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第7話 共同研究とすれ違い

植物園での実験を経て、より深い共同研究を始めたエリックとリサ。植物園では、温室エリア、日本庭園、などの様々なエリアを周りながら、実験を行いつつ、リサの母親との思い出話などあり、心の距離は少しずつ近づいているはずだったが、そんな二人に研究に関する意見の食い違いで、すれ違いが起こってしまう。


植物園での実験を経て、より深い共同研究を始めたエリックとリサ。しかし、実験の方向性やデータの見方で意見が食い違い、ふたりの間には小さな緊張が走る。真面目すぎるゆえの対立を、エドガーが心配そうに見守っている。



ラボの一角。ホワイトボードには、共同実験のプロトコルと試薬のリストが書かれている。


「この刺激条件、やっぱり弱すぎるわ。明確な細胞応答が見られないもの。」


リサが実験データを見ながら厳しい口調で言う。


「でも、瞑想や祈りって、本来は穏やかな精神状態を作るものでしょ?強いストレスをかけたら、自然な精神的介入の効果が測れなくなる。」


エリックが穏やかに反論する。


二人は実験条件について、厳密に結果を求めるリサとありのままの自然な効果を重視するエリックとで、対立していた。



「それは理想論よ。科学的に証明するためには、もっと厳密にやらないと意味がない。」


リサの声が少し尖る。


「最初から『祈りに効果がある』って決めつけてない?まずは効果があるかどうかを証明するのが目的でしょ!」


「そうじゃない!僕は自然な状態での修復過程を観察したいんだ!」


エリックの声も次第に大きくなる。



「自然な状態って何?曖昧な条件で曖昧な結果を出して、それで満足するの?」


「曖昧じゃない!ありのままの状態を科学的に分析することの何が間違ってるんですか!」


二人の声が研究室に響く。周りの学生たちも、ちらちらと視線を向け始めた。



「あなたって、結局感情論で物事を考えてるのね!」


リサが冷たく言い放つ。


「図書館で居眠りしてるような人が、真面目に研究できるとは思わなかったけど!」


エリックの表情が変わった。


「それは…関係ないでしょ…」



「関係あるわ。研究に対する姿勢の問題よ!」


「僕だって真剣にやってます!リサさんこそ、頭が固すぎるんじゃないですか?!」


「固い?」


リサの目が光る。


「私は科学的根拠を求めてるだけ。あなたみたいに感覚で物事を決めるのは研究者として問題よ。」


議論はエスカレートしつつ、お互いの個人的な欠点にまで及んだ。


挿絵(By みてみん)


「感覚じゃない!!」


エリックの声が裏返り、目に涙が滲んできた。


「僕には僕なりの考えがあるんです!」


その涙目での必死な反論に、リサは一瞬言葉を失った。


「その考えが甘いって言ってるの!」


リサも感情的になって言い返すが、エリックの涙を目にして、一瞬動揺する。


エリックはペンを取りホワイトボードへ向いた。

何かを書こうとするが、手先が震え、顔は俯き涙を堪えていた。

リサはただ黙って、エリックの後ろ姿を見つめていた。


挿絵(By みてみん)


周囲の他の学生たちも、2人の感情のぶつかり合い、また、エリックの様子を見ながら、ヒソヒソ小声で話している。


(リサ先輩、普段もクールで近寄りがたいけど、リアルで口論だけでも怖いな……)


(エリックが、リサ先輩に対してあんなに大声をあげて、感情的になるの初めて見た…)



少し離れたところで、エドガーが2人の感情的な議論を心配しながらこの様子を見ていた。


(おいおい…この2人、真面目すぎて喧嘩してるじゃないか)


苦笑いしながら首を振る。


(どっちも正しいこと言ってるのに、なんで対立してるんだ?)



エドガーがゆっくりと二人に近づく。


「まぁまぁ、ちょっと休憩しようか。」


「エドガー、今は…」


「今だからだよ。」


エドガーが穏やかに割って入る。


「二人とも頭に血が上ってる。これじゃあ建設的な議論にならない。」



「でも、実験条件について決めないと…」


リサが抗議しようとする。


「リサさん、あなたの言う厳密性も大切だ。でもエリックの言う自然性も無視できない。」


エドガーが両手を広げる。


「なんで一つの方法に絞る必要がある?両方やってみればいいじゃないか。」



「両方?」


エリックが首をかしげる。


「そう。厳密な条件での実験と、自然な条件での実験。二つのアプローチで比較検討する。」


エドガーがホワイトボードに図を描きながら説明する。


「データが多いほど、結論の信頼性も上がるだろ?」



エドガーの提案を聞いて、二人は少し冷静になった。


「確かに…比較研究という観点では有効かもしれない。」


リサが小さくつぶやく。


「僕も…一つの方法に固執しすぎてたかも。」


エリックも反省の色を見せる。



「あのさ…」


エドガーが二人を見回す。


「お前ら、本当は同じことを目指してるんだよ。精神的介入の効果を科学的に証明したい、って。」


「アプローチが違うだけで、ゴールは一緒だろ?」


挿絵(By みてみん)


二人は顔を見合わせた。確かにエドガーの言う通りだった。


「すみません…感情的になってしまって。」


リサが先に謝った。


「僕こそ…もっと冷静に議論するべきでした。」


エリックも頭を下げる。



「よし、それじゃあ改めて実験計画を練り直そう!」


エドガーが満足そうに言う。


「今度は協力してな!」


二人は少し恥ずかしそうに頷いた。でも、まだお互いに対する微妙な違和感は残っていた。



真面目すぎるゆえの衝突。それは研究への情熱の裏返しでもあった。


しかし、この小さなすれ違いが、二人の関係に新たな課題を投げかけることになる。

お読みいただきありがとうございます。

今までの穏やかな二人が、初めて研究の方向性についての意見の食い違いで、お互いに真面目すぎるが故に、大喧嘩に発展してしまいましたが、エドガーの介入により、お互いに何とか冷静になれて、良かったですね。

二人とも、研究の事になると、自分の考えに固執してしまうため、これをきっかけに協力できれば良いですが。

ご読了ありがとうございました。


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