第26話 : 告解②ージョエル神父(エドガー)、心の声
読む前の注意点です。(全年齢対象です。)
※この番外編は、第21章「告解 - エリック編」と同じシーンを、
エドガーの視点で描いたものです。
※コメディ要素を多く含みます。
エドガーの心の声ツッコミがメインです。
※本作の宗教描写はフィクションです。
実在の宗教・人物・儀式とは関係ありません。
信仰を持つ方々への敬意を込めて執筆しています。
教会の夕暮れは、静まり返っていた。
告解室の奥で、ジョエル神父――いや、エドガー・マッツァンティは、
深く息を吐いていた。
(……いや、まさかだろ?)
(あいつ、よりによって俺のところに来るか⁉︎)
昼過ぎから続いていた告解の時間。
最後の一人が、まさかの「エリック・コール」だった。
(おいおい、研究棟で顔合わせてる相手が、ここで“神父さま”呼びだと?)
(なんだこの業の深いシチュエーションは……!)
カーテン越しに響く、聞き慣れた声。
その声は、いつもの柔らかさではなく、どこか震えていた。
⸻
「神父さま……僕は、赦されたい罪があります。」
(あー……始まった……)
(頼むから、軽いやつであってくれ……!
エリックは、ぽつりぽつりと語り出した。
博士課程の研究のこと。
婚約者との関係。
そして――まだ学生の身で、彼女を妊娠させてしまったこと。
その瞬間、エドガーの頭の中に警報が鳴った。
(ちょ、待て……!)
(えっ、リサのこと……だよな? 他にいねぇよな?)
(てことは……授かり婚⁉︎)
(オイオイオイ、こいつやりやがったな‼︎)
額にうっすら汗が滲む。
それでも、司祭としての顔を保つ。
「……あなたは、彼女を愛していますか?」
「はい。誰よりも。」
「では、命を否定してはいけません。責任を恐れてはいけません。」
(神父モード発動……よし、落ち着け、オレ。)
「その命は、神が授けた奇跡です。
あなたは彼女と子どもを、愛し、守り抜く義務があります。」
エリックの声が震える。
「……僕、怖いんです。
彼女の将来も、研究も……僕のせいで、全部変わってしまったと思います。
しかも……」
少し間を置いて、静かに続けた。
「……僕には、昔、好きだった人がいました。
彼女を傷つけてしまって、今でも忘れられないんです。」
⸻
(……は?)
(今、なんつった?)
(昔、好きだった人?)
(……過去の女⁉︎ おいおい、誰だよそれ⁉︎)
突然の告白に、エドガーの目が一瞬で覚める。額からも、ヒヤリと冷たい汗が流れた。
(お前なぁ……お前、どんだけ告解に爆弾詰め込んでくるんだよ‼︎)
だが、エドガーは司祭である。
友としての動揺を心の奥に封じ、
神父としての穏やかな声に戻した。
「あなたが本当に悔いているなら、神は必ず赦してくださいます。
そして――愛する人を裏切らないと誓うなら、
その誓いが、あなたを導く光となるでしょう。」
⸻
沈黙。
カーテン越しに、嗚咽が聞こえた。
それは、エリックが涙を堪えきれずに漏らした音だった。
「ありがとうございます、神父さま……
本当に、ありがとうございます……」
⸻
(ああ、もう……泣くなよバカ野郎……)
胸の奥が熱くなる。
友として、神父として。
この瞬間だけは、立場を越えて、彼を抱きしめてやりたかった。
⸻
エリックが退出したあと、
エドガーは祭壇の前で、深く頭を抱えた。
(はぁぁぁ……。お前……本当にやらかしたな。)
(婚前交渉に、妊娠、過去の女、全部セットとか……教会史上最強の懺悔だぞ。)
(……でも、あいつらしいな。全部、真っ直ぐだ。)
エドガーは静かに十字を切った。
「神よ……こいつを、見捨てないでやってください。
そして……どうか、オレの心も持ちこたえさせてください。」
少し間をおいて、苦笑。
「結婚式? ……オレがやるしかないか。
はぁ……あの爆弾カップルめ」
苦笑しながら天を仰ぐ。
(……でも、式次第は少し簡略化するぞ。
“罪の赦し”と“神の導き”をノンストップで30分は多めに読ませてもらうからな)
エドガーは口元に何とも言えない笑みを浮かべながらも、静かに十字を切った。




