58話
遅くなりました。小学生編終わりです。次の舞台は高校生です。
高校生編は登場人物が増えますよ。
季節は巡り、あの日から数年の月日が流れた。
今、俺は名門・聖条学園の制服に袖を通し、高校の門をくぐっている。
表向きは文武両道を掲げるエリート校。だが俺にとってこの場所は、将来を見据えた“狩場”だ。
次の計画を進めるために必要な人材を選別し、力を築き上げるための――舞台。
そう、この高校生活は、俺にとってただの青春などではない。
過去を燃やし尽くし、未来を喰らい尽くすための準備期間だ。
そして、教室に入るよりも前に、俺の思考はふと過去へと引き戻された。
──数年前。
父親が逃げたあの夜の後、伊集院家は総出で彼の行方を追った。
加賀が率いる特殊部隊まで動員され、都内にある協力者ネットワークや監視カメラを総ざらいで捜査したが、結局見つからなかった。
「彼がアクションを起こせば、必ずどこかで尻尾を出す。」
そう加賀は言っていた。つまり、父親が何か“動いた瞬間”が狙い目だということだ。
だが、俺はこのまま何もしないつもりはなかった。
中学に進学した俺は、伊集院家の「暗部」に志願した。
本来なら血縁者か、特別にスカウトされた者しか入れない非公開部門。
そこに“特例”として見習い暗部として潜り込んだのだ。
理由はひとつ。
あのとき、俺を陥れた実行部隊が、伊集院家の紋章――鷹の刺青をしていた。
桜は「識別印」だと言ったが、それが本物なら、あの男たちは伊集院家の“誰か”の指示を受けて動いていたということになる。
伊集院家を疑うのは無理もない。
あの力。あの規模。そして、あの冷たさ。
裏の世界において彼らは間違いなく最上位に位置している。
桜は当然反対した。
「アキラをそんな危ないところに入れるなんて……っ、私が許さない!」
目に涙を浮かべて詰め寄ってきた彼女を、俺は淡々と見つめていた。
「やると決めたからには、止まらないよ。これは俺の“償い”でもある」
何の償いかは、彼女には言わなかった。転生のことも、前世のことも、誰にも話していない。
俺の中だけで煮えたぎるこの怒りは、俺にしか処理できない。
結局、桜は「……絶対無理はしないで」と小さく頷いた。
納得などしていなかったが、彼女なりに信じてくれたのだろう。
母は、あの火事の後、奇跡的に回復した。
長らく昏睡状態にあったが、医療処置と伊集院家の支援により、意識を取り戻した。
現在は、伊集院家の屋敷の一角で家事手伝いとして働いている。
立場は微妙だが、少なくとも俺と一緒に暮らせている。
心の奥底に刺さっていた何かはまだ完全には消えていないが、母なりに変わろうとしているのは確かだった。
……ただし。
「監視は継続させていただきます」
加賀はそう言っていた。
「彼女の行動には問題はありません。ただし、万一ということがありますので」
それはつまり、母が今後再び“敵”に転ぶ可能性を、伊集院家は捨てきれていないということだ。
そんな環境で育ちながらも、俺は中学をトップの成績で卒業した。
伊集院家の“表”の期待も背負い、そして“裏”でも暗部としての実績を少しずつ積んできた。
戦闘術、情報操作、潜入工作、心理誘導。そういった技術を静かに吸収しながら、俺は徐々に自分の「手駒」を揃えるために活動を開始していた。
そして今、俺はこの高校生活で、次のステージへと踏み出す。
――“表の世界”で力を持つ人間を見極め、育て、繋げる。
誰にも知られず、裏の結社を形成する。
それは、将来自分が復讐を遂げるための、巨大な歯車を作る作業。
俺一人では届かない敵も、組織を通せば届く。
復讐には、力がいる。
力には、信頼と忠誠がいる。
だからこそ、俺はこの世界で最も優秀で、最も無垢で、最も“危うい”人間を見極め、手駒として囲い込んでいく。
それが、俺の次の――“計画”だった。
(この学校で、俺は世界を変える準備を始める)
眩しい朝の陽射しが、校門の奥へと俺の背を押した。
だが、その光の中に差す黒い影――
それが、今はまだ誰にも見えない“もう一つの顔”を形作っていた。




