23 王子様かよ
俺は鳥取県警の石田翔太。
階級は警部補、C級ハンター、二十七歳、独身。
好きな食べ物はナポリタンとお寿司とカヌレ。
身長百八十センチ、体重六十六キロ、血液型AB型。
就職の時に有利になるという都市伝説を信じハンター資格をとってはみたものの、ハンターとしての活動は就職してからほぼなし。
つーか、仕事休みの日はアニメ見て、ゲームして、漫画読んでゴロゴロしていたい。
小銭稼ぎのために、貴重な休みにダンジョン行くとか正気の沙汰じゃないと思う。
つーか、下級ダンジョンなんてただで入れる娯楽施設なんだから、ハンターカップルと、学生の集団だらけでうるせーし、だからといって知らない人とパーティー組んでちゃんとしたダンジョン行く体力は今の俺にはない。
まぁ、俺のクソしょぼい経歴はどうでもいいとして、こんな俺に人生におけるとんでも出来事が舞い降りた。
どうやら俺、皐月燐音に会えるらしい。
あの日本ただ一人のS級ハンター皐月燐音に。
C級ハンターのこの俺が。
深夜三時突如発生した鳥取初のS級ダンジョン。
鳥取にはA級ハンターどころかB級ハンターすらいないので、ハンター協会がハンターを派遣してくれることになったのだが、どうやら皐月燐音が来てくれることになったらしく、俺が案内役を任されることになった。
やったー。
マジで皐月燐音見れるんだ俺。
信じらんねぇ。
皐月燐音、マジで。
本物見れるんだ。
やっべー。
俺の人生におけるスーパーハイライトになっちゃうじゃん。
ホントに皐月燐音に会えるのか。
すげー、俺。
はっきりさせておくが、俺は女性が好きだ。
大好きだ。
今は彼女はいないが、一昨年まではいたし、今もいれば楽しいだろうなとは思うが、いかんせん腰が重いのだ。
つーか、めんどくさい。
一人って楽でしょ?
俺映画も一人で見たいし、旅行も一人で行くの平気なんだよね、飯も勿論一人で食うの大好き。
自分の食いたいものを、食いたいペースで食いたいの、俺は。
あ、俺の話はいいや。
皐月燐音だ。
ハンターをやっていて、皐月燐音を知らない人間なんていない。
嫌、この国の国民なら名前だけなら知っているだろう。
世界一のハンターが日本にいるということは、我が国が他国に誇れる唯一の自慢だ。
そう俺は皐月燐音に会えるのをすごく楽しみにしていたのだ。
どういう気持ちと聞かれたら、野球少年がプロ野球選手に会えるってのが一番しっくりくると思う。
正しくそんな感じだ。
見てみたいんだよ、拝んでみたいんだよ、世界最高のハンターを、この目で。
そう俺は深夜に滅茶苦茶テンションが高かったのだ。
ダンジョン用観測ゴーレムからダンジョンの最深部に子供の生体反応があると言う一報を聞くまでは。
「お疲れ様です。お待ちしておりました」
「お疲れ様です」
「鳥取県警の石田です。C級ハンターです」
「皐月燐音です。よろしくお願いします」
本物、本物の皐月燐音。
すげー、マジ美形。
ホントに人間?
顔良すぎだろ。
オーラ出すぎ。
金髪に緑の目とか、王子様かよ、嫌魔王か。
つーか、デケェ、え、二メートルある?
背高すぎだろ、足長すぎだろ、つーか、マジで何頭身あんの?
それともどっかで本物の皐月燐音がこのイケメンを遠隔操作してるだけで、このお兄さんはただの雇われイケメンモデルだったりする?
んなわけねーか。
つーか、この人ホムンクルスじゃねーの、だって、こんな顔いいなんてことある?
なんか、すげぇ、すげぇしか言えねぇ。
圧勝ってこういうのだよな。
世界最強って世界一顔がいいって意味だったんだな、え、これで、マジで強いの?
必要?それ。
俺が見たこの世で一番顔のいい男去年朝ドラの撮影で境港来た高橋京だったんだけど、余裕で抜いたわ。
こんなんと並んだらどんなイケメン日本代表も公開処刑だろ、こえー、マジこえー。
この人アイドルモブにしちゃうじゃん、やばすぎ。
「鳥取砂丘にいるんですよね?」
「あ、はい、ダンジョンは鳥取砂丘内を移動しているようです、あ、乗って下さい」
俺は紙を放り投げ式神極楽鳥を出す。
俺は紙を鳥などの飛行するものに変えることができるが、攻撃力としては弱すぎるので、俺のハンターとしてのキャリアは頭打ちなのだ。
でも皐月燐音に会っちゃった、会っちゃったよ、俺。
皐月燐音が俺の水色とピンクとオレンジ色のややマヌケでファンシーな顔をした極楽鳥に乗り込む。
ひゃっほー。
今まで生きてきて一番嬉しいかも、これ。
「じゃあ行きますね」
「お願いします」
「それにしても早かったですね、どうやって鳥取まで?」
公共交通機関は勿論止まっている。
「走ってきました」
「東京から鳥取までですか?」
「走ったのは神戸からですね」
神戸から鳥取って大分あるんですけど、まぁいいや。
「神戸まではどうやって?」
「それは秘密です、ハンターですから」
「あ、そうですよね、すみません」
「行方不明になっている子の名前はなんていうんですか?」
「あ、伊藤洸太君、小学五年生です。身長は百四十センチ、体重三十九キロ、あ、写真これです」
時系列として纏めると、米子市内の小学生男子が友達の家から夕飯の時間になっても帰って来ないと母親から警察に通報。
事件、事故の両面で捜索を開始するが、なんの手掛かりもなく、二十三時捜索を一旦終了、これが昨日ゴールデンウィーク最終日。
深夜三時S級ダンジョン出現を確認、皐月燐音派遣決定で俺浮かれる。
ダンジョン観測用ゴーレムが鳥取砂丘内に出現中のS級ダンジョンから小学生男子らしき生体反応を確認。
俺は皐月燐音を乗せてひたすら鳥取砂丘上空を飛んでいる。
つーか、その白ジャージすっげえハイブランドのものなんかな。
高そう。
つーか、ジャージでこんな違い生み出せるとか、怖すぎだろ、世界最強ハンターというより、こいつこそラスボスだろ。
味方でよかったー、頼もしすぎる。
顔見てるだけで、なんか俺まで負ける気がしねぇ。
これがS級ハンターのバフか、すげぇ。
あ、今なんかすっげぇダンジョンに行きたい。
「いた」
「え、わかるんですか?」
砂しか見えねぇけど。
やっぱ特殊な目とか持ってんのかな?
緑の目ビーム出そうだもんね。
「はい、次出現したら飛び乗ります、こうたくんを
救出できたらすぐ戻るので、あんまり遠くへは行かないでください」
「わかりました」
って、あ、降りちゃった。
って、うわー、ダンジョン上から叩いて、最深部行くとか、脳筋かよ。
つーか、S級ハンターの本気パンチこえー。
すげー音した。
痛そう。
当たったら死ぬじゃなくて、灰になるかも。
あ、違うか、本気出してたら山陰ごと吹っ飛ぶよな、嫌日本ごと吹っ飛ぶか、多分相当手加減してくれてるわ。
ありがとう、皐月燐音。
って、あれ、もう帰ってきた。
着ていた黒ジャージを脱いで、黒Tシャツになってる。
腕太くない?
丸太?
コイツ魔法使えなくても、普通に肉弾戦でもやれるだろ。
本気ラリアットくらったら来世ごと消滅しそう。
「こうたくんです」
俺は黒ジャージに包まれた洸太君を受け取る。
「もう一回降りるんで、石田さんはこうたくん連れて砂丘から出て下さい」
「はい、あ、洸太君下ろして、終わったら迎えに来ます、どれくらいかかります?」
「十五分もあれば」
「十五分?え?S級ダンジョンですよね?」
「はい」
「朝ドラ見てるうちに倒せるわけですか」
「朝ドラ?」
「去年鳥取が舞台だったんですよ、ラブレスの高橋京が出てて、あ、すみません、つまんない話して」
「いえ、伯母が見てました、朝ドラ」
「え?」
「懐かしいですね」
あ、降りちゃった。
わ、来た来た、なんか、あれ、バベルの塔に似てるな。
バベルの塔ってダンジョンだったのかな。
つーか、あの皐月燐音が小さく見えるとか、ダンジョンでけー。
当たり前のことだけど。
あー皐月燐音無双見ていたいけど、洸太君早くお母さんのところに返してやんねーと。
待機していた先輩に洸太君を任せ、鳥取砂丘へと戻ると、皐月燐音が立っていた。
朝焼けときらきら光る宝の山らしきものをバックに従えて。
黄金の髪が光を携えている。
まるで王冠のようだ。
そりゃそうか、この世で一番強いなら、それはもうこの世全ての王だよな。
大きな戦争は二度と起こらないと言われている。
特に我が国が攻められることはないだろうと。
皐月燐音がいる限り。
世界のパワーバランスを変えた男だ。
やはり顔も骨格からして違う。
俺は今日という日を語り継ぐだろう。
伝説と出会ったんだから。
でも実際倒すとこ一個も見てないんだよなー。
あ、でもすっげーパンチ見れたからいいか。
課金しないでこんなもの見せてくれるとか、ハンターって、いいな、なんか、かっこいい。
「あ、お疲れ様です、乗って下さい」
「ありがとうございます」
「すごいですね、この短時間でアイテム回収もしたんですか?」
「A級以上はちゃんとアイテム回収しないと会長がうるさいんで」
「そうですか、これはちょっと乗らないですね」
俺の極楽鳥は成人四人が限界だ。
「協会に連絡したので後は任せます」
「え、でも、協会が来る前に盗まれちゃうかもしれませんよ、いいんですか?」
「別にいいです」
「そうですか、じゃあ行きましょうか?」
「ありがとうございます」
「疲れましたよね、あ、鳥取駅でいいですか?始発まだですけど、あ、それともどこかで休まれますか?」
「いえ、今日から授業なんで帰らないと」
「そうですか」
そういや高校生だったな。
まともに授業とか受けてるんだ。
世界最強の男が。
「いいですね、この鳥」
「そうですか?ありがとうございます」
褒められたー。
世界最強ハンターに褒められたー。
俺死ぬ時この皐月燐音の走馬灯見るんだろうなー。
この異常すぎる美しい横顔を何度も何度も。
このイケボが脳内再生されるのか、エンドレスループで。
「ありがとうございました」
「あ、いえ、お疲れ様でした、また来て下さい」
「はい、今度は観光でゆっくり来たいです」
嵐のような男だった。
テンペストとはああいうことをいうに違いない。
俺の静かな人生に二度と現れないだろう。
出会えて良かった。
皐月燐音は俺のことなどすぐに忘れてしまうだろうが、あ、そういえば石田さんて呼ばれた。
皐月燐音は人の名前を覚えないタイプの天才ではないらしい。
まぁ来週には忘れてるんだろうけど。
皐月燐音と出会った俺は、夏までに絶対に彼女を作ろうと硬く決意した。
次の休みは出会いを求め、久しぶりにダンジョンへ行こうと思う。
だって人生最後に思い出すのは最強イケメンハンターではなく、愛する女性や子供達であって欲しい。
頑張ろうな、俺。
とりあえず、かっこいいジャージを買って、今日から筋トレ再開だ。




