第8章 新たな協力体制
前回の共同研究回では、お互いの意見の対立による言い争い、お互いの欠点を言い合ったりと、色々ありましたが、エドガーの介入のおかげで、その日の夜に、お互いの本音を語り合うことで、仲直りが出来ました。今回は、その数日後の共同研究回になります。
色々専門的な用語が出てきますが、2人の協力シーンを特に見ていただけたらと思います。
和解から数日が経ったある午後、研究室には緊張した空気が流れていた。
エリックとリサが再び共同実験のデータ分析を始めようとしていたからだ。他の学生たちは、また激しい議論が始まるのではないかと心配そうに様子を見守っていた。
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「まず、今回収集したデータを整理しましょう。」
リサが落ち着いた声でエリックに提案した。
「そうですね。細胞レベルのストレス応答データから見ていきましょうか。」
エリックも穏やかに答える。
二人は大きなモニターの前に並んで座った。以前より少し距離が近い。
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「被験者グループAの炎症マーカー、IL-6の数値を見てください。」
エリックがグラフを指差す。
「瞑想前は平均3.2pg/mLだったのが、瞑想後には2.1pg/mLまで低下しています。」
「確かに有意な差が出ているわね。でも、サンプル数がまだ少ないから、統計的有意性を確保するには…」
リサが冷静に分析する。
「あと15名ほど必要でしょうか?」
エリックが計算しながら答える。
「そうね。でも、この結果は非常に興味深いわ。」
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周りで見ていた学生たちは、二人の落ち着いた議論に少し安心し始めていた。
(あれ?今度は喧嘩にならないのか?)
(なんか雰囲気が変わったな…)
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「次に、私の神経系データと比較してみましょう。」
リサがキーボードを操作して、脳画像のデータを表示させる。
「fMRIの結果を見ると、前頭前皮質の活動が瞑想後に明らかに変化していますね」
「どの領域が特に活発になっているんですか?」
エリックが身を乗り出してモニターを見る。二人の肩が軽く触れた。
エリックが一瞬だけ呼吸を止め、リサも僅かに目を瞬かせたが、何事もなかったかのように議論を続けた。
「ここ、背内側前頭前皮質の部分です。」
リサが画面を指差す。エリックが同じ画面を見ようとして、二人の頭が近づく。
「この領域は感情調節に関わっていますよね。」
「ええ。そして興味深いことに、この脳の変化と、エリックのデータにある炎症マーカーの低下が同じタイミングで起こっているの。」
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「ということは…」
エリックが考え込む。
「精神的介入が脳の感情調節機能を活性化させ、それが神経内分泌系を通じて全身の炎症反応を抑制している可能性があるということですね。」
「まさにその通り!」
リサの目が輝く。
「心の平安が、文字通り体の治癒力を高めているのかもしれません。」
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エドガーは少し離れたところから、二人の様子を観察していた。
最初は内心心配していたが、二人の協力的な姿勢を見てほっと安心していた。
(良かった…今度はちゃんと話し合ってるな)
そして同時に、二人の距離感が以前とは明らかに違うことにも気づいていた。
(なんというか…息が合ってるな、この二人)
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「でも、一つ疑問があります。」
エリックが手を挙げる。
「どうしてこの効果に個人差があるんでしょう?被験者の中には、あまり変化が見られない人もいますよね。」
「いい質問ね」
リサが資料を見返す。
「私が考えているのは、瞑想経験の有無や、ベースラインでのストレスレベルが関係している可能性です。」
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「なるほど。では、被験者を経験別にグループ分けして分析してみませんか?」
「それは素晴らしいアイデアよ。でも、そうすると統計的検出力が下がる可能性もあるわね。」
「確かに…では、まず全体での解析を完了させてから、サブグループ解析を補足的に行うのはどうでしょう?」
「それがいいわね。段階的にアプローチしましょう。」
周りの学生たちは、二人の建設的な議論に驚いていた。
(あの二人、完全に協力体制になってる)
(前は険悪だったのに、今度は息がピッタリじゃないか)
(なんか…関係が変わったのかな?)
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「エリック、この免疫系マーカーのデータも見てもらえる?」
リサが別のグラフを表示する。
「NK細胞の活性も上がってますね。これは免疫機能の向上を示していますか?」
「ええ。瞑想が単にストレスを軽減するだけでなく、積極的に免疫系を活性化させている可能性があります。」
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二人は共同で論文の構成について話し始めた。
「導入部分は私が書きますね。」
「細胞データの解析結果は僕が担当します。」
「神経系データは私が。でも、統合的な考察部分は一緒に書きましょう。」
「賛成です。二人の専門知識を組み合わせることで、より説得力のある論文になりますね。」
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夕方、実験を終えた二人がエドガーのところにやってきた。
「エドガーさん、あの時は本当にありがとうございます。」
リサが感謝を込めて言った。
「あの時、エドガーが間に入ってくれなかったら、僕たち関係がこじれたままだった。本当にありがとう。」
エリックも深々と頭を下げる。
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「いやいや、大したことじゃないさ!」
エドガーが謙遜する。
「お前たちが冷静に話し合えるようになったのは、お前ら自身の成長だよ!」
「でも、やっぱりエドガーは、僕と大学の同級生とはいえ、歳上で司祭で、僕にとっては兄貴分みたいなもんだよ!」
エリックが笑顔で言った。
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「兄貴分か…」
エドガーが苦笑いする。
「まあ、困った時はいつでも相談してくれ。研究のことでも、それ以外のことでも。」
「ありがとうございます。」
二人が同時に答えた。
エドガーは二人を見送りながら、心の中で思った。
(あいつら、確実に距離が縮まってるな。研究パートナーとしても、それ以上の関係としても。)
(まあ、あの二人なら大丈夫だろう。真面目で誠実だし、お互いを大切にしている。)
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その夜、リサは日記にこう書いた。
『今日、エリックとの共同研究が新しい段階に入ったと感じた。以前のような対立ではなく、本当の意味で協力できるようになった。
彼の視点と私の視点を組み合わせることで、研究により深みが生まれている。
そして何より、一緒に研究していることがとても楽しい。』
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一方、エリックも同じような感想を抱いていた。
(リサさんと一緒に研究していると、新しい発見がたくさんある)
(お互いの専門分野を尊重し合って、建設的に議論できるようになった)
(これからも、こんな風に協力していけたらいいな)
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和解を経て、エリックとリサの関係は研究面でも、個人的にも新しい段階に入っていた。
お互いの違いを認め合い、それを強みとして活かす方法を学んだ二人。
この協力体制が、やがて彼らの研究を大きな成功へと導くことになるだろう。
お読みいただきありがとうございます。
2人が協力し研究成果も現れ、お互いに近い距離でモニターを見ても、集中して研究に臨んでいました。
むしろ、周りの学生の方が2人の事を気にしているような状況でした。
エドガーも安心して、2人からお礼を言われて、照れてましたね。
次回は、2人の距離がさらに近づく回となっています。
よろしくお願いします。




