07 「龍と虎で嵐の予感」
沈黙のまま光くんはわたしの手を引っ張りながら先に歩いていく。ついていくのも精一杯となったときに、ドンっという音と共に何かにぶつかった。当然のように私もバランスを崩してします。
「――っ。」
「・・光くん、大丈夫?・・・すみません。不注・・・黒崎龍人。」
どうやら光くんは、わたしの天敵とぶつかってしまったようだ。
「奏ねぇちゃん、知り合い?」
沈黙は肯定、そして無意識に昨日付けられた首のあざを手で覆い隠してしまった。その行動に、光はハッとした表情を見せる。そして、最悪な考えが頭を過ぎった。それを証明するかのように、目の前にいる黒崎龍人は、不敵な笑みを零して立っていた。
「奏、龍人でいいって。普通、フルネームで呼ぶかよ。それより意外だよな。学校と全然違うじゃん、お前。」
「別にいいでしょ!なんで、こんな所にいんのよ!」
顔を少し赤くしているだろうわたしが、あわてて龍人に言った。光くんは、自分と居るときの奏と違う一面を見て、モヤモヤした気持ちが胸の中で、ぐるぐると回っていた。
「別にオレの勝手だろ!?・・そういや、コレ弟?」
龍人は、光くんを指さしながら聞いた。すごくピリピリした空気が2人の間にあるのを感じた。だからなのかもしれない、気後れしてすぐ否定できなかったのかも。わたしより光くんが先に否定してくれた。ただ、売り言葉もセットで。
「違うよ!それより、お前こそ何?」
「はぁ?何、ケンカ売ってんの?」
「誰が?はっ、ないね。デートの邪魔しないでよ!お兄さん。」
光くんは、攻撃的な瞳を龍人に向けた。龍人も龍人で光くんを鋭い瞳で睨む。まさに、龍と虎――。どちらが手を出すのか分からないぐらいケンカしそうな勢いだ。
「あっあのさ、2人とも、落ち着いて?」
「ボクは、いつも通りだよ!」
「オレも、こんなガキ相手に本気になるかってーの!それより、奏・・・。」
中途半端に言い残すと、龍人は自分の首を指してにこっと笑った。そして、口パクで「残ってるな。」と動かすと口角をあげて悪戯が成功した子供のような笑顔を向けた。
「なっ――・・!!龍人!!」
回りを気にせず大きな声で、叫んでしまった。通りすがりの人の視線が一気に集まる。光くんもわたしの声に驚いたみたいだった。
「なぁ、お前ら付き合ってんの?」
「ちっ・・ちがうよ!」
「だって、さっきデートって言ってたろう?」
「買い物してるだけ・・だよ?ねっ!?光くん。」
もちろん悪気はない、でもただ、それだけだったはずなのに、わたしが見た光くんの顔はすごく傷ついた表情を浮かべていた。それは、とても悲しそうで泣き出しそうなぐらい。それは、とてもひどいこと言ってしまったと感じるぐらいだった。
「ふ~ん。」
不適な表情で、龍人は相づちを打っていたが、それはどこか嬉しそうだった。少し口角をあげて、優位に立っているように見つめる龍人は光の機嫌を損ねるには十分な理由だったようだ。なぜならその表情を見た光くんは、わたしの手をさらに力強く握ると、また引っ張るようにその場から急いで離れようとしたから。
「ひっ光くん?」
無言のまま――でも、光くんは何かを耐えているように下唇を強くかみ締めていた。龍人の不機嫌な声が、わたしの背後から聞こえる。でも、そんなのお構いなしに光くんは私の手を強く握りながらその場を後にした。
「アイツ、奏の何なんだよ。」
そう呟きながら、その場に残された龍人は自分の額に手を当てた。すごく楽しそうに、知らない男と歩く奏を発見して、すごくとまどいを隠せなかった。そのことが、ずっと頭を離れなくて、たまたま、通ったこの道で最初見たときと全然違う服を着ていて、龍人はすごく焦った。奏が、学校とは全然違う雰囲気で自分が知らない彼女だったからだ。
「オレ・・・格好悪――。」
龍人は、自分のさっきの行動に苛立ちを募らせていた。なぜなら、年下の男に、嫉妬していたからだ。それに、困らせて奏の頭の中からさっきの男を消したかった。
「ハハハ、オレってこんなに独占欲強かったっけ・・・。」
龍人は、淋しそうに嘲笑しながらその場から去っていった。




