01 「始まりの音」
“人は誰でも、ココロの中に自分自身の『音』を持っているんだよ。それぞれの音が惹かれ合って生まれる恋もあるんじゃないかな?”
爽やかな笑顔で雑誌に載っているのは、わたしのお兄ちゃんの榊律。お兄ちゃんは、若手作詞・作曲家として、世界中で注目されている超有名人。そのきっかけとなったのがMelodieという音楽ユニット。そこでお兄ちゃんはRitsuという名前で活動している。はじめに言っておくけど、わたしは絶対ブラコンじゃない。でも、お兄ちゃんはかっこいいから年齢層関係なく人気がある。そんなお兄ちゃんの妹をやっているのが、わたし――榊奏。実は、そのMelodieのボーカルをやっている、と言ってもバリバリ芸能人ってわけじゃない。
顔が知れているのは、お兄ちゃんだけで、わたしは声のみ。顔も姿も正体不明って事になっているの。だから、噂が想像を生んで今じゃ、どびっきりの美人とかになっていると思う。だから、今更名乗ってがっかりさせても自分が傷つくだけだし、表に出る気はさらさらない。因みに、Melodieで活動しているときのわたしの名前は、音。
「あ~!!どこにいってもRitsuの話題・・・なんか、お兄ちゃんに見張られているみたいで・・いやぁぁあ!!」
あぁ、すっきりした。色々息が詰まると、学校の屋上で叫んでいる。最近は、昼休みに叫ぶのが日課になりつつある。だって、学校ではわたしの兄が芸能人だって知らないから毎日お兄ちゃんの話題があがっている。そういうのって、お兄ちゃんに見張られているみたいで気になって、気になって心穏やかに過ごせない。だから、いつも大声で叫んで、新しい空気を思いっ切り吸い込んで気分転換をしている。
「なにそれ、すごい声。お前、何やってんの?Melodie嫌いとか?」
「――っ!!」
水タンクが置いてある少し高めの位置から、太陽の光を吸い取った様なキラキラした金髪が見えた。耳には無数のピヤス、そして少しつり目の男子生徒が話しかけてきた。その生徒は、今居たところから飛び降りて、綺麗に着地する。そして、わたしの前に立つといつものムスッとした顔から、わたしの顔を見て破顔する。
「まさかっ、お前がここで叫んでいるなんてなっ!?深窓のお姫様で有名だったのに、これじゃあ、ファンが泣くぜ・・・あっははは。」
「深窓の姫って、なにそれ?それはわたしじゃないし、別に・・わたしはただ・・。」
目立たないように、静かに過ごしていただけ。でも、目の前に居る彼――同じクラスの黒崎龍人。彼がわたしの名前を知っているのは意外だった。だって、高校に入学してから、ずっとさぼりの常習犯で、クラスにいるのもめったに見ない。
「ただ?ただ何?」
意地悪な瞳で、彼はわたしを見る。その目に、わたしは怒ったように頬を膨らませてにらみ返す。だって、からかうようにわたしを見るから。
「何でもない!あんたには、教えない!」
ベーッと舌を出して、クルッと回転すると彼に背を向けた。しばらく無言が続く。わたし、何かまずいこと言ったかな。自分でやっといて気になってきた。仕方ない、そう思うとわたしは、ゆっくり彼の方に向き直してみようとしたが・・・。
「――っ!!ちょちょっと、黒崎龍人!!」
何が起こったのか理解できないわたしが、ようやく理解できたころには、黒崎龍人に抱きしめられていた。当然のごとく再び、頭の中が真っ白になる。何が起こったの?唯一はっきりしているのは彼の吐息が耳にかかること。吐息が耳にかかって、くすぐったい。違う!違う!そうじゃない!
「奏。オレ――・・ってかお前って、こういうの慣れてないって感じ?茹だこより赤いんだけど。」
大声で笑いながら、わたしの肩に顔を埋めていた。状況が飲み込めない。何がおこっているの。めちゃくちゃ顔が熱い。血液が沸騰しているみたい。体が固まっちゃって逃げられない。体が言うこと聞かないんだけど。
「ホント、面白いな。お前。」
これってわたし、からかわれたって事なの。目が点状態のわたしは、当然のごとく目をパチパチさせながら、この状況に飲み込まれていた。そんな様子が、黒崎龍人には面白いのかしばらく笑いは続いた。
「あっははは・・やっぱり、噂とは違うんだな。あ~ぁ、面白かった。奏・・・いただきます。」
彼がそう言うと、わたしの首にキスを落とした。チクッと小さな痛みが走る。そして、子供のような笑顔を浮かべて、わたしを解放した。彼は、自分の親指を唇に当てると、不敵な笑みを浮かべながら舌を出して舐めた。だんだんと恥ずかしいとか驚きとか色々な感情が沸き上がって、キスされた首に手を添えながら、渾身の一撃と共に叫んだ。
「この変態!!いただきます、とかじゃないから!」
「――っう!!何するんだ!この暴力女!ってか気にするところはそこかよ。」
「それは、こっちのセリフ!この変態!」
ぷるぷる震えながら、わたしの怒りは当然のごとく頂点に達した。今のわたしを鏡に映すとしたら、鬼神のごとく荒ぶっている形相だと思う。羞恥の限界、涙出てきた。たぶんこの涙は、嬉しいとかじゃなくて、絶対悔しい方だ。そりゃあ、女子の間では黒崎龍人は一匹狼みたいで人気があるし、男子にも好かれている。でも、それとこれとじゃ話は別。
「どうして、初会話でこういう流れになるのよ!?」
心と頭がぐちゃぐちゃのまま大声で叫ぶと、急いで校舎の中に避難した。
「こんな顔じゃ、教室に戻れないよ。」
体中が焼けるように熱いのを、気にしながら階段にペタリと座り込んで顔を両手で覆った。
「なんなのよ・・・あいつ。」
奏が、屋上から居なくなってから龍人はフェンスに寄りかかって空を見上げた。
「初会話じゃないけど・・・ってかあの顔は反則・・・だよな。」
龍人は、怒った奏の顔を思い出して赤くなった顔を手で隠しながら言った。高校の入学式、遅刻しそうになった奏は、急いで中庭を走っていた。そのとき、たまたま龍人が寝ていたところを踏んだのだ。奏は、姫様と呼ばれるぐらいあって綺麗だ。また、ゆるいウェーブのかかった黒髪が、反対にかわいさを出していた。噂とは違う、奏を知っていたから龍人はその殻を破ってみたかった。
「あれじゃ、覚えてねーんだろうな。まぁ、寝起きだったから・・オレ威嚇してたと思うし・・・アイツの慌ててたからな・・ぷっ・・ホント、おもしれーヤツ。」
同じクラスになったのに、話しかけることはしなかった。あまり気にもしていなかった。でも、ここであったときに確信した。
「オレの中に、“音”が聞こえた。まだ、小さい音・・・始まりの音――。なーんてな。がらでもねぇ~。」
龍人は、苦笑しながら言うと元の位置に戻って横になると、規則正しい寝息がリズムを刻みだした。




