表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
2章 小学生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/74

53話 開戦

 家に戻ると、まず俺は周囲をゆっくりと歩きながら、慎重に確認を始めた。


 ポケットの中で、手のひらに収めたスマホが微かに汗ばむ。

 もし、罠が仕掛けられているなら、このあたりに何かしらの違和感が残るはずだ。


 ――写真と違いはないか。


 昨日、念入りに撮っておいた家の周りの写真データを思い返す。

 ポストの位置、植木鉢の角度、隣家との距離感、地面の小石ひとつに至るまで、俺はすべてを記憶していた。


 だが――目に映るものに変化はない。

 玄関前の空気は、昨日と同じ。


(……やはり、親父が帰ってきた後に仕掛けてくるのか?)


 わざわざ今日に合わせて動きを見せないあたり、本命は「その時」だと踏んでいる可能性が高い。

 俺が油断したタイミングを狙う気だ。


 慎重に確認を終え、玄関のドアノブに手をかけた。

 扉を開けた瞬間、ふわりと漂う夕食のいい香り。


「おかえり、アキラ」


 母親の声が、柔らかく俺を迎えた。

 俺は一瞬だけ、張り詰めていた肩の力を抜き、表の顔に切り替える。


「……ただいま」


 靴を脱ぎながら、母親の方を盗み見た。

 母親は微笑んでいたが、どこか緊張したように、手のひらをぎゅっと握りしめているのが見えた。


「……アキラ、大事な話があるの」


 母親は、テーブルの前に立ったまま、ぎこちなく両手を胸元で組んでいた。

 その声は、どこか震えていて、しかし強く何かを伝えようとする決意を感じさせた。

 俺は、ほんの一瞬、警戒心を滲ませながらも、すぐに表情を整える。


「……わかった。荷物、片付けてくる」


 そう返しながら、ゆっくりと靴を脱ぎ、階段を上がる。

 背中に母親の視線が刺さるのを感じた。


「うん。リビングで待ってるね」


 母親は、無理に微笑みを作りながらも、その声はどこか落ち着かず、かすかに揺れていた。

 今の母親は明らかに、何かを抱えている――それが俺にとって、吉と出るか、凶と出るか。


 階段を踏みしめる音が、やけに響いて聞こえた。


 部屋に入ると、俺は静かにドアを閉め、通学用のバッグをベッドの横に置いた。

 ポケットからスマホを取り出し、一瞬だけ画面を見つめる。


(……さて、どう出る)


 まだ油断はできない。

 母親の「大事な話」が、俺の生存にどう関わるのか、それはこの数分で決まる。

 バッグの中に軽く荷物を整え、再びゆっくりと息を吐く。


「行くか」


 意図的に足音を立てないように、慎重に階段を降りていく。

 母親は、リビングで背筋を伸ばし、椅子にきちんと座っていた。

 両手をテーブルの上に重ね、まるで何かを決意した人間のように、俺が来るのを待っていた。


 ――何を聞かされるのか。


 警戒と期待を天秤にかけながら、俺は静かに椅子を引き、目の前に座った。


 次の一言で、この夜の「形」が決まる。


 そんな、張り詰めた空気が、二人の間に流れていた。

 俺が席に着くと、母親は少しだけ躊躇い、けれど意を決したように口を開いた。


「……アキラ、お父さん、今日帰ってくるの」


 母親は、手をぎゅっと握ったまま、膝の上で指を絡めるようにして震えていた。

 口にした言葉は静かだったが、声の奥に確かな恐怖と焦りが滲んでいた。


「……そう」


 俺は淡々と返す。

 脈が静かに早まるのを感じたが、表情には一切出さない。

 想定通り――今のところは。


 目の前の母親は、不安を隠しきれない様子で、何度も小さく唇を噛んでいた。


「でもね……帰ってきたあと、すぐに彼は用事でまた出かけるの」


 母親は伏し目がちに、言葉を選ぶようにゆっくりと続ける。


「用事?」


 一応、反応を示しておく。

 あくまで、何も知らない小学生の皮をかぶったままで。


「ええ。今日の夜、少しだけ家を離れるんだって」


 母親はそう言いながら、落ち着きなく手を膝の上で握り、指先をぎゅっと食い込ませた。

 白くなるほど力を入れているのが見える。


 俺はその動きひとつひとつを冷静に観察しながら、ただ黙って続きを待った。


「……アキラ、お父さんが家を出たら……この家から逃げよう」


 母親はまっすぐに俺を見つめ、恐怖と決意の入り混じった目でそう言った。


「……は?」


 言葉の意味を理解しながらも、あえて戸惑ったふりをした。

 思考を巡らせながら、母親の真意を探る。


 母親は、強張った表情のまま、少しだけ椅子の端に座り直すと、ぎゅっと唇を結ぶ。


「逃げるって……どういうこと?」


 俺は表情を微かに曇らせながら、続きを促した。

 母親は一度俯き、そして決心したようにゆっくりと口を開いた。


 ――まるで、ずっと心に秘めていたものを吐き出すように。

 俺は思わず、聞き返した。


 母親は俺の目を真っすぐに見て、はっきりと続けた。


「実はね……お父さん、あなたの命を狙っているの」


 喉が、かすかに鳴った。

 その言葉を、母親の口から聞く日が来るとは――正直、少しだけ驚いた。

 俺は平静を装ったまま、母親の話を聞き続ける。


「……その決行が、今日なの。今日の夜。家の周りは、もう監視されてる」


 母親は、震える声で、必死に言葉を絞り出した。

 その手は指先まで強張り、テーブルの縁をぎゅっと掴んでいる。


「……監視?」


 俺は眉をわずかにひそめ、疑問を投げかけた。


「ええ。お父さん、あなたに気付かれないように、周到に準備を進めてる」


 母親は目を伏せ、必死に心を落ち着けようとしているのか、何度も浅く呼吸を繰り返した。

 それでも、肩は震え、声はわずかに掠れている。


「……どういうことだよ」


 俺はわざと焦ったように声を上ずらせ、無垢な小学生を演じる。


 母親は俺の言葉に気を留める余裕もないのか、ただ目の前の事実を吐き出すことに必死だった。


「でも……お父さんが家を出た、その瞬間だけが、私たちにとって唯一のチャンス」


 母親は、震える手をそっと俺の手の上に重ねた。

 ひんやりとした温度が、彼女の恐怖を如実に物語っている。


「彼がいない間に逃げ出せば、きっと――きっと、助かるはず」


 母親の声は微かに震えた。

 まるで、自分に言い聞かせるかのように、必死に未来を信じようとしている。

 その目は恐怖に濁り、それでも俺を守ろうとする、必死の覚悟を宿していた。


 俺はゆっくりと母親の手を握り返す。

 心の奥では冷静に、別の可能性を計算しながら。


(……この言葉は、どこまで信じていい?)


 心の裏でそう問いかけながら、表面では怯える子供を演じ続けた。

 父親が家に残っている間は、目も手もすぐに伸ばせる。

 だが、外出している間は、監視こそあれど、直接的な支配力が弱まる。


 確かに、動くならその瞬間しかない。

 母親は、必死に俺の目を見つめて続けた。


「私、あなたを守るわ。どんなことがあっても、私が一緒に逃げる。……もう怖くないの。あなたを、絶対に守るって決めたから」


 母親の手が、震えているところに俺は母親の手をぎゅっと握った。


「……ねえ、信じてくれる?」


 母親の瞳は、切実で、必死だった。

 俺は、ゆっくりと息を吐き、ほんの少しだけ微笑んだ。


「……ありがとう、母さん。警察に通報したらどうかな?」


 表の顔を崩さずに、優しくそう返した。

 俺は、心の奥で冷静に状況を整理し続けていた。


「まだ何も起きていない。だから警察に通報しても何も動いてくれないの。証拠も何もないし」


 確かに現時点では警察は動かない。

 動くとしたら俺達に何か起きた時か、確固たる証拠があれば……。


 そのことから母親の言葉が真実である可能性は高い。

 だが、同時に――これも父親の策略の一部である可能性は、完全には捨てきれない。


 監視されている、という事実すら、俺を誘い出すための罠かもしれない。

 どちらにせよ、俺が動くことを彼らは期待している。


 でも――。

 もし、この母親の「守る」という言葉が本心なら。

 もし、本当に母親が俺のために、命懸けで逃げようとしているのなら――。


 俺は。


「……分かった」


 ほんの一瞬だけ、迷う素振りを挟んでから、俺はゆっくりと頷いた。

 震える母親の手に、俺はそっと自分の手を重ね、指を絡めるように、優しく握り返した。


「母さんと一緒に、逃げよう」


 その言葉を口にした瞬間、母親の肩が、わずかに緩むのが分かった。


 緊張が少しだけほどけたのか、彼女は小さく息を吐き、震えた唇に、かすかな微笑みを浮かべる。


「……良かった」


 母親は、まるで心底安心したように、ふっと目を細めた。

 だが、その表情はどこか痛々しかった。


 その笑顔の裏に、どれだけの恐怖と、どれだけの覚悟を抱えているのか。

 俺は母親のその表情を、冷静に観察しながら――

 心の奥で、別の仮説を積み上げていく。


(……本当にこれが、“答え”なのか?)


 母親の手の温もりを感じながら、俺はほんのわずかだけ、口角を持ち上げた。

 最高の子供の仮面を被ったまま、慎重に、冷静に、母親の言葉を分析し続ける。


 逃げよう。

 母親はそう言った。


 ――だが、どこまでが真実だ?


 それを見極めるまで、俺は決して油断しない。

 表面では、安心したように母親に微笑み返しながら、裏では――俺の中の獣が、牙を研いでいた。


 その顔は――たしかに、救われたように見えた。

 母親が敵か味方か――それを見極めるのは、これからだ。


『ガチャ』


 静かな家の中に、不意に玄関の鍵が閉まる音が響いた。


 ――違和感。


(……今の音、外から……鍵が……?)


 鍵を閉める音は、内側からなら聞き慣れたはずだ。

 けれど、今のは――外側からだった。


(……閉じ込められた?)


 思考が警鐘を鳴らした瞬間、リビングの隅で『シュウウウ……』という、機械音が響き始めた。

 白いガスが、ゆっくりと――だが確実に、俺たちのいる空間を満たしていく。


(しまった――!)


 即座に身体を伏せ、腕で口元を覆い、可能な限り低い位置で呼吸を抑える。

 だが、ガスの広がりは速い。


『ドサッ』


 鈍い音が、耳に届く。


(……!)


 母親が、崩れるように床に倒れていた。

 目の前で――守ろうとしてくれた、母親が。

 そのすぐ隣――家具の隙間から、勢いよくガスが噴き出している。


(……まさか。ここに仕掛けがあったのか)


 家に入ったとき、周囲を確認した。罠はないと判断した。


(……甘かった)


 家の中。しかも母親が過ごすリビングに、仕掛けがあるなんて――

 そこまでは、考えが及んでいなかった。


(俺だけが標的じゃない……?)


 それは――ずっと俺が勘違いしていたこと。

 俺が狙われている、そう思い込んでいた。


 でも――違う。

 母親も、最初から標的だった。


(そうか。……最初から、二人を同時に消すつもりだったんだ)


 俺は、ほんの僅かに母親の存在に安心してしまっていた。

 “味方”がいるという錯覚が、どこかにあった。


(……甘かった……)


 自分でも呆れるほどに、隙があった。

 俺は自分の身体の異変を探る。


 ――頭が、少し重い。

 だが、呼吸は……まだ平気だ。

 喉の痛みも、毒のような強烈な症状もない。


(毒じゃない……これは……)


 催眠ガス、もしくは麻酔系のガス――それが濃厚だ。

 けれど、次第に……意識が、急激に霞んでいく。


 理解した瞬間、視界がじわりと滲む。


(だめだ……持たない……!)


 自分の思考が、沈んでいく。


(――スマホ……非常用の電話をかけなければ)


 俺は薄れゆく意識の中で桜から教えてもらった非常用のコールボタンを押した。

 その後、視界が黒く染まり、身体が鉛のように重くなる。

_____________________________


お読みいただきありがとうございます。

更新は出来るだけ毎日1話1000文字~3000文字で更新していきます。

ブックマークをしてお待ちいただけますと幸いです。


もし面白いと思いましたら、リアクションや、評価やレビューをしていただけると泣いて踊って大声で喜びます。


モチベーションがあがるので、是非よろしくお願いいたします。

_____________________________

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ