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死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
3章 高校生編

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83話

 放課後の生徒会室。

 西日が差し込む静謐な空間に、俺は一枚のSDカードを滑らせた。

 乾いた音が、優雅なティータイムを遮る。


「……何かしら、これ」


 不破蓮はカップを置き、怪訝そうに眉をひそめた。

 隣では、南雲ミナが「また変なもの持ち込んで……」と露骨に嫌な顔をしている。


「学園のうみだ」


 俺は短く告げた。


「中を見てくれ。……アンタが管理するこの学園に、看過できない『計算式のエラー』が混じっている」


 不破は俺の目を見て、それから無言で南雲に顎をしゃくった。

 南雲はため息をつきながら、SDカードを自分のPCに差し込む。

 数回のキータッチの後、壁の大型モニターにデータが表示された。


 それは、ある教師の裏帳簿と、私的なメールのログだった。


 『相模サガミ』。


 生活指導担当であり、黒鉄牙を退学寸前まで追い込んだ男。


「……これは」


 不破の目が細められる。

 画面に並ぶのは、部活動予算の架空請求、備品購入費の水増し、そして業者からのバックマージンの記録。

 金額は数百万に上る。


「ただの小遣い稼ぎじゃない」


 俺はモニターを指差した。


「ここを見ろ。……黒鉄牙が暴行事件を起こしたとされる日の、相模のメール履歴だ」


 南雲が操作し、該当のメールを開く。

 宛先は、とあるOB。


 『予定通り、挑発に乗りました。これで予算の使途不明金は、すべてあの不良生徒が暴れて破損した備品の修繕費として処理できます。……彼にはスケープゴートになってもらいましょう』


 部屋の空気が、急速に冷えた。


「……最低ね」


 最初に口を開いたのは、南雲だった。

 彼女はマウスを握りしめ、軽蔑を隠そうともせずに吐き捨てた。


「自分の横領を隠すために、生徒をワルモノに仕立て上げたってこと? 教育者以前に、人間として終わってるじゃん」


「ええ。……醜悪だわ」


 不破の声は、さらに冷徹だった。

 彼女は眼鏡のブリッジを押し上げ、汚物を見るような目でモニターを睨んでいる。


「教師とは、生徒を導くための『存在』であるべきよ。それが、保身のために生徒を不正に書き換えるなんて……。私の美学に反するわ」


 彼女にとって、これは単なる犯罪ではない。

 美しい学園という数式を汚す、許しがたい「バグ」なのだ。


 俺は、その反応を待っていた。


「学校側に報告しても、握りつぶされる可能性が高い。教頭もグルだ」


 俺は畳み掛ける。


「法で裁くには時間がかかる。その間に、証拠は隠滅され、黒鉄の人生は終わる。……正規の手順ルートじゃ、このバグは取り除けない」


 不破が、俺を見た。

 その瞳の奥で、冷たい炎が燃え上がるのが見えた。


「……つまり、私達の出番ってことね?」


「アンタならできるはずだ。この学園の頂点(生徒会長)として、あるいは……退屈を持て余した天才として」


 俺は挑発する。


「見逃すか? それとも、正すか?」


 不破は、ふっと口元を緩めた。

 それは聖女の慈悲ではない。断罪者の冷笑だった。


「愚問ね。……私の計算式に、ノイズは不要よ」


 彼女は南雲に向き直った。


「ミナ。このデータの裏付けを取りなさい。もっと深く、奴のPC本体から直接ログを引っこ抜いて」


「えぇ~? ハッキングしろってこと? 犯罪だよ?」


 南雲は口を尖らせたが、その指はすでに高速で動き始めていた。

 彼女もまた、この醜悪な教師に対して怒りを覚えているのだ。

 不破が「GO」を出したなら、彼女に躊躇いはない。


「相手がルールを破っているのよ。こちらもルール無用で対抗するだけ」


 不破は立ち上がり、モニターの「相模」の文字を指でなぞった。


「アキラ。あなたの提案に乗るわ。……この教師を、社会的に抹殺しましょう」


「……やってくれるか?」


「ええ。正義のため、なんて甘い言葉は使わないわ。……これは『整頓』よ。汚い部屋を片付けるのと一緒」


 彼女の中で、ロジックが完成した。

 彼女の正義感と選民意識、そして退屈への嫌悪感。

 それらすべてが、俺の目的に合致した。


「交渉成立だな。……実行犯(黒鉄)は俺が連れてくる。お前たちは、舞台を整えてくれ」


「任せておきなさい。……最高の処刑台を用意してあげるわ」


 ◇


 数時間後。潜入決行の直前。

 再び集まった生徒会室には、異様なメンバーが顔を揃えていた。


 革張りのソファにふんぞり返る不良・黒鉄牙。

 デスクで膨大なデータを処理する生徒会役員・南雲ミナ。

 そして、紅茶を片手に優雅に微笑む生徒会長・不破蓮。


 接点などあるはずもない彼らが、一つのテーブルを囲んでいる。

 その中心にいるのは、俺だ。


「……で? なんで俺がこんな優等生サマたちとツルまなきゃなんねぇんだ?」


 黒鉄が苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

 だが、その問いに答えたのは俺ではなく、不破だった。


「勘違いしないでちょうだい。あなたが私たちとツルむんじゃないわ」


 不破はカップを置き、冷ややかな瞳で黒鉄を見下ろした。


「私たちが、あなたという『凶器』を使うのよ。……感謝しなさい? あなたの粗雑な暴力を、私が美しい『復讐劇』に昇華させてあげるんだから」


「あぁ!?」


 黒鉄が殺気立つが、俺は手で制した。

 不破は意に介さず、テーブルの上に一枚のチャート図を広げた。


「ターゲット・相模教師の破滅プランよ。……ただ告発するだけじゃ生温い。彼が最もダメージを受けるタイミング、配信先、そして隠蔽された裏帳簿の証拠能力。すべて計算済みよ」


 彼女の指がチャートをなぞる。

 教育委員会、マスコミ、PTA、そして相模の妻の実家。

 告発メールの送信先リストは、完璧に彼の逃げ道を塞ぐように網羅されていた。


「社会的な死、家庭の崩壊、刑事罰。……この順序でドミノが倒れるように設計してあるわ。物理的に殴るよりも、よっぽど痛いでしょうね」


 楽しそうに語る不破の狂気に、黒鉄がわずかに毒気を抜かれた顔をする。


「……へっ。性格わりぃな、生徒会長サマよ」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


 そこで、キーボードを叩いていた南雲が顔を上げ、俺の方へ黒いUSBメモリを放り投げた。


「ほら、受け取って! 特製のウイルス入りよ」


 俺はそれを片手でキャッチする。


「中身は?」


「自動実行プログラム。相模のPCに挿すだけで、管理者権限を奪取して、れーちゃんが作った告発文と証拠データを一斉送信するわ。送信履歴の改竄と、ログの消去もセットでね」


 南雲は得意げに鼻を鳴らし、さらにノートPCの画面を俺たちに向けた。


「それと、今夜の警備システムへのハッキングも完了。……深夜1時から30分間、職員室周辺の監視カメラと赤外線センサーをループ映像に切り替える。あんたたちが侵入する『道』は、私が作ってあげる」


 完璧なバックアップだ。

 物理的な暴力だけでは届かない領域を、この二人が完全にカバーしている。


 俺はUSBを握りしめ、黒鉄を見た。


「聞いたか、黒鉄。……これが力だ」


 黒鉄は、呆れたように、しかしどこか感心した様子で息を吐いた。


「……マジかよ。生徒会室ってのは、悪党の巣窟だったのか?」


「違いない」


 俺はニヤリと笑った。


「不破が絵を描き、南雲が鍵を開け、俺たちが実行する。……全員が共犯だ。逃げ場はないぞ」


 その言葉に、南雲は「うげぇ」と嫌そうな顔をしたが、不破は満足げに頷いた。


「ええ。美しい分業だわ。……期待しているわよ、実行犯さん」


 俺は立ち上がり、黒鉄に合図を送る。


「行くぞ。舞台は整った」


 黒鉄が立ち上がり、獰猛な笑みを浮かべる。

 その背中には、もう迷いはなかった。


 ◇


 深夜一時。

 静まり返った聖条学園。

 監視カメラの死角を縫い、俺たちは校舎の裏口へとたどり着いた。


 南雲のハッキングのおかげで、警備員の巡回ルートは完全に把握できている。

 鍵をピッキングで開け、闇に沈んだ廊下を進む。


 黒鉄の呼吸が荒い。

 緊張しているのだろう。喧嘩には慣れていても、こういう「潜入」は初めてのはずだ。


「落ち着け。道は開かれている」


 俺は小声で指示を出しながら、職員室の前までたどり着いた。

 数秒で開錠し、中へ滑り込む。


 月明かりに照らされた職員室は、無機質なデスクが並ぶ墓場のように見えた。

 その奥、相模のデスクを目指す。


「……ここだ」


 俺はPCの電源を入れた。

 パスワードは解析済みだ。画面が青白く光る。

 俺はポケットからUSBメモリを取り出し、ポートに差し込んだ。


「黒鉄。……お前がやれ」


 俺は席を譲り、黒鉄をPCの前に立たせた。


「あ?」


「お前の復讐だろ。最後の一押しは、お前の手でやるべきだ」


 それは慈悲ではない。

 共犯者としての「証」を刻ませるための儀式だ。

 彼自身の指でエンターキーを押させることで、彼はもう「被害者」ではなく「加害者」になる。


 黒鉄は震える手でマウスを握った。

 画面には、送信準備が整ったメールが表示されている。

 添付ファイルには、相模の人生を終わらせるだけの火薬が詰まっている。


「……これで、あいつは終わるんだな」


「ああ。明日にはニュースになる」


 黒鉄の喉が鳴った。

 憎しみと、恐怖と、そして暗い歓喜が入り混じった表情。


 彼はゆっくりと、指をエンターキーに置いた。


「……ざまぁみろ」


 カチッ。


 乾いた音が響いた。

 送信完了のバーが伸びていき、やがて「送信しました」の文字が表示される。


 終わった。

 そして、始まった。


 黒鉄はその場に崩れ落ちるように膝をつき、荒い息を吐いた。


「……やった。やってやったぞ……!」


 彼は自分の手を見つめ、引きつった笑みを浮かべた。

 それは、正義の執行者の顔ではない。

 罪の味を知った、共犯者の顔だ。


 俺は彼の肩に手を置いた。


「よくやった。……これで、お前も俺たちの『仲間』だ」


 黒鉄がハッとして顔を上げる。


「仲間……?」


「ああ。これだけのことをやったんだ。もう表の世界には戻れない。……バレれば退学どころか、少年院行きだ」


 俺は冷徹に事実を突きつける。


「だが、安心しろ。俺が守ってやる。この罪も、秘密も、全部共有してやる。……その代わり、お前のその力は、俺のために使え」


 黒鉄は呆然と俺を見ていたが、やがてその目に理解の色が浮かんだ。

 自分が嵌められたことに気づいたのかもしれない。

 だが、彼自身がこの結末を望んでいた。

 退屈な日常に戻るよりも、このスリリングな闇の中で生きることを。


「……はっ。性格わりぃな、ボス」


 黒鉄は立ち上がり、吹っ切れたような顔で笑った。


「いいぜ。……この手はもう汚れた。骨の髄まで、アンタについていくよ」


 忠誠の契約は、ここに完了した。

 俺たちは痕跡を消し、職員室を出た。


 夜の校舎を抜け、外の空気を吸う。

 星が綺麗だった。


「……さて。明日は『祝勝会』だな」


 俺は夜空を見上げながら呟いた。

 相模の破滅は確定した。

 そして、この手に入れた駒たちを束ね、組織として形にする時が来た。


 不破、南雲、そして黒鉄。

 四人の歯車が、カチリと噛み合った音がした気がした。


 俺たちが、明日、正式に動き出す。

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