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死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
3章 高校生編

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79話

 翌朝。

 通学路を歩きながら、俺はスマホを取り出した。

 昨夜の興奮冷めやらぬまま、新たな手駒を盤上に配置するための布石を打つ。


 連絡先リストから『不破蓮』を選び、短いメッセージを打ち込んだ。


 『頼みがある。黒鉄牙の現在の居場所と、奴が学校で暴れた“本当の原因”。昼までに頼む』


 送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。

 澪にも黒鉄の過去について調査を依頼しているが、彼女が追っているのは警察沙汰になった事件の裏側や、冤罪の証拠といった「深層」だ。


 時間がかかる。

 だが、今俺が欲しいのは、もっと即効性がある情報だ。


 それならば、学内の生徒データや過去の学園内の問題についてアクセスできる生徒会長の方が圧倒的に速い。


 適材適所だ。


 数秒後、不破から返信が来た。


 『了解。退屈しのぎには丁度いいわ』


 相変わらずだ。

 だが、その優秀さは信頼に値する。

 俺はスマホをポケットに戻し、校門をくぐった。


 午前中の授業は、ただの待ち時間だった。

 教師の声を聞き流し、ノートを取るふりをしながら、頭の中では黒鉄牙という男のプロファイルを再構築していた。


 かつての神童。堕ちた狂犬。

 彼を壊したのは何だ?

 そして、どうすればその牙を俺の敵に向けさせることができる?


 チャイムが鳴り、昼休みに入る。

 スマホが震えた。

 画面を見ると、不破からファイルが送られてきていた。


 (……速いな)


 俺は人目を避けて屋上へ向かい、ファイルを開いた。

 そこには、俺が求めていた「答え」が簡潔にまとめられていた。


 『原因:教師の横領告発に対する報復。彼は部活動の予算流用を告発しようとして、逆に教師にハメられた。部室で暴れたとされる事件も、実際は教師が仕組んだ挑発に乗せられた結果。……学校側は保身のために彼を切り捨て、彼は絶望して暴力を選んだ』


 なるほど。

 腐った大人。裏切られた正義。

 あいつが虚ろな目で暴力を振るう理由が、腑に落ちた。

 彼は壊れたんじゃない。壊されたんだ。

 そして今も、ぶつける場所のない怒りを抱え、自分自身を壊すために戦っている。


 (……優秀だ。使える)


 たった数時間でここまで掘り下げた不破の手腕を評価しつつ、俺は放課後の行動を決定した。

 今日中に、首輪をつける。


 ◇


 放課後。

 俺は黒鉄の後を離れて追い、彼が向かっている場所へと向かった。

 錆びた鉄骨が墓標のように突き出し、赤茶けた土が広がる荒廃した場所。

 風に乗って、微かに血の匂いが漂ってくる。


 第3資材置き場。


 夕暮れの逆光の中、黒鉄牙が暴れていた。

 その足元には、すでに10人以上の男たちが沈んでいる。

 不良グループの溜まり場だったのだろう。鉄パイプやバットが散乱し、呻き声すら聞こえない静寂が辺りを支配している。


 黒鉄は、返り血で制服を赤黒く染め、虚ろな目で自分の拳を見つめていた。

 拳の皮が剥け、血が滴り落ちているが、痛みを感じている様子はない。


 俺は瓦礫を踏みしめ、音を立てて近づいた。


「……相変わらず、生産性のない喧嘩だな」


 黒鉄がゆっくりと顔を上げた。

 死んだ魚のような目が、俺を捉える。

 一瞬、誰だかわからないといった顔をしたが、すぐに敵意の光が宿った。


「……テメェ、誰だ。消えろ」


 低く、地を這うような声。

 全身から放たれる殺気は、ただの高校生のそれではない。

 だが、俺には届かない。


「消えるのはお前だ。……そのままだとな」


 俺は歩みを止めず、彼の目の前まで近づいた。


「お前、何のために暴れてる? 腐った教師への復讐か? それとも、自分を壊したいだけか?」


 その言葉が、彼の逆鱗に触れた。


「……黙れッ!!」


 問答無用。

 黒鉄が咆哮と共に殴りかかってきた。

 速い。野生の獣のような踏み込み。体重の乗った右ストレートが、俺の顔面を砕こうと迫る。


 だが――。


 俺はポケットから手を出すことすらなく、わずかに上体を逸らした。

 風圧が前髪を揺らす。

 拳は空を切り、黒鉄の体勢が前のめりになる。


「遅い」


 俺は冷たく言い放ち、さらに追撃の左フックをステップバックでかわす。


「軽い」


 蹴りが来る。軸足をずらし、軌道を外す。


「芯がない」


 黒鉄の攻撃は、確かに威力がある。当たればタダでは済まない。

 だが、怒りに任せた暴力は直線的で、読みやすい。

 俺のような「殺人術」を修めた人間から見れば、隙だらけのダンスに過ぎない。


「テメェ……ッ! チョロチョロと……!」


 黒鉄が激昂し、さらに速度を上げる。

 理性などない。ただ目の前の異物を排除しようとする殺意だけが、彼を突き動かしている。


 (……いい素材だ。だが、磨かなければただの石ころだ)


 俺はため息をつき、初めてポケットから手を出した。


「終わりだ」


 黒鉄が大振りのフックを放った、その瞬間。

 俺は懐に潜り込んだ。


 防御などしない。回避もしない。

 ただ最短距離で、彼の顎を撃ち抜く。


 ――ガァンッ!!


 硬質な音が響き、黒鉄の視界が飛んだのがわかった。

 脳が揺れ、意識が断絶する。

 巨体が宙に浮き、そのまま背中から地面に叩きつけられた。


 ドサリ。


 土埃が舞う。

 黒鉄は白目を剥き、地面に這いつくばった。

 泥と唾液が混ざり合い、彼のプライドを汚していく。


 俺は息一つ乱さず、彼を見下ろした。

 圧倒的な実力差。

 傷一つ負わせることなく、暴力の化身をねじ伏せた。


「……ぐ、ぅ……」


 黒鉄が、震える手で地面を掴み、身体を起こそうとする。

 まだ意識があるのか。タフな奴だ。


 俺はしゃがみ込み、彼の髪を掴んで顔を上げさせた。


「お前のその牙、こんなところで無駄にするな」


 俺は彼の瞳を覗き込む。

 そこには、初めて自分を“力”でねじ伏せた存在への畏怖と、そして隠しきれない興味が宿っていた。


「腐った連中を噛み砕くために残しておけ」


「……な、に……?」


「来い。見せてやる」


 俺は返事を待たずに歩き出した。

 黒鉄はふらつきながらも、磁石に吸い寄せられるように俺の後を追ってきた。


 向かった先は、工場地帯を抜けた先にある公園の公衆トイレ。

 俺は蛇口をひねり、冷たい水を勢いよく出した。


「顔を洗え。血の匂いがプンプンして鼻が曲がりそうだ」


 黒鉄は無言で顔を洗い、泥と血を落とした。

 冷水で意識が覚醒したのか、その目に理性の光が戻ってくる。

 だが、その奥にある飢えは消えていない。


「……どこへ行く気だ」


「いいからついて来い」


 俺は軽く自己紹介をすませ、電車に乗り、数駅離れた住宅街へと向かった。

 そこは、手入れの行き届いた庭付き一戸建てが並ぶ、平和そのものの街並みだった。


 とある家の前で、俺は足を止めた。

 表札には『相模サガミ』の文字。

 新築の綺麗な家。ガレージには高級車。

 窓からは、家族団欒の笑い声と、テレビの音が漏れ聞こえてくる。


 黒鉄の呼吸が、一瞬で荒くなった。

 全身から殺気が噴き出す。


「……相模……ッ!」


 彼をハメた教師の名前だ。

 自分を地獄に突き落とした張本人が、生徒から巻き上げた金で建てた家で、のうのうと幸せを享受している。

 その現実に、黒鉄の理性が再び切れそうになる。


「殺してやる……今すぐ……ッ!」


 飛び出そうとした黒鉄の胸倉を、俺は片手で掴み、壁に押し付けた。


「待て」


「離せッ! あいつだけは……!」


「行ってどうする? 殴って、警察呼ばれて、今度こそ少年院か? それでお前の復讐は終わりか?」


 俺は冷徹に告げる。


「そんなのは復讐じゃない。ただの八つ当たりだ」


「じゃあどうしろってんだよ!」


 吠える黒鉄の目の前に、俺はスマホの画面を突きつけた。

 そこに表示されていたのは、不破がハッキングで入手した、裏帳簿のデータだった。

 横領の証拠、金の流れ、そして――共犯者である教頭とのメールのやり取り。


 黒鉄の目が釘付けになる。


「これは……」


「俺の手の中にある。これを教育委員会とマスコミにばら撒けば、あいつの教師人生は終わりだ。この家もローンが払えなくなって手放すことになるだろうな」


 俺は画面を消し、黒鉄の目を見た。


「お前が欲しかったのは、これだろ?」


 黒鉄は、呆然と俺を見つめた。

 自分がどれだけ暴れても、どれだけ血を流しても手に入らなかった「武器」。

 それを、目の前の男は涼しい顔で握っている。


「……あんた、何者なんだ」


 畏怖。

 それは、単に喧嘩が強い相手に向けるものではない。

 自分より遥か高みから、世界を俯瞰し、支配している「絶対者」に向ける眼差しだった。


 俺は黒鉄の耳元で囁いた。


「このスイッチを押すのは、今じゃない。いずれタイミングがきたら全てを奪ってやる」


 悪魔の囁き。

 だが、黒鉄にとっては、それは福音だった。

 彼の歪んだ欲望を、俺が肯定し、さらに残酷な形へと昇華させてやったのだ。


 黒鉄の身体から力が抜けた。

 彼はその場に膝をつき、震える声で笑い出した。


「……はは、はははッ! 最高だ……アンタ、最高だよ……」


 彼は地面に手をつき、俺を見上げた。

 その瞳には、もう迷いはない。

 あるのは、狂信的なまでの崇拝。


 自分を力でねじ伏せ、さらに自分の憎悪すらも完全にコントロールしてみせた「王」への服従。


「俺の牙は、アンタにやるよ。……だから、俺に噛ませてくれ。あいつらの喉笛を」


 黒鉄は、俺の靴に額を擦り付けるようにして頭を下げた。


 俺は満足げに頷き、彼を見下ろした。


「ああ。約束する。……俺が『噛め』と言ったら、骨まで食らい尽くせ」


「了解だ……ボス」


 忠誠の契約は結ばれた。

 俺は背を向け、歩き出す。

 背後には、ふらつきながらもついてくる黒鉄の気配。

 そして、その向こうには、情報を統制する不破蓮の影が見える気がした。


 俺の影が、夜の住宅街の中で色濃く伸びていく。

 巨大な城を落とすための準備は、整いつつあった。

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