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13 一年生側ベンチにて

「皐月先輩とかなり仲良んだな」


ベンチへと戻り、筧君に呼びに来てくれたお礼を言うと抑揚のない声でそう言われた。


「えっと、そうなのかな?」


「仲良いっていうか、距離感バグってるっていうか」


距離感。

そうだよね。

あんなに凄い先輩と私ごときが、あんなに近づいたらダメだよね。

図々しいよね、私みたいな学院最下位が、あの麗しい皐月先輩とあの距離でお話しするなんて、絶対におかしいよね。

なんかとんでもなく悪いことが起こるんじゃ。

今日ファールボールが顔面直撃するとか。

痛そう、絶対痛い、絶対やだ。


「皐月先輩、凄く優しいんだよね。私最下位なのに凄く親切にしてくれてて、なんか、こう、申し訳ないっていうか、穴があったら入りたい、というか、一回くらいは入らなゃダメだよね、一回どころか百回?」


「入らなくていいでしょ。最下位とか全く気にしてないと思うよ、自分が強い人なんか特にそうだって。人のことなんかなんとも思ってないよ。そもそもS級ハンターってもう、違うっていうか、人間じゃないし。でも皐月先輩って普段あんな感じなんだ」


「あんな感じ?」


「甘えたりするんだなって」


「甘える?」


誰に?


「まぁでも何言われてもあんまり真に受けない方がいいよ、たった一年の付き合いなんだし、身の危険を感じたら全力で逃げて、まぁ楓じゃ逃げられないだろうけど」


「身の危険って、先輩が私に危害を加えるってこと?」


「危害って、まぁ、うん、そんな感じ」


なんだろ、新しい設定の人体実験するとか?

でも先輩のお役に立てるなら、私に出来ることならなんでもしたい。

でも先輩がそんなことするなんて。


「そんなの絶対有り得ないよ」


設定のこと言っていいのかな。

言わない方がいいよね。

私の能力じゃないし、先輩が公的に発表しているわけじゃないんだし。


「ないといいけど」


「ないよ。先輩優しいし、いつもどこでも庇ってくれるの、だからそんなこと絶対ないよ」


「あ、そう、まぁどっちみち逃げられないから警戒したって一緒か、助けを求めても助けられる人間なんてこの世にいないし」


「え、なんで逃げるの?」


「でも嫌なら嫌ってはっきり言った方がいいと思う。まともな人なら聞いてくれるわけだし、まぁまともな人である可能性は限りなくゼロに近いけど」


「先輩といて嫌なことなんか何にもないよ、毎日凄く楽しい、毎日いいことしかないよ」


「そ、でも強いハンターって変わった人が多いっていうか、唯我独尊、世界は自分中心に回ってるって思っても、まぁ、あの人くらい強かったら不思議でもなんでもなくて、寧ろそれが正解、なのか」


「あ、それはそうだよね」


「しょーがないか、あの人倒せる人類なんて居ないんだし」


「あ、そうだよね、世界一強いんだもんね」


「まぁ倒せるとしたら、とんでもダンジョンが出現したとかになるんだろうな」


そういえば先輩、ダンジョンで死にたいって言ってたな。

先輩が死んじゃうなんて絶対やだ。

想像だけで泣いちゃう。

あの夢のような姿がこの世から消えてしまうのが悲しい。

ずっと元気で生きていて欲しい。

そして楽しく、いつも幸せであって欲しい。

ずっと、ずっと、きらきらした輝きとしてこの世にとどまっていて欲しい。

いつもずっと見ていたい。

遠くからでいいからずっと。


「まぁ、あの人倒せるダンジョンなんて出て来たら、それは全人類が滅びるときだろうけど」


「そうだよね、先輩強いもんね」


「強いっていうか、化け物でしょ」


「化け物かー」


「A級まではギリ人間、S級からは人外」


「そんなに違うんだ」


「違うよ、全然違う、S級は人間やめてるから」


「そっか、そうだよね」


「まぁS級もフライ打ち上げたりするみたいだけどね」


「あ、そういえばさっきはフライ取ってくれてありがとう、私なら完全に落としてたよ、今日私のせいで、二本ランニングホームランになっちゃったし」


「別に遊びでしょ、気にすることないって」


「筧君野球部じゃなかったよね、なんであんなに上手に取れるの?」


「別に、あれくらい誰でも取れるでしょ」


「あ、そうですか」


「皐月先輩こっち見てるよ、手振ってみたら?」


「え?見てるのかな?」


「見てるって、振ってみて」


「え、うん」


私は右手を先輩に向けてこっそり振ってみる。

先輩は気づいてくれたみたいで右手を振ってくれたので、私は嬉しくなって、左手も振ると、筧君が吹き出した。


「筧君、なんで笑うの?」


「別に、あの人も手振ったりするんだなって」


「そりゃ振るでしょ」


「結構振り回してんだ」


「何が?」


「なんでもない、まぁ頑張れ、応援はしてる」


「え?うん、頑張るね」


「しかし、オーラすげぇよなあの人、瞬きだけで人殺せそー」


「うん。先輩ホント綺麗だよね」


「あー、うん、すげぇ顔だと思う、人類の最高到達点、バグって感じ、身体すげぇデカいし」


「足すっごく長いんだよ。ホントかっこいい。まつ毛もすっごく長いの、目宝石みたいなの、ずっと見ていたいよね」


「俺は男だからそういうのは別にない」


「あ、そうだよね、ごめん」


「でも楓、お前すげぇよ」


「私?どこが?」


「たった一ヶ月で先輩の中にあんなに入り込めるってすげーって、ゼロ距離だったじゃん、あの人って、特別とかそんなレベルの人間じゃないでしょ」


「え、あ、うん、そう、だよね」


「先輩楓のこと」


「私のこと?」


「いいや、皐月先輩のおもしろエピソードとかなんかあんの?」


「面白いエピソード?」


「あんだけ一緒にいたらなんかあんじゃねーの、ちょっと残念なエピとか」


「皐月先輩の残念なエピソード」


この一ヶ月の皐月先輩を思い出してみる。

残念?

おもしろ?

ないなぁ。

きらきらしてたこと、かっこよかったことしか思い出せない。

優しくて、綺麗で、眩しくて、世界の全てって感じ。


「ない、一個もない」


「あっそ」


先輩と残念なんて言葉、どうしたって結びつかない。

先輩で思い出せる残念は、ダンジョンからの帰り道の終わり、女子寮で別れる時、あの時だけ。

遠ざかる先輩の背中を見ていつも残念、じゃなくて寂しいって思うんだ。

明日も会えるのにいつも思うんだ。


「先輩綺麗、キラキラしてる。先輩見れただけでも生まれてきて良かったって思うんだよね、なんか幸せ」


「楓も大分きてんね」


「え?」


「まぁしょうがないか、あんな人と一緒にいたら狂わざるえないもんね」






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