35話 この世界のカラクリ
桜の車が角を曲がって見えなくなるまで見送ったあと、俺はゆっくりと背を向けた。
人気のない場所を探す。澪の性格を思い返せば、誰かに聞かれるのは嫌がるはずだ。
校舎の裏、通用門の先、グラウンド脇……しばらく歩き回った結果。
俺の足は自然と河川敷へ向かっていた。
ここなら見通しがいい。
もし誰かが近づけばすぐに気づける。人通りもほとんどない。
会話をするには、最適だった。
(よし……)
俺はポケットからスマホを取り出し、澪の番号をタップした。
……コール音が一回鳴ったか鳴らないかのうちに、すぐ応答が返ってくる。
『もしもし?』
スマホ越しに聞こえる、どこか気の抜けたような、けれど耳に残る声。間違いなく澪だった。
「この前、情報をもらったアキラっていう小学生だけど……」
一応名乗っておく。今の姿では一度しか会っていないし、警戒されても困る。
『あ〜! わかるよ! どうしたの? 次の依頼?』
話が早くて助かる。
こっちも本題にすぐ入りたいところだった。
「うん。次の依頼になるんだけど」
『見返りは?』
内容よりも先に報酬の確認。相変わらずだが、それが澪という人間だ。
「あ〜伊集院家を狙ってる人たちがいるんだけど、その一人の個人情報を手に入れたんだ」
これが澪にとって価値があるかは分からない。
けど今の俺が出せる情報なんて限られている。
『オッケー。伊集院家の情報なら私も助かるよ』
乗ってきた。意外なほどあっさりと。
「本当に? 助かるよ。俺が調べてほしいのは、俺の父親について詳細」
言いながら、自分の中の緊張が少しだけ緩んだ。
『あ〜保険金かけてる父親の件ね。何が知りたい?』
「全て。計画の情報。父親の素性。属している組織、何をしようとしているのか。何か情報がほしい。出来るだけ詳細に」
俺の声に迷いはなかった。
この情報がなければ、どうにも動けない。
『さすがに計画の内容とかまでは調べるのは難しいかもだけど、出来るだけ調べてみるよ』
思っていたよりも協力的だった。これで何か一つでも糸口が掴めれば――。
「要件はそれだけ。もしわかったらSMSでもいいから送ってよ」
『オッケー! じゃああんまり長く話せないから切るね』
ガチャッ。
無機質な切断音が耳に残る。澪らしい、切れ味のある終わり方だ。
あの子のことだから、色々と警戒しての対応だろう。
……まあいい。
これで、少しでも情報が手に入れば俺からも手が打てる。
空を見上げると、夕陽が川面を赤く染めていた。
陽が落ちかけていることに、ようやく気づく。
(……帰るか)
スマホをポケットに戻し、俺はゆっくりと河川敷をあとにした。
風が少し冷たくなっていて、制服の袖を押し返してくる。季節が変わるのは早い。
足取りは自然と重くなる。
家に帰れば、あの“家庭”が待っている。
何を隠していて、何を企んでいるのか。
もう少しで見える。
俺だって情報が手に入るまでは、すぐに仕掛けるつもりはない。
だからこそ、情報が要る。
(澪が動いてくれるなら……)
小さな希望と不確かな不安を抱きながら、俺はまっすぐ家へと向かった。
玄関の扉を開けると、家の中はしんと静まり返っていた。
電気はついていない。人の気配もまるでない。
(……誰もいないのか)
父親は今日もいない。
母親も、たぶん買い物か何かだろう。
(今なら……)
母親がいないのなら、今が調査のチャンスだ。
足が自然と、あの日の“場所”へ向かっていた。
以前、家の中を探っているときに見つけた養子縁組の書類。
(……今しかない)
何気ない動作を装いながら、慎重にその場所を探る。
やはり、そこにあった。
(あった……)
封筒を手に取り、中身を確認する。
手続きの日付は前回も確認したが、1年前。
その瞬間、違和感が走った。
警告のような、鋭い直感。
経験が、思考が、俺に警鐘を鳴らす。
気づかなければならない。
強く、そう思った。
違和感の正体は――日付か?
俺は今日の日付を確認しようと、近くのカレンダーに目をやった。
その瞬間、ズキンと頭に激痛。
(……!)
前にもこんな頭痛があった気がする。だが、どこでだったか思い出せない。
痛みに耐えながら、思考を研ぎ澄ます。
(た、多分……日付じゃない……気がする)
思考の流れを切り替えると、痛みはすっと消えた。
そして、次の考察へと脳を働かせる。
そもそも、転生直後に養子手続きが終わっていた?
そんなはずはない。養子縁組には審査があるし、事前の手続きが必須だ。
違和感の正体が、少しずつ形を持ち始める。
(……死神は言っていた。俺の存在は“後から組まれた”って)
俺は、この世界のカラクリに触れようとしている。
――俺だけじゃない。
“後から作られた存在”が、他にもいる。
俺の両親も、死神が与えた体なのかもしれない。
もしくは、元々この世界にいた人間に、記憶や思考を“植えつけられた”だけか。
あるいは――最悪の場合、最初から存在していないのかもしれない。
じゃあ、保険金の件も……全部、死神が用意した筋書きなのか?
俺の周囲の人間全員が、死神の手のひらの上で演じているだけなのか?
嫌な予感とともに、桜の顔が浮かんだ。
(……ははっ)
転生後の人生も、それなりに楽しんでいた。
けど――それすらも、死神が作った“嘘”だとしたら。
ひとつ、はっきりわかったことがある。
――死神は、味方じゃない。
俺や、周りの人間を使って、何かを企んでいる。
そして、結末すらもう決まっているかもしれない。
だがそれでも。
俺を主役に選んだことを、後悔させてやる。
これから出会う人間、すべてが死神の息がかかった存在だとしても、
ならば逆に、その行動は“予測できる”。
死神の目的も、結末も、俺が上回ってやる。
――俺は死神すら、超えてみせる。
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