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死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
2章 小学生編

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26話 護衛

 朝日がカーテンの隙間から差し込んで、目が覚めた。


 ベッドの中で少しだけぼんやりしたあと、ゆっくりと体を起こす。


「さて……今日は、やることが多いな」


 頭の中で予定を整理する。

 まず、学校では桜の護衛。やると言ったからには、手は抜けない。

 それから放課後には、澪と会う。

 情報が揃ったって言ってたな。今後に関わる重要な話だ。

 そして最後に──家に帰れば、“父親”が帰ってくる。


 俺の表情が自然と引き締まる。


「……ま、うまくやるさ」


 自分にそう言い聞かせながら、制服に着替え、リビングへ向かう。


 母さんは台所でいつものように朝食を準備していた。

 少し元気のない笑顔だったが、俺を見ると少しだけホッとしたような表情を見せた。


「アキラ、朝ごはんできてるわよ。早く食べちゃって」


 台所から母さんの声が聞こえた。

 声の調子はいつも通りだけど、どこか無理に明るく装っているのがわかる。

 昨夜の、怯えたような表情がふと頭をよぎる。


「うん。いただきます」


 食卓に座り、湯気の立つ味噌汁の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

 焼き魚とごはん、いつもの朝食。

 それだけなのに、妙に安心する。

 母さんは俺の向かいに座ると、何でもないようにテレビのリモコンを手に取った。


 俺は箸を動かしながら、母さんの様子をさりげなく観察する。

 少し落ち着かない手つき。表情は笑っているけど、目の奥には消えない不安が残っていた。


 食事を済ませ、鞄を持って玄関に向かう。


 ドアを開けた瞬間、目の前に見慣れない黒塗りの車が停まっていた。

 運転席には加賀、そして後部座席には、窓を開けて俺を見下ろすようにして座っている桜の姿。


「おはよう、アキラくん。今日は一緒に学校へ行きましょう?」


 いつものようにすました顔。でもどこか、嬉しそうに見える。


「……はあ。マジかよ」


 ため息をつきながら、俺は歩き出した。

 まったく、朝から刺激が強すぎる。


「……乗ればいいんだろ」


 そうぼやきつつ、車内に滑り込む。

 車の中は静かだった。

 俺は後部座席の隣に座る桜の顔を横目で見ながら、少しだけ声を落として話しかけた。


「なあ、護衛って具体的にはどうすりゃいいの? 登下校も俺がついていくわけじゃないんだろ?」


 前の運転席から加賀が、ルームミラー越しに視線を送ってくる。


「登下校は私が責任をもって送迎いたします。アキラ様にお願いしたいのは、学校内での“異常”の察知です。些細なことでも構いません。不自然な動きや、妙な空気を感じたら、お嬢様に知らせてください」


「……監視役ってことね」


 桜が腕を組んで、ふっと笑った。


「大げさに言えばそうかもね。ま、見張られてるのも悪くないかも。ちょっとだけ安心できるし」


 窓の外を見ながら、桜はさらりと言葉を投げた。どこか冗談めいていたが、その声の奥にはわずかな不安が滲んでいた。彼女なりに、気を張っているのだろう。


「安心される筋合いはないけどな。保証はしないって言っただろ?」


 俺は肩をすくめて、少し意地の悪い口調で返す。

 だが、それもまた照れ隠しの一種だ。護衛だなんて、まだ実感が湧かない。


「ええ、わかってる。……でも、お願いね」


 桜は少しだけこちらを向き、微笑んだ。強がりの仮面の隙間から、ふと素直な感情が垣間見える。

 その一瞬が、なぜか妙に印象に残った。


 そう言って桜は窓の外を見ながら、小さく呟いた。

 表情は読めなかったけど、声のトーンには、ほんの少しだけ頼るような響きがあった。


 そのまましばらく沈黙が続き、車はゆっくりと学校の校門前に停まった。


「到着しました」


 加賀の声で、俺と桜は同時にドアを開ける。


 校門の前で並んで歩き出すと、周囲の視線がチラチラとこちらに向いていた。

 そりゃそうだ。高級車から降りてくる小学生二人なんて、目立たないわけがない。


「なぁ、ちょっと距離とったほうがよくねぇか?」


 登校中の視線が痛い。

 高級車から降りて並んで歩くだけでも目立つのに、桜とぴったり横に並んでいればなおさらだ。

 好奇の視線に加えて、クラスの連中のヒソヒソ話が脳裏に浮かぶ。


「だめ。護衛なんだから、ちゃんとそばにいて」


 桜は当然のように言い放つと、歩幅も合わせてくる。

 肩が少し触れるくらいの距離。俺より少し小柄なその姿が、まるで“連れ”みたいに見えてくるのが、妙に落ち着かない。


「……監視対象かよ」


 俺は苦笑混じりに言った。

 揶揄のつもりだったけど、言ってる自分がちょっと情けなくなる。


「皮肉ってないで、任務遂行して?」


 桜はいたずらっぽく笑いながら、視線を上げて俺を見た。

 その目はどこか挑発的で、それでいて少しだけ、安心を求めるような色も混じっていた。

 口をとがらせるようにして、桜はちらりと俺を見上げた。

 俺は肩をすくめて、何も言わずに教室まで付き合った。


 そして、いつも通りのざわついた教室に入ると、桜は一歩前に出て振り返る。


「じゃ、護衛よろしくね。ボディーガードさん」


 ニヤッと笑う顔が、どこか愉快そうだった。


「……やれやれ」


 席につき、俺は机に肘をつきながら、ため息をついた。

 そのまま、授業が始まる。教師の声が教室に響き、みんながノートを開く。

 俺も一応手を動かしながら、ふと考える。


(学校まで“影響”があるのか……?)


 桜の話が本当なら、家の周辺に気配があるって話だった。

 けど、それがこの学校にまで手を伸ばしているかはまだわからない。


(とはいえ、油断はできない。普通の顔して入り込んでくるのがプロってもんだ)


 今の俺にできるのは、観察すること。

 周囲の目線、空気の変化、教師の様子、クラスメイトの挙動──


(少しでも引っかかるものがあれば、拾っておくか)


 そう思いながら、俺はノートの文字をぼんやりと追い続けた。

 昼休み、桜が俺の席に隣から顔を覗き込んできた。


「ねえ、アキラくん。ちょっと来てくれる?」


 言葉に逆らうような雰囲気はなかったが、断れない空気はしっかりまとっていた。

 俺は渋々といった体で立ち上がる。


 向かった先は――屋上。


 鉄扉を開けると、風が抜けて、昼の陽射しが強く差し込んでいた。

 フェンス越しに校庭が見えて、遠くでは他のクラスの生徒たちがわいわい騒いでいる。


「わざわざ屋上って、スパイ映画の真似か?」


 俺がそう皮肉めいたことを言うと、桜はフェンスの前でくるりと振り返った。


「そういう雰囲気、嫌いじゃないでしょ?」


 図星だった。

 俺は無言のまま、壁に背を預ける。


「ねえ、アキラくんって……なんでそんなに強いの?」


 その言葉は、まるで何気ない会話の延長線上にあるように聞こえたが、桜の目は冗談を許さない静けさを湛えていた。


「どうだろうな。まぁ、いろいろあってさ。言えることと、言えないことがある」


 俺は肩をすくめてごまかした。


「ふふ、いつもそう。そうやって濁すあたりが、ますます怪しいのよね」


 桜は軽く笑って、風に揺れる髪を耳にかけた。

 その仕草は大人びて見えたけど、どこか寂しげでもあった。


「でも……最初から、あなたのことは少し“異常”だって思ってた。何て言うのかな、普通じゃない“匂い”がするっていうか」


 桜はフェンス越しに空を見上げる。

 雲ひとつない空を眺めながら、その声はどこか懐かしむようでいて、少しだけ怯えた響きも混じっていた。


「悪口か?」


 俺は半ば冗談のつもりで言ったが、内心ではわずかに緊張が走る。

 “異常”――それは俺の核心に近づく言葉だった。


 桜は視線を空から俺へと戻し、ほんの少し微笑んだ。

 けれどその笑みは、油断した笑顔じゃなかった。

 何かを探るように、俺の奥を覗き込む目をしていた。


「褒め言葉よ。その異常のおかげで、私は今ここにいられる。今日、学校に来られたのはあなたがいるから。――そう思ってる」


 言葉に少し、熱がこもっていた。桜なりの感謝なのだろう。

 俺はその視線からふいと目を逸らす。


「……まぁ、いつか話せるときが来たら、ってことで」


 言ってから、自分でも意外と素直だったことに気づいた。

 だけど桜は、にっこり笑って言った。


「うん。そのときを待ってる」


 その後も桜とは屋上でぽつぽつと言葉を交わした。

 深い話はしなかったが、沈黙が続いても妙な居心地の悪さはなかった。


 気づけばチャイムが鳴ったため、教室へ戻った。

 澪との約束について、考えていたところ、午後の授業も終わっていた。


 放課後になったため、桜を呼び出し校門の方へ歩く。

 桜の歩幅に合わせて少しゆっくりとした速度で並んで歩くのは、護衛という名目がなければ気恥ずかしい距離感だった。


「今日はありがとう、アキラくん」


 車の前で、桜が振り返って微笑んだ。

 その笑顔にはどこか充実感があって、登校初日とは思えない落ち着きがある。

 俺の護衛が役に立ったというより、単に“登校できた自信”を得たことの方が大きいのかもしれない。


 加賀が車の後部座席のドアを無言で開けて、桜が乗り込む。

 俺は軽く手を挙げて見送ろうとした――そのときだった。


 視線の端に引っかかるものがあった。

 校舎脇、用務員の制服を着た中年の男が、こちらを見ていた。

 ……いや、正確には“桜の車”を目で追っていた。

 無表情のまま、じっと。明らかに不自然な長さだった。


(……誰だ?)


 俺は咄嗟に足を止め、フェンス越しにその男を確認する。

 だが、気づかれたことに焦った様子は一切ない。

 男はそのままほうきを手にし、ゆっくりと校舎の裏手へ歩いていった。

 俺は小走りで距離を詰め、少しだけ後をつける。だが――


 裏庭でその男は、ただ淡々と落ち葉を掃いているだけだった。

 会話もなく、誰とも接触もせず。ただ、用務員としての仕事をこなしているようにしか見えない。


(……気のせいか?)


 自分の警戒心の強さを呪いたくなったが、念のためだ。

 襲撃の件もある。用務員の男――顔は忘れない。

 今後も、注意して見ておくに越したことはない。


 校門を離れながら、俺はスマホの画面を確認する。

 澪から情報が貰える事を思い出し、喜びが込み上げる。

 ようやく、何かが前に進む気がした。

 あの澪が「そろった」と言うのなら、それは確かな材料だ。


 ――ワクワクする。ようやく一手打てる。

 俺は廃駅へ向かうため、足を踏み出した。

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お読みいただきありがとうございます。

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