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10 初めてのスライム、そして花に埋もれる

美味しいピザとたこ焼きでお腹を満たし、午後は先輩と学院から一番近くにあるE級ダンジョンへとやって来ました。

ダンジョンには人口ダンジョンと天然ダンジョンの二種類があります。

人口ダンジョンはハンターが作ったダンジョンのことで、B級ハンターから制作することが許可されています。

勿論事前申請が必要です。

天然ダンジョンはそのままの意味です。

勿論天然ダンジョンを攻略する方が価値があって、稼げるWARもお金も比べ物にならないし、危険度も全然違います。


「あいつ何で楓のこと呼び捨てにしてんの?」


「あいつって、誰のことですか?」


「佐倉」


「あ、佐倉君は中学も一緒で、一年の時うちのクラス佐藤さんだけで七人いたので、もう皆名前で呼ぼうってことになって」


「へー」


「佐倉君とは部活も一緒だったんです」


「何部?」


「バドミントン部です。佐倉君一年生の時から全国大会出てたんですよ」


「へー」


あ、興味なさそう先輩。

そうだよね。

私の中学時代の部活なんて興味ないよね。

でも先輩、バドミントンやっても私よりずっと上手なんだろうな。

先輩何やっても上手くできそう。

できること数えるより、できないこと探していった方が早そう。


「世話になってるって何?」


「え?」


「あいつ楓に世話になってるって」


「うーん、お世話って言われても、ちょっと思い当たらないです、一緒の班なのでそれでかなーって」


「へー」


佐倉君のことが気になるのかな?

千早先輩と先輩凄く仲良さそうだったから、佐倉君がどんな子か知りたいのかな?

佐倉君は、中学三年間同じクラスで、いつも元気で明るくて、優しいから、男女問わず人気があって、人懐っこくて、可愛い顔してるから試合に行くと他校の女子にも騒がれてたな。

これ言った方がいい情報かな。

聞きたいかな、先輩。

先輩と千早先輩、美男美女でお似合いだったな。

あれくらいの人じゃないと釣り合い取れないよね。


「あ」


私が思わず比較的大きな声を出してしまったので、先輩が立ち止まる。

私は先輩の背中にぶつかり、思わず、先輩のパーカーを掴んでしまい、先輩が振り返ってくれる。


「あ、ごめん突然止まって。楓、大丈夫?」


「すみません、私がおっきな声出したから」


「なんかあった?」


「いえ、あの、スライムが見えたので」


「あー、楓スライム初めてかー」


「はい」


道の先には色とりどりのスライムが待ち構えている。

このまま真っ直ぐに進めば鉢合わせだ。

スライムが襲いかかってきたら、先輩の設定に弾き飛ばされ爆散してしまう、可哀想。

スライム可愛い、顔がある、グミみたい、ぷにぷにしてそう、触ってみたい。


「触ってみたい?」


何でわかるの?先輩。

私そんなに触りたそうな顔してるのかな?

恥ずかしい。

でも触ってみたーい。


「はい、触ってみたいです」


「じゃ、設定解除するね」


「そんなことできるんですか?」


「できるよ、俺がかけてるんだから、解除もできる」


「便利ですね」


「そうだね」


先輩が背を向け歩き出す。

スライムまであと少し。

ワクワクしていると、スライムの大群がいきなり襲いかかって来た。

スライムは先輩のご尊顔まで数センチのところで動きを止め全員磁石のようにくっついてしまった。

先輩が振り返る。

凄い、先輩の周り、スライムだらけ。

スライムアーチ。

スライムの後光。

先輩スライム背負ってる、スライムの王だ。


「どれがいい?」


「え?」


「触ってみたいんでしょ?どの色がいい?」


「えっと、じゃあ、紫でお願いします」


「はい」


先輩は右手でバスケットボールくらいの大きさの紫色のスライムを本棚の本を取る要領で取ってくれた。

私は恭しく両手で受け取る。

人生初スライム。


「ぷにぷにです」


「そうだね」


「軽いんですね、それに冷たくないです、ちょうどいい体温」


「うん」


私は指でスライムの頬をつつく。

なんて気持ちのいい弾力。

想像以上のぷにぷにだ。

可愛すぎる、手乗りスライム。


「可愛いですね」


「そう?」


「可愛くないですか?」


「うーん、スライムはどこのダンジョン行っても絶対いるから、もう可愛いとかいう段階は過ぎたかな、正直自分の顔とかよりよっぽど見てるし」


「慣れちゃったんですね」


「うん、だから楓の反応が新鮮」


「そうですか」


スライムが私の頬にすりすりしてくる。

この感触他にない。

可愛いよぅ。


「可愛いです。連れて帰りたい」


「急にでっかくなるからやめた方がいいよ」


「そうなんですか?」


「うん。いきなり女子寮壊しちゃうかも」


「それは困りますね」


「もうそろそろいい?」


「あ、はい」


「スライムならこれからいつでも見れるよ」


「はい」


先輩はスライムを私から片手で受け取ると背後に放り投げた。

先輩が投げた方向を見るとスライムは跡形もなく消えてしまっている。


「先輩、スライム消えちゃったんですけど」


「別の階層に投げたから」


「そんなことできるんですか?」


「うん。行こ」


その後もスライムしか出てこなかった階を抜けると唐突に真っ白なお花畑が出現した。

さっきまでいかにも地下迷宮って景色だったのにダンジョンって自由だな。


「綺麗ですね」


「うん、行ってみよ」


「はい」


本当に白と緑しかない世界。

どこまで続いているんだろう。

私が壮大な景色に圧倒されていると、先輩はお花畑に寝転んでしまった。


「楓も寝っ転がってみな、全然痛くないし、気持ちいーよー」


「あ、はい、失礼します」


先輩の隣に腰を下ろし、そうっと頭を下ろす。

ふんわりと白いお花達が包み込んでくれる。

花に埋もれている。

先輩と二人で。


「この花はダンジョンにしか咲かないんだよ」


「そうなんですか、不思議ですね、なんかあったかいです」


「人喰い花だからね」


「え?」


「大丈夫、自分より強い奴は食わない、むしろおもねってくれる」


「はあ、じゃあ私食べられちゃうんじゃ」


「大丈夫、こいつは楓を俺だと認識してるから、絶対食ったりしないよ」


私が先輩?

どういうこと?

まあいいか。

何だかとっても心地いい。

いい匂い。

この匂い好き。


「なん天国みたいですね」


「えー?」


「先輩がダンジョンで死にたいって気持ちなんとなくわかる気がします」


「でしょ?」


「このまま寝ちゃいそうです」


「ダンジョンで寝ちゃうの?」


「先輩ダンジョンで寝たことあります?」


「あるよ、しょっちゅう」


私はそのまま本当に寝てしまい、気がついた時には先輩に背負われていた。


「え?先輩?」


「あ、目覚めた?」


「すみません、おります、降ります、すみません」


「いいよ、気持ち良くて寝ちゃったんでしょ、寮に着いたら起こしてあげるから、寝てな」


「いえ、あの、重いので降ろしてください、すみません」


「軽いよ」


「すみません、本当にすみません」


「気にしなくていいって」


「でもせっかくE級ダンジョンに連れていってもらったのに、勿体無いです」


悲しい。

リュックサックの方がよっぽど役に立つよ。

あ、リュックサックと比べるとか烏滸がましい。

あんな実用的で皆大好きで由緒もあるものに。

私より役に立たないものって何だろう。

あー、浮かばない。


「いつでも連れてってあげられるから大丈夫だよ」


「すみません」


「楓は野球大会、どこ守るの?」


「あ、私はレフトです」


「ははっ、戦力外通告」


「そうなんですか?」


「うそうそ」


「先輩はどこ守るんですか?」


「センター」


「あー、先輩っぽい」


「何それ?」


「えっと、かっこいいってことですかね、センターって響きがもうかっこいいです」


「楓俺のことかっこいいって思ってるんだ?」


「はい、先輩凄くかっこいいです」


「ありがと」


「あのお花畑綺麗でしたね?」


「うん」


「ダンジョンの中にお花畑ってよくあるんですか?」


「あるよ」


「人喰い花ですか?」


「が多いかなぁ」


「あ」


「ん?」


「綺麗な夕焼け、青とオレンジが混ざってる、きれー」


「楓は綺麗なものが好きなんだね」


「そうなんですかね?でも綺麗なものを見ると幸せな気持ちになりますよね」


「そうだね」


そっか。

先輩を見てると幸せなのは、先輩が綺麗だから、綺麗なものを見せてくれる人だからだ。

こんな人私の周りに今までいなかった。


次の日先輩と同じE級ダンジョンに行ってみたけれど、昨日の果てしなく続いていたお花畑はもうなくなってしまっていた。

たった一夜で。


「お花畑なくなっちゃったんですね」


「同じものが二度と見れないのも天然のダンジョンの醍醐味だから」


「そうなんですね」


「うん、だから今この状況をめいいっぱい楽しんで」


「はい、毎日目に焼き付けていきます」


別の階層に行くと、大きな木の根元であの白い花が少しだけ揺れていて、先輩は一輪だけ取ると私の髪にさしてくれた。

それは一瞬の出来事で、花はすぐ風に消えてしまい、私達だけが残された。


「行っちゃった」


「行っちゃいましたね」


「嫌われちゃったかな」


「お花にですか?」


「あんまりつれなくすると、そりゃあ、ねぇ」


「そうですか、人喰い花にも気持ちがあるんですね」


「まあ、生きてるからね」


私達は暫く空を見上げていた。

私は先輩と同じ青を見ていた。





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