第1話 図書館での出会い
居眠り博士課程の青年・エリックと、冷静な先輩研究者リサ。
図書館での出会いから始まる二人の物語は、やがて研究も人生も巻き込んでいくことになります。
彼らを見守る友人や家族も登場し、やがて物語は少しずつ広がっていきます。
今回が初めての投稿になります。よろしくお願いします。前書きを少し訂正しました。より読みやすくなったと思いますので、よければご覧ください。
※挿絵はAI生成ツールを使用して作成しています。
キャラクターや世界観のイメージ補助として掲載しています。
著作権・商用利用に問題のないツールを使用しておりますが、何か気になる点があればご連絡ください。
秋の午後、大学図書館の静寂が心地よく響いていた。
窓から差し込む夕日が、本棚の間を縫って金色の光を作り出している。エリック・コールは、分厚い生物学の教科書を前に、眼鏡をかけ直しながら必死にノートを取っていた。
博士課程に進学したばかりの彼にとって、研究の世界はまだ未知の領域だった。
博士課程に進学したばかりの彼にとって、研究の世界はまだ未知の領域だった。
――この場所で出会った人が、のちに僕の人生を変えることになる。
けれど、この時の僕はまだ、それを知らない。
「細胞分裂のメカニズム…」
小さく呟きながら、エリックは図表を見つめる。しかし、長時間の勉強で疲れがピークに達していた。いつの間にか、彼の瞼は重くなり始めていた。
──コクリ、コクリ。
気がつくと、エリックは教科書の上で静かに寝息を立てていた。ブラウンの髪が少し乱れ、眼鏡が少しずれている。その無防備な寝顔は、どこか少年のような純粋さを湛えていた。
⸻
数席離れた場所で、リサ・ホイットニーがその様子を冷ややかに見ていた。
(また寝ている)
ヘーゼル色の瞳に、感情はほとんど映っていない。明るめの髪を肩まで伸ばし、白いシャツに品のあるスカートという装いは上品だが、その表情は研究モードの時のように知的でクールだった。
ここ数週間、彼女はこの光景を何度も目にしていた。茶色い髪の男子学生が、いつも同じ席で教科書を開き、そして必ず眠ってしまう。
(勉強しに来てるのか、寝に来てるのか)
リサは内心で小さくため息をついた。別に迷惑をかけているわけでもないし、図書館で居眠りする学生は珍しくない。ただ、なぜか気になってしまう存在だった。
⸻
エリックは30分ほど眠った後、自然に目を覚ました。
「あ…また寝てしまった」
慌てて時計を確認し、周りを見回す。幸い、司書に注意されるほどではなかったようだ。
眼鏡をかけ直して教科書に向かおうとした時、ふと視線を感じた。
少し離れた席に、美しい女性が座っている。彼女はすぐに視線を自分の本に戻したが、一瞬目が合ったような気がした。
(きれいな人だな…)
エリックはそう思ったが、声をかける勇気はなかった。相手は明らかに集中して勉強しており、邪魔をするわけにはいかない。
⸻
リサは、エリックが目を覚ましたことに気づいていた。
(やっと起きた)
彼が自分の方を見たのも分かったが、わざと視線をそらした。
リサにとって、図書館は勉強の場であり、社交の場ではない。知らない人と無駄な会話をする気はなかった。特に、毎回居眠りしているような、だらしない学生とは。
(もう少し真面目に勉強すればいいのに)
そんなことを考えながら、リサは自分の研究に集中し直した。
⸻
それから数日間、同じパターンが続いた。
エリックは図書館にやってき、勉強し、そして眠る。リサはそれを静かに観察し、特に何もしない。
ある日、エリックが珍しく長時間起きていた時、彼が困ったような表情で教科書と格闘している姿を目にした。
(あの分野の問題ね)
リサは一目で、エリックが取り組んでいる内容を理解した。細胞の修復メカニズムについての基礎的な問題だった。
(教えてあげれば5分で解決するのに)
しかし、リサは席を立つことはなかった。
知らない人に親切にして、それがきっかけで面倒な関係になるのは避けたい。そんな考えが、彼女の行動を抑制していた。
⸻
エリックの方も、美しい先輩らしき女性の存在は気になっていた。
いつも同じ時間に図書館にいて、いつも真剣に勉強している。一度も居眠りしているところを見たことがない。きっと優秀な研究者なのだろう。
(でも、話しかけるのは…)
エリックには、そんな勇気はなかった。相手は明らかに自分より年上で、知的で、近寄りがたいオーラを放っている。
⸻
こうして、二人は同じ空間にいながらも、まだ交わることのない日々を過ごしていた。
エリックの居眠り、リサの冷ややかな観察。
表面的には何も変わらない日常だったが、お互いの存在は確実に意識の中に刻まれていた。
リサは認めたくなかったが、エリックの寝顔を見ることが、なぜか日課になっていた。そして、彼が起きた時の少し困ったような表情も。
(別に興味があるわけじゃない)
そう自分に言い聞かせながらも、リサの視線は時々エリックの方に向かっていた。
まだ言葉を交わすことのない二人だったが、運命の歯車は静かに回り始めていた。
この冷ややかな距離感が、いつか温かい関係に変わることを、この時はまだ誰も知らなかった。
――そして、この図書館の午後が、二人の“最初のページ”になる。
ご読了いただきありがとうございました。今回は、テストも兼ねて投稿させていただきました。
この作品は、私の中学生の頃からの構想で、最初はスチームパンクのバトルモノの予定でしたが、年数を重ねるうちに、変節を重ね紆余曲折を経て、アメリカコロラド州デンバー近郊に暮らす、研究者同士の恋愛物語になりました。
感想や気になる点などありましたら、是非ともご意見ください。よろしくお願いします。




