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死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
3章 高校生編

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74話

 放課後の屋上。

 吹き抜ける風が肌を冷やす中、俺は錆びついたフェンスに肘をつき、向かいに建つ特別棟の最上階生徒会室を見据えていた。


 距離はあるが、ガラス張りの室内で、生徒会長・不破がデスクに向かっているのが見て取れた。

 神経質にキーボードを叩く指の動き。

 時折、眼鏡の位置を直す仕草。


 昨日の今日だ。

 彼女は宣言通り、俺の過去を洗いざらい調べているのだろう。

 画面に映し出されているのは、俺という人間のデータか。

 だが、そこにあるのは完璧に調整された「平均値シロ」だけのはずだ。


 その時、生徒会室のドアが勢いよく開き、鮮やかな水色が飛び込んでくるのが見えた。


 南雲か。


 彼女は不破の椅子に駆け寄ると、何かを喚きながら強引に不破の腕を掴んだ。

 不破が眉をひそめて抵抗する様子が見えるが、南雲はお構いなしに引きずって部屋の外へと連れ出していく。


 遠目にも、不破の顔に浮かぶ「こいつには敵わない」といった諦めと、張り詰めた糸が緩むような微かな安らぎが見て取れた。


 (……なるほど)


 俺は口元を緩めた。

 氷の女王のように冷徹な不破だが、あの「南雲」という予測不能な存在に対してだけは、計算外の感情を持っているらしい。

 あれが彼女のブレーキであり、同時に唯一の弱点(人間らしさ)か。


 覚えておこう。

 いつか、その「弱点(南雲)」を利用する時が来るかもしれない。


 俺はフェンスから身体を離し、屋上の扉を開けた。

 さて、そろそろ図書室へ向かうか。

 向こうからアクションがないなら、こちらから仕掛けるつもりだったが……。


 ――どうやら、その必要はなさそうだ。


 図書室の重い扉を開けると、いつもの静寂と、古紙の甘い匂いが迎えてくれた。

 夕陽が長く伸びる窓際の特等席。  そこに、彼女は待ち構えていた。


 不破。

 読んでいた洋書をパタリと閉じ、俺が入ってきたのを確認すると、眼鏡の奥から冷徹な視線で射抜いてくる。

 その手元には、一冊の厚い黒いファイルが置かれていた。


 俺は迷わず、彼女の対面の席に座った。


「……調査は順調ですか?会長」


 俺が皮肉交じりに声をかけると、不破は口の端を冷ややかに吊り上げた。


「ええ。おかげさまで、面白いものが見つかったわ」


 彼女は手元のファイルをテーブルの中央に滑らせた。

 音もなく滑ったファイルが俺の前で止まる。

 開かれたページには、俺の個人データのコピーが綴じられている。


「……あなた、戸籍上の情報が薄すぎるのよ」


 空気が凍りついた。

 彼女は勝ち誇ったように、細い指先で書類の一点を叩く。


「出生地不明。乳児院への保護記録はあるけれど、それ以前のデータが完全に空白。……そして数年前、現在の両親と養子縁組」


 不破は探偵のように俺を追い詰める。

 その声には、獲物を追い込んだ捕食者の興奮が混じっていた。


「調べてみて驚いたわ。あなたの過去は、まるで『途中から発生した』かのように不自然。……ねぇ、あなたは何者なの?この学園に紛れ込んで、何を隠しているの?出自不明の生徒で、何か問題が隠されていた場合は理事会に報告すれば退学もあり得るかもね」


 彼女にとって、これは最強の切りジョーカーだったはずだ。

 普通の高校生なら、出自の秘密や養子であることを暴かれれば、動揺し、狼狽うろたえる。

 あるいは怒り出す。


 そこを突いて、精神的な優位に立ち、俺の仮面を剥がすつもりだったのだろう。


 俺は一瞬、目を伏せた。

 その反応に、不破の目が「勝った」と輝く。


 だが――次の瞬間。

 俺はゆっくりと顔を上げ、つまらなそうに肩をすくめた。


「……それが何か?」


 不破の表情が、ピクリと固まる。

 計算式が狂った音だ。


「え……?」


「孤児で、養子。……それがどうしたんですか?今の世の中、珍しい話でもないでしょう。そんなことで退学になんてなりませんよ。プライバシーの侵害です、会長」


 俺は平然と言い放った。

 動揺などない。

 そんな情報は、俺自身がとっくに把握し、飲み込んでいる事実だ。

 死神によって作られたかもしれない体。偽りの家族。

 そんなことは、今の俺にとって変えられない「前提条件」でしかない。


 不破の瞳が揺れた。

 計算外だと言いたげに、眉間にシワが寄る。

 彼女は「爆弾」を投げたつもりだったが、俺にとってはただの「不発弾」だったのだ。


「……なぜ、動揺しないの?自分の過去が空白なのよ?自分が何者かわからない恐怖はないの?」


「過去なんてどうでもいい。大事なのは今と未来だ。……違いますか?」


 俺は逆に、彼女の目を覗き込んだ。

 焦り始めたのは不破の方だ。

 とっておきの手札を切ったのに、相手が降りるどころか、さらにレイズしてきたのだから。


 俺は懐に手を入れ、一枚のレポート用紙を取り出した。

 四つ折りにされた、何の変哲もない紙切れ。


「会長の調査能力には敬意を表しますよ。よくそこまで調べましたね」


 俺はそれをテーブルの上に滑らせた。


「……何よこれ」


「俺を丸裸にする前に、小手調べです。……会長のその自慢の頭脳で、この謎が解けるかなと思ってな」


 不破は不審そうに俺を睨みながらも、知的好奇心には抗えず、その紙を手に取り広げた。

 そこに書かれているのは、一見すると何の変哲もないリストだ。


 『○月×日 港区 ガス爆発事故 死者1名』

 『○月△日 新宿駅ホーム転落事故 死者1名』

 『○月□日 首都高玉突き事故 重傷者2名』


 ここ一ヶ月の間に都内で起きた、死亡事故や重軽傷事故のリスト。

 警察の捜査資料を抜粋したものだ。


「……ただの事故のリスト?これが何だと言うの?」


「質問だ」


 俺は彼女の言葉を遮り、低い声で告げた。


「このリストの中で、たった一つだけ『本当の事故』が混ざっている。……それはどれだ?」


 不破の指が止まった。

 彼女は怪訝そうに眉をひそめ、もう一度リストに目を落とす。


「……どういう意味?全部、警察が事故死として処理したものじゃない」


「言葉通りの意味だよ。確率論、統計学、物理法則……何でもいい。アンタの得意な計算式で弾き出してみてほしい。そこに潜む、あまりにも整然としすぎた死の法則性と混沌を」


 不破は、最初は馬鹿にしたような目でリストを眺めていた。

 だが――数秒後。

 彼女の瞳の色が変わった。

 視線が高速でリストの項目を走査していく。発生時刻、場所、天候、被害者の属性。

 ただの文字の羅列が、彼女の頭脳を通すことで、点と点が繋がり、おぞましい線となって浮かび上がっているはずだ。


 作為ノイズ

 自然発生的な事故にしては、あまりにも「効率的」すぎる死の連鎖。

 詳細はわからずとも、「何者かの意志」が働いていることは、数字やデータが証明していた。


 彼女の顔から、血の気が引いていく。

 だが同時に、その瞳の輝きは増していた。

 生々しい「混沌カオス」を突きつけられ、彼女の脳が歓喜に震えているのだ。


 俺は立ち上がり、背を向けた。


「……持ち帰って答えが出たら教えてくれ」


 不破は何も言わなかった。

 ただ、その紙を握りしめたまま、動かずに、資料を計算している。

 未知のパズルとの接触。

 彼女をその場に縛り付けているのは、恐怖ではなく、抗いがたい「知的好奇心」だ。


 俺は、図書室の出口へと歩きながら、振り返らずに言い残した。


「……ま、お前の綺麗な教科書には載ってないだろうけど、本当の混沌は身近に潜んでいるもんだ」


 扉を開け、廊下に出る。

 背中には、彼女の強烈な視線が突き刺さっていた。


 俺の過去を暴こうとした手は、逆に俺の深淵に触れてしまった。

 あの天才は、もうあのリストから目を離せないだろう。

 今夜、彼女はそのリストと向き合い、俺の住む世界の論理に触れることになる。


 俺はポケットに手を突っ込み、夕闇の校舎を後にした。

 足取りは軽い。


 不破蓮。

 お前はどう転ぶ。

 世界を正面からしか見ておらず、退屈という名の牢獄に閉じ込められていた天才。


 彼女がどんな「答え」を持ってくるか、楽しみに待つだけだ。

 その結果次第では、不破蓮は俺の「力」になりえる。

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