22 ハンターは自分のことを喋らないもの
「今日は何処いったん?」
「東京ドームの近くの、あれ、観覧車ある」
「あー、楓ちゃん喜んどったやろ、あの子素直に何でも喜びそやもん」
「うん、観覧車の中からスライム草が飛んでるのが見えて、可愛い可愛い言ってた」
「へー」
「楓といるとさー、俺何でも喋っちゃうんだよね」
「ええやんそれ」
「いいのかなー、ハンターって自分のことペラペラ喋らないもんなんだよって父さんは言ってた」
「楓ちゃんやからええやん」
「楓にさー、俺のこともっと知ってほしいって思ってるのかな」
「知らんよ、自分のことやん」
「自分のことだけどよくわかんないんだよね」
「そのうちわかるよ」
「そうなの?」
「うん」
「自分のこと知ってほしいなんて思ったの生まれて初めてかも」
「そりゃそやろ」
「でも何で楓?」
「さあ、何でやろね」
「可愛いから?」
「それもあるんちゃう」
「何であんな落ち着くんだろ」
「さあ」
「楓といると父さんのこと思い出した。今までずっと思い出したことなんかなかったのに」
「楓ちゃんとお前のオトン似とるん?」
「似てないよ、楓は可愛いけど、父さんは可愛くないよ」
「何でやろね」
「一緒にダンジョンに行く人だからかな」
「そうなん?」
「だって俺父さん以来だと思う、人と一緒にダンジョンに行ったの、一回だけなら何人かいるけど、何回も行ったのは楓と父さんだけ」
「さよか」
「楓に憶えていて欲しいのかな」
「自分のことを?」
「うん、遺言、なのかな」
「何やそれ」
「俺が死んだ後も楓に俺のこと忘れてほしくないのかなって、俺のことずっと憶えていてほしいのかなって」
「お前みたいなん、強なくても忘れたりせーへんよ、その顔で忘れられてまう思てるん?ないよ、ないない」
「今日帰りにさ、楓の中学の友達に会ったんだよね、東京ドームの始球式見に行ったんだって、ラブレスの京くんって知ってる?」
「アイドルやろ、知っとるよ、妹が好きやもん」
「俺は知らなくて、まぁそれはどうでもいいんだけど、その子達は俺の知らない楓を知ってるんだなって思ったんだよね、俺は楓のこと何にも知らないんだよね」
「知り合うたばっかやん、しゃーないよ」
「そうなんだけどさ」
「モヤモヤすんねんな」
「そうなの?」
「嫌知らんがな、自分のことやで、俺にはわからんよ」
「モヤモヤしたことないからわかんない、これがモヤモヤ?何でするの?」
「さぁ、お前がそう思たらそーなんちゃう、何でするかは知らん」
「俺ダンジョンのことすら振り返らないのに、楓と話したこと振り返ったりしてるんだよね、こんな話して良かったのかなとか、あの言い方で良かったのかなとか、こんなの初めて」
「そりゃそやろ、楓ちゃんはダンジョンとはちゃうもん」
「変じゃない?」
「変ちゃうよ、普通や」
「普通なんだ」
「そや、普通やから心配せんでええよ」
「そっか、話したこと何回も思い出すの普通なんだ」
「大丈夫、何も変なことなんかあらへんよ」
「でも楓だけだよ」
「それはそやろ、楓ちゃんはお前にとって特別なんちゃう」
「一緒にダンジョンに行くから?」
「それもあるかもしれへんけど、それだけやないと思うよ」
「ダンジョンで一緒にいるから楽しいだけなのかなって思ってたんだけど、今日帰りに蕎麦食べたんだよね、蓼丸蕎麦でさ、別に何も話さなかったんだけど、混んでたから、無言で二人でさ、蕎麦食ってさ、でもなんか楽しかった、ダンジョンにいないのに楽しいなんて思ったことあったかな、ついでにアイスも食べたんだけど、あ」
「どしたん?」
「手元に置いておきたいもの聞かれた」
「なに、それ?」
「ダンジョンで獲得できるアイテム全部売ってるって何にも残してないって言ったら、どういう物なら手元に置いておくのかって聞かれた」
「なんて言うたん?」
「思いつかなかった」
「それは別にええんとちゃう、気にすることちゃうやろ」
「でもせっかくだから考えてみようかな」
「誰にも渡さんと自分で一生持っときたいもの、宝物やね」
「宝物かぁ、確かにそれならダンジョンにありそう、というよりダンジョン以外で見つけられるわけないか」
「それはわからんよ、蕎麦屋にあるかもしれへん」
「そーなの?」
「人それぞれやからね、大事なもんは」
「大事なものかぁ」
「見つけんでも、気ぃついたらあるもんかも」
「嫌、ダンジョンでしょ、俺はまだ究極のダンジョンに出会えてないんだから、出会えたらそこで見つけられるかも」
「究極のダンジョンねぇ、どんなん想定してるん?」
「そんなの決まってるでしょ、俺を殺せるダンジョンが究極のダンジョンだよ」




