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20 先輩がいたら装備は何もいらない

十三階まで登り、サボテンの海を抜けた先に細長い白い石が眩い光を放っていた。

縦の長さは丁度私のお腹が隠れるくらいです。


「この石触って」


「あ、はい」


私が右手で石に触れると朝潜ってきた石の門の前にいた。

あれれ、振り出しに戻った?


「転移石だよ」


「先輩」


「あの石に触ると、入り口に戻れるんだよ」


「便利ですね」


「そうだね」


「どのダンジョンにもあるんですか?」


「下級ダンジョンにしかないかな、ラスボスを討伐した後勝手に誰かが持ってくるんだよ、確か四十四階と、六十九階と九十二階にもあったはず」


「皆これで入り口に戻って、お昼ご飯食べるんですか?」


「まぁそれもあるかな、流石にダンジョンの中にフードコートは作れないから」


「ですよね」


「まぁホントのところは階段を降りるのがめんどくさいからだと思うけど、何食べたい?」


「えっと、焼きそばとお好み焼きが食べたいです」


「じゃあ並ぼっか」


「はい」


先輩はホットドッグとチキンカツサンドを食べた。ダンジョンに来てお箸を使って食べるのは邪道なのかもしれないと改めて認識した。

焼きそばとお好み焼きはアツアツでとても美味しかった。


「じゃあダンジョンに戻るから、俺のことどこか掴んで」


「あ、はい」


私は先輩のスエットの裾を掴んだ。

白い壁には34というマジックで書かれた数字が見える。


「先輩、ここ、転移石のあった階の上ですか?」


「うん」


「えっと、どうやってここまで?」


「俺は一回行ったダンジョンはいつでも行きたい階層に行けるようになってるから」


「先輩便利ですね」


「まあね」


先輩、転移石よりずっと便利。

先輩いたら装備なんて何にもいらないんじゃ。

というより、どんな装備品より先輩のが高いよね。

世界一のハンターだもん。


「じゃあ百階目指して階段登ろ」


「はい」


百階にたどり着くと見えてきたのは、青い空、白い雲、赤い。


「観覧車」


「ここのラスボスが倒された後観覧車になったんだって」


「そうなんですか、ダンジョンって面白いですね」


「でしょ?この世に似たダンジョンはあっても同じダンジョンは絶対にないんだよ、ダンジョンは全て世界に一つなんだよ、凄くない?」


「凄いです」


「ちなみに観覧車になる前のラスボスがあれ」


先輩が観覧車の下にある銅像を指差す。

トカゲのような、ワニのような大きな二足歩行のリザードマンらしき銅像が建っている。

右手に斧、左手に槍を持っているけど、見た目だけならあんまり強くなさそう。


「観覧車並ぼっか」


「はい」


観覧車の側には背の高い水色の髪をした綺麗な巻き髪のお姉さんがいて、ドアを開けて微笑んでくれた。


「ホムンクルスだよ」


観覧車が動くと先輩がそう教えてくれた。


「誰かが置いて行ったんですか?」


「多分ね」


「ダンジョンに来て観覧車に乗るとは思ってなかったです」


「そうだね」


先輩の横顔綺麗。

景色見てる方がいいかな、先輩の横顔見てる方がいいかな。


「何?」


あ、見てることバレちゃった。


「あ、いえ、なんでもないです」


景色を見よう。

せっかく連れてきてもらったのに、先輩見てるの悪いよね。

先輩はいつでも見れるんだし。


あ、そういえば今二人きりだ。

いつも二人きりだけど、本当に今は二人きりって感じがする。

地上から離れた隔絶された空間だからかな。

世界から二人だけ切り離されてるみたい。


「小さい頃、多分四つか五つくらいの時に来て、父さんと乗った」


「そうだったんですか」


「うん、いいよね、観覧車って」


「そうですね」


「スライム草食って、泡吹いて、父さんに直してもらって、スライム草食って、また泡吹いて、だからこのダンジョンスライム草食ってた思い出しかないんだけど、この観覧車乗ったことだけは何か憶えてた」


「ラスボスが観覧車になるなんてロマンチックですもんね」


「そうだね」


「わ、あれなんですか?」


「スライム草が風に飛ばされてきたんだよ」


「わー、可愛い」


お饅頭くらいの大きさの色とりどりのスライムが観覧車の周りをクラゲのようにふよふよと漂っている。


「よくあることなんですか?」


「初めて見た」


「先輩がですか?」


「スライム草が飛んでるのは見たことあるけど、観覧車からは初めて」


「じゃあ珍しいもの見れたんですね」


「うん」


「かーわいー、わ、くっついたりしてる、かわいー」


「来て良かった」


「はい」


「俺さ、幼稚園も小学校も行ってなかったから、ダンジョンで字も九九も教えてもらったんだよね」


「お父様からですか?」


「うん。ダンジョンってさ、割と待ち時間あるから、雨が降ってる時とか雪が降ってる時しか出てこないモンスターとか、五時間に一度しか出てこないモンスターとか、朝と夜では形態が違うモンスターとかいるから、その待ち時間にひらがなとかカタカナとか漢字とか英語とか算数とか教えてもらった、でも父さんが中一の時に死んじゃって、伯母さんに引き取られたんだけど、伯母さんがさ、これからはちゃんと学校に行きなさいって言ってさ、その時夏休みだったんだけど、二学期からまともに通えるようにって家庭教師つけてくれてさ、八月いっぱい毎日朝ご飯食べてから夕飯までずっと勉強してた」


「それはしんどいですね、一日中机に向かうなんて疲れますよね」


考えただけでゾッとする。

私には無理、途中で漫画読んだり、ゲームしたりしたくなっちゃう。


「うん。ダンジョン行きたくってさー、伯母さん十時には寝る人だったから、伯母さん寝たら家抜け出してダンジョン行ってた、で、ダンジョンで寝て、朝帰ってた」


「夜お家抜け出すの怖くなかったんですか?危ないですよね?」


「何で?俺もうその頃世界一のハンターだったんだよ、ダンジョンが一番安全だよ、ダンジョンの空気がいんだよね、安心する。だって一日中机に張り付いてたんだよ、あんな窮屈なの人生で初めて、ダンジョン行くのが最高の息抜きだった」


「そうだったんですか」


「伯母さんがさー、ちゃんと学校行かないと社会常識のない人間になるってうるさくってさ、ハンターなんて一生できるかわからないんだからって、一生できなくても、もう一回の人生じゃ使いきれないくらい金あんのに俺。変な人なんだよ、俺の収入だけで一生遊んで暮らせるのに、毎日行きたくない行きたくないって言いながら会社行ってさ、休みの日はずっとベッドで寝てるような人だった」


「そうですか」


「だから中学時代はダンジョン行ってる時間以外はずっと勉強してた、多分一生分した」


「先輩はどうして魔術学院に入ったんですか?」


「理事長が熱心に勧誘してくれたし、修学旅行行きたかったからかな」


「修学旅行ですか?」


「うん、二年で行くやつ」


「はぁ」


「中学の修学旅行は行けなかったんだよね、急な要請かかって」


「そうなんですか」


「ダンジョンで世界中行ってるけど、実際はダンジョン以外行かないから観光とかしたことなかったんだよね、旅行ってのがしたことなかった」


「はぁ」


「だからお土産とか初めて買った」


「あ、お土産買うの楽しいですよね、お土産屋さん見てるだけでワクワクします」


「そうだね、伯母さんしか持って行くところないから持って行ったんだけど、ちんすこうと紅芋タルトより一緒に持って行ったピザとポテトの方がよっぽど喜ばれた」


「お菓子はちょっと好みがありますもんね」


「楓も苦手なお菓子ある?」


「私は甘いものなら何でも好きです。ちんすこうも紅芋タルトも貰ったらすごく嬉しいです」


「俺が初めて見たってことは父さんもこれ見てないんだろうなぁ」


「あ、そうですね」


「俺父さんのこと何にも知らないんだよね、自分のこと全然話さなかったから、俺を世界一のハンターにしたがってたことしかわかんないんだよね、それも何でしたかったのかもわかんない。俺にとったら父さんは謎」


「あ、でも、世界一のハンター、それは叶ったじゃないですか」


「そだね、じゃあ俺はそこそこ親孝行できたわけだ」


「そこそこどころか、すっごくですよ」


私はすっごくを強調した。

そうしないと伝わらない気がしたから。

ううん、そうしても伝わらない気がした。


「そっか、生きてるうちに世界一のハンターにはなれたから、父さんに関してはもういいのかな」


「はい、そうですよ。お父様すっごく嬉しかったと思います」


「あとは史上最高のハンターになるだけか」


「もうなってますよ」


「まだだよ」


「まだですか?」


「うん。もっと積み上げないと、誰もついてこれることない領域まで行かないと」


「今でも十分ついていけないと思いますけど」


「まだまだ、もっと行くよ俺は」


「どこまでいきたいんですか?」


「どこだろね、自分でもよくわからない」


「まだ満足してないんですよね?」


「全然してない、ひょっとしたら一生できないかも、ダンジョンがある限り」


「ダンジョンがある限りですか?」


「うん。俺はいつか死ぬわけだけど、俺が死んだ後もダンジョンはあるわけじゃない?」


「はい、ありますよね」


「俺が死んだ後もダンジョンで楽しめる人間がいるってことがまず嫌」


「はぁ」


「引いた?」


「いえ」


「こういうダンジョンならいんだけどさ、もっと強い、それこそ俺を殺してくれるようなダンジョンで俺以外が楽しむとか想像すると嫌なんだよね、羨ましすぎてイライラするというか、単純にムカつく」


「はぁ」


嫉妬だ。

流石先輩、この世全てのダンジョンは自分のものってことだよね。

やっぱり格が違う。

この領域に行ける人だけがS級ハンターになれるんだろうな。


「だから、あ、そうだ、俺はこの世のダンジョン全てを攻略し尽くして死にたい、それこそ俺の死後ダンジョンがもう現れないようにしてから死にたい」


先輩ダンジョンへの愛が重い。

先輩の彼女とか奥さんになる人は大変だなぁ。

だって永遠に先輩の一番になれないもん。

先輩の中のダンジョンを越えられないもん。

先輩とダンジョンが両思いすぎて、間に入り込めない。

先輩って、ダンジョンの次に何が好きなんだろ。

二番目くらいなら越えられるのかな。

あ、それよりも。


「先輩ダンジョンなくなっちゃったらハンターのお仕事なくなっちゃいます。困ります」


「あ、そうだね、ははっ。でもきっと俺はそうするよ」




















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