2 女子寮にて
女子寮に帰ると大変なことになっていた。
「ねえねえねえねえ、皐月先輩と何話したの?」
「連絡先交換した?」
「先輩ってどんな口調?一人称俺?僕?」
「やっぱりいい匂いした?」
「手とか触った?」
「肌すべすべだった?」
同じクラスの女子、隣のクラスの女子、先輩らしき女子、女子、女子、こんなに沢山の女子に囲まれたのは生まれて初めてだった。
黒山の人だかり。
一夜にして時の人となるっていうのはこういうことなんだなあ。
なんか怖い。
悪いこと起こりそう。
私のところだけ隕石落ちてくるとか。
あ、そしたら私リタイヤだから先輩卒業できなくなっちゃう。
それだけはダメ。
卒業式までは絶対生きていなくちゃ。
「えっと、き、緊張してて何話したか、あんまり」
憶えてない。
何話したっけ。
思い出せるのはやたらとかっこいい背中と信じられないくらい美しい顔だけだった。
ホントに何話したっけ。
せっかくお話ししてくれたのに申し訳ない。
「えー、でもこれから一年間ずっと一緒なわけじゃない、いーなー」
「ねー」
「羨ましい、もうホントに羨ましいよー」
「皐月先輩に優しくヨシヨシして貰えるとか、どんだけ前世で徳積んだのー」
「至近距離で先輩見れるとか大丈夫だった?目潰れちゃわない?」
「何とか無事で済みました」
「顔すっごい小さいよねー」
「足めっちゃくちゃ長いし」
「あんなかっこいい人いないよねー、どんな人と付き合ってるんだろー」
「先輩同じ学校の子とは絶対付き合わないらしーよー」
そうなんだ。
「あー、聞いたことあるー」
「年下も同級生もナシなんだもんねー」
「綺麗な巨乳お姉さん、港区のタワマンに囲ってるらしいよ」
「新宿じゃなかったっけ」
「私渋谷って聞いたー」
「祇園じゃなかったっけ」
「先輩すっごいお金持ちなんだよね。総資産いくらくらいあるんだろー」
「先輩の彼女見てみたいよねー」
それは確かに見てみたい。
先輩みたいな人がどんな人を好きになるのか単純に気になる。
あんな全てにおいて凄い人の隣に並ぶことを許される人、それだけで只者じゃないこと確定だ。
ある意味人類最強かも。
あの先輩に認められる人なんて。
「先輩と恋バナできるかもしれないんだ、すごーい」
「先輩気楽に喋れそうな人だった?」
「あ、はい、優しかったです」
キャー、歓声が上がる。
「いいなー、一回でいいから先輩にかまわれたーい」
「ねー」
「頑張ったな、とかイケボで言われるわけでしょ。何その幸運」
「わかんないよー、何やってんだよ、カスとか言われるかも」
「それご褒美じゃん、言われたいよ」
「下手くそとか言われたい」
「あの目で蔑まれたいよねー」
先輩に蔑まれる、うーん、あ、でも蔑まれるような人間だからしょうがないか。
あ、でも怖くて泣いちゃうかも。
泣いたら鬱陶しがられるだろうな。
せめて先輩の前では泣かないようにしないと。
やっと解放されて部屋のベッドで横になっていると恵美ちゃんが来てくれた。
恵美ちゃんとは小学校からずっと一緒。
今年も同じクラスだし、寮でも隣の部屋の大好きな友達。
「楓、大丈夫?」
「何とか」
「大分疲れてるね」
「1日で色々起こりすぎでしょ。人生の五十年分に値すると思う、もうへとへと」
「まあ、ねー、で、実際皐月先輩どーだった?上手くやっていけそう?」
「うーん、わかんない、恵美ちゃんの先輩は?どんな人だった?」
「女子の先輩だよー、優しそうだった」
「よかったねー」
「でもさ、こんな機会滅多にないんだし、楽しんじゃいなよ」
「えー?」
「だって、S級ハンター皐月燐音を見たってだけでも将来自慢できるのに喋ったなんて凄すぎるでしょ、卒業したらもう一生会うことないんだし、あれよ」
「どれ?」
「旅の恥はかき捨ての精神でいったらいいのよ」
「なるほど」
「あんなイケメンもう一生拝むことないんだし」
「確かに」
「実際どんな人だったの?」
「うーん、あんまり憶えてない、悲しい、もったいない、あ、とんでもなくかっこよかった、あとすっごく大きかった」
「語彙力3になってる、あー、いっぱいいっぱいだったんだね」
「うん、顔が素晴らしすぎて、何喋ったのか全然憶えてない」
「あの顔じゃしょうがないって、誰だってそうなるよ」
「そうだよね、そうならないほうがおかしいよね」
「まあでも一気に有名人になっちゃったね」
「一気に入学試験最下位だったって知れ渡ったっちゃった」
「あー、でも他では絶対得られない超貴重な体験ができるんだし」
「うん、そうだよね」
「ホントなら一生縁がなかった人なんだし」
「うん、そうだよね」
「一年間思いっきり楽しんじゃいなよ」
「うん」




