第41話 レセプションー祝辞と姉の暴露ショー(前編)
今回は、レセプション回(前編)になります。
エリックとリサ、二人の夫婦としての門出を祝う、ゲストもいる中で、祝辞とエリックのある意味で天敵?!の、姉カレンによるスライド暴露ショー回になります!
姉は、この暴露ショーで何を見せ、語るのか?!ーー
披露宴会場の扉の前で、エリックとリサはそっと息を合わせた。
さっきまで教会で誓いを立てていたはずなのに、胸の鼓動はまだ落ち着いてくれない。
(大丈夫……ちゃんと歩けばいいだけ……
でも、みんなの前で、僕たちの“家族”が始まるんだ……)
「リサ、大丈夫?無理……してない?」
「ええ、あなたと一緒だから、大丈夫よ。でも、緊張してるね。少し手が震えてるよ?」
「はは……バレてたか。」
二人はお互いに顔を見合わせて、笑い合う。
スタッフが小さく合図を送る。
「それでは、ご入場です!」
明るい音楽とともに扉が開き、温かな拍手が一気に押し寄せた。
「……わぁ」
思わず、リサが小さく漏らす。
柔らかな照明に照らされた会場。丸テーブルのあちこちに、見知った顔が並んでいた。
両親、姉たち、幼馴染のオリバーとダニエル。
大学の仲間、ラボの学生たち。
そして、会場の後方には司祭服を脱いでスーツ姿に戻ったエドガーの姿もある。
エリックはリサの手を握りしめた。
指先に、少し汗がにじんでいるのが自分でも分かる。
「エリック、大丈夫?」
「だ、大丈夫……たぶん……」
笑って答えたつもりだったのに、すでに声が震えていた。
テーブルの間を歩き、二人は**新郎新婦のメインテーブル(いわゆる高砂席)**にたどり着く。
着席した瞬間、エリックの喉の奥がきゅっと詰まった。
(本当に……リサと、結婚したんだ……)
横を見ると、リサがこちらを見つめて微笑んでいた。
その笑顔だけで、視界がじんわりとにじむ。
「……もう泣くの?」
「ご、ごめん……なんか、いろいろ込み上げてきて……」
「ふふ。いいわよ、泣き虫さんの夫でも」
その言葉に、エリックは余計に泣きそうになった。
拍手が収まり、司会者がマイクを手に取る。
「それではまず、新郎のお父様、トーマス・コールさんより、乾杯のご挨拶を頂戴したいと思います。」
トーマスが少し照れくさそうに立ち上がった。
グラスを手に取り、会場をぐるりと見渡す。
「……本日は、息子エリックと、リサさんのためにお集まりいただき、ありがとうございます。」
落ち着いた声だった。
エリックは自然と背筋を伸ばす。
「エリックは、小さい頃からよく泣く子でした。
転んでは泣き、姉たちにからかわれては泣き、絵本を読んでは泣いて……」
会場から、くすくすと笑い声が漏れる。
エリックは「やめてよ……」と小声で呟いたが、顔は真っ赤だ。
トーマスは続けた。
「でも、泣くからこそ、人の痛みに気づける子でもありました。
困っている人がいれば、放っておけない。
そういう意味では、ずっと“優しすぎる”子でした。」
(父さん……)
胸がじんと熱くなる。
「そんな息子が、今日こうして、
リサさんのような芯の強い、優しい女性と結婚することになりました。」
トーマスはリサに向かって、穏やかにうなずく。
「リサさん、うちの息子は、泣きますが……真面目で、不器用で、そしてとても優しい男です。
これから、どうかよろしくお願いします。」
リサは少し照れながら、深く頭を下げた。
「こちらこそ……よろしくお願いいたします。」
「リサさんのお父様……そして、天国のお母様も、
今日の日をきっと喜んでくださっているでしょう」
グレイに向けてそう告げるトーマスの声は、少しだけ震えていた。
「まだまだ未熟な二人ですが、どうか見守ってやってください。」
そしてグラスを掲げる。
「それでは——若い二人の前途と、お腹の中の新しい命に、
心からの祝福を込めて。乾杯。」
「乾杯!」
グラスの澄んだ音が、花びらのように会場に広がった。
エリックはグラスを持ちながら、すでに目尻を拭っていた。
「……エリック、本当に今日はよく泣くわね」
「だって……父さんが、あんなこと言うから……」
リサはそんな彼の肩に、そっと手を置いた。
グラスが行き交い、料理が運ばれ、会場の空気が少しほぐれてきたころ。
司会者が再びマイクを握る。
「それではここで、新郎のお姉様方から、お二人へのお祝いのメッセージと、
思い出の写真を交えたスライドショーをご用意いただいております!」
「えっ」
エリックの肩がぴくりと跳ねた。
「ちょっと待って、それ聞いてない……」
「ふふ、楽しみね」
「いや、全然楽しみじゃない……!」
会場の照明が少し落ち、スクリーンにタイトルが浮かび上がる。
『泣き虫エリックの成長記録』
「やめてくれぇ……!」
隣で頭を抱えるエリックをよそに、
スクリーンには、まだ小さなエリックの写真が映し出された。
一枚目。
テーブルの上にあったクッキーの皿。
その前で、空になった皿を見つめて号泣している、小さな男の子。
カレンの声がマイクに乗る。
『こちら、“おやつ寝落ち事件”です。
お昼寝してる間に家族でクッキーを食べてしまい、
起きたら一枚も残っておらず、大号泣するエリック』
会場に笑いが広がる。
リサは口元を押さえながら、肩を震わせた。
「かわいい……」
「かわいくない……つらいだけだよあれは……」
二枚目。
大事そうに抱いている図鑑を、
お姉ちゃんたちに落書きされてしまい、
ページを掴んで泣き叫んでいるエリック。
リディアの声が続く。
『これは、“図鑑落書き事件”。
お気に入りの恐竜のページに、
私とカレンがヒゲやメガネを描き足した結果——ご覧の通りです』
『このあと、母に本気で怒られました。』
再び笑い声が起きる。
エリックは両手で顔を覆った。
「ほんとにやめてほしい……」
リサは優しく肘でつつく。
「でも、エリックらしいわ」
「どの辺が!?」
三枚目。
廊下を全力疾走する、タオル一枚ひっかけた幼児の後ろ姿。
その向こうで、大人たちが慌てて追いかけている。
『こちら、“裸で大脱走事件”』
カレンがさらりと言い切る。
『お風呂上がりに服を着る前に逃走し、
家族総出で確保に乗り出した時の一枚です』
「ええええええええ!!!?」
会場がどっと沸いた。
リサは耐えきれず、声を出して笑ってしまう。
「ちょっとそれは、さすがに……!」
「忘れてよその写真は!!アーカイブから削除してよ!!」
「ふふ、ごめん。でも、かわいい……」
「かわいくないってば!」
スクリーンには、さらに寝落ち写真が次々と映し出される。
ソファで本を抱いたまま寝ている。
食卓でフォークを持ったまま寝ている。
床で、クッションに顔を埋めて寝ている。
姉ズのコメントが被さる。
『とにかくよく寝落ちし——』
『よく泣く弟でした』
会場からは、笑いと「分かるー」という声が上がる。
(ああ……もう穴があったら入りたい……)
エリックは心の中で頭を抱えた。
でも、不思議と——嫌ではなかった。
(みんな、笑ってくれてる……
ぼくの過去を知っても、笑って、一緒に祝ってくれてる……)
そのとき、スクリーンの雰囲気が少しだけ変わった。
次に映ったのは、幼い頃のエリックが、
テニスラケットを握って必死に素振りをしている写真だった。
ーー次回、レセプション(後編)へ続く。
お読みいただきありがとうございます。
エリックの父親のコメントも息子としてのエリックを語りながら、リサ、リサの父グレイ、母カミラへの、結婚への感謝のコメントが、二人の家族の距離をより、近くに感じられたかと思います。
また、姉のスライド暴露ショー(前編)は、エリックの幼少期のなかなかに恥ずかしい、でも、かわいい??(笑)過去を楽しく暴露した回でした。
まだまだ、後編にも暴露ショーは続きます!
さらに、二人のファーストダンスなどもあります!
次回のレセプション(後編)をお楽しみに!




