03 「可愛い音」
宗ちゃんと一緒に帰って、3人でお兄ちゃんが作った夕飯を食べた。わたしの両親はというと、今それぞれツアー中だ。お父さんの榊楽は指揮者で、お母さんの初音は日本舞踊をやっている。今の時期は、毎年忙しくてお兄ちゃんと2人が多い。今、お兄ちゃんと宗ちゃんは、部屋で仕事をしている。暇なわたしは、リビングのソファーで、雑誌をパラパラめくりながら撮り溜めてた連続ドラマの録画を観ていた。ちょうどいいところでCMになったときMelodieのPVの一部が流れ始める。こういう時は慌てていつも早送りしてしまう。だって、恥かしいし。だけど、今回は早送りする前に一時停止してしまった。だって、そのPVに映っている男の子が、知り合いだっていうことに気づいてしまったからだ。
「わ~マジ?わたし聞いてなかったよ。光くんが出ているなんて!」
CMに出ている男の子――真条光は現役高校生モデル。そして、Melodieと同じ会社の事務所に所属している。今では、モデルの他に俳優業もやっているみたい。歳は、わたしの2つ下。まだあどけなさが残ってて人懐っこい弟みたい。すごく可愛い。わたしは、テーブルの上に置いていたスマホのロックをはずすと、手慣れたように電話をかけ始めた。
『もっしもーし!奏ねぇちゃん?どうしたの?こんな時間に。』
その言葉に、部屋に飾ってある時計をみる。すると、針は22時近くをさしていた。
「あっ、ごめん。今、PVがテレビで流れていて、光くんが出ていたから思わずかけちゃった。遅くにごめんね?」
時間を確認するのを忘れていたため、焦ったように謝った。
『そうなんだぁ。大丈夫だよ!ありがと。ホントはね、奏ねぇちゃんと撮りたかったんだよ。』
そう可愛い声で言う光くんも、わたしたちの秘密を知っている内の1人。同じところに所属しているから、仕事が一緒になることが多い。でも、本当の理由は会社の中で迷子になって、助けて貰ったのが光くんだったのだ。秘密を知っている希少価値な存在なため、よくジャケットのモデルとか頼んでいる。そういう繋がりで、何度か顔を合わせるようになって今はすっかり姉弟みたいで仲良し。
「でも、わたし顔出しするのはNGだよ。」
『そんなことないって!奏ねぇちゃん、綺麗だし可愛いし・・・あっ、ちょっと待って!』
遠くの方で、女の子たちの声が聞こえた。悪いことしたかなぁ、デート中だったりしてと電話口の声に耳を傾けた。すると、ぼそぼそと聞こえる会話は、ちょっとやばそうな雰囲気を醸しだしていた。
『――っ・・ごめん!奏ねぇちゃん。』
「大丈夫?デート中・・・だったりとか?」
『違うよぉ~なんか、仕事帰りでファンの子に出待ちされていただけ!ホントだよ?』
焦った口調で返してくる光くん。ちょっと、声が大きくなっている。すると、それに反応して『光く~ん!』とか『こっち、向いてぇ!』みたいな声が聞こえた。そのとき、電話口から少し離れたところから光くんの怒鳴る声が聞こえた。どうやら、また光くんはやってしまったらしい。
「ごめんね、なんか邪魔しちゃって。」
『もしかして、聞いてた?』
「えーっと・・・聞こえてた・・かな。」
光くんは、15才にして実力重視って考えているから、出待ちされるとか騒がれることが嫌いだと以前言っていた。一応、最初は愛想良く天使のほほえみを浮かべるらしいが、余りしつこいとキレてしまう。スマホの奥から聞こえていた声は、確かにキレていた。でも、今ではそのギャップが、ファン急上昇の秘密でもあるみたい。
『だって、しつこいんだもん。あーあのね、奏ねぇちゃん。明日、暇?土曜日だから学校もないでしょ?』
「明日?新曲を聴く事になっているけど。」
『え~折角、ボク仕事ないのにぃ!じゃっ、ボクも参加しよ!』
「えっ!!?」
『ボク、Melodieの次のPVの話も来てるからさ。そのあと、付き合ってよ。』
勝手に決めて大丈夫なのかと心配していたが、自分たちが所属しているところは比較的、自由だと思うのでその心配はすぐに消えていった。
わたしが、所属している事務所は、Sky Soundsという会社。初代の社長が20才の若さで起業して、Visiterという謎の音楽グループがヒットしてから、ずっと波に乗ってて今では世界進出している大会社になった。今は、お兄ちゃんの大学の友人である天城葉月さんが、社長として着任している。葉月社長になってから、モデルやデザイナーの方にも業種拡大して、今では音楽業界と並ぶほど有名になっていた。
「新曲の!?」
『そう、結構今回のウケが良かったみたい。また、ボクでやりたいってさ。それで、いいよね!?』
「うん、いいよ。別に用事はないから。」
『やりぃ~!奏ねぇちゃん、スキ~!!明日何時から?』
「あはは、ありがと!11時には、会議室でミーティングを始めるって。」
「おーけー、じゃ、また明日、バイバイ。」
わたしは、終話ボタンをタップしてう~んと背伸びをした。そして、テレビを消して閉じた雑誌を持ちながら自分の部屋に向かった。時計はいつの間にか23時を迎えようとしている。随分話しちゃったなぁと反省しながら、階段を登っていった。
「お風呂、入って早く寝なきゃ・・・。」
光は、奏が通話を切るのを確認すると、自然と口がにやけるのを抑えきれなかった。光のマネージャーである茅楓が、バックミラー越しに、自分を見ているのに気づいた。
「何かよう?ちーちゃん。」
「別に?なんか、楽しそうだったなって・・・。」
茅のにやけ顔に、光は照れて視線を窓に映した。ネオンの灯りがチラチラと揺れて、夜独特の雰囲気を出していた。ムスッとした光は、茅に言葉を投げつけるように言った。
「明日、会社に行くから。」
「ぇえ!!仕事、お休みでしょ?」
「ちーちゃんは、休みで良いよ。ボク、一人で行くからさ。」
「あっそう?じゃ、気をつけるんだよ。」
普通は、こういう風にならないが、この会社は特別で休むときはきちんと休むって決まっていた。だから、勝手に入れてもそれは自己責任になる。遅刻しても自己責任、ドタキャンしたらなおさら。だから、きちんと出来てないとものすごく怒られる。光がそれを実感したのは、奏と初めて出会ったときだ。光は、奏とぶつかったお陰で遅刻した。そのときは、イライラしたが逆に奏に出会えたっていう嬉しいこともあった。だから、その時はどんなに怒られてもなんとか耐えられた。
「・・・はぁ、可愛い音が聞こえたんだけどなぁ・・・。」
それっきり、聞こえない音――。
「何か言った?」
「なんも、言ってない。」
「ふ~ん、明日、頑張ってね!光ちゃん。」
「ちーちゃんのお節介・・・。」




