1 はじまりの日
「一年一組佐藤楓です。一年間よろしくお願いいたします」
体震えちゃう。
空気重い。
世界が落っこってきそう。
もう帰りたい。
この後何言ったらいいんだろ?
「せ、先輩の足を引っ張らないように、精一杯頑張ります」
違う、これ違う、頑張るなんて普通、当たり前。
大前提。
それにもう足既に引っ張ってるし、あ、どうしよ、どうしよ、余計なこと言っちゃった。
「す、すみません。私がいる時点でご迷惑ですよね、本当にすみません」
「嫌、別に迷惑なんて思ってないし、座ったら、取り敢えず」
座る、どこに?
正面でいいのかな?
向かい合うなんて、図々しくない?
学院トップどころか、ハンター界のトップオブトップ。
世界最強の先輩に。
私みたいな、学年さ、最下位が。
「ほら、ちゃくせきー」
先輩が右手をひらひらと上下させると私は自然とベンチに腰を下ろしてしまった。
先輩魔法かけた?
そんなこと私なんかにわざわざしないか。
「まあ、そんな心配しなくていいよ、俺が大体毎年年間1500億WAR稼ぐわけなんだけど、お前が1300億くらいマイナスすると仮定して、2位の勇人が100億くらいだから、どっちみち俺が1位だよ、だからそんなビビんなくていいよ」
「は、はい。すみません」
「なに、俺そんなこわいー?」
「いえ、そんなことないです」
改めて顔が良すぎる。
美しすぎ。
ゲームとか漫画から抜け出てきたみたいなんて表現が、こう、なんていうか生温い。
世界最強な上に顔面国宝とか強すぎて実在を疑うレベル。
皐月先輩こそ、私達人類が見ている集団幻覚なんじゃ。
さらさらの金髪に緑色の目は宝石みたいに輝いている、生まれつきなのかな?
生まれた時からこんなに綺麗なの?
この姿だけでも私達と同じ生き物な気がしない。
生物として格の違いを感じる。
完全な再現不可能な特注品。
同じものなんか作れるわけがない。
本当に凄い。
私今、世界一顔のいい人と向かい合っている。
しかもこの人世界一強いの。
そういえば喋っちゃった。
会話してる。
凄い、奇跡。
本当なら一生すれ違うことすらなかった人と。
先輩声もかっこいいな。
先輩持ってないものなんてあるのかな?
「で、お前何ができんの?」
「え?」
「魔法」
「あ、えっと、回復、だけです」
「あー。ヒーラーなんだ。まあA級にならない限りダンジョン一人で行くことないから、攻撃できなくても別に困んないか」
首傾げた。
凄い、どこから見ても完璧。
同じ次元で生きてると思えない。
別格。
美形って単語この人のためにあるんだ、きっと。
「回復って自分以外にも使えるやつ?」
「あ、はい、勿論です」
「まあ、でも俺には使ってもらうことはないかな、俺攻撃受けないから」
「あ、そうですか」
そうなんだ。
まあ、最強だもんね。
「他なんか聞きたいことある?」
「え」
「俺に、質問とかないのー?」
えっと、えっと、どうしよ、なんか聞かないと。
「あ、皐月先輩は身長何センチですか?」
「197、お前は?」
「わ、私ですか、150センチです」
「そんなちっちゃいんだ、まあ、まだ伸びるか、他には?」
「えっと、あ、好きな食べ物はなんですか?」
「ハンバーガーとピザ」
手掴みで食べられるものが好きなのかな。
忙しいもんね、S級ハンターって。
「お前は何が好きなの?」
「えっと、アップルパイとシュークリームです」
「ふーん」
「あの、先輩、その、先輩の髪と目は生まれつきなんですか?」
失礼かな、でもせっかくだから聞いてみたい。
だってひょっとしたら今のこの状況私の妄想かもしれないし。
「嫌、生まれた時は髪も目も黒かった、七つくらいの時にダンジョンでさ、緑の目をした化け物に体の中に入り込まれて、体内で爆死させたらそいつの色が溶け出してこうなった」
「そうだったんですか」
先輩なら黒髪黒目アナザーバージョン、皐月燐音オルタもかっこいいだろうな。
え、でも体内で爆死?
ばくしって、あの爆死だよね?
先輩って子供の時からもう全然違ってたんだ。
ぼーっとしてたら先輩はいつのまにか私の隣にいた。
なんで移動?
え、どーやって?
テーブル挟んでたよね。
先輩の右手が私の髪に伸ばされる。
私は先輩の緑の世界に閉じ込められたみたいに思考が止まる。
「桜、ついてる」
先輩がピンク色の桜の花びらを私に見せる。
先輩が持っているだけでこの世に一つしかない、とんでもなく価値のあるものに見えるから不思議。
「あ、すみません」
「いっつも誰に対してもそんな感じなの?」
「そんな感じ、とは?」
「ビクビクオドオド」
先輩が言うと立派な呪文みたい。
なんか大きな壁みたいな召喚獣でも出てきそう。
それも3匹。
「すみません、不愉快ですよね、すみません」
ひー。
もうどっか行っちゃいたい。
「嫌、面白いからいいよ」
「面白いですか?」
「うん、なんか面白いからそのままでいいよ、そのままでいて」
「そうですか」
「うん。そのまま一年間俺のこと楽しませて」
先輩相当変わった人なの、かな?
S級ハンターだもんね。
それも日本でたった一人の。
特別な人、特別であることが許される人。
先輩凄いな。
目逸らしたくないなって思ってしまう。
一瞬でも見逃したくないなって、ずっと見ていたい、この綺麗に夢みたいな人を。
あれ、これ魔法?
「先輩ほんとに綺麗ですね」
「よく言われる」
あ、笑った。
微かだけど、絶対先輩笑った。
笑い方も全然違うな。
この人と同じ人なんてどこにいるんだろ。
同じ領域に行ける人なんているのかな。
そばにいるのに映画館のスクリーンを見ているみたい。
どうしたって現実味がない。
本当にこの人いるんだよね。
私人生の強運ここで全部使い切るんだろうな。
だって一年間もこの美しい人をこの距離から見られるんだもん。
「すみません、あ、じろじろ見ちゃって」
「いいよ、見られるの慣れてるし、俺もお前のことずっと見てるからお互い様でしょ」
「あ、あの先輩なんか魔法とかかけてます?」
「かけてないけど、何で?」
「いえ、あの、なんかさっきから目逸らせないので、魔法かなって」
「そんなのわざわざかけないよ」
「そうですよね、すみません」
じゃあ普通に魅了されてるんだ。
でもしょうがないよね。
この美貌だもん。
いなくなったら世界滅んじゃいそう。
流石史上最強の先輩。
「じゃ、連絡先交換して今日は解散しよっか」
「あ、はい」
先輩が立ち上がったので、私も立ち上がる。
身長差凄い。
お月様見てるみたい。
ううん、お月様より先輩の方がずっと綺麗、キラキラキラキラ輝いてる。
先輩が実は星だったとしても私信じると思う。
人間であるっていうよりよっぽど信憑性があるもん。
「ま、明日とりあえず一回ダンジョン行ってみよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「別に用意するもの何もないから、元気に来てくれたらいいよ」
「あ、はい」
「とりあえず、俺の後ろをくっついて歩いてたらいいよ。歩けなくなったら抱えてあげるから何も心配しなくていいよ、お前軽そうだし」
「あ、これ以上重くならないようにつ、努めます」
「嫌、成長期なんだからいっぱい食べなー」
「は、はい。いっぱい食べさせていただきます」
「じゃあ一年間よろしく、楓」
先輩は屈んで私の目を見て笑った。
先輩が去っていく姿を私はただ見ていた。
その背中が余りにもかっこよすぎて、絶対に忘れたくなくて、先輩が見えなくなった後も中々女子寮に入れなかった。
これが私と皐月先輩のはじまりだった。




