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第42話 祝宴ー思い出の日々(後編)

本話は、披露宴の後半――

エリックの過去、二人の歩んできた時間、そして家族の記憶が交差する回です。


笑いもあり、少しの照れもあり、

でも最後には、静かに胸に残る時間になればと思います。


※スライドショーの描写が多めですが、

「見せるため」ではなく「振り返るため」の場面として書いています。

どうぞ、二人と一緒にその時間を辿ってください。


スクリーンに映る幼いエリックの写真が切り替わり、

会場の雰囲気が少し落ち着き始めたころ——


新しいスライドタイトルが浮かんだ。


『エリックの青春時代 ― 走り続けた少年』


映し出されたのは、真剣な目でラケットを握る中高生のエリックだった。


会場が「おお……」とざわつく。


幼馴染のダニエルが小声で言う。


「懐かしいな、あの頃のエリック……図鑑しか興味がなかったくせに、10歳くらいだったか?急にテニスをやり始めて、俺たちも付き合ってたけど」


オリバーも懐かしそうに頷きながら返す。


「毎日、日が暮れるまで素振りしてたよな。アイツが意外と運動神経が良いのは、あの時に僕は初めて気づいたよ」


教授やラボメンバーも、エリックのテニスが得意な理由について、なるほどと納得する。


挿絵(By みてみん)


姉のリディアが語る。


『この頃ね、エリックは “ある女の子” に追いつきたくて、

 毎日毎日、テニスコートにいたんです』


会場がざわついた。


「ええ?!……どういうこと?!」


「誰なの?!……」


ざわつく人々を見ながら、ダニエルとオリバーは、うっすらニヤリと楽しそうな表情を浮かべる。


エドガーは、思わず苦笑してしまう。すぐに、咳払いで、表情を誤魔化した。


(なるほどな……あの時の、告解の時の()()か……?)


慌てて、エリックは両手を振る。


「ちょ、ちょっと待って、それ以上は——!」


カレンが続ける。


『詳しくは言いませんが……

 とにかく、誰かを大切に思う気持ちって、

 あの子にとってすごく大きな力だったんです』


リサは横でそっと微笑んだ。

嫉妬ではなく、

“エリックらしい”と自然に理解できた。


(誰かのために努力できる人……

 だから、今のエリックがいるんだわ)


スクリーンには、州大会優勝の新聞記事の写真が映った。

大会メダルを首から提げ、泣き笑いしている少年エリック。


会場から拍手が起きる。


「エリック、すごいじゃない!」


「新聞に載ってる!」


リサも驚いて目を丸くした。


「すごい……知らなかった……」


「いや……これは……その……」


エリックは耳まで赤くして下を向く。


「頑張ったんだよぉ……」


その小さな呟きが、リサの胸を温かく満たした。


(エリック……かわいい……)



司会者が言う。


「では続いて、新郎新婦の“思い出写真”をご覧ください」


会場の照明が落ち、音楽が流れ始めた。


一枚目——

図書館のソファで、寄り添いながら寝落ちしている二人。

頭を合わせ、同じページの教科書を抱えている。


司会者の補足。


『こちらは同級生のエドガーさん提供のお写真です』


会場はどっと沸いた。


エドガーは後ろの席で

(あれは……盗撮じゃなくて……資料写真……だったはず……)

と必死に言い訳していた。


リサは画面を見て、頬を赤らめる。


「……こんな顔して寝てたのね、私……」


「僕も……なんか……かわいすぎる……」


二枚目は湖畔での手繋ぎ写真。

三枚目は湖畔で迎えたリサの誕生日、リサの胸元で光るネックレス。

四枚目は博物館で、鉱石の展示物を見ている二人。

五枚目はキャンプの星空を見上げる二人のシルエット。


どれも、二人だけが知っている瞬間だった。


そして——


六枚目。

妊娠が分かった日の写真。

リサのお腹にそっと手を添え、泣きそうな顔で微笑むエリック。


会場が静まり返った。


リサは画面を見つめながら、胸がいっぱいになった。


エリックは目頭を押さえた。


「……全部……全部、大切な時間なんだ……」


リサはエリックの指先にそっと触れる。


「私もよ。全部、大事な思い出」



曲調が変わり、スクリーンに一枚の写真が映った。


白黒に近い、少し古い色合いの写真。

若い女性が、上品な微笑みでドレスを着ている。


——カミラ・ホイットニー。


会場が息をのむ。


司会者が静かに言葉を添える。


『こちらは、リサさんのお母様・カミラさんの結婚式のお写真です。

 今回、リサさんのドレスは、このドレスをもとにリメイクされています』


リサはハッと息を止めた。

思わず手で口元を押さえる。


グレイがゆっくり立ち上がり、マイクを受け取った。


「……リサが今日着ているドレスは、

 カミラが大切にしていたものです」


声が少し震えている。


「母親として、娘に何かを残したかった……

 そんな想いが込められていました」


リサの目から涙がこぼれた。


「……お母さん……」


エリックはそっと彼女の背に手を置いた。


グレイは続けた。


「カミラはもうここにはいませんが……

 今日のリサを見たら、きっと誇りに思ったでしょう。

 誰より……幸せを願っていたはずです」


会場も静かに涙を拭っていた。


エリックも堪えきれず、涙を落とす。


(カミラさん……

 僕は、リサを、必ず幸せにします……)


挿絵(By みてみん)


司会者の声が柔らかく響いた。


「それでは、新郎新婦によるファーストダンスです」


エリックは緊張で肩が上がっている。

手のひらは汗で濡れ、足が固まっていた。


(う、動けるのか……? 本当に……?

 あれだけ練習したのに……!)


リサはそんなエリックの手を優しく握った。


「エリック」


「……っ、うん」


「無理しないでいいよ。ゆっくりで」


その一言で、胸の緊張が溶けるのが分かった。


(……大丈夫だ。リサがいる)


音楽が流れ、二人はそっと揺れ始める。


エリックの動きはぎこちない。

でも、リサが導くように寄り添い、動きを合わせてくれる。


「エリック、練習したのよね?」


「……うん。リサと踊りたくて……

 何度も動画見て、こっそり……でも……全然できなくて……」


「ふふ、上手よ。ちゃんと、伝わってる」


エリックの目が潤む。


「そんなこと言われたら……また……」


「泣いていいわよ。今日のあなたは全部かわいいもの」


二人はゆっくりと回る。

会場は完全に見守りモードだ。


挿絵(By みてみん)


後方では、エドガーが穏やかな表情で二人の少しぎこちないダンスを見守っていた。


(ああ……良かった。結婚式の依頼を受けた時は、俺で良いのか?って自問自答していた。告解でいろいろと知りすぎてしまった俺で良いのか?って……けど、アイツらの司式をやれて良かった……しかし、エリックのやつダンス下手くそだな……)


エリックのダンスに、笑いそうになるが、何とか堪える。

ただ、司祭として、友人として、見守っていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


エリックが走り続けてきた少年時代も、

リサが大切に抱えてきた家族の記憶も、

すべてが今の二人に繋がっている――

そんな時間になれば嬉しいです。


次回はいよいよ

レセプション終章。


笑って、泣いて、

そして静かに「夫婦」になる二人を描きます。


ここまで積み重ねてきた感情の着地点として、

どうか最後まで見届けていただければ幸いです。


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