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第5話 心が動き始める瞬間

共同研究中、相変わらず居眠りしてしまい、困惑しつつイマイチ心を開くことができないリサ。ある日、研究室でのエドガーからエリックへのテニスの誘い。リサも一緒に誘われたが、あまり気乗りはしない状況であった。

しかし、エリックとエドガーの真剣なラリーを見て、リサの心境に変化が起こりつつあった。

図書館での共同研究が始まって一週間が経った頃。


リサは相変わらずエリックに対して距離を置いていた。真面目に研究に取り組んではいるものの、やはり時々居眠りをしてしまう彼に、完全に心を開くことはできずにいた。



ある日の研究室での休憩時間、エドガーがエリックに声をかけた。


「おい、エリック。久しぶりにテニスでもやらないか?」


「テニスか?久しぶりだね。」


「ああ、体も鈍ってるだろうし、ちょうどいい息抜きになると思うんだ。」



その会話を聞いていたリサは、少し意外に思った。


(エリックさんがテニスを?)


「エリックさん、テニスをされるんですか?」


「はい、大学時代にサークルで。でも、最近は全然やってないので…」


エリックが恥ずかしそうに答える。



「そんなことないだろ!」


エドガーが笑いながら言う。


「こいつのバックハンド、本当に美しいんだぜ!」


「エドガー、大げさだよ。」


エリックが頬を赤くした。


(この人がスポーツを…想像できないわ)


リサは内心で思った。



「リサさんもよかったら、見学しませんか?」


エドガーが提案した。


「え、でも…」


リサは躊躇した。プライベートな時間にまで付き合う必要があるのだろうか。


「大丈夫ですよ。僕たちも久しぶりなので、そんなに激しくやるつもりはないですから。」


エリックが付け加える。


(研究パートナーとしての付き合い程度なら…)


「それなら…お時間があるときに。」


リサは義務的に答えた。



数日後の午後、三人は大学のテニスコートにやってきた。


リサは正直、あまり期待していなかった。エリックがどの程度できるのか、半信半疑だった。


「久しぶりだな、この感触。」


エリックがラケットを握りながら呟く。その手つきに、リサは少し意外な印象を受けた。



リサはコートサイドのベンチに座り、二人の様子を見守った。


「それじゃあ、軽くラリーから始めるか。」


「うん、やろう。」



最初のボールが打たれた瞬間。


リサの目が見開いた。


(え…?)


エリックの動きが、図書館で見る彼とは全く別人のようだった。軽やかにコートを動き回り、正確にボールを打ち返していく。



「ナイス!」


エドガーが声をかける。


しかし、リサの視線はエリックに釘付けになっていた。


流れるような動作、正確なコントロール、そして何より、その集中した表情。


(これが…あの居眠りばかりしていた人?)



特にエリックのバックハンドは美しかった。


ボールが来るのを予測し、体重移動と共に流れるようにラケットを振り抜く。


(本当に美しい…)


リサは思わず息を呑んだ。


エドガーの言葉が嘘ではなかったことを実感した。


挿絵(By みてみん)


「おい、エリック!本気出すぞ!」


エドガーが少し強めのボールを打った。


「こっちも本気で行くよ!」


エリックが応じる。


その瞬間、彼の表情が一変した。集中した、真剣な顔つき。


(この表情…)


リサの心臓が、早鐘を打ち始めた。



ラリーが激しくなるにつれて、エリックの本来の実力が現れ始めた。


素早いフットワーク、的確な判断、そして美しいフォーム。


(すごい…本当にすごい!)


リサは、自分でも驚くほど見入っていた。



エドガーが渾身のスマッシュを打った。


しかし、エリックは冷静にそれを予測し、美しいパッシングショットで抜き去った。


「やるじゃないか!」


「久しぶりに決まった!」


二人が満足そうに笑い合う。



その時、リサは気づいた。


自分の頬が熱くなっているのを。


(まさか…私…)


エリックの新しい一面を見て、何か特別な感情が芽生えているのを感じた。


これまで感じたことのない、胸の高鳴り。



「お疲れ様でした。」


30分ほどのラリーを終えて、二人がコートサイドに戻ってきた。


汗をかいたエリックの表情は爽やかで、とても男性的に見えた。


(この人が…あのエリックさん?)


挿絵(By みてみん)


「エリックさん…」


リサが口を開いた時、自分の声が少し震えていることに気づいた。


「すごかったです!」


普段のクールな口調とは違う、素直な感想が出てしまった。


「本当に美しいフォームですね。特にバックハンドが。」



「ありがとうございます。でも、まだまだ感覚が戻ってなくて。」


エリックが謙遜する。


(この謙虚さも…)


リサは、エリックの様々な面に同時に魅力を感じている自分に困惑していた。



「謙虚すぎるぞ、エリック。」


エドガーがタオルで汗を拭きながら言う。


「リサさんも見てただろ?こいつの動き、やっぱりすげえよ!」


「ええ、本当に…」


リサは頷いた。そして、なぜか少し恥ずかしくなって付け加えた。


「実は、以前にも一度だけ見たことがあったんです。」



「え?」


エリックが驚いた。


「研究室への近道で、たまたまテニスコートの前を通りかかって。その時も…とても印象的でした。」


リサは、自分がなぜこんなことを話しているのかわからなかった。


普段なら絶対に言わないような、個人的な話。


挿絵(By みてみん)


「そうだったんですね…気づきませんでした。」


エリックの素直な反応に、リサの心がまた動いた。


「私も、まさか一緒に研究することになるとは思っていませんでしたから。」


(どうして私、こんなに話してるの?)



「また今度、一緒にやりませんか?」


エドガーが提案した。


「リサさんも、もしテニスの経験があれば。」


「私はあまり上手ではありませんが…」


リサが言いかけた時、エリックが嬉しそうに言った。


「もちろんです!今度は、もう少しゆっくりとやりましょう。」



その笑顔を見た瞬間、リサの胸がキュンと締め付けられた。


(この気持ちは何?)


図書館での居眠り姿しか知らなかったエリックが、こんなにも魅力的な一面を持っていたなんて。



三人がコートを後にする時、リサは混乱していた。


これまで築いてきた冷静な距離感が、一気に崩れそうになっている。


(エリックさんって…こんな人だったの?)



夕日に照らされたキャンパスを歩きながら、リサは心の変化を感じていた。


研究パートナーとしてしか見ていなかった相手が、急に一人の男性として意識されるようになった。


(でも、私は…)


これまで感情を閉ざしてきた自分が、こんなに簡単に心を動かされることに戸惑いを感じていた。



その夜、リサは一人で考え込んでいた。


テニスでのエリックの姿が頭から離れない。


集中した表情、流れるような動き、そして謙虚で優しい人柄。


(私、どうしてしまったのかしら)



これまで築いてきた心の壁に、小さなひびが入り始めていた。


まだエリックに心を完全に開いたわけではない。


でも、「ただの研究パートナー」ではなくなっていることは確かだった。


リサの心に、初めて恋心らしきものが芽生えた瞬間だった。

ご読了ありがとうございます。

今回は、実際にエリックとエドガーの真剣なラリーを見て、リサの中での居眠りエリックのイメージが、真剣で、集中していたため、本当に同一人物?と思うほどの衝撃だったみたいですね。

そして、リサの方からエリックにたくさん話しかけるという、不思議な展開でした(笑)

これから、少しずつではありますが、2人の距離は近くなっていきます。

改めて、お読みいただきありがとうございました。

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