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死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
3章 高校生編

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78話

 夜の港湾地区。

 潮の匂いと腐った油の臭いが混ざり合う、第4倉庫周辺。

 俺は物陰に身を潜め、時計を確認した。20時ジャスト。


 一台のタクシーが、少し離れた場所に停まるのが見えた。

 降りてきたのは、私服姿の不破蓮だ。

 落ち着いた色合いのコートに身を包み、周囲の異様な空気に少しだけ肩を強張らせているが、その足取りに迷いはない。


 俺は音もなく彼女の背後に近づいた。


「……よく来たな」


「ッ!?」


 不破が小さく息を呑んで振り返る。

 俺の気配に全く気づいていなかったようだ。


「本当に一人で来るとはな。……ここから先は、教科書には載っていない世界だぞ」


「愚問ね。ここまで来て帰るわけがないでしょう」


 彼女は気丈に言い返したが、指先が微かに震えているのを俺は見逃さなかった。

 恐怖半分、興奮半分といったところか。


「ついて来い。特等席へ案内してやる」


 俺は彼女を連れ、倉庫の側面にある非常階段を上がった。

 錆びついた狭い通路。

 そこにある明かり取りの窓からは、倉庫の内部が一望できる。


「ここから見ていろ。……声は出すなよ」


 不破は無言で頷き、ガラスに張り付くようにして眼下を覗き込んだ。

 倉庫の中には、ガラの悪い男たちが20人ほどたむろしている。

 酒を飲み、大声で笑い、机の上には抜き身の刃物が散乱している。

 暴力と快楽の吹き溜まり。


「……あれは?」


「ただのゴミだ。これから俺が『掃除』する」


 俺は不破の隣を離れ、一階へと降りた。

 正面の鉄扉の前に立つ。


 (観客がいるなら、少し派手にいくか)


 俺は右足に渾身の力を込め、扉を蹴り飛ばした。


 爆音と共に、扉が紙屑のように内側へひしゃげて吹き飛ぶ。

 倉庫内の嬌声と音楽が一瞬で消え、凍りついた静寂が落ちた。


「あぁ!? なんだテメェ!」

「どこから入ってきやがったガキが!」


 一斉に殺気立ち、武器を手にする男たち。

 俺は土煙の中をゆっくりと歩き、不破に向けて、気づかれないように小さく指を鳴らした。


 ――ショータイムだ。


「……臭うな。お前らみたいなゴミがいると、空気が腐る」


 挑発に乗り、リーダー格の大柄な男がバタフライナイフを振り回して突っ込んでくる。

 素人目には速いのかもしれない。

 だが、俺の目には止まって見えるほど遅い。


 あくびが出る。


 俺は一歩も動かず、突き出されたナイフの軌道を冷めた目で見切る。

 刃が鼻先をかすめる寸前。

 俺は半歩踏み込み、男の手首を掴んだ。


 グシャッ。


 骨が砕ける湿った音が響く。


「ギャアアアッ!?」


 男が絶叫する間もなく、俺の左拳が男の喉仏を正確に打ち抜いた。

 ゴフッ、と空気が漏れる音がして、男は白目を剥き、操り人形の糸が切れたように崩れ落ちる。


 それを見た周囲の連中が一斉に襲いかかってきた。

 鉄パイプ、バット、瓶。四方八方からの暴力。

 だが、俺にはそのすべてがスローモーションに見える。


 (……退屈だ)


 右から振られた鉄パイプを、上体を低くしてかわす。

 そのまま回転の遠心力を利用し、後ろ回し蹴りを放つ。

 靴のヒールが男の側頭部を捉え、ドラム缶に激突した。


 左からのナイフ。

 俺はそれを避けることすらせず、腕を絡め取って関節を極める。


 バキリ、と乾いた音がして、男の肘があらぬ方向へ曲がった。


 止まらない。

 俺の身体は、思考するよりも速く、最適解の暴力を叩き出していく。


 かつて影山アキラとして培った、血で血を洗う実戦経験。

 そして今、小学生時代から鍛え上げた若く強靭な肉体と、伊集院家の暗部で磨き直した殺人術。

 その二つが融合し、俺はただの暴力装置と化していた。


 (……見ているか、不破蓮。これが俺の『解』だ)


 舞うように、流れるように。

 計算された暴力は、残酷で美しい旋律を奏でる。

 俺は一度も足を止めることなく、群がる敵を次々と沈黙させていった。


「化け物……ッ!」


 誰かが叫んだ。

 恐怖が伝染し、包囲網が崩れる。

 逃げようと背を向けた男の背中に、俺は床に落ちていた鉄パイプを蹴り飛ばした。

 パイプは矢のように飛び、男の膝裏に直撃する。


 ゴシャッ。


 男が悲鳴を上げて転がり回る。


 数分後。

 倉庫の中に立っているのは、俺一人になった。

 床には、うめき声すら上げられない男たちの山が築かれている。

 鉄錆と血の匂いが充満する中、俺は息一つ乱さず、不破の方を見上げた。


 暗がりの中、ガラスに張り付くようにしてこちらを見下ろしている不破の姿が見える。


 俺はスマホを取り出し、篠原へ『掃除完了』とメッセージを送る。

 そして、再び不破のいるところへと戻った。


 扉を開けると、不破はその場に立ち尽くしていた。

 俺が近づくと、彼女はビクリと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを向いた。


 顔色は蒼白だった。

 手すりを握る手は白くなるほど力が入り、全身が小刻みに震えている。

 眼下に広がる惨状、漂ってくる血と汚物の臭い。

 普通の女子高生なら、悲鳴を上げて逃げ出すか、気を失ってもおかしくない光景だ。


 だが――彼女は、目を逸らしていなかった。


 その瞳は恐怖で見開かれていたが、同時に、異様な熱を帯びて潤んでいた。


「……すごかったわ」


 絞り出すような、掠れた声。


「あなたの動き……すべてが最適解だった。無駄がなくて、残酷で……でも、美しい」


 彼女は震える手で眼鏡の位置を直そうとしたが、うまくいかずに諦めた。


「怖い……怖いはずなのに、目が離せなかった。計算され尽くした暴力……これが、あなたの見ている世界なのね」


 彼女の生理的嫌悪感を、知的好奇心が凌駕していた。


 その歪みこそが、彼女の才能だ。


「ああ。退屈しのぎにはなったか?」


 俺が問うと、不破は深く呼吸をし、震えを無理やり抑え込んで頷いた。

 その口元に、引きつりながらも、凶暴な笑みが浮かぶ。


「ええ。……最高よ。もう、元の退屈な世界には戻れない」


 彼女は俺の手を取った。

 氷のように冷たい手だったが、その握力は痛いほど強かった。


「私を使いなさい、アキラ。私の頭脳は、あなたのその力のためにある」


 そういうとおもむろに俺の体に身を寄せた。


「やっぱり、汗一つかいていない……」


 不破は恍惚とした顔で言った。


 これで共犯契約は完了した。

 俺は彼女の手を握り返し、眼下に広がる惨劇を背に、静かに笑った。


「……これで本当に共犯者だな」


 俺は足取りが重い不破を連れて倉庫を出た。

 夜風が、俺たちの熱と臭いを攫っていく。


 手駒が一つ増えた。

 そして、何より頼もしい「覚悟」を持ったやつだ。

 俺の復讐劇は、ここから加速する。

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