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死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
3章 高校生編

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64話

更新が遅くなりました。

大きくプロットを変更し、最後までプロットを仕上げてます。

これからは更新頻度はあがりますので、よろしくお願いいたします。

 地下訓練場に漂う空気は、重く、そして冷たかった。

 他の訓練生たちが去り、鉄の扉が閉ざされる音が響くたび、静寂が層を成して降り積もっていくようだ。

 残されたのは、俺と、リングの縁に立つ篠原美琴だけ。

 蛍光灯の白い光が、彼女の鋭利な横顔を照らし出している。

 俺は、努めて“ただの生意気な訓練生”の仮面を崩さないよう、呼吸を整えた。

 だが、肌を刺すような視線が、俺の演技を見透かそうと執拗に絡みついてくる。


「……何の用ですか、教官。俺はまだ課題が残ってるんですけど」


 俺はわざとぶっきらぼうに言い放ち、手袋のマジックテープを剥がす音を響かせた。

 早く帰りたいという意思表示だ。

 だが、篠原は動じない。

 彼女は腕を組み、リングの上から俺を見下ろしたまま、低い声で言った。


「演技が下手だな、お前」


 心臓が、とくんと跳ねる。

 だが、表情筋ひとつ動かさない。

 俺は眉をひそめ、怪訝そうな顔を作ってみせる。


「……何の話です?」

 

「とぼけるな。さっきのスパーリングだ」


 篠原はリングロープを跨ぎ、音もなく床に降り立った。

 その足運びだけでわかる。この女は、殺し合いの場数を踏んでいる。

 彼女はゆっくりと、俺との距離を詰めながら言葉を続けた。


「相手の右フック。お前は避けることも、受けることもできた。……だが、お前はあえて『当たる瞬間』に首を数ミリ引いて衝撃を殺し、派手に倒れてみせた」


 彼女の目が、俺の瞳の奥を覗き込むように細められる。


「さらに、倒れた後の呼吸。乱れているふりをしていたが、脈拍は一定だった。……お前、何者だ?」


 一歩、また一歩。篠原が近づくにつれ、殺気にも似た圧力が強まる。


(……やはりバレていたか)


 俺は内心で舌打ちをした。やはり、伊集院家の暗部を仕切る人間だ。

 凡百のチンピラとは目の解像度が違う。

 小学生の頃のように、ただ子供のふりをして誤魔化せる相手ではない。

 だが、ここで「はい、そうです」と認めるわけにはいかない。

 

 俺はあくまで、伊集院家に拾われた孤児であり、少し才能があるだけの高校生でなければならないのだ。


「……買いかぶりすぎですよ。あいつのパンチが重かっただけだ」

 

 俺は視線を逸らし、荷物をまとめようと背を向けた。その瞬間だった。

 

 ヒュッ――

 

 風を切る音。殺気。

 

 思考よりも先に、身体が反応した。背後から迫る掌底。狙いは首筋。

 俺は荷物を放り出し、上半身を沈めるようにして前転する。

 コンクリートの床を転がり、即座に立ち上がって構えを取った。

 

 振り返ると、篠原が右手を突き出した体勢のまま、ニヤリと口角を上げていた。


「……反射神経も、反応速度も。素人のそれじゃないな」

 

 彼女の瞳に、獲物を見つけた猛獣のような光が宿る。


「おい、教官。訓練生を殺す気か?」


 俺は声を荒げたが、腹の底は冷え切っていた。

 今の攻撃は、本気だった。避けなければ、頸椎をやられていたかもしれない。


「殺しはしない。……だが、試させてもらう」


 篠原は再び構えを取った。今度は、訓練用の型通りの構えではない。

 重心を低くし、いつでも急所を食い破れるような、実戦の構えだ。


「私を納得させるまで、ここから帰れると思うな」


 逃げ場はない。扉はロックされているし、ここで騒ぎを起こせば、俺の立場が危うくなる。

 俺は深く息を吐き出し、覚悟を決めた。


(……仕方ない。少しだけ、“牙”を見せるか)


 完全に実力を隠すことは不可能だ。

 ならば、逆にこれを利用する。“才能ある原石”として認めさせ、オーディションだと思えばいい。

 

 俺は重心を落とし、半身に構えた。転生前の――影山アキラとしての、血なまぐさい実戦の構え。


「……いいぜ。アンタが望むなら、付き合ってやるよ」


 俺の言葉に、篠原の目が歓喜に歪んだ。


「合格だ。……来いッ!」


 号令と同時、篠原が踏み込んできた。

 速い。だが、見えないほどじゃない。

 彼女の拳が顔面を狙う。

 

 俺はそれを最小限の動きで弾き、懐へ飛び込む。肘打ちを狙う。


 だが寸前で、篠原の膝が俺の腹を狙って突き上げられた。


(読みがいい……!)


 俺は肘を引いて膝をガードし、その衝撃を利用してバックステップで距離を取る。

 重い衝撃が腕に残る。この女、体重の乗せ方が上手い。


 見た目以上の破壊力がある。

 

 息つく暇もなく、篠原が追撃してくる。

 急所のみを的確に狙う、無駄のない殺人術。

 

 俺はそれを捌き、いなし、時に被弾しながらも致命傷を避ける。

 訓練場に、肉と肉がぶつかる鈍い音と、シューズが床を擦る音だけが響き渡る。

 

 汗が目に入る。呼吸が熱くなる。だが、思考はクリアだった。

 

 篠原の動きには癖がある。攻撃の終わり際、右肩がわずかに下がる。

 

 次の攻撃への予備動作だ。


 (……そこだ)

 

 篠原が回し蹴りを放ち、体勢を戻そうとした一瞬の隙。俺は踏み込んだ。

 防御を捨て、相手の懐、ゼロ距離へ。

 

 驚愕に見開かれる篠原の目。

 

 俺の右手が、彼女の喉元を――掴む直前で止まった。

 同時に、篠原の指先も、俺の眼球の手前で静止していた。

 

 静寂。互いの荒い呼吸音だけが、地下室に反響する。

 

 汗が鼻筋を伝って落ちた。


 「……ここまでですね」

 

 俺は静かに手を下ろし、距離を取った。心臓が早鐘を打っている。

 まだまだ鍛えが足りないのか、スタミナの消耗が激しい。

 

 篠原もまた、手を下ろして大きく息を吐いた。

 その顔には、先ほどまでの殺気はなく、代わりに奇妙な満足感が浮かんでいた。


「……ああ。十分だ」


 彼女はタオルを投げ渡してくると、パイプ椅子にどっかりと座り込んだ。


「お前、どこでその技術を覚えた?」


 水筒の水をあおりながら、篠原が問う。想定していた質問だ。


「……生きるために必要だったんですよ。スラムみたいな場所で育てば、誰だって覚える」


 半分は嘘で、半分は真実だ。

 この世界での幼少期も、決して安穏としたものではなかった。

 だが、それ以上の技術は、前世という地獄で培ったものだ。


「ふん、嘘くさいな。だが……まあいい」


 篠原は深く追求しなかった。

 裏の世界では、過去よりも「今、何ができるか」が全てだ。彼女もそれを知っている。


「お前の実力は認める。ただの訓練生枠に収めておくには惜しい」


 彼女は立ち上がり、壁際のロッカーから一枚のカードキーを取り出した。

 それを俺に見せつけるように指先で遊ばせる。黒く、無機質なプラスチックカード。


「それは?」


「アクセスキーだ。……通常の訓練生は立ち入れない、色々な場所へ入れる」


 俺の中で、歓喜と警戒が同時に湧き上がった。

 もし情報が眠っている部屋に入れることになれば……。

 そこに、暗部の名簿や過去の任務記録があるはずだ。

 

 喉から手が出るほど欲しい「扉」の鍵が、今、目の前にある。


「……くれるんですか?」


 俺は手を伸ばしかけたが、篠原はニヤリと笑い、カードを胸ポケットにしまった。


「まさか。どこの馬の骨とも知れない小僧に、いきなり組織の権限を渡す馬鹿がいるか」


 彼女の冷徹な視線が、俺を射抜く。


「欲しければ、実力で奪い取れ。『特待生』として私の直轄部隊に入れ。……そこで成果を出せば、権限を与えてやる」


 ただの勧誘ではない。これは値踏みだ。

 俺を利用価値のある道具として使い潰すか、あるいは飼い慣らすか。

 

 俺は内心で舌打ちをした。足元を見られている。だが、今はその提案に乗るしかない。


「……条件は?」


「汚れ仕事だ。学園生活とは真逆の、ドブさらいのような任務。……できるか?」


 俺は篠原を睨み返した。

 ドブさらい。

 ……上等だ。

 

 俺は元々、ドブの中で生まれ、ドブの中で死んだ男だ。

 綺麗な場所を歩こうなんて思っちゃいない。


「……わかりました。引き受けます」


「よし。話が早くて助かる」


 篠原は満足げに頷くと、出口の方を顎でしゃくった。


「今日は帰れ。……近いうちに招集をかける」


 俺は一礼し、地下室を後にした。

 階段を上り、外の空気を吸い込むと、夜風が火照った体を冷やしていく。

 空を見上げると、月が雲に隠れようとしていた。


(……簡単にはいかないか)


 握りしめた拳の中には、何もない。

 だが、ルートは確保した。

 

 「直轄部隊」に入り込み、内部から信用を勝ち取れば、いずれあのカードキーに手が届く。

 

 情報が手に入れば、調べなきゃならないことは山ほどある。

 転生前の俺を陥れた「裏切り者」。

 そして――処刑場にいた「鷹のタトゥー」を持つ男たち。

 

 遠回りだが、確実な道だ。

 

 ――待っていろ。必ず、お前たちの喉元に食らいついてやる。

 

 屋敷の敷地内を歩き、俺と母さんが暮らす「離れ」へと戻る。

 玄関を開けると、静寂が迎えてくれた。

 リビングの明かりは消えていたが、テーブルの上にラップのかかった夜食が置かれていた。

 

 その横に、小さなメモ。

 

『お疲れ様。無理しないでね』

 

 見慣れた文字。

 かつては歪んでいた家庭、偽りだった親子関係。

 だが、あの火事の夜、俺たちは“共犯者”として生き残った。

 今の母さんの平穏は、俺が守り抜いた成果だ。

 

 俺は冷めた味噌汁を一口すすり、椅子に深く腰掛けた。

 

 どっと疲れが出る。

 肉体的な疲労よりも、常に神経を張り詰めている精神的な摩耗だ。

 

 表の高校生活では、将来の手駒となる優秀な生徒を品定めし。

 裏の暗部では、実力を隠しながら牙を研ぐ獣を演じる。


 俺の本性は、一体どこにある?

 今の俺は……復讐のために蘇った亡霊だ。それだけでいい。


(……くだらないこと考えてる暇はないな)


 俺は残りの飯をかきこみ、食器を洗うと、自室へ戻った。

 机の引き出しから、一冊のノートを取り出す。

 そこには、これまで集めた情報が暗号のような走り書きで記されている。

 

 ・クジョウ(俺をハメた黒幕?)

 ・伊集院家(力、暗部、鷹の紋章)

 ・死神(傍観者、認識阻害)


 ここに、今日得た新たなピースを加える。


 ・篠原美琴(暗部教官、鍵を持つ者)

 

 ペンを走らせながら、思考を整理する。

 カードキーは手に入らなかった。だが、標的は定まった。

 篠原を利用し、のし上がり、権限を奪う。

 

 そして手駒がいる。

 図書室で接触した不破。彼女は使えるはずだ。

 

 しかし、決定的に足りないものがある。

 

 俺の代わりに手を汚す「力」だ。

 加賀のような洗練された強さではなくていい。

 

 この学園のどこかに、そういう“素材”が転がっていないか探す必要がある。

 ノートを閉じ、引き出しの奥に隠す。

 ベッドに倒れ込むと、天井の木目が歪んで見えた。

 

 かつて死刑台に立ったあの日。

 あの絶望と無力感を、俺は片時も忘れていない。

 

 二度と、あんな思いはしない。

 

 これからは俺が、盤面を支配する側だ。

 目を閉じると、篠原の鋭い蹴りの残像が浮かんだ。

 今の高校生の肉体では、まだ全盛期の動きには程遠い。

 もっと鍛えなければ。技術で補える範囲にも限界がある。

 

 明日もまた、学校がある。

 新たな手駒探し。そして、暗部での任務。

 

 休まる暇はない。だが、それが心地よかった。

 生きている実感。復讐へと進んでいる確かな手応え。

 

 俺は、暗闇の中で静かに笑った。

 死神よ、見ているか。お前の描いた筋書き通りになんて、踊ってやらない。

 

 この舞台の主役は、俺だ。

 意識が闇に溶けていく直前、スマホが短く震えた。

 重いまぶたをこじ開け、画面を見る。

 

 『明日、放課後。大事な話がある』

 

 送信者は――桜。

 その短いメッセージに、俺は微かな予感を覚えた。

 彼女もまた、何かを決意しようとしているのかもしれない。

 小学生の頃、俺を守ると誓ったあの時から、彼女の想いは変わっていないのか、それとも――。

 俺たちの運命が、少しずつ、しかし確実に絡まり合い、大きな渦になろうとしている。

 スマホを握りしめたまま、俺は深い眠りへと落ちていった。

_____________________________


お読みいただきありがとうございます。

更新は出来るだけ1話1000文字~3000文字で更新していきます。

ブックマークをしてお待ちいただけますと幸いです。


もし面白いと思いましたら、リアクションや、評価やレビューをしていただけると泣いて踊って大声で喜びます。


モチベーションがあがるので、是非よろしくお願いいたします。

_____________________________

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