出した。
やっぱり先輩の背中見てると落ち着く。
ダンジョンが輝きを色を取り戻す。
本当に不思議。
心踊る、これこそが先輩の本当の能力なのかも。
「じゃあ、出よっか?」
「え、もう出ちゃうんですか?」
「え、出たくないの?」
「あ、えっと、せっかくなので、もうちょっとダンジョンを堪能したいです」
「そっか、いいよ、じゃあもう少し散歩して帰ろっか?」
「はい」
先輩が歩き出す。
私はその後ろをついて行く。
いいなぁ、この時間凄く好き。
「楓ダンジョンにいるの、好き?」
「はい、好きです」
「ダンジョンってさー、皆結構目的果たしたらすぐ出たがるものなんだけど」
「そうなんですか?」
「うん、まぁ、何が起こるかわかんないからすぐ出たがる気持ちもわかるけど、俺はダンジョンにいんの好きなんだよねー、落ち着く」
「そうですか」
「うん、実家のような安心感って言うけど、俺実家ないから本当のとこわかんないんだけど、俺に取ってのダンジョンはそれかなー」
「ダンジョンは実家ですかー」
すごいなぁ、やっぱり発想が全然違うなぁ。
ダンジョンは実家。
名言だ。
「俺はさぁ、毎日ダンジョンに行きたいんだよね、行かないとなんか調子狂うっていうか、俺は多分ダンジョン中毒なんだよね、いまだに行く前ワクワクするし」
「はあ」
流石先輩。
ダンジョンの申し子。
先輩はダンジョンから生まれたって方がよっぽどしっくり来る。
だって美しすぎるもん。
まるで美しいって言葉が擬人化したみたい。
人から生まれたなんて信じられない。
最深部の簡単には開けられない宝箱から生まれてて欲しい。
「三歳の頃からずっと行ってんだよね、ハンター資格は五歳からしか取れないから、父親のリュックに隠れて行ってた、ダンジョンに入っちゃったら、もうこっちのものだから」
「そんなちっちゃい頃からですか、凄いですね」
「俺の父親がさ、あ、父親もハンターだったんだけど、俺を世界一のハンターにしたがってさ、ずっとダンジョンに行ってた、だから幼稚園も小学校もほとんど行ってない、正月もクリスマスもなかった」
「そうだったんですか」
「うん、俺はさー、ダンジョンで死にたいんだよね。死ぬ時はダンジョンと一緒にこの世から消え失せたい」
「ダンジョンで」
「うん。俺ダンジョンがこの世で一番好き」
「凄いですね、先輩」
「えー?」
先輩が振り返る。
綺麗。
先輩はいつも綺麗だけど、ダンジョンにいる時の先輩は、ここが自分のステージだって知っている。
自分が一番上手くやれる場所だって知っている。
先輩がダンジョンで、ダンジョンが先輩なんだ、きっと。
そっか、両思いだからだ。
だからこんなにキラキラしてるんだ。
「先輩は凄いです。凄いハンターになるには理由があるんですね」
「そう?」
「はい、まずダンジョンを大好きになることなんですね」
「そうかもね、楓がダンジョンにいるの好きになってくれたみたいで良かった」
「好きです。だって凄く楽しいです」
「良かった。そのうちもっと面白いダンジョンに連れ行ってあげるよ」
「はい。楽しみにしています」




