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第6話 植物園での研究デート?

今回、研究のためにエリックたちが訪れる、デンバーボタニカルガーデンは、世界中の植物を集めて展示・研究している植物園です。緑に囲まれた空間で、自然の恵みや四季の彩りを楽しむことができます。(本格的な日本庭園もあります!)

温室や庭園を備えたボタニカルガーデンは、研究の場でありながら、人々の憩いの場としても親しまれています。

※イラストはあまり再現されてません。申し訳ありません。

実際の映像は、是非とも検索してご覧になって下さい。

テニスでエリックの新たな一面を見てから数日が経った。


リサは自分の心の変化に困惑していた。研究パートナーとして見ていたはずの相手が、いつの間にか一人の男性として意識されるようになっていた。



「今日の共同実験、植物園でやりませんか?」


エリックがラボで提案した。


「癒しの環境下でのコルチゾール値測定という観点から、自然環境でのデータ収集も有効だと思うんです。」


「それは面白いアイデアですね。」


リサが頷いた。確かに、ストレス応答の研究には環境要因も重要だった。



「俺も一緒に行こうか?」


エドガーが興味深そうに言った。


「三人でやれば、データ収集も効率的だろうし。」


「助かるよ!エドガー!」


エリックが嬉しそうに答えた。


実験の予定は翌日の午後に決まった。



しかし、当日の朝。


「すまん、急に教会の行事が入っちゃった!」


エドガーが申し訳なさそうに連絡してきた。


「新任の神父さんの歓迎式典で、どうしても抜けられないんだ…。」


「そうか…仕方ないね。」


エリックが残念そうに答える。



「二人だけでも実験はできますよね?」


リサが提案した。


内心では、エリックと二人きりになることに少し緊張していたが、研究への興味が勝っていた。


「もちろんです。むしろ、集中して取り組めるかもしれません。」


エリックも同意した。



午後、二人はデンバー・ボタニカル・ガーデンに向かった。


エリックとリサの共同研究テーマは「心の平安が体の回復を早めるか」を科学的に証明すること。将来的には被験者に瞑想をしてもらい、血液検査や脳の画像で変化を調べる予定だ。今日はその予備実験として、自然環境でのリラックス効果を測定することになった。


実験器具とノート、それにスケッチブックを持参している。


「今日は天気もいいし、データ収集には最適ですね。」


リサが空を見上げながら言った。


「はい。植物の光合成も活発でしょうし、環境的に理想的だと思います。」



植物園に到着すると、平日の午後ということもあり、ほとんど人はいなかった。


「まずは、ベースラインのコルチゾール値を測定しましょうか。」


リサが実験器具を準備する。


「その後、植物を観察したり、スケッチしたりして、リラックス状態での数値変化を見てみましょう。」


「面白い実験ですね!」


エリックが期待を込めて言った。



最初の測定を終えた後、二人は園内の様々なエリアを巡り始めた。


「トロピカル・ボタニカル・コンサーバトリーから見ていきましょうか。」


リサが提案した。


温室に入ると、色とりどりの熱帯植物が出迎えてくれた。ハイビスカスやブーゲンビリア、見たことのないエキゾチックな花々が咲き誇っている。


「わあ…これは美しいですね!」


エリックが色鮮やかな花壇を見て感嘆した。


「父と一緒に見た家庭菜園を思い出します!」



「お父様とはよく植物を見ていたんですか?」


リサが尋ねた。テニスの時とは違う、エリックの優しい表情に心が動いた。


「はい。父は小学校の理科教師で、『植物は生命の不思議を教えてくれる最高の先生だ』っていつも言ってました。」


「素敵なお父様ですね…。」



エリックがスケッチブックを取り出し、熱心に花の形を描き始めた。


その集中した横顔を見ながら、リサは改めて彼の真面目さに感心していた。


(図書館では居眠りするのに、好きなことには本当に集中するのね…)


挿絵(By みてみん)


次に二人は日本庭園エリアに向かった。


「ここは私のお気に入りの場所なんです。」


リサが小さな橋の上で立ち止まった。


橋の下には錦鯉が泳ぎ、周囲には手入れの行き届いた松や楓が植えられている。


「とても静かで、心が落ち着くでしょう?」


「本当ですね。日本の美意識って素晴らしいと思います。」


エリックが橋の欄干に手をかけながら答えた。



「この庭園を歩いていると、母のことを思い出すんです。」


リサが静かに言った。


「お母様も日本文化がお好きだったんですか?」


「茶道を習っていました。『美しいものを愛でる心が、人を豊かにする』って、よく言っていました。」


二人は橋の上でしばらく、穏やかな庭園の景色を眺めていた。


挿絵(By みてみん)


「リサさんも描いてみませんか?」


エリックが声をかけた。


「私は絵心がないので…」


「大丈夫ですよ。科学的な観察記録として描くんです。、」


エリックの励ましで、リサも簡単なスケッチを始めた。



リサがスケッチに集中していた時、突然ペンが指先から滑り落ちた。


「あっ!」


慌てて拾おうとした瞬間、エリックも同時に手を伸ばした。


二人の指先が触れ合った瞬間、時間が止まったような感覚になる。


挿絵(By みてみん)


「あ…すみません!」


エリックが慌てて謝り、急いでペンを拾い上げた。


「ありがとう…。」


リサがペンを受け取る時、再び指先が軽く触れる。


リサの心臓が素早く鼓動を打っていた。ただ指が触れただけなのに、なぜこんなにドキドキするのだろう。



深呼吸を繰り返し、落ち着こうとするリサ。


エリックも頬を赤らめながら、何事もなかったように自分のスケッチに戻ろうとする。


しかし、お互いの意識は完全に相手に向いていた。


「改めて…スケッチを続けましょうか。」


リサが小さな声で言った。



その後、二人はロック・アルパイン・ガーデンを訪れた。


山岳地帯の植物が集められたエリアで、コロラドの自然環境に近い設定になっている。


「この地域の植物も、厳しい環境に適応しているんですね。」


エリックが高山植物を観察しながら言った。


「まさに私たちの研究テーマです。ストレス環境下での適応と回復!」


リサが嬉しそうに答えた。



ウォーター・ガーデンでは、蓮の花が美しく咲いていた。


しばらく静かに作業を続けていると、リサがある植物の前で足を止めた。


「あ…これ…」


小さな赤い実をつけた低木。ラズベリーだった。


「どうかしましたか?」


エリックが心配そうに近づいてくる。


挿絵(By みてみん)


「母が…好きだった植物なんです。」


リサの声が少し震えていた。


「ラズベリー。我が家の庭にも植えてあって、母がよく手入れしていました…。」


「そうだったんですね…」


エリックが静かに寄り添った。



「母は私が7歳の時に亡くなったんです。病気で…」


リサが小さな実に手を伸ばしながら呟いた。


「最後の頃は意識もはっきりしなくて。でも、時々庭のラズベリーのことを話していました。」



「つらい思い出を話してくださって、ありがとうございます。」


エリックの言葉は心からのものだった。


「僕の研究も、リサさんの研究も、きっとお母様のような方々を救う力になると思います。」


「…ありがとう、エリック。」


リサが初めて、彼の名前を「さん」付けではなく呼んだ。



その後の時間、二人の会話はより深いものになった。


研究への想い、家族のこと、将来の夢。


「僕の細胞ストレス研究と、リサさんの神経可塑性研究って、実は根本的なところで繋がってるんじゃないでしょうか!」


エリックが熱心に語る。



「そうですね。精神的な介入が細胞レベルから脳神経レベルまで、包括的に影響するという仮説…!」


リサも目を輝かせた。


「もしかしたら、本当に共同研究として形にできるかもしれません!」



日が傾き始めた頃、最後のコルチゾール測定を行った。


「数値、明らかに下がってますね。」


リサが結果を確認する。


「自然環境でのリラックス効果、想像以上です!」


「やりましたね!」


エリックが嬉しそうに言った。



帰り道、二人は並んで歩いていた。


「今日は…とても有意義でした。」


リサが振り返る。


「研究的にも、個人的にも…」


「僕もです。リサさんと、もっと色々なことを話したいと思いました。」



夕日に照らされた二人の影が、だんだんと近づいていくようだった。


リサの心の中で、エリックへの想いがさらに深まっていることを感じていた。


(この気持ち、もう隠し切れないかもしれない)



「また今度、一緒に来ませんか?」


エリックが別れ際に提案した。


「今度は純粋に、植物を楽しむために。」


「…はい。ぜひ。」


リサの頬が少し赤くなった。



その夜、リサは一人で今日のことを振り返っていた。


エリックの優しさ、真摯な研究態度、そして母のことを話した時の温かい反応。


そして、あの指先が触れ合った瞬間の胸の高鳴り。


(もう研究パートナー以上の感情を抱いているのは確かね)



一方、エリックも同じように考えていた。


リサの研究への情熱、母への想い、そして今日見せてくれた素直な笑顔。


そして、ペンを拾う時に触れた、彼女の柔らかい指先の感触。


(リサさんと一緒にいると、心が安らぐ。これって…)



植物園での午後は、二人の関係を確実に次の段階へと押し上げていた。


まだ恋人同士ではないが、お互いを特別な存在として意識し始めていることは明らかだった。


次に会う時、二人の間に流れる空気は、きっともっと甘いものになっているだろう。

お読みいただきありがとうございます。

今回の実験では、唾液でコルチゾールという“ストレスホルモン”を測定するという設定にしました。難しいものではなく、採血をしなくてもストレスの度合いを調べられる、よく使われる方法です。物語の中では、植物園で過ごすふたりの気持ちの変化をそっと映す役割として描いています。

植物園を後にする頃には、コルチゾール値も程よく下がっていて、2人にとって癒しの空間になったみたいですね。


次回は、ちょっとしたトラブル回になります。

お楽しみに!





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