第44話 結婚初夜ー静かに重なる夜ー
司式&レセプションもようやく終わり、二人だけの静かな、お互いを労い、純粋に愛し合う夜が始まります。
● Scene 1:ホテルのスイートへ ― 静かなドア音
控室を出て、
スタッフの案内でスイートルームへ向かう廊下を歩く。
レセプションの喧騒はもうなく、
外の夜景だけがゆるやかに流れていく。
エリックはリサの手を握ったまま、
言葉もなく、ただ歩いていた。
(……今日、ぼく……
本当にリサと、夫婦になったんだ……)
エレベーターの扉が閉まる瞬間、
リサがそっとエリックの腕に寄りかかる。
「疲れたでしょう? エリック」
「うん……でも、幸せで……胸がいっぱいで……」
リサは微笑む。
「ええ。私もよ」
その小さな会話だけで、
心が温かく満たされていく。
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● Scene 2:二人きりの部屋 ― ゆっくりとほどける緊張
部屋の扉が閉まると、
外の世界がすっと途切れた。
間接照明の柔らかい光。
窓の向こうには、静かに瞬く街の灯り。
エリックは、ふっと息をついた。
「……やっと、静かになったね」
「ええ。今日は本当に濃い一日だったもの」
リサはブーケをテーブルに置き、
ソファに腰を下ろした。
ドレスの裾がふわりと広がる。
エリックはその横に座り、
慎重に、彼女の手を取った。
「……リサ」
「なあに?」
少し、間があく。
言葉がうまく出てこない。
でも、伝えたいことは山ほどある。
「今日……
ぼく……何回泣いたんだろうね」
リサは小さく笑った。
「数えてないわ。でも、全部いい涙だった」
「……うん。全部、幸せすぎて……
胸がぎゅっとして……」
エリックはリサを見つめる。
その目には、緊張も、迷いもなくて、
ただまっすぐな愛しさだけがあった。
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● Scene 3:そっと触れる ― “大切にしたい”の形
リサはエリックの頬に手を添えた。
「エリック。
今日は、お互いに頑張ったわね」
「うん……リサのおかげで」
「いいえ。あなたがちゃんと向き合ったからよ」
手を包み返すと、
エリックは、少し照れながらも
その手に頬を寄せた。
(……優しい……
触れたいけど……乱暴にしたくない……
リサは今、赤ちゃんもいるし……)
リサはその迷いを読み取ったように、
指先でエリックの髪を撫でる。
「エリック。
ゆっくりでいいのよ?」
「……うん。
リサに……痛い思いも、苦しい思いもさせたくない……」
「ふふ。優しい夫ね」
二人の額が触れ合う。
ゆっくりと呼吸が重なっていく。
● Scene 4:キス ― 深まる静けさ
リサの手がエリックの首に回り、
彼はそっと彼女の頬を包み込む。
「……キス、してもいい?」
「もちろんよ。夫婦なんだから」
ゆっくり、唇が重なる。
深くも激しくもなく、
ただただ、丁寧に、優しく。
触れるたびに胸が熱くなって、
涙がにじむ。
キスが終わると、
リサはそっとエリックの胸に顔を埋めた。
「エリック……大好きよ。
今日だけじゃなくて……ずっと……」
「ぼくも……ずっと……」
エリックはリサの背に腕をまわし、
抱きしめた。
体温が重なり、
心臓の音がひとつひとつ伝わってくる。
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● Scene 5:ベッドのそばで ― “ふたりで眠る”という誓い
ベッドの端に腰を下ろすと、
リサはふと、お腹を撫でた。
「……この子にも、聞こえているかしらね。
今日の誓いも、あなたのスピーチも」
エリックはそっと隣に座り、
彼女のお腹に手を添えた。
「……ありがとう。
僕たちの所に来てくれて……もうすぐ生まれるね。もう少しで……会えるね……
そして……リサ……ありがとう」
「エリック……」
二人は抱き合ったまま、
しばらく動かなかった。
(……これでいい。
無理に進もうとしなくていい。
リサを守りたい。
赤ちゃんも……)
リサもゆっくり微笑む。
「エリック。今夜はね……
“夫婦になった夜”を、静かに味わいましょう」
「……うん。
一緒に眠りたい。
それだけで……今は十分すぎるくらい幸せだよ」
エリックは部屋の明かりを落とし、
ふたりはゆっくりベッドに入った。
手を繋いだまま、
互いの温かさだけを感じながら目を閉じる。
(リサ……
明日から、家族としての毎日が始まるんだ)
(エリック……
あなたとなら、大丈夫。どんな未来でも)
夜景の光が静かに揺れ、
二人の眠りを優しく見守っていた。
――夫婦として迎える、最初の夜。
官能ではなく、
“互いを大切にする想い”が満ちる夜だった。
お読みいただきありがとうございます。
いよいよ、次回が第一部ラストになります。結婚式の翌日、新しい夫婦の始まりを投稿します。
お楽しみに。




