02 「大切な家族だから」
わたしが、次に目が覚めたときはもう空が明るくなっていた。元気が出る小鳥のさえずりや散歩をしている人に吠えている犬の鳴き声。それが、朝だと告げていた。ゆっくりとソファーから降りる前に、思いっ切り背伸びをすると間接がきしんだ。痛い。泣きながら寝ちゃったんだ、とブツブツと言いながらソファーから足を降ろした。
むにっ
絨毯の上に足が着いた割には、生暖かい感触が足の裏に伝わった。この感触を確かめるように、もう一度押してみる。その行動と合わせて、苦しむような小さい声が聞こえた。
「・・・ふふふ、わたし・・・知らない。気づかなかったの・・そうよ。そうなのよ。」
お兄ちゃんは、わたしの足の下にいなかった。これは、お兄ちゃんじゃないと現実逃避することに決めた。しかし、その先から地を這うような声が聞こえた。
「かぁ~なぁ~でぇ~!」
「おっお兄ちゃん!!」
「オレを踏むなんざ、いい度胸してるじゃねぇ~か!」
「いや~事故!コレは、事故なの!」
がっしりとお兄ちゃんは、わたしの足首を掴んだ。慌てて足をばたつかせようと、動かしたけど無駄だった。変わりにわたしが引きずり下ろされる。
「きゃっ!!」
わたしは、お兄ちゃんに覆い被さるように落ちる。それは、お兄ちゃんも予想していなかったのか、お互い驚いていた。
「奏。」
「・・お兄ちゃん。」
兄妹の間に、変な空気が流れる。お兄ちゃんの瞳が、意外と真剣で妹なりにドキドキしてしまった。やっぱり、お兄ちゃんは格好いいのかも知れない。でも、次の言葉でお兄ちゃんに殺意を覚えた。
「奏・・意外と成長しているもんだな?」
「はぁ?」
お兄ちゃんは、何かを確かめるようにしっかりと抱きしめた。わたしの頬が、お兄ちゃんの胸にぴったりとついた。トクントクンと単調に動く心臓の音が聞こえる。すごく、安心する音――。
「う~ん、やっぱりまだまだ足りないが、ガキだと思っていたのに知らない間に成長するもんだな。」
「お兄ちゃん!?・・・律兄!!」
「うわっ・・ごめん、ごめん。からかいすぎた。謝るから怒るなって。」
奏は、怒ると律のことを『律兄』と呼ぶ。その真意は、分からないが言葉遣いが格段に悪くなるのだ。しかも、怒った奏は手のつけようがない。
「ホントだよ。変態!セクハラ!」
「ひどいなぁ~オレは、素直に妹の成長を喜んでいただけなのに。」
お兄ちゃんは、クスクス笑いながら「ごめん。」って何度も呟いていた。そして、わたしを起こすと、目の前に座らせてわたしの頬を、ぷにぷに指で押していた。
「もうっ、許してあげないんだもん。」
「ぷっ・・あっははは。中身はまだガキ!・・ホント。クスクス、おはようございます。泣き虫お姫様。」
そうお兄ちゃんは言うと、わたしの髪をひと束とると、片目を閉じながら、悪戯っぽく笑って髪にキスをした。
「う~~~~~!!!律兄!!」
わたしは、言葉にならない叫び声を上げたあと、お兄ちゃんの両頬を思いっ切り引っ張った。ドキドキするぐらい格好良かったから――。




